7話 逃走とは闘争の為の準備である。
補足 アルス7歳 ケイレス30歳 マリー28歳 メル5歳)
「にいちゃーんがんばれー!」
それからさらに一年の時が流れたとある日...
妹から黄色い声援を受けながら庭で日課の素振りをしていると、見知らぬ男が訪ねてきた。
執事さんが対応しているがどうやらなにか揉めているらしい。
「失礼ながら、名乗れない者を敷地に入れる事はできません」
「重要な用件なんだ。ケイレスに伝えてくれればそれでわかる」
「重要な用件なら尚更名乗っていただかないと...」
妹にそこにいてと告げて門の方に向かう...
目の前で見ると男はとても大柄である事がわかる。
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名前/レイオン
家名/トライデン
年齢/30
種族/人族
職業/重戦士
称号/地割り
レベル/81
HP/8,000(8,000)
MP/2,500(2,500)
攻撃力/21,000
防御力/29,000
俊敏/6,000
器用/8,700
幸運/8
魔法適性/火、雷
固有魔法/[地割り/LV.MAX]
攻撃魔法/[雷震/LV.MAX][火炎柱/LV.MAX][稲妻/LV.4][大炎雷/LV.2]
防御魔法/
固有スキル/[硬化/LV.3][身体強化/LV.MAX][質量増/LV.3]
耐性スキル/[物理攻撃耐性/LV.2]
神聖スキル/
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なかなか腕の立つ人であるようだ。
「アルス様!お下がりください」
唐突に前に出てきた俺に執事が慌てて声をかける。
「大丈夫…この人は我々に危害を加える気はありません。
もし、そうだとしたらもうすでにあなたの頭は地面に転がっていますよ?
この人は相当に腕の立つ人です。
しかし一向に武力行使に出てこないという事は敵意はなく、こちらに対して危害を加える気は無い。と僕は思います。
それに、鍛え方を見てもこの人は多分高位の冒険者、もしくは軍の上層部の人である可能性が高い。
そして父の軍での地位から察するに大将である父の屋敷に連絡なしに訪問してこられるという事は後者、それも階級もしくは爵位が上である可能性も検討できます。
また、目立たない格好を選んだようですがそれでも要所要所を見れば安価な物ではないと分かる服装や、立ち居振る舞いを見ても貴族である事は明白です。
そんな方が何の連絡もなく、素性も隠してこの場、つまり大将の屋敷に来なくてはならない。という事は何かとても重要かつ大変な事態が起きている。という事だと思います。
故にここは通すべきだと判断します。
もし、何かあれば僕が責任を取りますよ。
どうぞ...こちらへ。父の所に案内します」
呆然と口をあんぐり開ける執事を尻目に男を見やると、男は目を見開きながらも薄っすらと笑みを浮かべていた。
「さすがはケイレスの息子だ…。会うのは初めてだが、とても聡明な子であるな。
ケイレスも鼻が高いな…。うちの子にもぜひ会わせてやりたい」
褒められて気恥ずかしかったが、とりあえず急ぐべきだろうとアルスは男に軽く頭を下げ歩き始める。
「おっと、そうであった!急がねば…」
屋敷の玄関の方には騒ぎを聞いてかすでにメイドや執事が集まっていた。そして玄関を入るよりも先にケイレスが屋内から姿を現す。
「レイオン!!お…お前無事だったのか!俺は心配で夜も眠れなかったのだぞ!それより例の…」
ケイレスはとても驚いたように目を見開きレイオンに駆け寄るとレイオンの肩を揺さぶりながらまくし立てる…が、周りをみて急に冷静になるとレイオンを連れて屋内に入っていく。
応接間に向かい合うケイレスとレイオン。
二人は人払いをして応接間のソファの対面に座り向き合っていた。
「お前が従者を連れずにここに来るということはあの噂は本当のようだな…」
「すまんな…また迷惑をかけてしまう」
「何を言ってる?お前は俺の命をなんども救ってくれたではないか」
「フッ...そう言ってくれると思ってここに来るのを少し躊躇ったよ。お前やお前の家族には迷惑をかけたくないんだ...だが今はこうする他なかった」
旧知の親友であるレイオン…彼は王国軍が誇る最強の騎馬隊を率いる隊長であり、軍での役職は中将、爵位は辺境伯。
伯爵であるケイレスよりも1つ上の爵位であるが、軍では1つ下の階級であり、元から仲が良かった事もあって二人は気兼ねなく話せる仲であった。
しかし、数日前…国の重鎮だけに密書が届く。
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トライデン家に身元所在不明の賊が入り、トライデン家当主 レイオン・トライデンの妻 辺境伯夫人 メアリーナ・トライデン並びに、執事・メイド数名を殺害。
また、当主 レイオン・トライデンと長男レオ・トライデン、長女ローザ・トライデンが行方不明。
実行犯は未だ捕縛されておらず、行方不明。
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それを見た重鎮達は一瞬で状況を理解した。
他貴族による暗殺計画…
そもそもこの国には二大派閥が存在する。
現国王と王太子を支持する国王派と、
国王の弟である公爵を支持する公爵派である。
ケイレスとレイオンは共に国王派の重鎮であり、自ずと公爵派の誰かによる暗殺計画はすぐに頭をよぎった。
その疑念を深める理由は陛下が現在病気で療養しているという事もある。
ここ数年で一気に悪化した陛下の病状は予断を許さない状況であり、それに伴い公爵が代わりに執務などを行なっている。
この機会に公爵を次期国王に即位させようという動きが昨今活発化しているという噂は絶えない。
「黒幕に心当たりはあるのか?」
「いや…今のところは明確ではない。しかし、大体は予想している」
「ヴァイロンか」
「やはりケイレスもそう思うか?俺もそうじゃないかと思っている」
ヴァイロンとは、公爵派の重鎮の一人であるダブロフ・ヴァイロン子爵の事である。
国王派を目の敵にするタイプの人間であり、以前国王派の男爵に対し因縁をふっかけて斬り殺した前歴がある。
「隠密に少し探らせてみるか…もし、そこで証拠が出れば、いくら貴族とはいえ必ず処刑台に送ってやる」
「申し訳ないな…未だ第二の襲撃がある可能性を考え息子達は信頼出来るやつに預けてある。
狙いは俺で間違いないだろう。
それもあって一緒に行動するのは控えたんだが…」
「大丈夫だ!安心しろ…
我が家に押し入れる賊などいないさ。
直轄の隠密部隊を小隊規模だが常に屋敷内に控えさせている上に、
自分で言うのもなんだが単独では我が国最強の軍人である私もいる。
そしてもう一人この家には俺に次ぐと言っても過言ではない腕の良い者もいるしな…」
「あの息子か?確かに腕が立ちそうだが、贔屓目なしにそこまで凄いのか?」
「おーそういえばアルスと一緒にいたな!そうかもう会っていたのか!
贔屓目なんてないぞ?隊の訓練レベルで厳しく見てもあれは並みの強さではないぞ?
良かったら今度手合わせしてみてはどうだ?」
「お前がそこまで言うとは...聡明なだけではなく、腕まで立つか…これはレオには良い土産話になりそうだ。
実はさっき門で執事に止められたのだが、現状迂闊に外で名前を出せない故、困っていた所彼に助けられてな…
とても驚かされたよ…
一瞬私を見た時体格や雰囲気からなのか腕が立つと判断した慧眼もさることながら、それであるのに攻撃行動に出ないという点を踏まえて私に敵意が無い事を執事に対して指摘し、さらにはここまで目立たない装いにしたのに身なりや行動だけで貴族だという事を当て、それだけでなく軍の上層部の人間ではないか?爵位がお前より上なのではないか?という所まで当ててきたのだぞ!
とても、幼さの残る子供の口から出た推測だとは思えなかった。
あの子は聡いなどと言う言葉では表せないほど聡明だ...流石はケイレスの息子だと感心したものだ」
「そうか...あいつがそんなことを...ふふ...俺には出来すぎた息子だな。
しかし、自慢みたいになるがあいつの凄さはそんなものではないぞ?
家庭教師をつけてたったの半年で、帝王学、法学、数学、物理学、工学、哲学、外国語、兵法、歴史、貴族としての礼節や言葉遣いなど全てを履修し、外国語はすでに基本となる三大国語に関しては俺よりも流暢と言っても良い程だ。
それに戦闘面でも拳闘、柔術、軍隊式格闘はもうそこいらの小隊長のレベルは遥かに凌駕している。
一か月前に剣を買い与えたら自分で試行錯誤して、いくら油断してたとはいえこの俺が本気で返さないと危ういとすら思う程の一撃を入れてきた」
「な?それは本当か?お前を本気にするとは…いくら何でも規格外過ぎないか?まだ子供だぞ?」
「末恐ろしいとはアルスの為にあるのではないかと思う程だよ」
「それは是非手合わせ願いたいものだ」
「当分はこの屋敷に滞在して構わない!その間に少し稽古をつけてやってほしい!」
この会話のさなか、アルスが別室で大きなくしゃみをしていた事をこの二人は知る由もない…。
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