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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第九章 暴君ノそン在しョう明

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見なイヨうニしテイル

「おぉーっ……成功だ! それに、体が熱くもだるくもねぇ」


 何の異変もなく、擬態に成功したことにオースは喜ぶ。


『うぅ~……これは、中々しんどいねぇ。細胞の中も、想像以上にぎゅうぎゅうで、締め付けられて痛いよぅ』


 頭の中で、とてとての声が苦しげに響く。


(おいおい、サポートできるんだろ? 結果、1日も持たねぇってことにはならねぇだろうな?)


 オースの擬態能力は、無理に能力を解放したことが影響して、心身に異様に負担がかかる。使い始めから苦しく、時間が経つに連れて熱さとだるさでまともに動けなくなる。ところが、とてとてが細胞に入り込んだ結果、そんな欠陥があるとは思わせないほどに身軽であった。


「あ……あぁ……」


 姿を奪われた男性は、情けない声を出し、そのまま意識を失った。


「あ~あ、まぁしょうがないか。っと、カバンもらいっと。じゃ、とりあえず戻りますか」


 抵抗される可能性もあったが、彼が気絶したことで面倒な手間を省けた。異空間を脱し、彼を建物の壁に沿って無理なく座らせた。


『う~ん……ボクが、どこまで我慢できるか。兄様がやりたい所までは、何としてでも耐えるよ。でも、なるべく早めに終わらせて欲しいかも……』


(なるほどなぁ。能力はそのままに、俺の負荷をお前が背負うってことになるのか。ま、助かるわ!)


『頑張るよ……』


(さてさて、じゃあ早速情報を集めますかね)


『あ、ちゃんと年相応の動きをしないと駄目だよ! 一気に不審者になっちゃうから』


(わかってるって、それくらいよ)


 今のオースは、白髪交じりの中年男性。演じる力は、身につけてきたつもりだ。仕事の遂行に支障を来すほどのことはないように心がけている。


(質問なんだが、この島には魔王軍はどれくらい関わりがあるんだ?)


『えっと、あのね……ごめん、兄様。もう体が限界で……事前に調べていたことはわかるけど、新たに調べるのは難しい……』


 とてとては、気まずそうに答える。中のことはさっぱりわからないが、本来の苦しみを代わりに背負っているのだから仕方ないと言える。


(えー、そういうのも先に言っとけよ)


 頼る気満々だったオースは、口を尖らせる。とは言っても、それを見ている者は誰もいないのだが。


『ごめんね。でも、ボクもちょっと未知数で……』


(ったく、自分の足で探してやるよ。仕方ねぇな)


 ため息を1つついて、オースは大通りへと出る。すると、建物に遮られていた斜陽が全身を照らす。こんな時間だったのか、とオースは目を細めた。


「明日も仕事かー行きたくないなー」

「ヤバい、ヤバいな! デートに遅刻とか、ぶっ殺されちゃうよ!」


(随分と穏やかなことだな。見回りする兵士とか、傭兵みたいな奴もいねぇ。全体的にのほほんとしてる感じだ。ここに、魔物とかいるんだろうか? 少なくとも、近くにはいる気配がねぇな。色々と情報集めるか。近くに新聞とか売ってる店ってあんのか?)


 歩きながら、きょろきょろと周りを見渡していた。


「おらぁ! さっさと来いや、ゴミクズ!」


 そんな時、喧騒が耳に入る。見ると、1人の男性がスーツを着た男性達に囲まれていた。


「お金はちゃんと返さないと駄目だろ? ほら、兄さん呼んでっから。大丈夫、ちょっとお話するだけだから」


 震える男性に、スーツの人物は馴れ馴れしく卑しく笑いながら肩を組む。


「すみません、すみません! でも――」

「黙れよ、誰が喋っていいって言ったんだ?」


 彼が口を開くと、暗くドスの聞いた声で威圧した。かなりのトラブルのようだが、周りの人間は何事もなく通り過ぎていく。顔色1つ変わらない。まるで、見えていないかのようだ。


(穏やかな場所と思った瞬間に、それをすぐに否定する出来事が起こるとは……血まみれじゃねぇか。しかも、周りは無視――)


 暴行現場を立ち止まって眺めていると、迫る気配を感じ振り返る。そこには小柄な中年女性が立っており、信じられないといった表情でオースを見ていた。


「何やってんだい! あれをジロジロと見ちゃいけないよ!」

「え、えっと……なんで、ですか?」


 咄嗟に、演技のスイッチを入れた。


「知らないのかい? あんたも、最近この島に来たのかい? あの連中は、獅羅盟(シールゥォモン)っていうマフィアだよ。奴らに、法も血も涙もないんだよ。奴らをじっと見てたら、どんな因縁をつけられるか……ここで生きていくなら、見ないふりが賢明さ」

「え、えっと……昨日、仕事関係で引っ越してきたばっかりで。あんまり、詳しくなくて……それって一体何なんですか?」


 戸惑いながらも尋ねると、彼女は親切に教えてくれた。


「簡単に言えば、犯罪集団だよ。あいつらは、上の人間ともズブズブでさ……本当に好き勝手やってるんだ。普通に目立たずに生きていれば関わらずに済む連中だったけど、最近じゃあ普通に生きていても関わる羽目になってる。奴ら、言うことを聞かないと平気で誰でも殺す。私からしてみれば、魔王軍よりも獅羅盟の方が怖いよ」

「そ、そうなんですか? 魔王軍よりも怖いなんて、本当なんですか?」


 見えていないのではなく、見ないようにしている――そのようだった。


(ここら辺に、あまり魔王軍は介入してねぇみてぇだな。一見、幸せそうに見えて、無法地帯とは……恐ろしいねぇ)


「だって、あいつらは魔物を従えてるんだ」

「……は? なんで?」


 その衝撃に、思わず演技をするのをやめてしまった。魔物が従うのは、魔王軍だけ。人間に従うなどありえない。


「少し前に魔物が来たことがあるんだがね。奴らは、数と武力で魔物を捕まえたんだ。それからだね、奴らは魔物を従えて動くようになった」

「いやいや……そんな馬鹿な」


 動揺し、否定することがやっとだった。


「信じられないだろうけど、本当なんだよ! しかもだよ、魔王軍と協力関係を結んだって言うんだ!」

「えぇ……?」


 混乱の中、必死に考えを巡らせる。


(あるのか? そんなこと。いや、魔王軍の方針的になくはないだろうが……引っかかるんだよな。ここに来たのは、俺が仕事の成果を得るため。つまり、魔王軍の名を傷付ける存在があるってことだ。本当に協力関係にあるのなら、俺はここに来なかったんじゃねぇのか?)


『そのマフィアの人達……怪しいね。調べるなら、そこかも……』


 身近でトラブルが起こったのも、中年女性に声をかけられたのもラッキーだった。こんな短時間で、かなりの進展であった。


(手間が省けた、お節介おばさんのお陰で助かったぜ)


 とてとての意見もあり、次のターゲットを獅羅盟というマフィアに決めた。本当に協力関係にあるのか、なければ間違いなく黒だ。魔王軍の名を借りて、好き勝手にやっているのだから。


「もう本当に恐ろしくてねぇ。でも、ここは故郷。他の場所も、魔王軍の攻撃があるから安全じゃない。どうせ、死ぬなら住み慣れた場所がいい。だから、あんたもちゃんと考えなよ。たまに、安全だからって来る人達もいるんだけどね。それが理由で来た人達は、絶望するのさ。結局の所、人に殺されるか、魔物に殺されるか……それくらいの差しかないんだ。まぁ、何もなければ普通に死ねる確率は高い方かもしれないけどねぇ」

「……なるほど」


 色々と考えていたため、少し素っ気なく返事をしてしまう。すると、彼女は機嫌を損ねてしまったと勘違いしたのか慌て始めた。


「って! 初対面の人に、こんな話をするなんて! しかも、こんな辛気臭い話。ごめんねぇ、でも心配だったんだよ。最近多いから、よそから来た人が変に関わって殺される事件が。死ぬ人間が減るなら、それに越したことはないからね」

「そうですね、僕も……そう思いますよ。ためになる話をどうもありがとうございました」


 オースは、彼女に深く感謝している。責める理由はない。しかし、感謝の言葉を述べても、まだ気にしている様子であった。


「いやいや、そうだ! これをあげるよ、長話のお詫びさ。不安を煽ってごめんねぇ、また会えますように」


 そう言うと、キャンディーが大量に入った小瓶を、オースの手に握らせて去っていった。

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