79話 国立魔導学園
「今期は凄いメンバーですね学長」
「なにせ、あの方が編入されるからな…どこから情報を入手したのか新入生だけでなく編入希望も多かったぞ。皇太子殿下の担当はアッケンバーグ君にしようと思うのだが、どうかね?」
「教えることありますか?すでにこの国でも3本の指に入ると噂されていますよ?それに創造神様の使徒様ですよ?」
「だからこそじゃないか?圧倒的な強さがある者だからこそ、教えなくてはいけないこともあると思うがね…」
「……たしかに。難しい話ですね」
「それが教育者だよアッケンバーグ君」
長い髭を蓄えた白髪の老人が、金髪に赤目の男と話している。
ここは、ベルゼビュート大魔帝国の中で最高峰の学舎、国立魔導学園…その学長室である。
新入生の入学式が行われる日にアルスは編入の為、学園内に向かって馬車に乗っていた。
この学園には大魔帝国の貴族の子息も多く、そういう者達は自らの家の家格を示すように大きな馬車に乗ってくる。
その中には、小さめの竜や魔獣に引かせている馬車も少なくはないが、それはひとえに強い魔獣を従える事が偉大だという魔族の価値観の為である。
「なっ!?あれは中型の地竜??しかもなんて馬車だ!!」
「見たこと無い馬車だな。ということは新入生か?間違えない…あれはどこかの貴族様だな」
徒歩で歩く生徒や新入生の者達はそんな馬車の列を羨ましそうに見つめた。
「へっ!!何が貴族様だ!この国は強い者こそ上に立つべきだ!だとしたら、俺だってすぐに貴族になってやらぁ」
一人の狼人族の新入生がそう言い捨てながら馬車を睨みつけ、身体から薄くピリピリと電気を迸らせる。
「阿呆かボルト。確かに子息なら分からんが、強さが認められるこの国で貴族である当主はそれだけでかなりの強さに決まってるだろうが…」
そう狼人に呆れながら諭すのは角が二本額から生えた身長の高い少年である。
「うるせぇなオルバン。独り言にいちいちツッコミ入れてくるんじゃねぇよ」
「…はぁ。頭がもうちょいあればお前も…もっと評価されて然るべきなのにな…」
「チッ うるせぇ」
二人がそんな会話をしていると、「なっ!!??あれは……」と周りからどよめきがあがった。
二人も何だ?と慌ててそちらを向く。
「おいおい…なんだあの馬車…」
「引いてるのも…幻獣……じゃねぇか?」
「いや、それより中からの圧力…無茶苦茶だ」
「あれは……トライコーンだ。てことは、皇家の………」
その方向を走っていたのは、凄まじい数の甲冑を着た精鋭の騎馬隊、騎竜隊に囲まれたとてつもない大きさの馬車。
それを引くのは、3本の立派な角を持つ幻獣…トライコーン。
そのトライコーンが懐くのは皇家だけだと皆が理解していた。
そしてなにより、その馬車には皇家の紋章が刻まれていた。
「皇太子殿下が最上級生として編入されるっていうのは噂ではなかったようだな」
そう呟いたのは鬼人族のオルバン。
「ふっ…ふははははは。…やっとこのときが来た!ぜってぇ認めさせてやるぞ次期魔帝!!」
そう言ってニヒルな笑みを浮かべるボルト。
「おい、やめろ不敬だぞ」
「うるせぇ。俺は嬉しくて堪らねぇんだよ」
入学式に最上級生として一応参加することになったアルスは皆の視線を集めていた。
光り輝く白金色のふわりとした髪、中性的な整った顔立ち、されど圧倒的な強者の風格。
新入生や在校生だけでなく、教員や新入生の保護者達も息を呑んでアルスを見つめる。
そして、なぜだかアルスは入学式でスピーチを任されていた。
編入初日に!?と驚くが、皇太子である為それも仕方ないだろうと不承不承壇上に上がる。
「ベルゼビュート大魔帝国皇太子アルス・シルバスタ=ベルゼビュートだ。
新入生達……国立魔導学園への入学おめでとう。
そして、編入して一年この学び舎で私も学業を行うことになった。
在校生の皆も今後宜しく頼む。
私もこうして、貴殿らと共に学べることを嬉しく思う。
この世界で次代を担う若者達が、この学び舎で切磋琢磨し明るい未来の為に飛躍してくれることを切に願う」
そう大声で演説したアルスは両手を広げ、身体から魔力を溢れ出させ…講堂を覆い尽くす大規模な魔法を放った。
父である魔帝と学長の許可を事前に取り、放ったのは闇魔法最上位…幻想世界。
それによって講堂内はいつの間にか今よりさらに発展しそこに居た誰もが見たことのない技術の髄を集めた近未来的な大魔帝国の姿形になっていた。
そこには魔族だけでなく、人や亜人が街を歩き皆が笑顔に満ちた街並みがあった。
その光景に魔帝すらも息を呑む。
その魔法が解除されたとき余韻によって口を開けたままの者や、歓喜に震える者、涙を流す者まで居た。
「私はこういう世界を作りたい……その為には貴殿らの助力が必要である。輝かしい未来、輝かしい国の発展、輝かしい世界…それを創るのは我々、次代を担う者達である!!!」
そう言ってアルスは壇上を降りた。
拍手喝采が鳴り止まない。
皆が一心に皇太子に拍手を送り、そして怒号のような雄叫びを上げた。
こうして、アルスの大魔帝国での学園生活は始まりを迎える。
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