41話 黄昏れる王子
「トライブ獣王国が中央大陸に宣戦布告?」
「まだ中央大陸でも庶民には知られていませんが隠密達の情報を加味すると事実であると…。獣王国でも、戦の準備がなされているらしいので…」
「そうか…報告ご苦労様」
獣王国と中央大陸が戦争になるのか。
マリア達大丈夫かな…
何かあれば助けに行きたい。
でも、ローゼン王国は父さんにありもしない容疑をかけ俺ら家族を殺そうとした国だ。
前回の戦争もあるし、同盟として助ける事もできないな。
みんなだけでも助けたいな…
いや、でももし戦争が始まって魔王の嫡子である俺が関与したとなったら要らぬ争いが増えるよな…。
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トライブ獣王国と人族の連合軍との戦争、それは熾烈な戦いだったという…
中央大陸各地で血の海が出来上がり、次々に死にゆく戦士達。
さらに獣王国最強と呼ばれる獣人会議の面々が戦場に現れてからは凄まじい破壊と虐殺が繰り広げられた。
それに、対応するべく人族はどこの国にも属さない人族最強の戦闘集団、七聖を召集した。
それに伴いさらに熾烈を増す戦争。
三年に渡る凄まじい戦争は獣人会議や、七聖にも殉職者を出す程の壮絶な戦いであった。
後に死血戦争と呼ばれる地獄のような戦争は三年の月日が経ち、ついに戦力が互いに限界になった事により終結された。
が、その被害は両者ともに想像を絶するものであったのは言うまでもない。
中央大陸の街中には孤児達が溢れかえり、強奪などの犯罪は当たり前に起こる。
さらには少なくない国が壊滅、崩壊し自国を無くした者達が多く出ていた。
何とかそれもやっと落ち着きを取り戻したのはそれからさらに二年が経った頃である。
崩壊した国などは近くの大国に吸収され、壊れた家屋や街も何とか復興を果たした。
しかし、皆の心の中の薄暗いモノは消える事はない。
失ったモノの大きさは計り知れないのだから…
それでも人はまた争うのだろう。
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「まだ見つからないのか?マリア達は…」
「殿下…申し訳ありません…魔国最高峰と呼ばれる我が隊の隠密達を総動員していますが…未だ手がかりは…」
「そうか…あれからもう5年も経つ…生きているなら再会したい」
「その殿下のお気持ちを1日でも早く叶えられるよう…さらに尽力致します」
「頼む…バロン。もう下がっていいぞ」
「はっ!!」
白金が光にあてられ光り輝く美しい髪に、全てを見透かすような黄金の瞳。
顔立ちは中性的だが、その眼光には次期王としての迫力が浮かんでいた。
王が数年前に新設した王子専用の謁見の間の玉座のような煌びやかな椅子に腰掛け、天を仰ぐその姿は、見た者全てを釘付けにするような芸術的な面持ちであった。
彼こそ、アルス・シルバスタ=ベルゼビュート。
数年前に国名を改め、ベルゼビュート大魔帝国となったこの国の帝王…シルバ・ヴィベルイ=ベルゼビュートの息子であり、次期魔帝となる14歳の少年である。
チッ なんで見つかんねーんだよ。
マリア…ミラ…レオ…トルス…
死んじまったなんてねぇーよな?
さすがにそんなわけ…
あぁーくそー!!何で戦争なんか起こしたんだ獣王国!!!!!
七聖ももっと頑張れよ!!
くそーあー腹立つなー。
もう5年だぞ!?あれから5年!!
そろそろなんか進展あってもいいだろ?
いや、でも死んだっていう情報も無いって事はまだ生きてる可能性もあるってことだよな…
まぁでも悩んでも仕方ねぇか。
よっし、祈ろう。たまには教会で…
「アルス殿下どこに行かれるのです?」
教会に向かう為に馬車の手配をしてもらおうと謁見の間から出ると、外に待機していた護衛達と話すローナが呼び止めてきた。
長くサラサラな金髪に、綺麗な空のような青い眼をし、ここ数年で常識人となったローナ。
今や軍とは別の一大組織として大きくなった元王太子親衛隊、現在の王太子直轄部隊、蒼天隊の総帥である。
そういや、喋り方も直ってるな。
「あぁちょっと教会に行く。馬車を用意してくれ」
「畏まりました。すぐ手配させ、必要は無いとは思いますが外見上の形として護衛の編成をすぐに行います」
「すまないな…助かる。俺はそれを父上に伝えてくる。準備が出来たら伝えに来てくれ…」
「はっ!!」
たったの5年でこんなにも人はまともになるのか…。
「父上!少し教会に行ってきます」
執務室にいた父上にそう報告する。
「あぁわかった!消えた友人達の生死への祈りであろう?」
2メートルはある大きな身体用に特注している執務室机に向き合う父上は、ペンを止め俺をみる。
「はい…。そのつもりです」
「…であるか。まぁたまには息抜きをしてこい」
「ありがとうございます。では、行ってまいります」
執務室を出ようとするとシルバがアルスに向かって、あ!と声を掛けた。
「あとちょっとで成人だなアルス。その機会に次期魔帝になるという式典を行う予定だ…。それと、その後に学園に入学する手筈を組んでおいたが、どうだ?」
「が、学園ですか!父上っ」
「そうだ…行きたがってただろ?」
(学園…行きたい。そうか…学園に通えるのか…)
魔国の学園は成人を超えてから行く場合が多い。
それは、人族などとは違い魔族の寿命がとても長いからである。
見た目も成人してから20代までの間に個人の差はあるがどこかで成長を止めるため、100歳くらいまでは学園に入学する者が少なくはない。
「学園…行きたいです!」
「そうか!なら、学園長に言っておく…」
「ありがとうございます…」
(嬉しい…学園にまた通えるなんて……、マリア達とまた通いたいなぁー)
書きたいところがまだ全然進められておらず、今後の展開的に年齢を引き上げる為にスパーンと飛ばしてしまいました。
ただ、5年の間のエピソードもまた閑話で書くので安心してください。
アルス現在14歳です。
学園編…始まりそーな予感\(//∇//)\ワクワク