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76話 失う覚悟






「ということで、友人であるトルスの為と、困窮する民達の為に物資を届けたいのだが、俺がそれをすると余りよろしくないだろ?対外的に………。だから、創真教で上手いことやってくれないか?もちろん物資はこちらで用意する」



 トルスに援助する為の方法として、創真教を使えないかと考え教皇であるロクシュリア=ソーマリアに手紙を送ったところ、なぜかすぐさまベルゼビュートに参上してきた。

応接室で向かい合うロクシュリアにそう伝えると、にこやかに微笑んだ。



「もちろん構いません。善行の為、そして使徒様の命となれば創真教も動かざるを得ません。それに……」


「それに?」



 微笑みながら顔を赤らめもじもじするロクシュリア。



「だ、旦那様の願いなら叶えるのが妻の役目……」


「なっ!?いつから俺らは結婚したんだ?」


「時間の問題ですので……」




 この銀髪美少女はなぜか俺に凄まじく好意を寄せている。

正直な話、めちゃくちゃ可愛い。

前世なら清純派女優かアイドルとして人気になっていただろう。

そして、教皇としてのカリスマと、聖女として思慮深さもある。

だが、どこまで言っても彼女は俺の使徒としての部分が好きなのではないかと思っている。

なので、結婚はあまりピンときていない。




「ちゃんと話そうと思っていたのだが、俺が使徒で、ロクシュリアが聖女だからって結婚しなくてはいけない、なんてことはないと思うぞ?」


「え?」


「いや、ロクシュリアって俺の中の創造神の雰囲気を好んでいるだろ?」


「えっと、その部分も好きですが、違いますよ?」




 違うと言われて今度は俺が“え?”と首を傾げる。




「私のアルス様への好意は、単純に一目惚れです」


「凄まじく、ど直球だな」


「嫌……ですか?」


「嫌じゃないが………」


「それに魔帝陛下も認めてくれた言うなれば親も認めた相手ですよ?私は孤児なので親はいないですが……創造神様に前に結婚したいと伝えたところ“アルスが望むなら祝福しよう”と神託をくれていますので言わば神も認めた婚姻ですよ?」



 

 真っ直ぐにそう言うロクシュリアに、少しこの子もしかしてちょっと愛重め?とアルスは苦笑する。




「世間的にも許嫁、婚約者と噂されていますし………アルス様も前向きに考えてみて欲しいです。私は、アルス様以外ならそれが別に現れた使徒であっても結婚する気はありませんので」




 レオとレルムを見たあとだからか、こんなにも直球で求婚されるとグッとくるものがある。

確かに前向きに考えても良いのかもしれない。

マリアの事が可愛いと思ったこともあるが、あれはあくまで子供を見る感覚だった気がする。

自分がこの世界で成人し、相手も成人ともなればロクシュリアに対する可愛いは女性に対してのものなのだろう。




「前向きに、考えてみる」


「嬉しい……です」




 立ち上がって隣に来るロクシュリア。

なぜ、腕を抱いているのだろうか。

む、胸が当たる。

柔らかい…………。




 コンコンッと音が鳴り、こちらの返答なしに扉が開く。

となると、開いた先にいる人物は限られる。




 そこから顔を出したのはメルだった。




「あ、兄上!!な、なにを……されているのでふか!!」




 メルが怒りながら声を上げ壮大に噛んだ。

16歳になった俺の2個下である14歳のメルももうすぐ成人なのだが、兄離れはできていない。




「ロクシュリア猊下……な、なぜ兄上の腕をおっ……胸で挟んでいるのです!!」


「メル様お久しぶりです。えっと、挟んでないですよ?腕を抱いているだけです」


「そ、そそそれが挟んでいるのですっ!」




 不承不承腕を抱くのをやめたロクシュリア。

メルが向かいに座る。




「まだ、結婚していない男女が………不埒なことはだめですっ」


「でも、私と殿下は婚約者ですよ?」


「こ………兄上っ!!婚約者じゃないですよね!?」


「………んー、難しい話だな」


「なっ!?簡単な事ですよ!!ま、まさか本当に結婚なされるのですか!?た、確かにロクシュリア猊下はとても……可愛くて……私にも優しいですし……民思いで………お胸も大きくて………性格も良いですし………は!?悪いところがない!!」



 

 メルが何やらブツブツ言いながら一人で驚いている。

途中変なのが聞こえた気がするが……




「結婚するかはわからない。けど、可能性は正直なくはないと思う。」


「兄上………」




 メルが泣きそうな顔で、いや瞳に涙をためている。




「メル……どっちみちいずれ俺は誰かと結婚することになるぞ?遅かれ早かれな……大魔帝国を継ぐってことは後継ぎが必ず必要なんだ。………だけど、メルが妹であることには変わりない」


「は!?確かに!!私が兄上の妹であることは一生変わりませんわ!!……不変。尊い」


「メル様は私が姉になるのは嫌ですか?」


「………凄く………良いです」


「……嬉しい。私も可愛い妹が出来たら嬉しいです!」


「………可愛い妹?………格好良い兄と、可愛い姉…………尊い」



 

 メルが何かを想像して、ふふふと笑う。

何か変な成長してないか?と母さんと父さんの子育てを疑うが何やら納得したようなのでとりあえずは放っておこう。




「ロクシュリア猊下………」


「お姉ちゃんでいいのですよ?メル様」


「お、お姉…ちゃん。メルもメルでいいです」


「メルちゃんにするわ……ふふ」


「お姉ちゃん………」


「メルちゃん………」




 何故か二人は抱きしめ合っていた。

よくよく考えればメルも姉妹はいないし、ロクシュリアは兄弟すらいない。

確かに二人共姉妹を欲していたのかもしれない。

が、にしてもいきなり仲良くなりすぎてないか?と不穏な空気を感じた。

正式に結婚したわけでも婚約を交わしたわけでもないのだが、ロクシュリアはあの兄離れできないメルから姉認定を受けるのに成功してしまった。




 もしや、これが外堀を固めるということなのだろうか。














 その日魔帝城に滞在したロクシュリア。

晩御飯を共にした後、バルコニーから街を眺めているとそこにロクシュリアがいつの間にか並んでいた。

普段なら気配で気付くのだが考え事をしていたのでまったく気付かなかった。




 月明かりに照らされたロクシュリアの輝く銀の髪と、綺麗な青い瞳、そして目の下にある小さなホクロを見てなぜだか俺は生唾を飲んだ。




「なぁ……色々考えてみたのだが、結婚したとして嫁入りするのは無理じゃないか?ロクシュリアは教皇だろ?」


「教皇と言っても扱いは聖女ですよ。言わば教会の看板です。実務はすでに枢機卿に委ねてありますし、枢機卿もまた創造神様の意向と、使徒様との婚姻という祝福を喜んでいますので、何も問題はありません。ただ……」


「ただ………」




 ロクシュリアはこちらに向き直り少し困ったように微笑む。




「そうなると私は教皇ではなくなります。聖女というのは無くならないかもしれませんが、実質なんの権限も持たないただの女になります。そうなると、なんの力にもなれないかもしれません」



 自分でも何度か考えたのかそう言って悲しそうに微笑むロクシュリアの瞳は、不安そうに揺れていた。



「それを失っても俺と居たいのか?」


「はい……」



 そこまで言われて何も答えを出さないわけにはいかなくなってしまった。

俺はロクシュリアの事をどう思ってるのだろうか。

皇太子になった日から、何度か食事をしたことがある。 

性格も人柄も顔も全てが好ましくはある。

ただ思っていたのは彼女が教皇で、俺が使徒で、そういう意味合いでの婚姻なのかというところだ。

そこに本意はあるのかと。

だからこそ、それを失っても良いという覚悟を聞いて俺は前世でもなかった程に胸がドキンとした。




「……ロクシュリア」


「はい………」


「結婚となると、色々まだまだそれどころではないが。正式に、婚約するか…」


「え?良いのですか?」


「俺もロクシュリアなら良いかなって思ったんだ」


「力のない女になってもですか?」


「力がなくなっても良いって思う程に俺を想ってくれているのがとても嬉しいんだ。そんな、キミだから今後結婚しても良いと思えたんだ」


「………あぁ……ごめんなさい」




 ロクシュリアはなぜか謝りながら涙を流していた。

俺は慌ててロクシュリアを見る。




「ど、どうした?」


「嬉しくて………。私は孤児でした。でも、神に愛され聖女としての力を得て皆に崇められる事になりました。でも、それは私の力を求めているだけだと私は分かっています。だから、力のない私なんて誰も必要としないと思っていました。でも、アルス様は……力が無くなっても良いと言ってくれました。それが嬉しくて……」




 泣きながら嬉しそうに笑うロクシュリアは教皇や聖女としての威厳ある顔ではなく年相応の少女の顔をしていた。

その顔を見た時に、俺は心からこの子を大切にしたい……と思った。




「いつか、貴方は魔帝として複数の妻を持たざるを得なくなるでしょう。でも、最初の一人として、それまでは私だけの貴方で居て下さい。」




 泣き止んだロクシュリアはそう言って少し大人びた、けれど教皇ではない顔立ちでそう告げてニコリと微笑んだ。

しかし、その笑顔はいつかは他の人と共有されてしまうという悲しさも見えていた。



 だが、俺には前世的に一夫多妻の概念がよくわからない。

それに、父上も妻は母上一人である。



「一夫多妻はないぞ俺は…」


「へ?」


「そもそも父上も一夫一妻だし。人族の国の貴族だった父さんも一夫一妻だし。気持ち的に一夫多妻の意味がよくわからないんだよな。だから、結婚したなら俺は他に妻を娶る気持ちはないぞ」


「ほ、本当ですか?」


「あぁ」


「……ふふ。なら俄然やる気が出てきました!!婚約解消はさせません……」




 ロクシュリアの瞳に炎が灯った気がした。




「………お、おう」




 やる気に満ち溢れた目の前の婚約者(まだ仮)に戸惑っている俺に、ロクシュリアの顔が近付いてきた。

そして、柔らかい唇が俺の唇にあたる。




「色々な意味で初めての……キスです」


「俺も初めてだな」


「私の唇も、全て生涯貴方だけですよ……アルス様」


「……様付けはやめないか?」


「アルス………くん」


「まぁ今はそれでよしとしよう」









 この次の日、アルスはロクシュリアを連れて家族に婚約を告げるのだが………

それは次の話で!!












77話までにヒロインを確定したいと考えていたのですが、なんとか思い描いた通りになりました。

え、断然マリアだろ?

いやいや、ミラ一択じゃね?

は?メルだろ?

っていう意見もあるとは思いますが、

どうやらアルスが気に入ったようなので応援してあげて下さい。




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