68話 天空都市
そこは言葉が出ない程に綺麗な場所だった。
円柱の階段のように段になった建物と、その段に咲き誇る木々と花々。
そのまま一流の庭園だと言われても納得できるような美しい絵画のような場所。
それを見てクロから降りたアルスは口を半開きにして「ほぇー」と間抜けな声を出す。
『きれ〜』
「凄いな…」
クロもその圧倒的な光景に少し間抜けに口を開いている。
「ここが天空都市………」
ここが天国だと言われても納得してしまいそうなそんな景色にアルスが驚いていると、少し離れたところに猫が現れた。
「どうやって入ったニャ?侵入者」
「猫が喋った………」
「ワタシは猫であって猫ではないニャ。そんなことよりどうやってここに侵入したニャ」
「いや……普通に結界に穴を開けて……」
「結界に穴を………そんなの無理ニャ」
「いや、いけたぞ?」
「………いけたの?」
戸惑う黒猫と首を傾げるアルス。
「ここは、天空都市?」
「そうだニャ…お前は何者ニャ」
「俺は魔王の息子。ベルゼビュート大魔帝国皇太子…アルス・シルバスタ=ベルゼビュート」
「……なるほど魔王の。ワタシはバステ」
「バステ?」
「そうだニャ。猫だけど女神ニャ」
「女神ー?嘘だ〜」
「本当だニャ」
綺羅びやかな金の首飾りを付けた黒猫を見つめ、女神!?とアルスは目を見開く。
女神感がない多分嘘だ。
ただの可愛らしい猫だし。
「まぁここ数千年ここに来た者もいなかったニャ。仕方ないから滞在を認めるニャ」
「いいのか?」
「変わった雰囲気の人とドラゴン一匹くらい歓待できるニャ。さぁ来いニャ、いつまでもここではつまらないニャ」
「お、おう」
黒猫のバステに案内されアルスとクロは天空都市を歩いていた。
こんだけ広大なのに人の気配は全く感じないのはとても気味が悪いがそれよりも圧巻な街並みに心奪われた。
円型の建物を囲むように街のようなものがあるのだがもしかして昔はここに住んでいる者らが居たのだろうか?
「いたニャ……数千年以上前の、この世界とは違う世界での事だけど」
アルスの心の中の疑問に答えるようにバステが振り返り肯定する。
心を読まれた!?と驚くが、バステは何事もなかったかのようにまた前を向いて歩き出す。
しかし、本当に異世界の天空都市なのか。
間違えなく自分が元居た世界とは違う世界だ。
現代地球に天空都市なんて現れたら未曾有の危機だ。
“ら、ラ○ュタ!?”とSNSがとんでもない事になるのは想像に難くない。
中心に向かって進んで行くと、ついに円型の建物が目の前に現れた。
近くで見ると途轍もない大きさである。
蒼天の拠点である無血城塞はおろか、魔帝城よりも大きい。
そして咲き誇る花々や、不思議な色や形の木々、そしてそこから実る数多の色彩の果物に至るまで全てが前世でも今世でも見たことがないものだった。
乱雑とも言えるほどにその色彩はめちゃくちゃ。
同じ木から赤や青など違う色の木の実がなっているし、虹色の花や蛍光色に光っている花まである。
さらには上部から滝のように水が流れている場所もある。
ここが天国なのでは!?と改めてアルスは思った。
「凄いな………意味不明な植物の宝庫だ」
「この庭園は特別だからね。前の世界にもなかったモノが多いよ?」
「やっぱり庭園なのか?」
「うん、この建物……そしてこの天空都市自体が庭園と言ってもいい。まぁと言っても庭師がいるわけでもないし、手の掛からないものなんだけどね」
バステがまた歩き出したのでついていくとその建物の入口のような場所に辿り着いた。
それは巨人でも余裕で通過できるほどの巨大な扉だった。
「開け、扉よ」
バステがそう言うと、パァアアと辺りが光に包まれ巨大な扉がゆっくりと開きだした。
木々や花々に覆われたその建物の中は、正しく城だった。
だが、ただの城ではない。
純白の壁や床、調度品や内部構造に至るまで凄まじい繊細で丁寧な芸術品のようだった。
城の中というよりは、教会、絵画の中、そんな雰囲気だった。
田舎から出てきた若者よろしくアルスが周りを見ながら口を開きキョロキョロと視線を移動させていると、入口を抜けた広間にある休憩用?の高価そうな白と金のソファの上に膝を抱えながら大きな本を読む少女が座っていた。
プラチナブロンドの透き通るような髪に、爛々と輝く黄金の瞳。
その少女は見た目は人間であるのに、アルスはその少女を人間だとは思えなかった。
圧倒的な未知数。
現にステータスは一切見れない。
「いきなりステータスを覗くのは失礼だよ?」
少女は本を膝の上に置いて、アルスを見つめる。
「あぁ、ごめん」
「まぁどうせ見れないからいいけど。それよりバステ、この人達は?」
「自力で結界を破って入ってきて、面白いから滞在を許可したニャ」
「自力で?あの結界を?」
少女は驚いた顔をした後に、本を傍らに置き。
立ち上がった。
ある程度の距離、実際には10m以上離れていた少女。
しかし、いつの間にか少女はアルスの前に立っていてアルスの顔を見上げている。
「へぇー、貴方……この世界の創造神の使徒なんだ」
「なっ!なぜそれを?」
「見れば分かるよ」
「ステータスを見たのか?」
「ん?」
かなり厳重に秘匿してるはずのステータスを見られたとアルスは悟った。
しかし、少女は首を傾げている。
「ステータスなんて見てないよ」
「え、じゃあなんで分かるんだ」
「だから、見れば分かるよ」
「………」
「うん、キミ面白いね。いいよ滞在しても」
「といっても長くはいられないがな。突然帰らないと皆が騒ぐからな」
「あー、なるほど。でも、大丈夫。この天空都市は時間の流れが違うから……。君達がここに来てから多分まだ1秒も経ってないよ?」
「な………時間が?」
「うん、だからゆっくりしていくといいよ」
少女がそう言うと、目線を外したわけでもないのに少女はアルスの視界から消え去り、慌てて周りを見るとまたソファに座って本を読んでいた。
「………凄いなあの子」
「んー、ワタシと同じくらいかニャ?」
「…………」
黒猫のバステがそう言うので呆れ顔をしながらなんとなくステータスを覗いてみた。
だが、バステのステータスも覗くことはできなかった。
「まだワタシの事を知れる段階ではないニャ」
「………もしかして本当にバステも凄い存在なのかもしれない」
「疑ってたのニャ?」
「いや、だって猫だし、語尾がニャだし。」
「……むすぅ」
「おい、むすぅって声に出すものではないだろ」
「もういいニャ。とりあえず中を案内するニャ」
建物を案内されたのだが、凄まじい広さと美術館のような食堂や、世界の本を全て納めたの?ってくらいの広大さの大図書館、花々や綺麗な植物が咲き誇る庭園の真ん中にある露天の大浴場……一つ一つが絵画のようだった。
「ここまで凄いと逆に疲れるな……」
「あのドラゴンは馴染んでいるニャ」
「あぁ、馴染み過ぎてるな…」
バステとアルスの視界の先には内部の各階から東西南北の出口を抜けて出ることが出来る庭園で壮大に寛いでお腹を見せながら寝ているクロの姿があった。
馴染み方が凄い……あの子はきっと大物になる。
ちなみに庭園だが、各階で違うコンセプトがあるらしく見比べても面白かった。
二階の秋のような紅葉の庭園や、三階の不思議世界の冬景色のような青と水色の庭園などはアルスは結構気に入っている。
ちなみにクロが寝ているのは四階の食べられる不思議果物が溢れ返る常夏の楽園のような庭園だ。
最初はパクパクと食べていたがお腹が満たされたのか寝始めたのだ。
アルスとバステはそんなクロの寝顔を見つめながらいつの間にかそこにあったテーブルセットの芸術品のような椅子に腰掛けた。
「それにしても凄いな……天空都市」
「凄いニャ……。でも、ここを見に来れる人はいないニャ。アルスやクロが稀…」
「天空都市には他にどんな生物がいるんだ?てか、この建物の中で使用人とか見かけてないが、掃除もされているしどこにいるんだ?」
「いないニャ。誰も…」
「え?」
「ここに居るのはワタシと、あの本を読んでいたフレイだけニャ。建物なんかの掃除とかは常時魔法で行っているニャ」
「………ふたりだけなのか?」
「そうだニャ」
「寂しくないのか?」
「………寂しく…ないニャ」
黒猫なのに、遠くを見つめる理知的で繊細な顔付きはとても絵になった。
だが寂しさもまた感じる表情だった。
「なんで、ふたりだけになったんだ?街とか見たけど昔は他にも居たんだろ?」
「人間は……いや、知能を持った生物は、愚かニャ。フレイはそれを嫌った。だからふたりでこの世界に来たニャ」
「……色々あるんだな」
「そうニャ…」
あまり深く聞いてよさそうな雰囲気でもなかったのでアルスはそれ以上聞かなかった。
ただ、遠くを懐かしむように見つめるバステの悲しそうな横顔を見つめた。
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