73話 変わり果てた友
「なぁ、なんでA&Tなんだ?」
少し話が落ち着いたのでアルスは気になっていたことを質問した。
それに対してトルスは満面の笑みを浮かべた。
そして、よくぞ聞いてくれました!という雰囲気で名前の理由を語った。
「それはもちろん………。アルス&トルスっすよ!アニキ!!!」
「…………はい?」
「だから、アルス&トルスでA&Tっすよ」
「………今すぐ変えてくれ」
「えーーー!無理っすよ〜」
絶句して固まるアルスだが、カイト達は口を抑えて肩を揺らしている。
どうやらツボに入ったらしい。
「もういい………。で、他の面々は?」
「レオ以外は行方不明っすね。」
「な!?レオの居場所を知ってるのか?」
「あぁー、まー、はい」
トルスは何故か頭を押さえた後に、遠くを見つめながら答えた。
それに対してアルスは首を傾げる。
「なんでそんな目を合わせないんだよ」
「いやー、会わないほうがいいかもっすね」
「は?なんでだよ……」
「昔のレオはもういないっすから」
「いや、そりゃ成長するだろ。それに、俺もトルスも昔とは違うだろ?」
「そういう訳じゃなくて………まぁでもアニキが会いたいなら場所は教えます。ただ、後悔するかもっすよ?」
理由は告げないが、そう念を押すトルスにアルスはハテナマークを浮かべる。
なぜそこまで会わせたくないんだ?
「あと、一応ミラについての情報は少しあります」
「本当か?」
「はい……どうやら捕虜になって獣人の国に連行されたとか」
「捕虜に………」
「でも、すでにローゼン王国はないっすからね。帰還はできてないはずっす。帰ってきてたら会いに来ると思いますし」
「マリアは?」
「………全くわからないっす」
「そうか………」
とりあえずレオは健在。
ミラは獣王国に………。
マリアは完全に行方不明か。
「ローナ、帰ったら獣王国に探りを入れてくれ。最悪俺の友人だと伝えてもいい」
「かしこまりました殿下」
また会いに来ると伝えてアルス達はA&Tのアジトを後にした。
また必要物資についても手紙を送るように伝えた。
トルスの現状を知って少なからずアルスはホッとしていた。
次は、レオだ。
トルスに教えてもらったレオの居る街はかなり荒んでいたが、それでも営みはちゃんと行われていて屋台なども出ていた。
レオはその街の酒場によく居るそうだ。
レオが酒場にいるというのは全く想像がつかないな……とアルスは思う。
「レオ君ももう成人ですからね」
「あーまぁたしかに」
カイトのフォローを聞きながらアルスはなんとか納得して教えられた酒場を探す。
そこはすぐに見つかった。
街の中でもかなり賑わった店だった。
店の名前は【酔い奴隷】。
なんとも辛辣な名前である。
大勢で行くのはあれだなと、アルス他、カイト達3人とローナだけで中に入る。
凄まじいアルコールの臭いと、異臭。
皆顔を顰めながら中を見渡す。
「あぁ!?てめぇもういっぺん言ってみろ!!!」
「るせぇな!!雑魚がごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!!!!」
急に奥の方で喧嘩が始まった。
一人は大柄で山賊のような男、もう一人はくすんだ金髪の小汚い青年だった。
最初に大声を出したのが大男の方である。
が、先に手を出したのは青年だった。
少し酔いでふらつきながらも青年の拳が大男の顎を打ち抜く。
グラッと倒れる大男。
勝負はついたが青年は馬乗りになりさらに顔を滅多打ちにしている。
慌てて周りの客が止めに入るが、それでも青年は暴れ続ける。
それを見てアルスやカイト達は顔を引きつらせていた。
暴れる青年に見覚えがあったからだ。
小汚いし、汚れて脂ぎった金髪だが、間違いなくそれはレオだった。
「…………なるほど」
「これがトルス君が殿下を会わせたくなかった理由ですか」
「だろうな。ガイゼン………止めてこい」
「了解」
ガイゼンが進み出てまだ暴れているレオに近寄り襟を掴んで持ち上げる。
「そいつはもう死に体だ。やりすぎだ」
「あぁん!?…………ガイゼン…さん?」
「あっちを見ろ」
ガイゼンに言われて顎でさされた場所を見やるレオはアルスと目が合い目を見開いた。
「………アルス」
「とりあえず一旦落ち着け。話はそれからだ………ほーら、お前らもどけどけ。今日は俺の奢りだ好きなだけ飲んで良いぞ!!」
「まじか!?」
「奢りだってよ!!」
「まじかよーー!!最高!!」
ピリピリしていた店内がガイゼンの言葉で色めき立った。
皆すぐに席に戻って酒を追加している。
ガイゼンはレオを立たせて近くの席に座らせる。
そこに、アルス達も来た。
向かい合うアルスとレオ。
互いに言葉を発していない。
気まずい沈黙に他の面々も黙り込む。
先に口を開いたのはアルスだった。
「とりあえずは元気そうでよかった」
「………元気………か」
「なにがあった?」
アルスの問いにレオは答えない。
代わりにテーブルに置かれたキツめの酒をゴクゴクと飲む。
「おい、飲み過ぎなんじゃねぇか?」
「………」
ガイゼンの言葉にもレオは答えない。
「………ほっといてくれ」
レオはそれだけ言ってまた黙り込む。
「………色々あったのはわかるよレオ君。でも、殿下はずっとキミ達を心配していたんだ。毎日のように教会でお祈りを捧げて、部下達に情報を集めさせるくらいにね。だから、ちゃんと話さないかい?」
見かねたカイトがそう言うと、レオは“はぁー”と溜め息をついてアルスを見つめる。
「情けないだろ?……失望したか?」
「………事情がわからん」
「事情なんてないさ。ただ、現実から逃げた………それだけだ」
「逃げた理由があるだろ」
「………お前にはわからないだろ」
「………聞かないと分からないだろ」
「お前は昔からめちゃくちゃに強くて、今や北の大陸の王族で、次期後継者。俺とは住む世界がちげぇ」
「………」
「住む世界が違うお前に俺の事なんてわからねぇよ」
「本気で言ってるのか?」
「あぁ」
さすがのアルスも苛立ちでこめかみに青筋を立てる。
が、レオは気にした風もなく酒を飲み続ける。
「なんでここがわかった?」
「トルスに聞いた」
「あぁーあいつか。あいつも上手くやってるよな………今や一大勢力の闇ギルドのボスだ。闇ギルドのくせに民衆からはカリスマとか言われてる………ったく……気に食わねぇ」
レオは苛立たしげにそう言ってさらに酒を飲む。
ガイゼンは会話を聞いてすでにかなり苛立っているし、レオナルドやカイトですら顔を強張らしている。
ローナは瞳に殺意を浮かべている。
「………帰れよアルス。話すことはねぇ」
「………そうか」
アルスは“ふぅー”と息を吐き、立ち上がった。
本当に帰るとは思っていなかった皆が驚くがアルスは何も言わずに踵を返して出口に向かう。
慌ててカイト達も後を追う。
店を出たアルスは夕方の空を見つめて溜め息をついた。
「トルスの言う通りだった。来なければよかったかもしれない」
その言葉の重みに皆が気付いていた。
あれ程までに皆の無事を祈っていたアルス、それに対して変わり果てたレオ。
皆がかける言葉がなく下を向く。
「とりあえず帰ろう……」
アルスは酒場から、いや、レオから離れるように歩みを進めた。
そこに、タッタッタッタッと駆け寄る足音。
「ま、待って下さい!!」
アルス達が振り向くと、そこには見慣れない女性が居た。
はぁはぁと息を吐きながらアルス達を見つめる。
「レオくんの……ご友人ですよね?」
「え?」
「すいません話が聞こえてしまって……あ、私はあの店の従業員で………えっと………元ローゼン王国の兵士です」
「あー………はい?」
「少しでいいので私の話を聞いてくれませんか………レオくんについて」
その真摯な眼差しにアルスは頷いた。
もしかしたらレオのああなった原因を知っているのかもしれない。
レオ……どうしちまったんだよ……
ここからレオの話が後2話ほど続きます。
今日更新するか迷っているので、
もしかしたら更新されるかも!?
って↑最初は書いたのですが、
※(訂正します!)今日の皆さんの閲覧の伸び方が凄まじくて嬉しくなったのでレオとの再開編立て続けにいきます!
ブックマーク、☆の評価といいね!お願いしますm(_ _)m
作者のモチベーションになりますです、はい。




