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動じない男

万年Cランク冒険者アークだ。

今日は一日飲んだくれようとしたところで、変な女に絡まれた。ついてないぜ。だが奴さんはどうやら俺のことを知ってるようで?

 そう声をかけられた俺は、目が合った美しい碧眼に一瞬気を取られるが、その一瞬後には冒険者として手に入れた中途半端な決断力で、


 「いえ、結構です」


 と、心の中でなんで敬語なんだよと呟きながら口にしていた。

 その答えにさっきまで自信がありそうな笑みだった目の前の少女か美女かその中間かよくわからない見た目の女性は、一瞬キョトンとした顔を見せたあと、納得がいかなさそうに眉を潜め、


 「なんでよ!?」


 と目の前の女性もとい少女がーーおそらく咄嗟のことで素が出てしまったのだろうーー詰め寄ってくる。

 どうやたら二つ返事で是非にとでも返ってくる予定だったらしい。

 突然詰め寄ってきた少女に俺は若干気圧されつつ、普通の答えを返す。


 「知らないやつをすぐ仲間にするやつなんているわけないだろう?」


 道を踏み外す奴も多い冒険者で、相手をすぐ信頼する者なんて滅多にいない。いつ裏切られるか分からないし、そもそも相手の力量も知らずにチームを組むなんて命知らずなことはしない。信用と実績があり、情報を正しく把握してから相手を初めて信頼する。冒険者の世界は世知辛いのだ。なんの取り柄もない冒険者の俺でもそれくらい常識だ。

 そう考えると目の前の少女の頭はお花畑で出来てるのか? と煽りたくなる思いだ。もちろん大人である俺はそんな安い挑発や失言なんかするわけないが。どうせどこかの田舎から出てきた冒険者見習いだろうと思う。

 

 だが俺の答えにまだ納得のいかなそうな少女は、ムッとした表情のあと、得意そうな表情にすぐ変える。

 コロコロとよく表情が変わるやつだなと思ってると、


 「あなた私にそんなこと言える立場だと思ってるの?」


 なぜかやたら高圧的な言い方でそんなことを言われた。

 まるで俺が少女に何かしたような口ぶりだ。だが生憎、しがない冴えない何もしたくないをモットーに冒険者をやってる俺にこんな少女の知り合いなんていない。


 「立場ってなんだそりゃ?」


 もちろん俺は当然の疑問を返す。

 しかし俺の疑問に急に得意そうな笑みから反面、柳眉を逆立てながら再度詰め寄ってくる。

 ほんと表情がよく変わるやつだ。冒険者より大道芸人になった方がいいんじゃないかと思うほどだ。

 というか、


 「近い近い近いっ! ほんと俺が何したって言うんだよ!?」


 目の前の少女から身を引いて抗議しつつ、俺は再度ここ直近の記憶を探る。

 うーむ、そんな他人を怒らせるようなことした覚えなんてない。ここ数日は越境で疲れた体を休ませ、ちょっとした冒険をして酒をかぶるぐらい飲んで馬鹿みたいに寝ていた記憶しかない。というか酒で記憶が曖昧だな……。その間に俺何かやらかしたか?

 でも普通を地で行く俺が危ない橋を渡るような愚を犯すわけもないし。

 ということは、そうか!


 「人違いでは?」

 「んなわけあるかっ?!」


 おおぅ。思ったよりも強い否定の言葉が返って来た。三十路近い、おじさんを迎えつつある弱る心臓には刺激が強すぎるよ。いやおじさんって言われる年齢でもないと思うんだけど、でも危うく心臓が胸から突き破って飛び出てくるかと思ったよ。いや冗談だけどさ。それくらいびっくりしたのだ。

 それはさておき、本当に身に覚えがないから処置なし、というかどう対応したら良いものか思考を巡らしていたら幸運なことに率先して少女が自ら答えを言ってくれた。


 「私の目と顔に覚えがない?」


 少女はそれはもう自信満々にふんぞり返る勢いで俺の瞳を直視し告げてくる。


 「ーーないけど」

 「もう! なんでよっ!」


 若干少女が癇癪を起こしそうなテンションで地団駄を踏んでいる。そんな態度を取られても困る。俺には本当に身に覚えがないのだから。そんな途方に暮れていた俺に少女は更なる確信を告げてきた。


 「1週間前私を見捨てて逃げたでしょっ!」

 「あぁ〜」


 俺の口からどこか気のない返答になっているようななっていないようなむしろ吐息に近いような声が漏れ出す。彼女の瞳がどこかで見覚えがあるような気がしていたと思ったら、じゃあつまり彼女は、


 「お姫様?」

 「ほら! やっぱり覚えてたじゃない!」


 俺の問いかけにふふんと得意そうなそぶりを見せる。


 「それじゃあさっきの私の最初の質問の答えは決まってるわよね?」

 「ああ、もちろんさ」


 少女の得意そうな笑みに負けない冴えないけどさっぱりした笑顔を顔面に貼り付けて俺はこう言った。


 「断るね」


 ばあちゃんが言っていた。男っつうもんは突然のハプニングでも動じちゃいけないよ、と。

 俺はその言葉をふと思い出していた。


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