同ジ地獄を見タもノトしテ
オースは、今度は兄貴と呼ばれた人物の監視を始めていた。そして、監視を続ける中で、マフィアというものを客観的に理解した。
(意外と厳しく管理されてんだな……上が絶対って感じで)
内部で、彼らは互いにファミリーと呼び合い、下は上を敬う。掟というものもあり、それを破ると見せしめとして殺される。彼らは、外部だけでなく内部にも徹底的に厳しさを見せていた。恐怖と忠誠、その狭間でマフィア達は管理されている。未だ素性がわからないボスは、一体どれほどの存在なのか――オースは気になって仕方がない。
(あ~ねみぃ~。ずっと監視するのも疲れるなぁ。ほぼ野宿だし。いつになれば、ボスが釣れるのかねぇ。いよいよ決行の日じゃん)
魔物になっても、人間時代と変わらず生理的欲求に襲われる。忘れられる時は忘れられるし、別に取らなくても体調が悪くなることはない。けれども、襲われている時は辛い。
(夜に決行かよ……まぁ、夜の闇なら結構隠してくれるからってな)
彼らは数人で散らばりながら、目的地へと移動する。各々の体に刻まれたライオンの頭は、それぞれ隠している。事前に、察されるリスクを減らす目的があるらしい。
マフィアです、何かしようとしてますなんて所を堂々と晒すのは避けるべきだという判断らしい。アジト諸共、人を潰すことが目的のようだ。
(十分怪しいし、普通の人間じゃないのがオーラからプンプンしてんのよ。あのマークを隠すだけで、誤魔化せるって思ってるのマジ?)
しかし、周りの人間は本当に気に留める様子はない。意図的に無視を心がけるだけで、このレベルにまで到れるものかと。
(まるで、なんかの魔術みてぇだ……ん? 魔術? 魔術か……なぁ、とてとてはどう思う? この全部見えてない感、これだけの人数が頑張ってできることなのか?)
内なる問いに、とてとてが答える。
『う~ん、そうだねぇ。よっぽど恐ろしいことがあって、普通の人達は命がけで巻き込まれないようにしてる……とか? ボクもおかしいって思うかな。不自然なんだよね。魔術は、不可能を可能にする妙薬。この世界において、完璧に扱えることがステータス。使えれば使えるほど、人間としての価値が上がる。価値の高い人間が、魔術師って呼ばれるんだ。この奇妙な状況が努力によって生み出されたものじゃないってことなら、魔術師がこの島にいるってことになるよね? でも、魔術師でも、全島民に魔術をかけるのは大変だ。とんでもない労力と魔力が必要になるだろうね。術者自身が死んでしまう可能性もある。長い時間をかけながら、小さい魔術を積み重ねていけばリスクも下げられるけど……たった1人の人間ができることじゃないね』
(はっ! 俺気付いてしまったんだが……先祖代々魔術を受け継いでるとかじゃねぇか!?)
『1番、それが現実的だね。長くこの島に住んでる一族が怪しい訳だ。でも、この術式には不完全な部分がある。それが、彼らがあのライオンの顔を隠し、ひっそりと行動する理由なのかも……』
(今、それを調べる必要はないよな。それで、俺が困ってる訳じゃねぇし。気味が悪いのは確かだが、そんなことよりも――)
2人が会話をしている間に、マフィア達は1軒の家に続々と突入を始めていた。そんなに大きい家ではない。島の体制を破壊しようとする者達の拠点とは思えないほど、自然に町の雰囲気に馴染んでいる。
オースも、彼らに混じって中に入っていく。すると――。
「――ハハハハハ! てめぇら、撃て撃て! 虫けらまとめて、ぶっ殺せ!」
高笑いをしながら、兄貴が号令をかける。すると、一斉に銃声が鳴り響く。そして、容赦のない銃撃が住人達に襲いかかる。
「きゃーっ!」
「だ、れ……か……」
「やめてーっ!」
逃げ惑うも、出口は完全に封鎖され、銃の餌食になるしかなかった。
「慈愛も容赦も必要ねぇぞ! 女だろうが、男だろうが、老人だろうが、子供だろうが! 容赦なくぶっ殺せ! 危険な芽は全て摘み取れ! そして、跡形もなく消し去れ!」
楽しそうに笑いながら、彼は更に周りを煽る。
「言われなくてもやってやりますよ! てか、もうやってますよ! 兄貴っ!」
次第に、悲鳴が聞こえなくなる。その代わり、床に倒れて動かない者が増えていく。マフィア達は、そんな者達にもとどめの一撃を浴びせて回った。
(ひでぇ臭いだ。床も壁も全部が血まみれだ。こんなにも一方的に……無惨だ。ここにいる奴らに、少しでも力があれば何かが違ったのかもしれねぇが……いつだって地獄は、無力の墓場なんだな)
真っ赤に染まった家の中を見ながら、かつての故郷を思い出す。炎の赤に包まれた村。黒焦げの人だったようなもの。淘汰され、全滅してしまった村民達。オースが見たのは、地獄が完成した後だったが、きっと今と同じようなことが起こったのだろう。
(ただ世界の未来を願って、勇者を送り出しただけだったのに……な。こいつらは……ただ、島の未来を憂い、取り戻そうとしただけなのにな。結局は鳥かごの中から夢を見ているだけだから、外から物事を見てる奴らに現実を見せられるんだ)
「頼むよ、話を聞いて! 私達は見捨てられた哀れな子羊だ! ここに、リーダー格の人間なんて1人もいない! 知っていることなら、何でも言う! だから、どうか……!」
一方的な攻撃の最中、土下座をして必死に命乞いをする男性がいた。それに対し、1人のマフィアが銃口を向けながら近付く。
「へー協力してくれんの? 仲間を裏切って?」
彼はその場にしゃがみ込み、土下座をする男性の髪を掴んで無理やり目線を合わせる。
「私達は騙された! 恐らく、上はこうなることを予測した上で、私達をここに……」
その話を聞きながら、男性の額に銃口を密着させた。
「そうか、そうか……それは無念だな。だが、しかし……それでも、獅羅盟に仇なそうとしたことは事実だろ?」
話を聞き、笑顔でそう返した。
「もうそんな愚かなことはしないっ! 何でもする! 頼むから、私を殺さないでくれ……!」
男性の目には、僅かな希望が見えているようだ。次々と撃ち殺されていく仲間とは違い、自分は例外になれるかもしれないと。
そんな姿を見て、マフィアは吹いて笑い出す。
「ハハハハハハハ!」
「な、何だ……!?」
なぜ笑われたのか、と男性は困惑の表情を浮かべる。
「ここにいた奴ら、多分そういううっすい志の持ち主なんだろ? だから、ここで捨てられるんだ。そんな奴らに、協力するって言われてもさぁ――全然響いて来ねぇんだよなぁ!?」
そう強く言い放つと、引き金を引いた。
「がっ!?」
頭部を至近距離から撃ち抜かれた男性は、目を見開いたまま倒れて動かなくなった。
(捨て駒か……なんだ、独立派ってのもまともじゃなそうな感じだな。この島は……どうなるんだろうな)
マフィア達が侵入して、中にいた者達が滅されるまでそれほどの時間はかからなかった。どこにでもある建物は、一瞬にして血で装飾された。
一夜明け、皆が事件に気付いた時、一様に獅羅盟の見せしめだと恐れていた。
(痕跡は無視されないのか……隠す必要はない、そんな所か)
それから警察も捜査を始めたが、襲撃グループであるマフィア達は捕まることなく、そのまま幕引きとなった。当日、家の中にいた独立派の者達は全員死亡したという事実だけを明るみにして。素人目から見ても、随分と杜撰な捜査だった。
そして、襲撃の成果を評価されたのだろうか。兄貴は、ボスから呼び出しを受けるのだった。




