64話 銀仮面
なぜ私はここに居るのだろうか。
そんなことすら私は分からなかった。
突然意識が鮮明になって、自身の途轍もない力を感じて、なのになんの記憶もなくて、それなのに怖さも驚きも感じなかった。
目を覚ました薄暗くしかし綺羅びやかな部屋の中の祭壇。
そこが終末機構という組織の建物の中だと後々知った。
それから来る日も来る日も金の仮面を付けた宗主と呼ばれる男から世界の話、神話を聞かされた。
彼が言うには現在邪神の力が強くなり、創造神は南大陸でしか殆ど信仰されていないという。
そんな世界を憂いた創造神は世界を一旦浄化する計画を立てているそうだ。
それが終末計画。
世界の創造神以外を信仰する穢れた者らを駆逐し世界を正しい道に戻す。
それが創造神の意向だという。
私はその創造神の使徒であるそうだ。
今までの私はどうやって生きてきたのだろうか?
家族はいるのだろうか?
そういう疑問を口に出すと宗主は、お前は別の世界から来た魂でその身体は我々が用意したものだ。と説明してくれた。
なるほど、家族はいないのか。
記憶がないならたしかにそうなのかもしれない。
なのになぜか心がグッと締め付けられる。
眠ると同じ夢を見る。
誰かわからない男の子と笑い合う光景。
その中で私の周りには同い年くらいの友人が何人もいて、私はその空間がとても好きだ。
でも、皆の顔には靄がかかっていて顔は見えない。
その夢を見ると何故かいつも涙が流れていた。
もしかしたらこちらに来る前の世界での記憶なのだろうか。
宗主と共に召喚の儀式を行いそれから三人の使徒が現れた。
異世界で海賊をしていたという大男のバーリス、異世界では学生だったというセイゴとレイカ。
召喚の儀式を手伝ってみて、私も異世界から転移してきたのだなと改めて理解した。
実感もなければ、なぜそれをしなければいけないのかはわからない。
が、神様の為ならやらなくてはいけないのだろう。
世界がいつか平和になったら…
ゆっくりと紅茶でも飲みながら、綺麗な景色を見たい。
その時は一人じゃなくて、夢の中で見たような誰かと一緒。
それが私の小さな夢だった。
私に名前はない。
だが、皆は首席使徒……銀仮面と呼ぶ。
私は………この世界を平和にするための神の使徒である。




