54話 漆黒の龍
朝焼けが広がる大魔帝国…帝都
街を見回る衛兵達は突然の暗闇に空を見上げた。
「おいおい…何だあのバカでかい黒い雲は…」
「雲…なのか?」
「りゅ…龍だ…ドラゴンが…なんで…」
上空にはためく雲よりも大きな漆黒の龍。
たとえ魔族といえどその圧倒的な強者に、腰を抜かすのは当然である。
その頃起きたばかりのアルスは途轍もない魔力の圧迫感を感じ、窓を開けて上空を確認する。
「なんだ…あの途轍もないドラゴン……おい!影…報告してくれ」
誰もいない室内にアルスが…そう声を上げると、ふわりと漆黒の者が現れ跪く。
影と呼ばれるのは隠者部隊の総称である。
「はっ。あのドラゴンはエンシェントドラゴンだと思われます。過去にこの地にドラゴンが現れたのは数百年前…、このようなことはそうそう起こることではありません。」
「被害は?」
「今のところないです。ただ飛んでいるだけかと…しかしここを目指してるようです。」
影の報告を受け、早急に着替えを済ませるとアルスは城の外に出た。
「おいおい…降りてくるつもりか?」
「で、殿下!!!あのドラゴンは!?」
慌てて走ってきたローナが俺の横に立ち大声をあげる。
「知らん。どういうことだこれは…」
見上げるアルスの頭上遥か上空からドラゴンが降りてくる。
アルスはありったけの防御魔法を城と周りに展開しながらそれを見つめる。
数秒後…
ドガーーーーーーーーンッッ!!!!
と地響きを鳴らしながらアルスの眼前にドラゴンが降り立つ。
「なんのつもりだ?ドラゴン……」
「ほう…貴様が創造神の使徒か…探す手間が省けた。」
アルスはドラゴンが喋ったことに驚いて固まる。
「まだ幼いな…しかし、この雰囲気…転生者か?」
しかしドラゴンは言葉を止めない。
「なぜわかった?」
「我がどれほど長く生きていると思っている?そのくらい見ればわかる」
「来た理由は俺の排除か?」
邪神の使いかと訝る俺に、ドラゴンは…
「ダッハッハッハッハッ なぜ我が貴様を排除するのだ。するわけなかろう」
「じゃあなぜここに?」
「貴様に会いに来たのだ。それと奴にもついでにな…」
「奴?」
首を傾げる俺ではなく、ドラゴンはその獰猛そうな口をニヤリと歪め俺の後方を見つめる。
すると、そこから父上が現れた。
「久しいなシルバ…息災か?」
「お久しぶりですね…師匠。今回はどんな用件で?」
「用がなくては我はここに来てはダメなのか?随分偉くなったのう…我が弟子よ」
ドラゴンから放たれる膨大な魔力…帝国内でも屈指の実力を誇る隣に立つローナが震え上がっている。
「山でのんびり余生を…ではなかったのですか?」
「状況が変わった。そなたの息子…ちと借りてくぞ!?」
「…なぜ…です?」
静かに聞いていた魔帝シルバからも爆発的な魔力が溢れ出す。
ローナはすでに気絶している。
割と近くにいた兵士達も同じく気絶している為、この場で正気を保っているのはドラゴンと魔帝、そしてギリギリでアルスだけである。
「まぁそう怒るなシルバ。何も取って食おうってわけじゃない。そいつを鍛えようかと思ってな」
「師匠が、アルスを、ですか?あれほどまでに弟子はとらんと言っていた師匠が?」
「なんでもその子は創造神のお気に入りだそうじゃないか…少し興味が湧いてな。まぁあれだ弟子の息子は弟子みたいなものだろ?」
「ほんとに変わらないですね…師匠」
放たれていた魔力が収まったかと思えば、ドラゴンから光が溢れ出しそしてどんどん小さくなっていき…
アルスの眼前でドラゴンは、ダークスーツに黒髪オールバックのダンディな姿に変貌した。
「これが…高位ドラゴンの人化魔法…」
アルスがそうつぶやいたように、高位のドラゴンは人に化ける魔法を扱うことが可能とされている。
が、それは文献での話であり実際に見た者は少ない。
ドラゴンは人里に降りることがまずないからである。
「で、父上この人…いや、ドラゴンは誰なんですか?」
「バルデロ=ドラゴンロード、俺の戦闘と魔法の師匠であり、ドラゴンロード王国の前国王だ」
「やはり子供の前だと昔のような喋り方なのだなシルバ」
俺らは場所を移して、城の中…応接室に座っている。
二人と一匹のみである。
にしてもドラゴンロード王国…
高位のドラゴンの中でも古代から居るとされるエンシェントドラゴンが興したドラゴンの国。
絵本の中の話だとばかり思っていた。
「えっと…で俺はこのバルデロさんに連れられてドラゴンの国に行くと?」
「すまん…師匠は一度言ったことをけして曲げない」
「当然だ。二言はない」
「えっと…学園は?」
「しばし、お預けとなる」
「そんなところに行っても何も学べぬぞアルスよ。そもそも貴様は規格外過ぎて、学園の誰が教えられると言うのだ?」
そうして俺の学園ライフはまたしばしお預けとなった。
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