5話 ケイレス・レイナード
ついに街にやってきたアルス...
今後どうなっていくのでしょう。
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ローゼン王国 王国軍 大将
伯爵 ケイレス・レイナード
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最近、王国近隣の最重要警戒地区であるデルタール大森林...通称[大災の森]に異変があると報告を受けた。
大森林には手練れの冒険者や王国の軍人が数名がかりでやっと討伐できるCランクの魔獣だけでなく、数十名の部隊や複数の冒険者パーティが手を組んで大怪我や即死を覚悟しながらぎりぎり討伐するのがやっとというBランクのモンスターも奥の未踏破地区に居ると言われている。
噂でしかないが最奥部にはAランクの災害級の魔獣、一体で一国を滅ぼすとまで言われるドラゴンすら居ると言われている。
そんな大森林から最近度々Dランク以下のモンスターが近隣の村にやってくるというのが報告内容であった。
今までほとんどそんな事はなかったが、これが頻繁となると、もしかして何かとてつもない魔獣が現れたのか、災いの序章なのではないかと、この話が広まれば皆が不安に感じるのは目に見えている。
世界三大国に名を連ねるローゼン王国。
軍事力では現在三番手に留まっているが、それでも他の中小国に比べれば、アリとゾウ程の違いがある。
俺はその王国軍の中で元帥閣下の次に位の高い大将という階級を陛下より頂いている。
いわば軍のトップである。
しかし今回の任務はかなりナイーブである。
普段は部下だけに任せるような調査任務であったが、自ら先手を打って腕の立つ数名の護衛を連れて大森林の様子を窺いに行くことにした。
敵が災害級の魔獣という可能性もある。
それならあまり大所帯で行って相手を刺激したくないという意図もあった。
奥の方までは行かないが、ある程度行ける所までは行こう...と考えていた。
森に入ってある程度進むと、確かにおかしいと、言わざるを得なかった。
通常ならCランクモンスターがよく出没するエリアに一切魔物の気配がしないのである。
今までいなかった凶暴かつ高ランクの魔獣が現れ、その魔獣から逃げて他の魔獣が移動、それによって低ランクの魔獣の居場所が無くなり大森林の外に出てきた…そう仮説を立てられる。
が、そうであるとすればこれ以上進むのは危険である。
そろそろ引き返し、国王へと報告をしよう...
そう考えはじめた頃...
俺の馬の前に少年が現れた。
少年というにはまだまだ子供である。
俺は慌てて馬を止め、部下達に向かって声を上げるとともに手を上げて停止させる。
そして馬から降りて、その子供に近づく。
「坊主なんでこんな森にいる?」
「幻覚系の魔物の魔法かもしれません!!!不用意に近づくのは…」
後ろに居た部下の一人、タルクという男が俺に向かって警戒の声を上げる。
「うるさい!黙ってろ!お前らより俺の方が経験も知識も豊富なのは分かっているだろ!?そもそも魔物の仕業なら馬を止めた瞬間に攻撃されてる」
今はそんな事言ってる場合か?
こんな森で子供が居るんだぞ?
まずは事情を聞くのが最初だろ?
親が襲われている...とかいう可能性もあるだろ?
大将の側近である、故にもちろん無能ではないが頭の固い部下を俺は睨む。
「坊主…気にするな。あいつはこの森初めてでな、ちょっと心配性になってんだ。で、質問をやり直すけどどうしてここに?親はどこだ?」
子供は急に黙り込むと、下を向いてポツポツと話し始める。
「えっと…僕…親に捨てられて…森の洞窟でずっと隠れてたんだけど…えっと…」
俺はそれを聞き、これは軽率な発言だったと後悔した。
親がいるならそばにいるだろうし、そもそもこんな所でピクニックなんてまずありえない。
襲われてるならもっとこの子は焦っているだろうし取り乱しているはずである。
俺は目の前の子供の目線の高さまで腰を下ろす。
「すまんな…悪ぃこと聞いた…そうか、親に捨てられたのか…でも、よく生きてたな!こんな森で…。そうだ!坊主名前は?あー、あと歳!えっと年齢わかるか?」
「えっと...アルス!6歳...です」
6歳か...それで親にこんな森に捨てられるなんてきついな。
とりあえず明るく...
こっちが暗くなっては子供がさらに不安になるだけだ。
「ほう!アルスは6歳か...。敬語まで使えるなんて、立派だな!ご飯食えてたのか?携帯食しかねぇけど、食うか?」
俺は腰のポーチから携帯食の硬パンを出す。
「えっと...ご飯は食べてた...ました。ウサギとかも捕まえられたし、果物とかもあったので…」
な...たしかに、やせ細ってはいないな...
洞窟にいた...という事は数日は確実に経っているはずだが衰弱した様子はない。
しかし、6歳で狩り?いや...まてよ
「ウサギ??ただのウサギがこんなとこに??坊主は本当に幸運の持ち主だな!でも、狩りができるなんてすげぇじゃねえか」
そう言ったものの俺は言葉通りには考えていなかった。
この子は普通の子と何か違う。
魔族とか獣人というわけではない。
間違いなく人族の子供であるが、
雰囲気がとても子供ではない。
たまにちらりと森の方を見る仕草、他の騎士すら気づいていないがその方向には俺でさえうっすらとしか認識できない程の距離に魔獣がいるのが分かる。
それによくよく観察すれば、今連れている騎士は武闘派で魔法には疎い者が多いので違和感を覚えてはいないが、魔法をちゃんと学んだ俺にはこの子供の溢れ出す...というより滲み出る魔力量をひしひしと感じる。
この子は...強い。
もしかしたら見習い騎士では歯が立たないかもしれない。
子供が?そんなんありえるのか?
見ていなかったら俺もそう感じていただろう。
もしかしたらとんでもない拾い物をしたかもしれない。
街への道中...会話を交わすとアルスは2年もこの森で暮らしていたという。
街の方向が分からなかった…というのは嘘ではないだろう。
しかし4歳であの森に捨てられ、生き抜くというのはどれほどの恐怖と苦労を味わったのか、想像もつかない。
が、それでなんとなくこの子の放つ雰囲気の根源が分かった気がする。
4歳であの森に捨てられ、まだきっと物心もつかなかっただろう。
それでも必死に生きるために努力し、食べるために命を奪う覚悟を決める。
そしてそんな生活の中で自然と身体は鍛えられ、魔法も覚えたのだろう。
確か昔聞いた事がある...
固有魔法やスキルは生まれた時からあるものではなく、幼少期の経験や体験などを軸に後天的に覚える...と。
しかし、幼少期にそれほどの経験をする者はまずいないので固有魔法などは殆どの者が持っていない。
また、10歳になるまでに鍛錬を積むと戦闘能力も戦闘センスも大幅に成長するらしい。
俺はこの説をなんとなく信じている。
そうなるとこの森で2年生きるために魔獣を毎日狩ったりしていたとすれば現在子供でありながら騎士並みの戦闘力を保持する...というのはあり得なくはないのではないだろうか。
もし、そうであるとして...この子が俺の元でさらに鍛錬を続ければ、王国最強と呼ばれる俺をも超える最強の騎士になれるのではないだろうか。
こんな子が息子なら...きっと立派な後継になる。
出会ってたった数時間しか一緒にいないのにそう思わせる魅力がアルスにはあった。
街が見えてきた頃...俺はふいに口を開いていた。
「なぁ...アルス、行くとこないみたいだけど、孤児院でやってけそうか?」
「はい…森に比べれば、安全そうですし」
俯きながら答えるアルスは、どこか儚げであった。
森での生活を思い出しているのかもしれない。
「そ、そうか…」
いやいや、そんなことを聞きたかった訳ではない..
「ここまで連れてきてくれてありがとうございます。このご恩は忘れません」
な...別れの雰囲気...なんて律儀な子だ...
まっ待ってくれ...
えっとこういう時はなんて言うべきなんだ…
「よかったら、俺ん家くるか?」
あ、やばい直球すぎた...
「え?遊びにですか?」
そうなるよな今の言い方だと...
違う!違うぞ...
「いや、住まないか?俺の養子として」
アルスは俺を見つめ目をパチクリしながら見開く。
戸惑っているようだ。
それはそうだろう今日出会ったばかりの男にそんなこと言われてもな...
「そこまで甘えられませんよ」
悲しげに言うアルス...やはりどこまでいっても子供である。
よし、ここは本音をぶつけよう。
「いや、実は俺としてもな息子が欲しかったんだ。だが、うちは娘しかいないし…妻ももうこれ以上は子供には恵まれないと神父様に言われている。
それに君はとても聡い。
それだけじゃなく...かなり戦えるんじゃないか?」
気まずそうに俯くアルス...どうやら実力を隠したいようだ。
「え?」
「いくら、運が良いと言ってもさすがにある程度の戦闘が出来ないとあそこでは生きられん。
いや、ある程度以上と言うべきか。
昔聞いた事があるんだ…幼い頃に戦いに身を置く生活をすると、飛躍的に戦闘能力が上がる、と。
君はそうなんじゃないか?
立ち居振る舞いから滲み出る戦闘の心得しかり、森からの道中での視線から分かるうちの騎士をも上回る索敵能力しかり、君はとてもか弱い子供には見えない。
なぜ、親が君のように優れた子供を捨てなくてはいけなかったのかはわからん。
でも、捨てられたなら俺はぜひ君のような優れた子供を拾いたい...そう思っている」
推測でしかない...しかし確信に似た思いがある。
驚いたように俺を見つめるアルスの顔を見ればそれが間違いではないと理解できた。
いたずらのバレた子供のような、しかし歴戦の戦士のようなアンバランスな顔つきをしているのだから...
アルスは...何も言わずにじっと俺を見る。
周りの騎士達も何を言ってるんだ...とばかりに黙って俺を見る。
「孤児院に行けばご飯はあるだろう。しかし、満足のいく量ではないはずだ。それに比べれば良い生活や食事は保証できる。気軽に考えてくれ…うちに来い」
少年は黙って目に涙を浮かべながら、こくんと頷いた。
よし、こうなれば善は急げだ!
養子にするとは言ったが、俺は伯爵。
後々の事を考えて実子である。というように情報を改ざんせねばならんな。
一部始終を見てしまった部下は...まぁちょっと脅してやれば黙るだろう。
それにこいつらは真面目だが信用できる。
あとは、もともと病弱で別荘で療養していた。
とかなんとか上手いこと言えば、大丈夫だろう。
そもそも伯爵である上に大将である俺に疑いの目を向ける者はいない。
それに大して悪い事はしてない。
この子は我が国の現状を打破する程の武人、軍人として育て上げよう。
いや、もし軍人になるのが嫌ならそれも尊重しないといけないか...
5話を読んでいただきありがとうございました!!
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次回!!アルスつえぇけどケイレスもつえぇ!!!
です。乞うご期待!!