81話 強い者の義務
「とりあえず今のお前らがどれだけの力を持ってるか確認するから、グラウンドに集合な!」
担任のロイズのその掛け声で皆が訓練着という服に着替えて外に出る
殆ど説明で終わった初日の次の日、二日目である。
校舎の外には演習用の小さめの森があり、それとは別に魔法用の的や訓練用の武器などが置いてある砂地のグラウンドがある。
今回はどうやら普通のグラウンドらしい。
魔法用の的の延長線上に並ぶ面々の前にはロイズが立っている。
「とりあえず魔法から見ようか。得意なやつはそっちな、苦手なやつはあっちだ」
そう指示を出されたのでアルスは得意な方に進む。
ミーナとルフリアも得意な方にいる。
というより、アルスの横にいる。
なぜか二日目でそこが定位置と化している。
苦手のグループには副担任の女の人が付いていて、得意なグループはロイズが担当するらしい。
「そしたら魔法の技術を見るぞー。そしたらまずはアラーナ。得意な魔法をあの一番先の的に当てろ。結界が周りに張られているから被害はないから安心しろ」
「分かりました」
指名されたミーナが魔法を放つ位置に立つ。
近衛長のターナは魔法がかなり得意である。
そもそもエルフの系譜であるダークエルフは魔法の才能が飛び抜けている。
なので、アルスは割と楽しみだったりする。
「殿下!見てて下さい!私の魔法を…」
「あぁ、楽しみにしているぞ」
「はい!」
後ろを向いてアルスに向かってそう声をあげるミーナに少し苦笑するが、その後に纏う魔力量にアルスは“ほう”と頷く。
精鋭である魔帝国軍の新兵よりも明らかに魔力量もその制御もずば抜けている。
あれが放たれれば、王宮魔導師レベルの威力になるだろう。
アルスは慌てて的の付近に張られている結界に目を向けてそれがどれ程の魔法に耐えられるのか演算する。
その間にミーナはすでに詠唱を終えかけている。
「………ミーナ、それじゃ結界がもたん…」
「え?」
アルスの呟きを聞いて隣でルフリアが首を傾げる。
普通の人には結界の耐久なんて演算できない…とアルスは思っている。
が、一流でもなかなか出来ることではないのが実際である。
「……炎の大槍よ……我が敵を滅ぼせ!!!」
ミーナの詠唱が終わりブワーッと魔力が放たれる。
そこにきてロイズはこれはやばい…と気付いた。
しかし、魔法はすでに放たれるところだ。
冷や汗をかくロイズ。
だが、すでにアルスは動き出していた。
ルフリアは“凄い魔法ですね殿下!”と言おうとして隣を見てそこにアルスがいないことに気付いて目を見開く。
500mは離れた的に向かってミーナの火魔法の上位の炎の大槍が放たれる。
その時、すでにアルスは的の前に転移していた。
そして、演算してそれをちょうど防いで少しお釣りが来る程度の結界を放つ。
無詠唱にして最短最速の結界魔法がアルスの出した右掌から広がっていく。
そして、その構築が終わり切って僅かして結界に魔法がぶつかる。
途轍もない轟音が響き渡るが、何が起きたのかは誰にも分からなかった。
それを特に感じていたのは担当であり元Sランク冒険者のロイズである。
確実に結界を破る威力の高位魔法が何かに衝突して防がれている。
凄まじい砂煙と飛び散った砂や石。
それが晴れる寸前でミーナはやらかした事に気付く。
ロイズの焦り顔を見ればやりすぎたのは分かる。
しかし、砂煙が晴れると今までミーナの魔法の威力に驚愕していた一同はさらに驚き口を開け固まる。
そこにはいつの間にかアルスが居て、その周囲に一切の被害が無かったからだ。
アルスは焦った顔でも驚いた顔でもなく涼し気な顔でそこに立っている。
そして、皆が見ていたにも関わらず気付けばアルスはその場から消えいつの間にかルフリアの横に戻ってきていた。
「ミーナ、やりすぎだ」
突如後ろから聞こえてきた声にバッと振り返ったミーナは目を見開いてアルスを凝視している。
ロイズや他の生徒もである。
「な、なにが起きたのです……」
黙り込む皆の中でやっとルフリアが声を出した。
「ん?結界の強度を演算したらミーナの放とうとしている魔法がそれを上回ると分かったから転移して防いだだけだぞ?」
「転移…………。だ、だだだ、だけ?それはとてつもなく凄いことですよ?殿下」
「魔法を研究していけば皆できるさ」
ルフリアだけでなく周りの生徒達も絶句している。
そのアルスにロイズが近寄る。
「噂には聞いていたが、凄まじい……ですね。殿下」
「殿下はやめてくださいよ先生」
「いや、純粋に敬語をつかってしまうほど驚愕して……いるんだ。俺も放つ瞬間には気づいたが、そこから対処までは動けなかった。」
「色々な事を考えるのが皇太子の仕事でもありますからね……」
「本当に………何を教えることがあるのだろうか」
ロイズは膝に手を当てて項垂れている。
「………私は…」
ミーナはアルスに迷惑を掛けてしまったと俯きながらアルスに近寄る。
が、アルスはニコニコと笑っている。
「凄いじゃないかミーナ。あの魔法はかなり良かったぞ」
「………でも」
「お前には才能がある」
「………え?」
「その年齢であの魔法が放てるなら天才と言えるだろう。だが、お前はまだ足りない。それ程までの魔力量と制御の能力があれば結界の強度の演算も出来たはずだ。学生ならそれでもいい。が、お前が外に出て戦うならそういう事も気にして魔法を放たなきゃいけない。なぜだか、わかるか?」
「えっと……」
「お前が考えなしにそんな威力の魔法を放てば、味方や関係の無い者達に被害が出る可能性があるからだ。力があるのなら最悪なことも考えろ。想定しろ。それが強い者の義務だ。それを理解してこそ一流と呼べるだろう」
「………はい」
「我が父も、そして師匠も、そういう事を耳にタコが出来る程に言ってきたからな。俺も受け売りだが………お前も意識してみろ」
「はい!」
ミーナの瞳に力が入る。
ミーナは強ければ良いと思っていた。
ここまで面と向かって“それだけじゃない”と言われたのは初めてだった。
「これは得意な魔法を最大威力で放つ大会じゃない。制御やどれだけ適正な威力で放てるかを見るものだろ?………これが正解だ」
アルスはそう言うと右手をふわりと持ち上げ何も言わずに魔法を放つ。
無詠唱、そして凄まじい発動速度、光の速さで放たれた火魔法は結界が保たれるギリギリの威力で支える土台にすら被害を出さず的だけ消失させた。
「常に高みを目指し研究し鍛錬していけば、こうやって狙う敵の頭部だけを消失させることも出来る。ミーナ、お前もまだ発展途上なのだとちゃんと理解するべきだ」
「さ、流石は殿下………肝に命じます」
俺はなぜここに居る?
と、ロイズが苦笑を浮かべる。
これを教えるのは本来先生のはずだ。
流石は次代の皇帝である。
この方がいるならベルゼビュートは安泰だとロイズは思った。
「で、殿下!!私の魔法を見てください!」
ルフリアが声を上げて発動位置に向かう。
それは自己顕示欲ではなく、教えを請いたいという思いだった。
「良いぞ………見ててやるから放ってみろ。あ、その前に……」
アルスが指を鳴らすとを消え去った的が元通りになった。
それが何系統の何の魔法なのかは誰もわからない。
が、流石は皇太子だと納得しその日からクラスの面々は出身国など関係なくアルスに尊敬の目を向けることになる………が、それはまた別の話である。
「ほら、やってみろ」
「分かりました………」
魔力を纏うルフリア、その魔力量はミーナと競る。
が、その制御力は明らかにミーナよりも優れていた。
ルフリアの放った水魔法上位の氷魔法は、結界を壊すギリギリの威力で的と土台を粉々にした。
「土台も壊してしまいました………」
「いや、上出来だ。よくやった」
「あ、ありがとうございます!殿下」
ぴょんぴょんと嬉しさをその場で跳ねて表すルフリア。
ミーナは悔しそうに俯く。
が、魔力量はミーナの方が上である。
あとは制御力を身につければ良いだけだ……とアルスはミーナを見て微笑む、
「で、殿下!!私も見て下さい!!」
「お……俺も!!」
「お願いします殿下!!」
いつの間にかアルスに魔法を見せる会と化しているが、ロイズもそれを受け入れている。
一流と呼ばれる魔剣士ではあるが魔法能力よりも近接戦闘の方が得意なロイズからして、アルスの魔法の教えの方が明らかに優れている。
ロイズは少し呆れの混ざった面持ちでその光景を見つめていた。




