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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第九章 暴君ノそン在しョう明

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フぁミリーのタめニファみリーと共ニ

 それから少しの時間が過ぎた。夜も更け、賑わいに溢れた歓楽街も落ち着きを取り戻し始める。いくつかの店の明かりも消え、その中に、先ほどの店もあった。

 やがて、店の裏口と思わしきドアから、従業員達がぞろぞろと姿を現す。


「はぁ~あ、ねむー」

「今日も疲れたねぇ」


 女性達が店で着ていた服は、どうやら衣装らしい。皆、島民らしい服に身を包んでいる。と言っても、かなりの露出の多さだが。


「ねーねー、どっか飲みに行こうよ」

「ったく、しゃーねぇな。じゃ、いつものとこな」


 そして、店から出てくる男性達には、ある共通点があった。


(あいつらの手の甲、何か描いてある。あれは、ライオンの顔……?)


 店の中にいる時、彼らは皆手袋をしていたために気付かなかった。そういうファッション、あるいは決まりなのかと思ったが、もしかしたらあの絵を隠すためのものなのかもしれない。

 

(獅羅盟……やっぱり、こいつらは……)


 そんな時、ようやく見慣れた顔が現れる。


「ヴァン~? 何、チンタラしてんだー?」


(あ、あいつは!)


 ややこしいメニュー表や見に覚えのない料理を持ってきた店員だ。隆々とした筋肉を見せつけるかのようなタンクトップ姿で、彼の手の甲にもライオンの顔があった。

 そんな彼の後を追い、ラフな格好に身を包んだヴァンが現れる。スキップをしながら、随分とご機嫌な様子だ。


「ごめんごめ~ん!」

「No.1になったからって、浮かれてんじゃねぇよ。次の営業日には、またリセットだぞ」

「いいじゃん、こんなこと滅多にないよ。あ~あ、Jまた来ないかな~♪」


 彼女は、男性の隣に立って悪戯っぽく笑う。オースの払ったお金のお陰で、評価されたらしい。


「来ないだろ。あれは、女好きの目をしてなかった。もっとぼったくれれば良かったんだがな。次回来店時には、女の子の更なるサービスご用意しております……って言っても、全然響いてないって感じだったぞ。残念ながら、あれっきりになるだろうなぁ。ヴァン、お前にしてはいい客を引き込んできた。これが評価されて、ボスに認められりゃぁなぁ」

「どーだろうねー? これが継続できなきゃ意味ないんじゃな~い?」

「女好きの変態馬鹿は、そう簡単に落ちてねぇしなぁ。やっぱ、その日限りのぼったくり営業スタイルに落ち着くしかなさげだ」

「ウケる!」


 そんな最低な会話をしながら、夜更けの歓楽街を歩き始める。


(クソ野郎共だ。やっぱり、普通じゃなかったんだ。それに、この男の手にもライオンの顔がある。個人的な恨みもあるし、こいつらをつけていこう。そして、あわよくば少しでも不幸な目に遭わせてやろう。よし、とてとて!)


『行くんだね』


(当然。透明で移動できる魔術が使いたい。あと、あいつらの会話を聞き取りやすいようにしたい)


『わかったよ! でも、色々魔術を組み合わせることになるけど、大丈夫?』


(当たり前だろ、ばーか)


『ふふ、言ってみただけだよ』


(さあ、やるぜ)


 魔術を複数使用しても、オースは負担を特別感じるようなことはなかった。軽やかにぴょんぴょんと飛びながら、2人の会話を盗み聞きする。


「私、このまま家帰るけど、あんたは?」

「あー、俺ちょっと兄貴に呼ばれてっから……」


 今後の予定を聞かれた途端、彼の楽しげな表情が陰る。


「え、なんで? 怖っ!」

「俺がやらかした訳じゃねぇぜ。ほら、あれだよ。独立派のあれ。ボスが苛立ってんだ。近い内に、どうにかしねぇとって兄貴達も焦っててなぁ……」


 気怠げに頭を掻きながら、深くため息をつく。


「あー、あれか。はいはい。面倒なことしてくれるよね。いいじゃんね、別に」


 彼女もその辺の事情を知っているらしく、共感する。


「馬鹿だからな。こっちの苦労も知りもしない」


 その発言を聞き、彼女は吹き出す。


「苦労って! どの立場で物言ってんの!」

「ハハ! 確かに」


 笑われた彼は気恥ずかしさから、頭を掻く。


(独立派? どういう意味だ?)


 オースは、いまいち会話についていけてなかった。そんな疑問をふと抱いた時、それにとてとてが答える。


『この島って、ラグランタイアに統治されてるでしょ? 元々は、レンジー族の支配する国だったらしいんだ。だけど、戦争に負けてこうなったんだ。もう100年近くこの状況だけど、今でも国を取り戻そうとする人達はいるらしい。それが、あの人の言ってる独立派だよ』


 一見穏やかに見えるこの島の闇。見えた闇はほんの一部のようだ。この島は、真に平和と呼べる状態にはないのかもしれない。


(いつの間に調べたんだよ、そんなこと)


『この島に来た時に、ザザッとね。さっき調べたこと、全部教えようか?』


(いや、いい。必要な時に教えてくれ)


 小難しい話は御免だった。しかも、こんな追跡をしている時に。集中力が途切れて、魔術の効果が途切れてしまう可能性があった。


『そう? わかった! また後で、ちゃんと調べてみるね』


(俺に話すなら、わかりやすく簡潔にな。長々とするなよ)


『うん!』


 オース達がそんな会話をしていると、2人の歩みが止まった。


「じゃ、俺行くわ」

「オッケー。また後でね~♪」


 2人は、手を振って別れる。彼女は、そのまま道をまっすぐに進んでいく。一方、彼は立ち止まってしばらく手を振り続けていた。彼女は、ちっとも振り返らないのにも関わらず。


(この場合だと……普通に考えて、男の方に行くべきだな。ボスとか兄貴とかって言ってたし、一気に近付くかもしれねぇ)


 彼女が見えなくなった所で、彼は腕時計で時間を確認する。すると、みるみるうちに顔が青ざめていった。


「やっべ、時間ギリだ。遅れたら、兄貴にシメられる!」


 さっきまでのんびり雑談していた人物とは思えないくらいの速度で、彼は走り始める。


(めっちゃ速っ! 魔術……使わずにこれか。普通にやってたら、見失ってたな。てか、なんで急ぎの用事があんのに、のんびり見送りとかしてたんだ……?)


 彼は1軒の建物の中に、慌てて突入していく。ここが、目的地らしい。看板があり、酒場と書かれていた。


(とてとて、この状態でなら建物も通り抜けられるか?)


『うん、透明だからね。でも、通り抜ける自分の姿をちゃんとイメージしないと、ぶつかるよ。それと、中に入るなら、音も出ないようにしないとね。透明だからって音が出ない訳じゃないから』


(わかったって、余裕だわ)


 オースは慌てて降り立ち、恐る恐る扉に手を伸ばす。通り抜ける自身の姿をイメージしながら。大丈夫だと理解していても、最初はやはり緊張してしまうものだ。ドアを無事に通り抜けられた時、オースは安堵した。そして、中の様子を観察する。


(どういう状況?)


 中では、全力ダッシュの彼が、床に頭をつけて土下座していた。それを、身なりの良い男性が見下ろしている。彼は手の甲ではなく、首元にライオンの顔が刻まれていた。酒場とあったので、盛り上がっているものだと思ったが、絶望的に凍りついている。他にも男性達がいるが、壁に沿って一列に並んで、表情1つ変えずにその様子を眺めている。


「すみません! 遅くなりました!」

「おい、3分前だぞ。10分前には、来いっていつも言ってんだろう? 俺はよぅ、ギリギリで動く奴は殺したくなるくらい嫌いだっていつも言ってるだろう?」

「すみません! 本当にすみません!」


 鈍い音を立てながら、何度も何度も謝罪する。


「てめぇはよぅ、いつになれば学習するんだよ。まさかとは思うが、女とのんびり来てたんじゃねぇだろうな?」

「いえ! そんなことはありません! 兄貴のために必死で来ました!」


(あ、嘘ついたぞ。こいつ)


 この状況で、嘘をつく度胸。大したものであった。


「なら、なんで店からここまで10分かかってんだ、ボケが!」

「そ、それは……ちょっとトラブってて……」


 しかし、色々と見抜かれていたようで、追求されてしまい口ごもる。


「まぁ、いいわ……今回は、説教するために呼んだんじゃねぇから。ほら、そこ並べ」


 呆れながらも気持ちを切り替えて、兄貴と呼ばれる男性は指示を出す。


「……はい!」


 とりあえず許された彼は、急いで列の端に並ぶ。それを見届けてから、兄貴と呼ばれる男性は口を開く。


「独立派の拠点を見つけた。近々殺るからな。その準備だ。ったく、狩っても狩ってもキリがねぇ。ボスも殺気立ってる。これは失敗できないからな。気ぃ引き締めとけよ。決行は、3日後だ。ファミリーのために!」

「「ファミリーと共に!」」


 野太く力強い声が、狭い酒場内に響くのだった。

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