55話 龍と龍人は別モノ
広い広い何もない、ただ広い草原。
そこに向かい合う白金髪のまだ少年のような雰囲気の残る青年と、黒髪壮年の紳士。
傍から見ている者が居たなら青年が消えたと思っただろう。
それ程の速度で青年は黒髪の男に肉薄し、そして禍々しいとさえ思う黒刀を振り抜いた。
が、当たり前のようにその切っ先を男は右手の人差し指と親指の2本で軽く摘む。
ザザッーーー!!!
と、余波で辺りに凄まじい風が舞う。
しかし男は小さな羽虫を捉えたかのように気怠げで、その証拠にあくびを噛み殺している。
男は掴んでいた切っ先を離すと、その瞬間には青年に凄まじい蹴りを放っていた。
しかし、その動きもまた傍から見ても分からなかっただろう。
周囲に見物人が居たとすれば男が一瞬ブレた、そうとしか思えない程にその男の一撃もまた凄まじい速度であった。
吹き飛ぶ青年は既に遥か遠く。
しかし、青年もなんとか地面を文字通り掴みその周囲に線状のクレーターを作りながら停止する。
「だいぶ速くはなった。だが、それだけ」
「あんたはやっぱり…化け物だな」
「化け物?いや、龍だ」
少ない会話。
その後、更に攻防は白熱する。
余波で草原にクレーターが増え、遠くにいた魔獣や獣は既にその圧力から逃げるようにそこから遠ざかる。
正しく地獄かとおもうその場所は、ドラゴンロード王国という龍の国の外れにある大草原。
それから、数時間その場所での凄まじい戦いは終わらなかった。
時には、隕石が落ち。
時には、凄まじい落雷が降り注ぎ。
時には、この世の終わりかと思う炎が吹き荒れ。
時には、なんの前触れもなく辺り一帯が吹き飛ぶ。
こんな戦いはすでに数ヵ月続いていた。
強すぎる。
俺がそう思ったのは初めてじゃない。
ドラゴンロード王国の前国王バルデロと戦い始めてからずっと思っている。
自惚れてた訳では無い。
だが、自分が強いことも理解していた。
が、バルデロは正しく化け物だった。
強いなんてモノではない。
どんな攻撃も通用せず。
鉄壁の防御を誇る俺を半殺しにできる。
そんな存在が居たとは、世界は広い。
「なかなかやるよーになってきたなぁ。父親より覚えが早い。それに才能もある。」
疲れ果て草原で大の字に倒れる俺を上から息一つ切らさず見下ろす紳士。
それを見てまた一つ溜息をつく。
「あんたは……ほんとに化け物だな」
「龍だ…」
「また父上に壮大にやられたようだなアルス」
アルスが寝泊まりをしている城にバルデロと共に帰還すると、疲れ切ったアルスを見てドラゴンロード王国の王…ルーズが苦笑気味にそう声を掛けてきた。
「ルーズ陛下……あなたの父は化け物です」
「それ、毎日聞いてる気がするな」
「誰が化け物だ。龍だと言っているだろ」
「そういう問題なのですか?父上」
ドラゴンロード王国の王都にある城。
そこに滞在してよい、とバルデロに言われたときはどんな魑魅魍魎の巣窟かと思ったが龍の国と言っても龍人族が多いこの国は多少の外見的な違いはあるが人の国や、魔人の国とさほど変わらなかった。
と言っても上空には常にドラゴンが飛び交い、そこかしこにそれらがいるのが当たり前といった雰囲気は慣れるのに少し時間がかかった。
「父上、アルスはどうですか?」
「小僧にはとてつもない才能がある。もう少しすればお前では太刀打ちできないくらいには成長するだろう」
「ほう…」
俺を抜きにしてそんな会話をしつつ生暖かい目で見てくるのはやめてほしい。
そもそもルーズはバルデロの息子ということもありかなり強い。
それは立ち居振る舞いや雰囲気からも理解できる。
人型しか見た事はないがルーズはバルデロ曰く自分を抜けばドラゴンロード王国一という強さを誇るらしい。
だとしたら本当に俺がそんなに強くなるのか、半信半疑ではある。
ドラゴンロード帝国に来てから知ったことだが龍と龍人族は多少の違いがあるらしい。
龍の中での序列もそれが関わる。
一番高位であるのが人型になれる龍なのだが……
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龍(人型になれる高位のモノ)
龍(言語が分かり、会話ができる)
龍人族(龍型になれるモノ)
龍人族
ドラゴン(言語は分かるが、人語
は喋れない中位のモノ)
ドラゴン(人語がわからない下
位のモノ)
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これを見てもわかる通り人型になれる龍と龍人族は別モノで、龍型になれる龍人族もまた別モノである。
人型になった高位の龍が人と子を成したのが龍人族の始まりと言われているが、龍が先か龍人族が先かは正直本当のとこは分かっていない。
が、そうとされているため龍人族は人型になれる龍や高位の龍よりも序列が下である。
一応もう一つ仮説として、人型になった龍が龍型に戻れなくなり龍人族となったという説もあるが、ドラゴンロード王国ではそれはあまり信じられてはいない。
おまたせしました。
そろそろ本編動き出します…
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