51話 革命軍敗北
「ベルドールと、ゼンがその神の使徒?皇太子殿下?の部下になったのはわかった。だけど、なんで…私は生きているの?確実に死んだはずだけど…」
そう言って黄鬼、ステアは首を傾げる。
それはかれこれ30分程前……
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「はぁーどうせだったらもう一人の幹部も仲間に引き込みたかったんだけどな。なんでエミリオ殺してんだよ…しかも粉々って…過剰だろ…」
「それを貴方が言いますか?殿下」
落ち込む俺の横に立つローナが呆れ顔で俺を見つめる。
「いや、でも俺はちゃんと二人の幹部を生かしたし、最後はほら何人か捕虜も手に入れたぞ?」
「実験と言って殺しかけてましたよね?胴体半分に切断して…」
「あれはだな…どこまでの怪我なら治せるのかの確認だよ」
「それ…失敗してたらあの青鬼死んでましたよね?」
「グゥ……確かに。まぁでもほら!生きてたし」
「はぁ……」
最近やたらとローナが大人だ。
少し前まであんなに阿呆なやつだったのに。
まったく…成長するもんだな人は。
『そんなにあの娘を部下にしたいなら蘇生させたらどうだ?』
「へ?んなことできるのか?創造神」
『いや、わしではなくぬしがやればよかろう。』
「いやいや流石にそんなこと…できるのか?」
『普通なら無理じゃな…だが、相性がよければ…それにあの娘は魔力が他の者より多かった故、まだ魂が彷徨いてる可能性がある。そこにぬしの創造で姿形を創造できれば、魂を呼び戻し、蘇生できる。』
「おいおい、それって俺が創った人形にそいつの魂入れるってことか?」
『まぁ似たようなモノじゃが、それを言ってしまえばこの世界の人の祖はわしがそうやって創ったモノじゃぞ?』
「…そう言われるとそうだな」
『であろう?』
「わかった。とりあえずそれをやろう。ただ俺そいつの容姿わかんないしな」
『魂に触れて、容姿を理解することも今のぬしなら可能だと思うぞ』
「チートですなぁ。よし、やってみるか」
そうして神との対話を終えると、ローナといつの間にかきたエミリオが引き攣った顔で俺を見ていた。
「創造神様とお話を?」
「あぁ、ちょっとな」
「普段あんなふうに軽く会話してるのですか?殿下」
「んーまぁ爺ちゃんみたいなもんだしな」
「創造神が…爺ちゃん…」
「それよりちょっと今から実験するから…ちょっとの間集中させてくれ」
「また実験ですか?」
そして俺は部下や兵達、さらにはベルドールやゼンに見守られながら創造神の言っていた事を想像し創造する。
魂…魂…
ほう、これがステアか。
なかなかに綺麗な女性じゃんか。
えっと…まずは身体を創造して…と…魂をそこに嵌め込む感じで…と、んーこれめちゃめちゃにMPとHP使うな…いや、まぁ死人生き返らせてるから当然か…
えっと、あとはこうして…ほうほう…人体むずいな。
ちょっとだけ胸大きくしてあげよう。
うんうん…これは優しさだ。
よーし、これであとはこれをすれば…
そこで俺は意識を失った。
流石に、蘇生魔法は…しんどい。
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それを目にした者らは、驚愕とその奇跡に目を見開いた。
突如神々しい羽を瞬かせたと思えばアルスが何やらブツブツと唱えだす…すると周囲に膨大な魔力の波が吹き荒び、さらには神々しい光が天から瞬く。
一分なのか数十分なのかはもはや誰にもわからないほどに皆が思考をやめそれに魅入った。
そして、神々しい光の柱の中で女性が現れ宙に浮いている。
それを見たベルドールとゼンが更に目を見開き、口をぽかんと開ける。
一際大きな光が瞬いた後、地面に女性がゆっくりと降り立ちそれと同時にアルスは意識を失った。
慌てふためく兵と部下達、しかしすぐに息があるのが分かり一安心の空気が流れる。
そして、女性に近づいたベルドールとゼンの二人が口を開く。
「ステアは…粉々になって死んだんだよな?」
「拙者もそう聞いている」
「でもこれは…あぁ間違えなくステアだ。それに息もある」
「死者を蘇らせたのか?」
「そんなこと…」
その会話を聞いて周りのもの達もやっと状況を理解した。
つまり、死んだ革命軍の幹部を蘇らせたのだ。
それも、アンデッドではなく生身の状態で。
その後その逸話は伝説となる。
蘇生魔法すら扱える神の使徒…アルス・シルバスタ=ベルゼビュート。
しかし、目を覚ましたアルスはローナに「ほんとにもう心配させないでください!そもそも説明は先にとあれほど!!!」と怒られたのは言うまでもない。
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「で、ステア…俺の部下になるか?」
「生き返らせてもらって、それ以外の選択肢があるのですか?」
「あぁ、まあ嫌なら他で好きに生きろ」
「貴方様は…死んだ私を生き返らせたのですよ?それがどれほどのことか…」
「できたからやっただけだ。感謝なら魂を紡いだその生まれ持っての魔力にするべきだ。俺はその魂を呼び戻したにすぎない」
「話が高度過ぎてわかりません。私は…貴方様の為に生きます。誰に何を言われようと…です」
「そうか…助かるよ」
「あ、あと…胸…ありがとうございます」
「あぁ…それはサービスだ」
赤面したステアをよそにアルスはよしよし部下がまた増えたぞ!と喜ぶ。
こうして革命軍の拠点に向けた遠征は完全なる勝利で幕を閉じる。
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その頃魔帝城を襲っていた革命軍の別働隊はガゼフ率いる精鋭部隊により壊滅状態にあった。
「どうやって侵入したか知らねぇが…生きては帰れんぞ?おめぇら」
巨人と同じ程の大きさの戦斧を肩に担いだガゼフが相対する白鬼と黒鬼をギロリと睨む。
「ここに入っただけで計画の殆どは成されている。やれ、ロナ」
「うん…わかった」
ロナと呼ばれた白鬼の身体から大量の魔力が溢れ出す。
そして、それを包み込むように黒鬼の魔力も溢れ出し二人の周りに幾重にも魔法陣が浮かび上がる。
「おいおい…まさかここで大規模自爆する気じゃねぇだろうな?」
ガゼフは苦虫を噛み潰したような顔でその光景を見やる。
「そのまさかですよ…我々はそのためにここに来た」
魔法の展開を先に終えた黒鬼がガゼフにそう答える。
「我々二人の固有魔法は二人で一つ。完全爆撃。自分達の命と引き換えに、周りのものすべてを破壊する」
「自殺願望でここまでくるとは…まったくもって面倒なやつらだ。お前ら防御魔法をありったけ展開しろ!!」
ガゼフが呆れながらも少しの焦りを見せて部下達に指示を飛ばす。
「無駄ですよ。この魔法は命と引き換え。防御魔法では防げません」
「メルトバン家の者か……思い出しだぞその魔法。一代に一対。双子を輩出し、その双子は片方が爆破の本体、片方が起爆のスイッチの役割を成す。その魔法は辺りを消し炭に変える…」
「思い出してくれましたか。そうです…我々はあなた達帝国によってその魔法の危険度から、秘匿扱いで抹消されたメルトバンの生き残りです。我々メルトバン家は王家に代々忠誠を誓ってきました。それなのに…固有魔法が危険だというだけで…。知っていますか?メルトバンの生き残りの我々がどれほど過酷な生活を強いられてきたか…食べるものもなく、住む場所もなく、そして名乗る名前すらなく…我々が何をしたと言うんですか!!我々はなにも…」
「だから、ここでその魔法を使うのか?」
「はい。近づかないことをおすすめします。すでに起動準備は完了しています」
防御魔法が幾重にも張られるなか、ガゼフはこの計画の重大さに気づいていた。
ここでその魔法を使われれば城や帝都をも巻き込み大変な事態になる。
が、すでに止める事は不可能。
どうする?どう防ぐ?ガゼフは思考をフルに使って模索する。
が、答えは出ない。
「あなた方の先代は、王家を裏切る計画を立てその主導を握っていたらしいですよ?」
そんな中、いつの間にかガゼフの隣にはアルスが立っていた。
遠征中のはずなのだが…なぜ?
「あなたが誰かはわかりませんが、そんな嘘を我々が信じるとでも?」
「信じるも何も事実ですよ?ほら」
そう言っていつの間にか黒鬼の目の前に現れたアルスは羊皮紙を見せる。
それは王家への反逆の意思と計画が書かれた手紙だった。
差出人はメルトバンの元当主、そしてそのサインが本物であると黒鬼は理解した。
「な、なぜ?」
「魔法が強力だったから、もっと権力や金銭を欲した…死ぬ前にメルトバン当主はそう言っていたそうです」
「父が…」
「当主の最後を見届けた我が父…魔帝シルバ・ヴィベルイ=ベルゼビュート本人から先程確認したので間違いはないでしょう。」
「父…魔帝…。あなたは、殿下?」
「そうです。ベルゼビュート大魔帝国、皇太子アルス・シルバスタ=ベルゼビュートです。」
「それが本当だったら…我々は何のために……」
「お、お兄ちゃん!!も、もう限界……これ以上は…」
「逃げてください殿下……もうこの魔法は止められません」
「ん?止められるよ?」
「「へっ?」」
アルスはそう言うと、莫大な魔力を放出しながら白鬼に手を向ける。
そして、その後すぐに白鬼の魔法反応が消え去る。
魔法陣も、全て消滅した。
「なっ、どうやって」
「ただその魔法を掻き消しただけだよ。普通に解除すると危険っぽかったからそのまま消してみたんだけど、成功してよかった」
それから黒鬼、白鬼の二人はかつての部下達と再会した。
幹部の三人が皇太子の部下となっていた事に少し驚いたが、すぐに納得した。
あの皇太子に従うなら、自分達といたときよりも幸せに暮らせるだろうと、分かっていたからだ。
我々には死刑の道しかない。
だが、部下達は真実すら知らず無意味にこんな無謀な計画を立てた我々に付き合ってくれた。
部下達がせめて幸せなことを願うしかない。
兵士達に囲まれる二人、そこにまた皇太子が現れた。
そして彼は明るくこう言い放った。
「とりあえず行こっか?」
え?
周りの兵士達も「え?」という顔をしている。
そして皇太子は、
「よーし。二人とも俺と来て!」
そう言って俺達を伴いどこかへと向かっていく。
いつの間にか周りには先程までとは違う鎧を着込んだ兵士達がいる。
連れてこられた部屋は玉座の間だった。
後々聞いた話ではここは皇太子専用の謁見の間らしい。
その部屋の椅子に皇太子が腰掛ける。
慌てて俺達兄妹は跪く。
「で、今後どうする?」
皇太子が軽い調子でそう言った。
「はい?えと…」
「ほら、もう恨みとかもなくなったわけじゃん?で、今後どーしたいのかなって」
「え…と、我々は死罪なのでは?」
「え?まだ死にたいの?」
「い、いや…」
「二人とも結構才能あるしさ、自殺願望がなくなったなら、俺の下につかない?」
「「え?」」
「まぁ旅に出たいとか言われたら、まぁそれは難しいかもしれないけど、ほら俺って皇太子でしょ?だから、部下にするって言ったら通っちゃうんだよね…で、どうする?部下になる?」
「いいのでしょうか?我々は…」
「革命…結局できてないんだし。問題ないでしょ」
「でも…私達は…」
「色々つらい過去があったんでしょ?それはそれだけど、でも今なら未来があると思うんだよね。過去なんて忘れてさ、俺と未来歩もうぜ!うわ、なんか今ダサいこと言ったな…」
皇太子はなにやら笑ってる。
この人は凄まじい器を持っている。
我々兄妹にはそれを推し量ることもできない。
これが…魔帝の継承者…
「どうする?」
「ぜひ…お願いします」
「私も…が、頑張ります!」
「そうか…うんうん。それはよかった。んじゃ、元革命軍のみんなよろしくね」
そう微笑んだ皇太子は…正しく我々の上に立つ存在であった。




