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62話 大きな一歩




 敵の兵力が約25万で、こちらが約8.5万と聞くと、え?勝てるわけなくね?と思うだろう。




 なので、先に説明しておく。




 そもそも人族と魔族では強さのレベルが違う。

魔力量が高く、身体的にも強靭で、魔法技術に優れた魔人。

凄まじい精度の遠弓や高度な魔法技術を誇りさらに戦士としても有能なダークエルフ。

圧倒的な巨体からなる凄まじい攻撃と、途轍もない防御力を誇る人型最強種の一角の巨人。

魔法に優れたが故他の者らとは袂を分けたと言われる身体能力も高い魔族寄りの獣人。

魔獣の力を持つ魔法と身体能力に優れる鬼人。

他にも魔族と呼ばれる種族達は大きくみてどれも凄まじい力を持っている。




 だからこそこの世界では人族と魔族との力の差は少なくとも十倍と言われている。

歴史の中では数十万の人族軍を魔族軍数万で壊滅させた、という話は少なくない。





 だからこそ、アルスは蒼天8.5万の兵で聖信教会に挑もうと考えていた。















ーーーーーーーーーーーーーーー




 その頃、南大陸モルドナ王国…





「将軍!!!あと数日で敵は王都に辿り着きます……」

「…そうか。」



 モルドナ王国軍の将軍、ヴァルソア・ルーグランドは部下からの報告を聞いて頭を抱えていた。

ヴァルソアは聖信教会に不信感を抱いていた。

そしてそれに伴い創造神にも不信感を抱いている。

それはヴァルソアだけではない。

この国ひいては他の国々も訝しんでいる。




 創造神とは我々が平和に幸せに暮らす為に居る存在なのではないのか?




 なのに信仰しなければ滅ぼす?

それではもはや邪神ではないか……。

いや、そう考えれば考えるほどおかしい。

聖信教会が神の言葉を偽る詐欺集団でないとすれば、それらが信仰する創造神こそおかしいと感じざるをえない。






 日に日に力を増す聖信教会。

しかも、死を気にしないその軍勢は戦う者達を恐怖に染めた。






「とりあえず考える……下がっていい」






 部下にはそう言ったが、考えても良い作戦はもうない。

モルドナは中小国の為、常備軍は20万。

徴兵を募っても40万行けば良いほうだが、すでに35万投入して現在10万近くの兵を失っている。

敵はなにやら怪しい秘術を使い兵を強化し、さらには死を恐れぬ死兵。

しかも日に日に数を増やしている。

こちらの士気は低い。




「……お困りのようですね」

「なっ!?………だれだ」




 ヴァルソアが項垂れているなか、執務室に突如として見知らぬ黒装衣の人物が現れる。




「だ、誰なんだお前は」

「とある大国の密偵とだけ今は言っておきましょう」

「その密偵が……こんなときになんだというのだ」

「我が主はモルドナに救援を送っても良いとお考えです。ただ条件はありますが…」

「なっ!?救援だと?ど、どれくらいなのだ」

「精鋭…十個師団」

「なっ!?十個師団……そんなに救援を送れる国など……」





 十個師団(一個師団が約6,000〜10,000人)も送れる国などすでに南大陸にはない。

ヴァルソアはそう言いかけた。

魔人との戦争、獣人との戦争と立て続けに大陸全土を巻き込む大戦を繰り返した南大陸にそんな余裕がある国などないはずだ。

そもそも聖信教会は南大陸全域にその手を伸ばそうとしている、自国を守るのが優先だ。

その中そこまでの救援………



 いや、待て……南大陸ではない?

東の獣人は……あり得ない。

西のエルフかドワーフ…も他の大陸に関心はないだろう。

北の魔族……いや、そんな事があり得るのか?いや、だがそうだとすればこの救援は十個師団どころの戦力ではない軍団規模だ。



 いや、まだ決まったわけではないが。



「……あなたの主は…人族ですか?」 



 ヴァルソアの核心を突く質問に、黒装衣は何も言わない。

が、それが答えのように感じた。



「なぜ、我々を助けるのです?」

「……それは主の意向なので私には。ただ今回我々は義勇兵としての参加ですので、国を明かす事もしませんのであしからず」

「義勇兵…………、して条件とは」

「国王にお取次ぎできますか?公式な謁見ではない形で……」




 どうやってモルドナ王国の軍務内にバレずに来たのか、なぜ我が国を助けてくれるのか?そもそも信頼していいのか?考えだしたらキリがなかったが藁にもすがる気持ちでヴァルソアは黒装衣をその場に待たせて国王にすぐにアポを取った。





「その者は本当に信頼できるのか?」

「私は信頼してもよいと感じました。直感ですが……ですが、陛下。どちらにしても死ぬのを待つなら…ここで何かに賭けてみませんか?」

「………ハハ。壮大な賭けだなヴァルソア」

「陛下の好きな博打ですよ」

「………そうだな。どうせ後はない。その者を呼んでくれ」




 国王も藁にもすがる気持ちは変わらない。

戦時中の今、素性の知れない相手に会うのも問題だろう。

だが、ヴァルソアの言ったとおりすでに死を待つのみ。

であるなら、旧知の中であるヴァルソアの賭けにのるのも一興である。









 謁見の間ではなく公式でない為、応接間に国王と黒装衣が向かい合い、国王の後ろにヴァルソアが立つ。

他の官僚や軍人は同席させていない。




「で、条件とはどういったものなんだ?」

「それは私からではなく……」



 黒装衣はそう言って立ち上がると、いきなり何もない場所に向かって跪いた。

何事かと国王とヴァルソアが見やると、そこから白金の髪の見ただけで高貴な存在であるのが分かる青年と高位であろう軍服姿の金髪の女性が現れた。




「急な訪問を受け入れて頂き感謝しますよモルドナ陛下」

「………あ、あなたは…誰だ?」

「自己紹介が遅れました。ベルゼビュート大魔帝国皇太子、アルス・シルバスタ=ベルゼビュートと申します。こっちは私の補佐をしてくれているローナです」

「ベルゼビュート大魔帝国……皇太子……」

「お初にお目にかかりますモルドナ陛下。大魔帝国皇太子直轄軍蒼天の総帥をしているローナ・フリーリアと申します。」

「これは…………凄いな」




 半ば半信半疑で賭けにでたが、凄まじい人物が現れたものだ。

北大陸を統一する大魔帝国の皇太子。

あの魔国との戦争の原因になった人物でもある。

そもそもモルドナ王国は南大陸の中小国である。

大魔帝国とは虫とドラゴン程の国力の差がある。



「と、とりあえずかけてください」



 慌ててソファを勧める国王に、国王と皇太子だと国王の方が上なんだけどなと苦笑するアルス。

しかし、国力の差を考えればアルスの方が上と言われても誰も否とは言わないだろう。








 

ーーーーーーーーーーーーーーー



 


 アルスは義勇兵として聖信教会とモルドナとの戦争に参加するためにモルドナに影を放ち国王との会談する事にした。



 他大陸の戦争にいきなり参加するのは良くないが、国の名前を出さずに義勇兵としての参加なら問題はない。

今のうちに聖信教会を潰したいアルスと、国を守りたいモルドナ、互いに意向は一致している。




「条件とはどんなものなのでしょうか?」

「まずその前に私の話を聞いてほしいのですが、構いませんか?」

「はい……どのような…」

「少し長くなりますが、これはこの世界の成り立ちからの話です……」




 アルスは創造神と邪神の話をモルドナ国王とヴァルソアに話し出す。

国王とヴァルソアは二人共最初は訝しんでいたが、話を聞いていくと困惑と驚愕の表情を浮かべていた。




「……なるほど、それが事実であるとしたら今後南大陸は途轍もないことになりそうですね」




 アルスは事実であると伝えるために使徒の翼を出す。

その神聖に2人は生唾を飲む。




「事実です、としかこちらからは言えないですが信じるか信じないかは陛下次第ですね。」

「今の大陸の現状を見ればそれが事実だと感じざるをえないですね。しかしその話が本当だとすれば創造神を騙る邪神の使徒が4人相手方にいるわけですか…」

「そうなりますね」

「なるほど……道理で異質な強さがあるわけか…。で、条件とは?」

「この戦いはここで我々が救援を送り戦って勝利しても続くでしょう。その際、邪神が邪神であると確信しそれを南大陸で広める手伝いをしてほしいのです。」

「それだけで良いのですか?」

「本来の創造神曰く、神の力は信仰によるものが大きいそうです。信仰がなくなれば力も弱まる。なのでそれと戦う私からすれば南大陸に邪神の本性を伝える足掛かりになればそれは大きな一歩です。」



 モルドナ国王は…んーと少し唸った後立ち上がりアルスに手を差し伸べた。



「我々としては、死を待つのみ。それに抗える力を貸してくれるのであれば、誠心誠意恩返しは致しましょう」

「有り難う御座います。陛下」










 このアルスの南大陸での第一歩が後に大きな波紋を起こし、邪神の力を削いでいく。

のは、また別の話になる。













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