49話 赤鬼のベルドール
ちょっと誤字と、打ち間違えがあったので変更しました。
ついに明日には革命軍の拠点に辿り着く。
全知全能のマップで敵がかなりの数いるのは把握しているので拠点が偽情報という線は消えている。
後1日という距離になったからか敵が慌ただしく動いている。
俺らを囲もうとしているのか左右から進んできていた。
「エミリオ…敵は俺らを左右から挟む気だ。同じく左右に展開しながら敵を撃破するぞ。片方はエミリオ、片方は俺が指揮する。」
「はっ!私はどちらを?」
「右は俺が、左はエミリオが指揮しろ。」
「畏まりました。」
そうして俺は隊を二手に分けた。
俺の方は蒼天隊をメインにしている為、指揮の補佐にローナとバロンが隣にいる。
「敵さんとぶつかるのは1時間後くらいだな。幻影の魔法をかけて索敵されないようにしてから罠を張り巡らすか…」
「隊を分けたとはいえ、5000にもなる我が隊を全部隠す程の広範囲に幻影をかけるとは…さすがは殿下。まさに殿下にしかなし得ない策です。」
「どんな魔法を使う気ですか?」
目を見開くバロンと、単純に興味をもったローナが俺を見つめる。
「魔法書にあった闇魔法の最上級、幻想世界。使用者の想い描いた世界を指定範囲に幻として創り出し周囲を覆う魔法だ。」
「闇魔法最上級…」
「まぁ今回は何もない普通の森だと相手が認識するように想い描くつもりだ。それによって俺らの存在を隠す。バロン…兵達に指示を出し罠を周囲に張り巡らせてくれ」
「はっ!どんな罠を仕掛けるか、要望はありますか?」
「そうだな…落とし穴、沼地、後は糸を張り巡らせて矢、石を飛ばすでも良い。とりあえず相手が混乱するように仕掛けてくれ」
「畏まりました。」
「ローナ、敵とぶつかる少し前には魔法部隊を相手と側面に配置。同時詠唱で魔法攻撃を行う準備を…。火属性以外の魔法ならなんでも良いぞ。派手にやってくれ」
「分かりました」
そう指示を飛ばしてから俺は隊と罠を張り巡らせるポイントを幻想世界を発動して認識妨害する。
これで側からみればただの誰もいない森だ。
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「ベルドール様。未だ我々が森に潜んでいることは気づかれていない模様です。森の中も正常だと索敵部隊から報告がありました」
伝達の兵がそう伝えてきた。
赤い鬼の仮面を付けるベルドールは、案外大したことがない大魔帝国軍に拍子抜けしていた。
「世界最強と呼ばれる大魔帝国軍も案外しれているな。まぁ良い。この機会に俺らの力を見せつけてやろう。」
それから少ししてベルドールは違和感を覚えていた。
なんだ…何もない森だが、なぜか不安を感じる。
なにが不安なのかもわからない。
「なっ!!!???ぬぁーー!!!」
「なんだ!?これは…」
「お、おい…手を貸してくれ!!!」
その不安が現実のモノとなる。
先ほどまでまったく何も無かったはずの森…
しかし兵達は次々と罠にかかる。
「おい!索敵部隊は罠の確認も行っていたのではないのか!!」
「間違えなく行っていたはずです…」
「だったら…なぜ」
副官に苛立ちの声を上げながら…
ベルドールはそこで気が付いた。
「嵌められた…まさかこの森ごと幻覚で…」
「なっ!?まさかそんな…」
ベルドールがそれに気づいた時…すでに前方から凄まじい魔力を感じた。
攻撃魔法…それもこの数と質。
やばいぞ!!
ドガーーーーーン
ドガーーーーーン
ドガーーーーーン
ドガーーーーーン
・
・
・
次々に響き渡る轟音。
それによって2000居た隊の殆どが巻き込まれた。
同時詠唱で上級の攻撃魔法を…仕組まれていたか。
「ベルドール様…どうなさいますか?撤退…するべきでは」
「今更撤退して何になる?そもそもほぼ壊滅だ。逃げたいならお前は逃げろ。俺は敵の将に一撃でも喰らわすまでは引かん。」
ベルドールはそう言い放つと、剣を抜き魔法が飛んできた方に向かって走る。
凄まじい数の兵…先程までは視認すらできなかった。
くそっ!!どんな魔法を使いやがった。
一度立ち止まり敵の魔法部隊を見る。
練度も高い…その上この数。
侮られてないのが少し嬉しいが、それはそれだけ危険だと理解できた。
「お前がこの部隊の隊長か?」
そう声がしてそちらを見ると、目の前にいつの間にか青年が立っていた。
いつの間に…俺が気づかないだと?
「貴様がこの隊の将か?」
「質問してるのはこちらなんだが…まぁいい。将?ではないな。余はベルゼビュート大魔帝国、皇太子…アルス・シルバスタ=ベルゼビュートだ。ベルドール…改めて問う。お前が隊長か?その仮面は幹部の証なんだろ?」
皇太子…アルス・シルバスタ=ベルゼビュート。
その名前は知っていた。
いや、すでに世界的にも知らぬ者は少ないだろう。
創造神の使徒となった天才…そう称される男。
そうか…こいつが…
「な、なぜ名前を?しかし皇太子だったか。それはいい。俺の名はベルドール。革命軍の幹部で、この隊の長だ…皇太子、俺と戦え!!」
「ほう…一騎打ちか?この状況で?すでにお前らは負けたのだぞ?だがまぁよい。その代わり条件がある…」
「条件?」
「あぁ、負けたら俺の部下となれベルドール。そして忠誠を永劫誓え」
「なっ!?」
革命軍の幹部だぞ!?
確かに面白そうだ…とか。
強い敵と戦いたい…とか。
そんな理由でなっただけだが、それでも革命軍の幹部だ。
それを負けたら部下…だと?
そんな事、他の大魔帝国の者らの誰が納得…
後ろにいた兵達…そして多分指揮官と補佐であるだろうこちらに向かって歩いてくる2人…
皆がそのイカれた発言を聞いていたはずなのに…誰も驚愕すらしていない。
それにその2人は困った様にしかし仕方がないというように笑っている。
そうか…この皇太子は…そういう男なのか。
「構わん…もし、俺が負けた場合は…まぁ負ける気はないがな。」
「その気概、良いな。でも、後々部下になるなら言っておくべきだろう…。敵の力量を見誤るなベルドール」
「どういう…」
その瞬間だった。
目の前の皇太子の存在がとてつもないモノへと変わった。
ごくり…生唾を飲んだ。
ただそこにいるだけなのに…ここまで震えたことはない。
なんだ…こいつは。
「殿下。一応隊を下がらせますが…少しは加減してくださいよ?じゃないと森が消えます。」
「わかってる。だがまぁ実験も兼ねて少し遊ぶ。」
「はいはい…分かりましたとも…また実験ですか…バロン、隊を下げろ。私達も下がるぞ?」
「はっ!!」
森が消える?
実験?遊ぶ?
なんなんだ…
俺は初めて経験した。
強い者と戦う事だけを楽しみに生きてきた。
そのおかげが革命軍の幹部になり、そして今、目の前にはとてつもない強者。
なのに…身体がまったく動かない。
硬直してしまっている。
動けば死ぬ!!!そう理解している。
「ああ"ぁーーー!!!!!くそが!!!」
俺はなんとか身体を動かし、腕に自ら噛み付いた。
痛み…じゃなければ冷静にはなれない。
なんとか、心を落ち着かせ…そして剣を構える。
一撃に全てを賭ける。
でなければ、多分一撃も当たらない。
ベルドールは身体強化系の魔法を全て行使し、さらに風魔法を身に纏う。
「ほう…やっぱり強いなお前。でもまぁ…」
「はぁーーーっ!!!!!!」
ベルドールは凄まじい速度でアルスに向かった。
一撃に全力を注いだ、普通の者なら視認できるかどうかというほどの高速移動による斬撃。
しかし…
「まぁこんなもんだろうな。俊敏のポテンシャルが違いすぎる」
剣を振り抜く前に、いつの間にか迫っていたアルスの剣が首に触れるか触れないかで置かれていた。
どうやってここに?
「俊敏の実験は終わりだ。よし、次行こう。よし、ベルドール次は本気で斬ってこい。俺は避けない。ここで倒せなきゃ勝ちはないから本気でこいよ?」
「避けない…だと?」
しかしそれが嘘だとは到底思えなかった。
この男は本気で言っている。
なめられて、そのまま終わるわけにはいかない。
ベルドールはさらに力を込め、そして先程不発に終わった斬撃を放つ。
狙いはアルスの左肩からの袈裟斬り。
ベルドールは目を見開いた。
確実に殺した。
そう思っていたのに、自分の剣が折れたのだ。
なんの防御もされていない。
それどころか魔法すら使った形跡はない。
なのに…
「ま、鉄壁だからこんなもんか。まさしくだな。痒い程度か…防御の実験終了っと」
こいつはなんなんだ!!
人じゃない…俺は何を敵に回したんだ?
「よーし、次な?まぁ聖魔法の最上級で最悪治すけど…死ぬなよ?」
そう言われた時、咄嗟に俺は防御を固めた。
しかし…思っていた斬撃はなくアルスは剣を鞘に戻し「加減…加減…」とぶつぶつ言いながら右手中指を親指で押さえ、そして俺の身体に振り抜いた。
デコピン!?
指で弾いたとは思えない轟音が響き渡り、後方に凄まじい勢いで吹き飛ぶベルドール。
身体の骨が一気に粉々になった感覚が伝わり戦慄しながら目を瞑った。
あぁ、これが世界か。
世界にはこんなにも凄まじい強さの人間が?
ロキ、ロナ…無理だ。
こいつに勝つなんて、あり得ない。
だってそうだろ?
革命軍の中でトップの実力の俺が…多分デコピンで死ぬ。
あり得ない…がこれが現実だ。
木々を押し倒しながら吹き飛ぶベルドールはかなりな距離吹き飛ばされた後、地面に倒れる。
身体の骨はことごとく折れ、腕や足は関節があらぬ方向に向き…
まさしく重傷。
「…は…は…はっ。こんなんで死ぬのか俺は…剣で斬られたわけでも…なく。魔法…すら…使われず…あんな攻撃とも言えないもので…」
「おー生きてたか。防御力高くて良かったな?」
いつの間にか目の前に立っている男を見て、もう驚愕する事もない。
「…生きてた?…自分の…最期くらい…わかる。俺は…こんな…ことで…死ぬ」
「死なねぇって。」
「な…に?」
「死なねーよ。俺がいるんだから…」
先程までの皇太子としての発言よりも、明らかに軽い雰囲気。
これが素なのだろうか。
こんな状況なのに、死なねーよ俺がいるんだから…と言われ、この人が言うならそうなんだろう…と納得してしまっている。
そして皇太子は俺の前で膝を落とし俺の身体に触れた。
その瞬間ブワッと羽ばたかれる白金の神々しい翼。
そして、溢れ出すオーラ。
あぁ、この人…天使か。
そりゃー勝てねぇわ。
身体が温かく包まれる感覚。
一瞬だった。
致命傷を負った俺の体は、一瞬で回復していた。
身体を動かすと、全く正常。
骨も全て治っている。
「まぁなんだ。実験に付き合わせたからな。お前が決めて良いぞ?俺の部下になってもっと強くなる道…ここから逃げ出し二度と戦わない道…それか今からまた敵対して次こそ確実に命を捨てる道…。さぁどれがいい?」
敵対…ありえねぇ。
ただの無駄死にだ。
逃げ出すか…まぁありだな。
ここまでのモノを見せられた。
この人より強くなる事はない。
上には上がいる…
もう戦わないで、田舎でのんびり冒険者…悪くねぇ。
だが、それよりも魅せられちまった。
この人…すげぇ。
この人のそばに居たらもっと強くなれるかもしれねぇ。
「あんたの…部下になる。その代わり俺をもっと強くしてくれ…」
「良い実験仲間が増えて嬉しいよ。また付き合ってくれ…」
「なっ!!それは…」
こうして大魔帝国軍の右側、左翼に展開したベルドールの隊は壊滅、ベルドールはアルスの部下となった。
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剣を振り抜こうとするベルドール。
確かに速い。
が、今の俺からしたらかなりスローモーション。
ちょっと意識して進めば目で追う事すらできていない。
「俊敏の実験は終わりだ。よし、次行こう。よし、ベルドール次は本気で斬ってこい。俺は避けない。ここで倒せなきゃ勝ちはないから本気でこいよ?」
「避けない…だと?」
俊敏やっぱかなり上がったもんな。
これ全力だったらまじで誰にも見えないんじゃ?
いや、まぁ敵の使徒とかなら同じくらいの速度なんだろうな…
どんな戦いだそれ…
さぁ防御の実験だ…
全力の袈裟斬り…
うわっ…これ痛くないんだろう、とか思ってもめちゃめちゃ怖い。
斬れたらどーしよ。
まぁそしたら回復かけまくるけど。
斬れない。うんうん。
読み通りさ!はっはっはっ
それどころか剣が折れたぞ。
いやぁーまさに鉄壁ですな…
「ま、鉄壁だからこんなもんか。まさしくだな。痒い程度か…防御の実験終了っと」
次は攻撃力だが…まぁ手加減しないと木っ端微塵だろうな。
ここはデコピンか。
そもそも、こんくらいの攻撃力がある場合のデコピンでどれくらいの威力になるんだ?
まぁステータス見たところまぁ防御力は結構高いし、昔のローナくらいの硬さはあるから平気だろ。
魔法で指を強化して指を弾く。
あ、ちなみにこの世界でもデコピンはあります。
よしよし、久々だなデコピン。
かるーく、よっと!
うわ!まじ?なんだこの威力。
デコピンだぞ?
死んだんじゃ?
慌てて俺は飛んだ先に向かう。
あぶねー。なんかぶつぶつ言ってる。
生きてるな…
「おー生きてたか。防御力高くて良かったな?」
よしよし、治すぞ!
って聖魔法使うと羽出るのか?
どんな演出?
さぁ、こいつを部下にするかどうか…
実験に付き合わせちゃったからな。
選択肢くらいあげるか。
「まぁなんだ。実験に付き合わせたからな。お前が決めて良いぞ?俺の部下になってもっと強くなる道…ここから逃げ出し二度と戦わない道…それか今からまた敵対して次こそ確実に命を捨てる道…。さぁどれがいい?」
ベルドールは沈黙した。
色々考えてるな。
だがこいつかなり脳筋で、馬鹿っぽいもんな。
うちの奴らと仲良くなれそうなんだが。
「あんたの…部下になる。その代わり俺をもっと強くしてくれ…」
やっぱ脳筋。
「良い実験仲間が増えて嬉しいよ。また付き合ってくれ…」
よしよし、これでまた実験できるぞ!
「なっ!!それは…」
引くな…ベルドールよ!!はっはっはっ
さーて、エミリオの方はどうなったかな。
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