35話 兎と狼とオペ
考える事が多すぎて憂鬱になってきた俺は、幼少期の初心を思い出そう…と父上に許可をとって一人で王都近辺の森林に来た。
そこで、すぐに理解したのは…この大陸のモンスターエグすぎるという事だ。
まず最初に出会ったのが…兎。
ウサギ…ですよね?
漆黒の黒い毛並みに紅の瞳、まぁここまでは黒兎かな…って感じだけど、サイズが…2mをゆうに超える巨体である。
そして、ステータス…
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[デスイーターラビット]
称号/死神
ランク/B
HP/17.000(17.000)
MP/12.000(12.000)
攻撃力/16.000
防御力/15.000
俊敏/9.800
器用/1.200
固有魔法/[分身/LV.MAX][ワイルドクロー/LV.MAX][俊敏向上/LV.3]
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デスイーターラビット?
称号、死神?
しかもステータスが軒並み高い。
一発目でこれ?
デスイーターラビットは俺を見つけると、ブワっと黒いオーラが身体から溢れ出し、二体、三体と増えていく。
分身の固有魔法か。
そして、まぁまぁ早い速度で迫ってくる。
昔の俺なら間違えなく一撃もらっていただろう。
だが、今ならそこまで恐れるほどではない。
三体のデスイーターラビットに続けざまに斬撃を喰らわす。
と、二体が消え、一体が倒れる。
やっぱり俺強くなったんだなー。
昔だったら即死だったな。
いや、そもそもウサギってこんなんだった?
なんか、異世界ウサギやばいな。
と、死神ウサギを討伐し父上から貰ったアイテムポーチ(空間魔法による収納魔道具)にその亡骸を収納してから森林をさらに進むと…
ん?なんだ?人?襲われてる?
気配探知に2人の人と、それを襲うモンスターの群れがひっかかった。
慌てて走るアルス…
その速度はもし誰かが見ていても殆どの者の視界に入らないほどの瞬足であった。
それがよかったのか、倒れる少女2人に襲い掛かり今喰らい付くという瞬間の狼系統のモンスターを気功で吹き飛ばす事に成功した。
そして少女達に声を掛けるよりも先に…と狼モンスターの群れに相対する。
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[バイオレンスウルフ]
称号/殺戮集団
ランク/B
HP/12.000(17.000)
MP/10.000(12.000)
攻撃力/19.000
防御力/11.000
俊敏/12.500
器用/1.800
固有魔法/[吸血回復/LV.MAX][ワイルドクロー/LV.MAX][共鳴/LV.MAX]
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おいおい…ネーミング!!
デスイーターラビットの次は、
バイオレンスウルフ!?
もはや、ネタなの?
それに、デスイーターラビットより若干強いぞ。
それが、10匹。
この子達を守りながらどうやって倒そうか。
バイオレンスウルフ達はアルスを敵と認め、少し距離を置いて構える。
接近すればこの子達から離れる事になる。
となると、魔法…
確か六属性の攻撃魔法はどんでも使用可能みたいな感じだったな。
火は…だめだ。森が燃える。
雷も、こっちまで余波が来る可能性があるな。
となると、水、風。
くそーその二つはあんまり魔法書見てないぞ。
考えろ考えろ…時間はない。
新しい魔法の作成…しかないか。
バイオレンスウルフの1匹がこちらに向かってくる。
動けない俺に向かってくるのは有り難い。
少し左から右へのフェイントをかけながら、跳躍し飛びかかってきたバイオレンスウルフにそのまま俺は剣を抜き渾身の速度で剣を抜刀し首を斬り落とす。
ッッッッ!!!!!
という風の切れる音すらしない音速の一閃により空中でバイオレンスウルフが首を落とし落下する。
よし、残り9匹。
水、風…何ができる。
そうか…あれを使えば…
バイオレンスウルフ達が危険を感じ同時に向かってくる。
そのバイオレンスウルフ達に片手を向け、魔法を構築していく。
そして…
ダダダダダダダダダダダ!!!!!!
水の弾丸によるマシンガン。
火炎砲から着想した、新魔法である。
しかも魔力をかなり注ぎ込んで威力も上げている。
バイオレンスウルフ達は次々に身体に無数の穴をあけ吹き飛んでいく。
ズドーーンッッズドーーンッッズドーーンッッ
しかし、その影響で木も次々に倒れる。
やり過ぎたか?いや、でもなんとか倒したな。
気配探知で生きているバイオレンスウルフがいないか確認してから、ふぅーと息をつき、やっと少女達を振り返る。
「大丈夫?」
少女2人は震える身体を互いに支えながら、俺を見つめる。
「ありがとう…ございます」
「ありがとう」
ふと見ると少し大人っぽい方の子が足に怪我をしていた。
回復魔法…適正はあるけど…使えるか?
確か魔法名は…
「ヒール」
怪我をした足がどんどん治っていく。
ちなみに魔法名を唱えれば効果が上がる、とされている。
「ありがとうお兄ちゃん!よかったね!お姉ちゃん!!」
少し幼い方の子がお礼を言って隣の子に笑顔を向ける。
姉妹なのだろう。
よく見れば髪色も同じ桃色で顔も似ている。
「で、なんで襲われてたの?」
「えっと、薬草を取りに来たら…襲われて」
俺の質問にはお姉ちゃんが答える。
多分俺よりいくつか年上だろう。
「この森結構危険なモンスターも多いから…あまり入らない方がいいよ」
「あの…でも…」
「あのね!お母さんが病気なの!だから…やくそう取りにきたの!」
姉は何か言いたげに黙り、それを妹が後付けしてくれた。
そうか、母親が病気で…。
「薬じゃだめなのか?」
「…薬は高いから」
「うちはお父さんいないから…」
つまるところ、父がこの世を去ったか出て行って母子家庭。
その母親が病気で、薬を買うお金もなく、危険な森に姉妹で薬草を取りに来た。と
なんて良い姉妹…。
「そうか…そんな重い病気なのか?」
「わかりません…。お医者さんも呼べなくて…」
もしかしたら前世の記憶を探って判断できるだろうか?
そもそも、病気の概念は同じなのか?
でも、ほっとけない。
「わかった。そしたら俺も見に行っていい?知識はそこまでないけど、もしかしたらなんとかなるかもしれない」
「えっ!?いいんですか?命まで助けてもらって…」
「うん。これも何かの縁だから」
最悪城から医者を呼ぼう。うん。
それから、3人で王都の外れの住宅街にきた。
2人の家はこじんまりした木造の一軒家だった。
「お邪魔します」
「どうぞ!狭いですけど…」
「はいってーはいってー」
よくよく考えるとこの世界に来て初めて人の家に入った。
それに城じゃない家もこの世界で初めてだ。
そう考えてると恵まれてるんだなやっぱり。
伯爵家から王族だもんな…よくよく考えたら凄いよな。
「おかえり…ん?どなた?」
奥の部屋に、2人と同じ桃色の髪の女性が寝ていた。
「お母さん…実は森にハナと薬草を取りに行ったんだけど…」
ちなみに2人は姉がレノ、妹がハナという名前らしい。
レノが母親に森で襲われた話と俺が助けた話をした。
「…森はダメって言ったでしょ?…アルス君…ありがとう。2人ともおいで…」
レノの話に俺の名前が入っていたので母親は俺に頭を下げてお礼をしてきた、そして2人を怒りながらも生きててよかった!と抱き締める。
やばい…泣く…泣かないけど…泣きそうだ。
めっちゃ良い親子じゃんか。
「あ、それより病状はどんな感じなんですか?」
よくよく考えたらただの子供が何言ってる…と言われかねないな
しかし、母親は微笑んで答えてくる
「咳が出るわ…体温も高くて。それと…息がしづらくて…あとここのところも痛いわ」
ここのところ、と指したのは肺だった。
咳に、呼吸のしづらさ、
前世で考えると…肺炎…?
「肺炎ですかね…」
「ハイエン?それってなんの病気?」
そうか、この世界に肺炎はないのか。
「少し待ってください。ちょっと考えます」
「え?なにを?」
魔法でなんとかなるのか?
ハイヒールとか?
いや、病原菌の除去をしないといけないよな…薬の代わりに魔法で…
思い出せ…思い出せ…肺炎の治療法…
投薬であってるよな?
その投薬は病原菌を殺すため。
という事は身体の悪い菌を除去する魔法が創れれば。
魔法名はサージャリー。手術にしよう。
できてくれ…頼む!!
レノ達の母親に手を向ける。
「少し回復魔法を試させてください」
「回復魔法が使えるの?でも、病気には…」
「新しく作った魔法です。多分…できるはずです」
「魔法を新しく?」
「はい…。では、いきます!サージャリー!!」
光り輝く掌…それに合わせてレノの母親も光り輝く。
その光は優しい光だった。
それでもその光に見惚れてる訳にはいかない。
魔力を注いでいく。
病原菌を無くすために。
「ふぅ〜、終わりました。どうですか?」
「…ん?え?息苦しくない!それに痛みも…」
知識たいして無くても、出来たー!
魔法ってすげぇー!!!
俺この世界で最強の医者になれるんじゃ?
「ありがとう!!アルス君」
「ありがとう!!!!お兄ちゃん!!」
2人が俺に抱きついてきた。
母上達じゃないとなんか気恥ずかしい。
そして、その後急激に体調が治ったレノ達の母親…ソラさんはご飯を作ってくれた。
シチューとパン。
「美味しい!」
「あら…よかったわ!!アルス君…改めて本当にありがとう。娘達の命を助けてくれただけでなく、私の病気まで…なんとお礼をしたらいいのか…」
「お礼なんていりません…。困った時はお互い様ですよ。それに、こんな子供を信じてくれたんです。ソラさんも凄いですよ。」
知らない子供の魔法を受けるってちょっと怖いもんな。
「あなたの瞳が…本気だったから。それに娘達の恩人よ!そりゃー信じるわよ。それよりアルス君はいくつなの?あの森でモンスターの群れを討伐して、しかもあんな魔法が使えるって…もしかして、実は大人?」
「え?いや9歳です。あ、もうすぐ10歳ですが…」
「9歳!?レノと同い年…君は何者なの!?凄過ぎない?」
「えっと…そうですかね?」
ソラさんはすごいよーと凄く褒めてくれた。
まぁ確かに凄いのだろうな、という自覚は最近はある。
「もしかしてアルス君は王立学園の生徒?」
レノが首を傾げながら聞いてくる。
「いや、違うよ!学園に通っても良いかなぁーとは思ってるけどね。」
「そうなんだ!なのにそんなに強くて凄いなんて!すごいねほんとに!私も魔法覚えたいなー」
「学園で学んだりしたいの?」
「ううん…うちはそんなに余裕ないから…」
「ごめんね…レノ。」
悪気のないレノの言葉にソラさんは少し俯く。
「あの…魔王城で働いたら給料は高いんですか?」
相場がわからないからなー
「そりゃー高いわよ!でも、私なんて経験も推薦してくれる人もいないし…働けないわ…」
この人働かせられないのかな…
ん?いや…例えば俺の専属のメイドとかでいけるんじゃ?
「働きましょう…そうすればレノも学園に通えますし!」
「え?もしかしてそんな魔法も?」
「さすがにないですよ…でも、できます。多分」
食事中にうとうとしだしたハナちゃんもいたのでその日はそのまま解散し、城に戻ってその話を父上、母上、父さん、母さん、メルが寛いでる場所で話した。
「構わないぞ…メイドとして働いて貰えばいいだけだしな」
父上…さすが器がでかい。
「うん!話を聞いた感じ良い人そうだし」
母上…ありがと。
「アルス!お前はやはり良い子だ…」
父さん…なんでちょっと潤んでんの?
「そのレノちゃんて可愛い?」
母さん…それは違う話だよ?
「お兄ちゃんのおともだちとメルも遊ぶ!」
メル…うん、可愛い。
そうして次の日、城の馬車で王都に向かいソラさんを訪ねた。
「え?アルス君!!何この馬車!!」
「えっと…ソラさんの魔王城でのメイドとしての仕事…オッケーでした!」
「……それって…」
「採用です!いつから働けますか?」
「えっと…待って待って!どういう事?魔王城での仕事?え?採用?…アルス君あなたって…」
混乱するソラさん…いつのまにかレノとハナちゃんも出てきていた。
「えっと…隠すつもりはなかったのですが、俺の名前は…アルス…シルバスタ=ベルゼビュート…です。」
「ベルゼビュート?って…魔王様の…」
「はい…俺の父上は魔王です。」
「なっ!?魔王様の御子息…で、殿下という事ですか?」
「あー、はい。」
意識が飛びそうな程に頭を抱えるソラさん。
「す、すすすすす、すいません。あの…知らずに無礼を…」
「やめてください!そんなの気にしません。で、働きますか?我が家で」
「は、はい!!お願いします!!」
ソラさんは深々と頭を下げてきた。
「アルス君…が殿下?」
「殿下ってなにー?」
「王子様だよ…ハナ」
「えーー!!お兄ちゃん王子様なのー?」
レノとハナちゃんも目を見開く。
「ごめんね。隠すつもりは本当になかったんだけど、言い出すタイミングがなくて…」
「い、いえ!こちらこそ無礼な態度を…」
レノが頭を下げてくる。
「やめろよレノ…そういうのほんとにいらないから!気にしなくて良いって。もう友達だろ?」
「え…友達…でいいんですか?」
「当たり前だよ!だから、こうして来たんだから」
「……ありがとう」
レノは少し頬を赤らめてそう言ってきた。
うん、はじめての魔族の友達だ。
「ソラさん、どうします?一応我が家にはメイドの住まう部屋もありますし、一応父上には家族用の場所を用意してもらってるのですが…引っ越ししますか?」
「え…そこまでして頂いてよいのですか…」
「構いません!それに通いだとあの山大変ですし…あと俺の妹がレノとハナちゃんと遊びたいってうるさくて…」
「それなら…お願いします。何から何までありがとうございます…殿下」
「気にしないでください。困った時は…お互い様ですよ」
こうして、ソラさんは魔王城のメイドになった。
メルはハナちゃんという同い年の友達ができ、毎日楽しそうである。
俺は城の冒険の相手ができ、一石二鳥以上である。
ヒロイン誰なん…て後々なるやろなー
みんなで考えましょ?w
by 尾上蓮虎




