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87話 憧れる少女






 あれから火魔法を練習しているポリオだが、ポリオが魔法を使えるようになったのはまだ周りには秘密にしている。

その為、ポリオの特訓はアルスと二人きりで行われているのだが……アルスへの忠誠心もあり口が固そうなミーナとルフリアにだけ伝えることにした。





「えっと………今日はどうしたのです?」


「いつもの放課後練習………ではないですわね?」




 蒼天本部のいつもの訓練場で向かい合うミーナとルフリアは正面に立つアルスとポリオの雰囲気を察して何かいつもと違う事を理解している。




「俺とポリオはとある実験をしていたのだが、それについて二人に説明しようと思ってな。ただ、俺たち二人の許可があるまで誰にも口外しないと約束して欲しい」


「それはもちろんです!」


「問題ないですわ!絶対誰にも言いません」




 二人の瞳は真剣なもので、そこに嘘はないだろう。

ポリオは隣でほっとしている。

この世界の現状からして、二人が成功させたドワーフの魔法使用はかなり異端であり知られればとんでもないことになる可能性がある。




「………殿下、やはりずっと気になっていたのですがポリオくんの腕の模様が関係しているのでしょうか?」




 ミーナは聞いて良いのかどうか……という顔でアルスとポリオを交互に見やる。




「あぁ、それが俺達の研究結果だよ。」


「それはどういう……?」


「とりあえず、ポリオ……見せてあげてくれ」


「わかった」




 まだどういう事か全くわからない二人。

その二人を一瞥してからポリオは慣れた様子で身体の中の魔力を模様に流し込む。

腕の模様が光りだし、二人はそれを見つめる。

そして、次の瞬間………ポリオの手の平の少し上にファイアボールが現れた。




「「え!!??」」




 驚愕の声を上げる二人、ポリオはそのファイアボールを的に向かって放った。

まだまだ発展途上だが、それでも普通に放たれるファイアボール。

それを見てアルスは頷いた。




「上手くなったなポリオ」


「練習の成果だね」


「ど、どういうことですか?」


「ポリオくんは純粋なドワーフでは!?」


「あぁ、ポリオは純粋なドワーフだ。他の血も混ざっていない……よな?」


「うん………ドワーフの王族だからね。純粋なドワーフだよ?」


「どういう………事なのですか?」


「俺とポリオは、ドワーフでも魔法を使える方法を考案して、それに成功した」


「「なっ………」」




 驚愕に固まる二人だがその反応はしごく当然である。

世界の常識を覆したのだから。




「………その模様が関係しているのですね?」


「ミーナ、正解だ。俺達が考えたのは魔法を発動する為の指向性を上手く扱えないドワーフの身体に魔法の属性を持った術式を刻む事で魔法発動の媒体にするというものだ。ポリオの左腕にあるのは火魔法の術式。それによってポリオは火魔法の適性を手に入れた」


「…………なるほど。それは口外できませんわ………つまり、魔法の適性を独自に持たせるということですね?」


「さすがはルフリア。そうだ。副産物だが、これによって適性がない系統も扱える」


「と、とんでもない技術です」


「それは他の種族でもやはり可能なのでしょうか?」


「まぁ、可能だろうな。むしろ通常で普通に適性を得られる他種族の方が扱いやすいかもしれない」


「………凄い………ですわ」




 二人は驚き過ぎて口をあんぐりと開けている。

その二人の反応を見て、やっぱりとんでもないことをしたのだなとアルスとポリオは苦笑する。




「………魔導具の武器などとは違って一つの魔法ということでもないのですよね?」


「あぁ、単純に属性の指向性のみを術式にするように新しく生み出したからな。魔力と才能さえあればその系統の魔法を複数覚えられるはずだ」


「………前代未聞です」


「………ミーナ………これは歴史の1ページですわ」




 感動して頷き合う二人を見てアルスは確かに歴史が変わった瞬間だと思った。

これは、本当に軽々しく口外できない。



















 ポリオとの特訓も一段落し、ミーナとルフリアの魔法の扱いも遥かに向上している。

その中でやはりアルスは学園の授業にはそこまで驚く事もなかった。

その程度?とまでは言わないが、大して面白みもないなと感じてしまう。




 そんな学園生活だがそれなりに楽しくやっている。




 だが、目下の目的は忘れていない。

行方不明事件を解決する為に動かなくてはいけない。

学園に馴染みながらいろいろ情報を集めてきたのだが、やはり解決の糸口はすぐには見つからなかった。

それでもアルスは前世の探偵のように推理を重ねていく。




 学園には二つのタイプの学生がいるのだが、それは学園にある寮で生活している者達と、自宅から通っている者達だ。

大魔帝国の貴族子息の殆どは通いだが、学園内で言えば寮で暮らす生徒の方が多い。

貴族の子息といえど親が遠くに領地を持つ者達もまた寮で生活している。




 行方不明になった面々は皆が寮暮らしだった。

唯一の手掛かりはそこにあるとアルスは考えていた。




 そこでアルスは同じクラスの寮暮らしの生徒と交流を持つことにした。

アルスのクラスは優秀者で固まっており、貴族が多い為寮暮らしが特に少ない。

その中でアルスが声を掛けたのはマナリノという平民出身の生徒だった。




 他の大陸と同じで平民だと家名が無いのが殆どであるなかで、マナリノはファンダという家名を持っている。

父親は大魔帝国のなかでは老舗の商会の会頭である。

商家の娘にしてはかなり引っ込み思案で誰かと仲良くしているのもあまり見かけないが、アルスの印象としては性格はかなり良い。

貴族嫌い、貴族怖いと思っている平民も少なくはないがマナリノはどちらかというと後者であり、だからといって貴族の生徒を遠ざけたりもしていない。




 親しい人もいないが、誰とでもそれなりに上手くやっている。

そんな印象の少女だった。




「マナリノ……少しいいか?」


「で、殿下!!は、はい!えと………どうしたのですか?」




 なるべく気軽な雰囲気で……と声を掛けたアルスに、慌てて立ち上がり恐縮するマナリノ。

確かにあまりちゃんと話したことはなかった。




「いや、マナリノは魔物なんかを調べてるって噂だったから興味があってな」


「………は、はい!魔物に興味があって」


「どんな魔物に興味があるんだ?」


「と………飛べる魔物でつ!!」




 壮大に噛んだ………。

だが、なるほど飛べる魔物か。




「なんで、飛べる魔物なんだ?」


「えっと……飛べるってどんな気持ちなんだろ………って思っているのです」


「確かに普通はそうか………」


「アルス殿下は自力で飛べるというのは本当なのですか?」


「あぁ、飛べるぞ。それに相棒のドラゴンの背に乗って飛んだりもするな」


「ドラゴン………背に…………すごいっ」


「ドラゴンに興味あるか?」


「はい!!一番気になっているのです!」


「そうか………じゃあ今度見に来いよ」


「え?良いのですか…………私は平民で……」


「同じクラスの仲間なんだから良いに決まってるだろ……それに俺が良いって言ってるんだ気にするな」




 そう言われてマナリノは顔をパッと明るくした。

とても嬉しい!!というのが顔に書いてある。




「じゃあ今度の休みでいいか?」


「は、はい!!」


「そしたら寮に迎えに行くな」


「………迎えなんて………」


「構わない。気にするな」


「………ありがとう…………なのです」




 マナリノの敬語って変だな………と思うが別にアルスは敬語を使ってほしいわけではない。

まぁ、徐々にか…と諦めてはいるが。

未だにミーナとルフリアも殿下呼びだし。




















 休みの日のお昼………アルスは約束通りマナリノを迎えに来た。

皇太子専用の大きな馬車とその護衛達に恐縮し過ぎてガチガチだがなんとかマナリノを馬車に乗せ、蒼天本部に向かっていく。




 ミーナ、ルフリア、ポリオの時もそうだが学友は蒼天本部に招くようにしている。

さすがに皇帝の居る宮殿だと皆が困惑を通り越して身動きが取れなくなるからだ。





「これが………蒼天城」





 馬車の窓から巨大な蒼天本部を見て、マナリノが目を輝かせている。

蒼天城とは神域城塞と同じく広く民衆で知られている呼び名である。

兵士達はアルスの固有魔法名から無血城塞、または宮殿にも支部がある為蒼天本部と呼ぶのだが民衆は皇太子専用の城……蒼天城、または使徒の居る城として神域城塞と呼び、一応警備の観点からそこまで近くには寄れないが、創造神の使徒の城としてそれなりに観光名所にもなっている。




 初めてそれを目の前で見たマナリノは感慨深そうに息を吐く。

実家が老舗の商家である為会頭である父親は時々だが宮殿にも行くことがあるが、その娘と言っても平民であるマナリノが宮殿や蒼天城に行く機会はない。

アルスの学友というアドバンテージはそれだけでも途轍もない事だとマナリノは感じているのだが、アルス本人はその辺はよく理解していない。





「アルス殿下はここで暮らしているんですか?」


「いやまぁここにも自室はあるし、たまにはこっちに泊まるけど基本的には皇宮で暮らしてるよ」


「凄い……です。こんな立派なお城があるのに暮らさないのですね……さすがは皇太子様」





 マナリノの感想を聞いて、確かに傍から見たら専用の城があるのに……と思うのだろうか。





「あくまでここは蒼天の本部だからね。執務とかはここで行ってるよ」


「なるほど……軍施設のようなものなのですね」


「んーまぁそうかな」


「私……」


「ん?」




 なにか言いかけて言い切らずにマナリノが停止する。

アルスは首を傾げてが、続きを待つ事にした。




「私……卒業したら、進路希望は蒼天にしています」


「えっ?そうなの?」


「はい……兵士希望ではないですが……」


「どうして蒼天に?」


「アルス殿下が凄いというのはいつも聞くのですが、同じくらい蒼天が凄いと聞くのです。アルス殿下自らが立ち上げ革新的なことを次々に行い、帝国軍の中でも精鋭な兵士を多く保有し、各地で災害救助なんかも率先してやっているとか……。それに、割と新しい組織だから優秀なら平民でも女性でも入れると聞いたのです。」


「確かに平民とか女性とか種族とかそういうのは気にしないな……うちは」


「それはとても凄いことなのです……。女性が活躍できる場所は限られているのです。それに、蒼天の総帥のフリーリア様は女性……」


「あぁ、ローナか?確かに女性だな。それに若い。といっても元は奇襲突撃部隊の隊長だから生え抜きだけどな」


「私は……フリーリア様みたいになりたいのです」


「なるほど………」




 あのローナが憧れられて、ローナみたいになりたいという少女が蒼天に入りたいと思う……そんな日が来たんだな。

といっても、ここ最近ローナ人気が凄いのは把握している。

帝国軍の中でも花形である奇襲突撃部隊で最年少で隊を任された元隊長にして、現在は蒼天の総帥にして次期皇帝の右腕。

その経歴だが、見た目も美しく、当たり前に戦闘能力も高い。

ここ数年で統率、指揮の能力も磨いてきた。




 そう考えると、確かにローナは凄いのかもしれない。




「ローナなら今日は本部に居るはずだぞ。会ってみるか?」


「ほ、ほほほ、本当ですか?フリーリア様が!!!」




 蒼天の本部を見た時よりも、もちろん俺に会った時よりも、凄まじく動揺するマナリノを見て苦笑いが浮かぶ。

憧れているというより、これは、ファンだな……。




「とりあえず降りるぞ…マナリノ」


「は、はひ!!」







 これ、ローナに直面したらマナリノの心臓止まらないか?と不安になりながらアルスは馬車の外に降りた。

ふと見上げた空がいつもより透き通って青く感じた。



















 今月からほぼ毎日投稿に切り替え、

それによってアクセスが伸び続けています。

感謝感謝です。。

今月3日〜8日の6日間でアクセス数479,168。

この作品を約一週間で50万近く見てくれているというのはとても感慨深いです。

メインストーリーですが、次の話では皆様への感謝の気持ちも込めて久々に蒼天のメンバー達を出そうと思っています。

あいつ最近なにしてるん?のメンバー達の現在も入れられたらなと思っているのでぜひぜひ見てください!

調子が良ければ今日中に次話投稿しますm(_ _)m



 今後とも皆様と共に転生捨て子のアルスの成長を見ていきたいと思っています。

末永く宜しくお願いします_| ̄|○


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