30話 失われたモノと得るモノ
どうも…尾上です。
凄まじく遅くなり、はや半年…本当に申し訳ないです。
久々にアカウントを開いて、いまだに見てくれてる人がいる事を知り…復活を決意しました。
これからも…ご愛好ください。(泣)
その教会の中に、老人が1人立っていた。
『すまぬな…ぬしを巻き込んでしまって』
老人は申し訳なさそうにそう言った。
その声は脳内に聞こえたあの声と同じであった。
「巻き込む?それはどういう?」
『順序立てて話すと長くなるのだが、構わなんか?』
「うん構わないよ。聞かせて」
『では、昔の話からにしよう…。
昔々、この世界がまだ何もない空白の世界だった頃。創造神は大地と海、そして空や月、人や動物を創造した。
やがて人々は文明を築き発展の歩みを始める…。
そんな中、創造神はさらに清い世界を創造する為に自分の悪い感情の全てを捨てさった。
しかし、その捨てた悪い感情はあまりに強大な創造神の力の影響を受け自我を持ってしまう。
その自我を持った感情は後に邪神となり、世界を滅ぼす為に、より人を不幸にする為に、自分の使いとして亜人や魔族、そして魔獣を創造し、それらの心に人族と争うという本能を植え付けた。
邪神の思惑によりそこから数千年も大乱の時代が続く。
続いた大乱の後、元々闘争の為に創造された魔族と亜人はその持ち前の魔力と身体能力により人族を次々に徐々に徐々に圧倒していき人族は壊滅の危機に瀕する。
そして戦争は魔族と亜人の混合軍が勝利を収め、長きに渡る大乱は収束していく。
しかし、邪神はそれを良しとはせんかった。
なぜなら邪神は人々の怒りや悲しみといった負の感情によって力を蓄えていたからじゃ。
そこで邪神は巧妙に戦乱の種を蒔き始める。
戦争に負け壊滅の危機にあった人族達を今度は誑かし、全ての元凶は魔族や亜人であり、何があっても許してはいけないと幾代にも渡り刷り込みを行ったのじゃ。
そしてそれと同時に人族にも魔族や亜人に対抗する知恵や魔法の術を与え、戦の準備をさせた。
やつは今、人族の間でこう呼ばれておる…
創造神。と
巧妙に狡猾に長きに渡り種を植え続け、そして今やつは人族からの絶大な信頼と信仰を手に入れたのじゃ。
そして時に魔族に囁き、時に人族を使い火種を作り、戦争を起こしてそれが収束すれば、また種を撒くといった行動を続けておる。
最初に異変に気づいた数代前の魔王は、邪神を見限り本当の創造神と盟約を交わして戦争を避け、平和な世を築こうとした。
しかし、それは代を変えれば話が変わる。
幾ら前王の意向であっても堪え続ける苛立ちを抱えた臣下や国民の怒りを前にし、また戦争は続いてしまう。
そして、今代の魔王が即位する時…創造神は魔王に特別な力を与えた。
時をやり直せる魔法じゃ。
何度も何度もその魔法で魔王は戦争を回避した。
じゃが、邪神はその魔法にすら干渉し勇者や信徒を使い魔王の一番大事なモノを魔王から奪ってしまった。
魔王は来る日も来る日も過去に戻りやり直しそれを守ろうとしたのじゃ。
じゃが、すでに邪神に干渉された時間はやり直しても結果は変わらなかった。
そして魔王は激昂し、人族も邪神も全てを抹殺すると心に誓う。
しかし邪神が抹殺したはずのそのモノが勇者の手によって隠されていたのじゃ。
邪神も創造神すらも把握していない誤算じゃった。
それを創造神から聞いた魔王は急ぎ南大陸へと進軍を開始した。』
「大事なモノって…」
『魔王の後継者である息子、名を…
アルス・シルバスタ=ベルゼビュート。
ぬし、じゃな…』
「その魔王の息子が俺というのはなんとなく感じていた。で、あなたが創造神という事なんでしょ」
『みなまで言わずとも分かっておったか。そうじゃわしが創造神ゼウルスじゃ。』
つまり俺は捨て子だったわけではなく、生まれてすぐに邪神の使いである人族達に誘拐され、そして勇者によってあの森に隠された。
ということか…
「つまり、今起きている戦争は俺を取り返す為に起きているわけか」
『そういうことじゃな』
「なら、すぐに止めに行かなくてはならないな」
『命を危険に晒しても…であるか?』
「当たり前だ。あの戦場には友達も居る。それに邪神が悪いのは分かったが、俺は人族まで悪いと思うつもりはない。」
『であるか…。やはりぬしをこの世界に呼んでよかったのぉ』
「ここに転生させたのはあんただったか」
『すまぬな。わしに今邪神を止めるだけの力はない。この世界を救って欲しい』
「だが、俺もそこまで強くないんじゃないか…と最近思っているのだが。」
『フッ それは簡単な話じゃ。ぬしがその力を自覚していないからである』
「自覚?」
『そう…自覚するのじゃ。ぬしは魔王の後継であり、絶対的な力を与えられた存在である。と』
俺が魔王の後継者。
絶対的な力…
気がつけばそこに神は居らず、
目の前には父さんや母さん、メルに部下達がいた。
あれは、夢?いや、現実?
「やっぱりそうだったんだ…」
「ん?どうしたの?アルス?」
母さんが俺を見て不思議そうな顔をしている。
「父さん…さっきの言葉の続き…正解だよ。」
その言葉を聞いて父さんは訝しげに俺を見たが、他の者達は意味がわからないという風に首を傾げた。
「隊長…申し訳ありません。どういう意味ですか?」
カイトに聞かれ俺は皆の顔を見た。
「簡単な話だった。そうと分かれば全ての辻褄が合う。俺がその失われたモノだ。」
「「「「え?」」」」
父さん以外の皆が俺を見て目を見開く、
「俺の本当の名は…、
アルス・シルバスタ・べルゼビュート…」
名前を口にした瞬間…頭の中に雷が落ちたかのような衝撃と全身から沸々と力が漲っていくような感覚を覚えた。
「べルゼビュート?隊長…もしやあなたは」
カイトの言葉に反応する余裕はなかった。
身体の全身が痺れ、それと同時に激痛が走る。
「アルス…どうしたの?」
痛みからいつのまにか地面に倒れていた俺に母さんが近寄ってくる。
痛みが次第に引いていき、俺はなんとか座り直し自身の身体を見回す。
特に大きな変化は見られない。
が、明らかに先程までとは違うとなんとなく理解できた。
ピロンッ 【ステータス情報が上書きされました。】
ピロンッ 【称号[魔王の後継者]を手に入れました。】
ピロンッ 【称号[魔王の後継者]を手に入れたことにより、火属性攻撃魔法が全て統合され、[火属性魔法]を手に入れました。これにより火属性攻撃魔法を全て使用可能です。】
ピロンッ 【称号[魔王の後継者]を手に入れたことにより、水属性攻撃魔法が全て統合され、[水属性魔法]を手に入れました。これにより水属性攻撃魔法を全て使用可能です。】
ピロンッ 【称号[魔王の後継者]を手に入れたことにより、風属性攻撃魔法が全て統合され、[風属性魔法]を手に入れました。これによ
り風属性攻撃魔法を全て使用可能です。】
ピロンッ 【称号[魔王の後継者]を手に入れたことにより、雷属性攻撃魔法が全て統合され、[雷属性魔法]を手に入れました。これにより雷属性攻撃魔法を全て使用可能です。】
ピロンッ 【称号[魔王の後継者]を手に入れたことにより、闇属性攻撃魔法が全て統合され、[闇属性魔法]を手に入れました。これにより闇属性攻撃魔法を全て使用可能です。】
ピロンッ 【称号[魔王の後継者]を手に入れたことにより、光属性攻撃魔法が全て統合され、[光属性魔法]を手に入れました。これにより光属性攻撃魔法を全て使用可能です。】
ピロンッ 【固有スキル[統率]を手に入れました。】
ピロンッ 【固有スキル[威圧]を手に入れました。】
上書き?それってどういう…
それに、凄まじい勢いで色々増えてるぞ。
称号 魔王の後継者はまだわかる。
だが、…魔法…無魔法以外全て…うんちゃらはチートすぎないか?
ーーーーーーーーーー
名前/アルス・シルバスタ
家名/ベルゼビュート
年齢/9
種族/魔人族
職業/魔剣士、格闘家
称号/魔王の後継者、鉄壁
レベル/89
HP/423,000(423,000)
MP/858,000(858,000)
攻撃力/328,500
防御力/1,278,000
俊敏/49,800
器用/15,300
幸運/777
魔法適正/火、水、風、雷、闇、光、無
固有魔法/[念動力/LV.MAX]
攻撃魔法/[火属性魔法/LV.MAX][水属性魔法/LV.MAX][風属性魔法/LV.MAX][雷属性魔法/LV.MAX][闇属性魔法/LV.MAX][光属性魔法/LV.MAX]
防御魔法/[身体強化/LV.MAX][影武者/LV.3][回復の息吹/LV.3]
固有スキル/[覇道/LV.4][鍛錬の道/LV.4][統率/LV.MAX][威圧/LV.MAX][自動回復/LV.MAX][ステータス閲覧][気功/LV.MAX]
耐性スキル/[孤独耐性/LV.MAX][飢餓耐性/LV.MAX][物理攻撃耐性/LV.MAX][魔法攻撃耐性/LV.MAX]
神聖スキル/[世界神の加護][世界樹の加護]
ーーーーーーーーーー
おいおい…
攻撃30万は上がってんぞ。
いや、それより防御力…
100万上昇ってなに?
これが本当の俺の力?
防御力なんてこれ鉄壁っていうか。
怪我すんの?ってレベルなんじゃ…
「…おい!大丈夫か!アルス」
頭がオーバーヒート気味になっていた俺はなんとか父さんの声で我に返った。
「アルスが魔王の息子ってそんな…」
母さんはすこし涙目になっていた。
「でも、そんなことありえんのか?隊長」
「ありえる…な。実は俺は数年前に森で父さんに拾われたんだ。その前の記憶が無くて気付かなかったけど。でも、今とある方法で確認したら、間違えないみたいだ。」
それからアルスは創造神から聞いた話を皆に話す。
「そんな事が…現在この世界で起きているんですね」
項垂れるカイト。
「つまり、魔王と創造神のみが平和な世の中を作ろうしていたけど、その魔王の息子が攫われ魔王が激怒している…という事ですね」
レオナルドが顎に手を当て、そう呟く。
「しかし、どうするつもりだアルス。」
父さんの顔は先程よりも深刻さを増していた。
「この戦争を終わらせる為には俺が止めに行くしかない。と思ってる。」
「ダメよ!アルス…それは危険過ぎるわ」
母さんはずっと涙目だ。
「しかし、それで止まりますか?」
カイトの質問は確かにそうだ。
止まるのか…と聞かれば。
確実とは言えない。
しかし、他に方法はあるのか?
『魔国のやつらを呼び出してみたらどうじゃ?もしかしたら邪神に気付かれるかもしれんが、やつは直接この世界の人間を殺害する事はできん。いずれ気付かれるのであれば、遅かれ早かれじゃ。』
え?神様?
まだいたの?
慌てて周りを見回すがそこに神の姿はない。
どうやら声だけのようだ。
でも、どうやって呼び出すんだ?
『そうじゃな。魔族の幹部達の中では緊急事態を告げる魔法が存在するんじゃが。六属性の攻撃魔法が扱えるようになった、ぬしならそれが使えると思うぞ?』
それはどういう…
魔法だ?
と聞こうとした時、脳内にその使い方と概要が浮かんできた。
これか…
「ちょっと皆待ってくれ…。今、魔族の人を呼ぶから、その人に直接話してみる」
「なっ?アルス…そんなことができるのか?」
父さんの驚愕の声を尻目に俺は右手を天にかざし、その魔法を使用した。
小さい球体状の魔法が空に舞い上がり、ドーーンッと炎が爆裂し、次に雷、水、風の順番で次々に爆裂する。
「これで…合ってるのか…」
俺も半信半疑だ。
数分経った頃、突如背後に気配を感じ、振り返る。
そこに真っ黒の軽装に、漆黒のローブを纏った数人の者達が現れ、一瞬ピリッとする殺気を放ってきたが、すぐに跪いてきた。
「この圧倒的な気配。まさに陛下の…
殿下…やはり生きていたのですね…
お迎えにあがりました。」
真ん中の者がそう告げる。
声からしておじさまである。
「迎え…ということは魔国に?」
「はい…。先程の魔法反応を感じた陛下に命を受け、殿下であると確信した場合、直ちに城に連れてくるよう言われております。」
「そうか…でも、今は無理だ。あの戦争を止めなきゃ。」
「殿下が戻られればすぐに陛下は軍を引くでしょう。殿下自ら行く必要はありません。」
「今、この時も死んでいる者達がいるんだ。一刻を争うんだぞ?悠長なこと言ってられるか」
「しかし…」
「やはり、ゴネておったか」
突如、頭上から声が聞こえ皆一様に空を見上げる。
そこには2mを容易く上回る巨体、額から生える2本のツノ、逆立った白髪に口元と顎にかかる髭を生やした男が浮かんでいた。
目が離せなくなる程の威圧感。
そして明らかに尋常じゃない魔力量。
凄まじく上がった自身のステータスを持ってしてもなお、この人には勝てないと一瞬で理解した。
「へ、陛下!なぜこちらに…」
陛下?ということはこの人が魔王。
そして、俺の本当の父親。
「わしの直属の精鋭であるお前らが思いの外戻ってこなかった故、なにやら息子がゴネているのかと思ってな。直接会いにきた」
俺の前に降りてきた魔王は、見上げる程大きかった。
そしてまさに魔王…というのに相応しい男であった。
「久しいな…アルス。と言ってもお前にはわしの記憶は無いだろうが。よくぞ無事であった。苦労を掛けてすまなかった。」
そう言われ魔王に抱きしめられた俺は、あぁこの人は魔王だけど、良い人なんだろうなぁと直感で感じた。
何故だろう。耐性もあったし森での生活もけして寂しくはなかった。
その後も父さんに拾われ、幸せな日々を送っていた。
なのに…薄っすらと俺の頬には涙がつたっていた。
「苦労はなかった…ですよ。森での生活も最初は大変でしたがすぐに慣れましたし、育ての親である両親に拾われ幸せな日々を送ることができていました。」
俺は父さんと母さんとメルを紹介した。
最初、魔王と聞いて戦闘態勢にすぐに入れるように身構えていた父さん達も俺を抱きしめ謝っていた魔王を見てか、その警戒をすぐに収めた。
「我が息子を、ここまで育ててくれて感謝する。ぬしらが望むモノなら出来る範囲で与えようと思う…が何か欲しいものはあるか?」
「欲しいもの…ですか。ないですね。アルスが幸せに居られるのであれば、我々は…」
父さん…
「そうね。私もないです。本当の親元にいる方がアルスも幸せでしょう。もし、実の父親がろくでもない人なら絶対に取り返してみせる!と思っていましたが、そういう訳でもなさそうですし。」
母さん…
「兄ちゃん…がしあわせなら…」
メルは理解していないようだが、涙を堪えながら魔王を見つめる。
「陛下!」
「父さんでよいぞアルス…。どうした?」
「では、父上。褒美を与えるとおっしゃるなら父さんと母さんとメルも一緒に暮らしてはいけませんか?」
「なにっ?んー、まぁ構わんぞ。そちらの方々が嫌でなければな」
「よ、良いのですか?我々が行っても」
父さんは魔王の真意を確かめるように目をまっすぐにみつめた。
「何を言っておるのだ!当たり前ではないか!我が息子が、父、母、妹と思っているのだぞ!それはわしにとっても家族という事ではないか…。」
魔王…いや父上…すげぇいいやつだ。
魔族の王ってだけでめちゃめちゃ悪人だと思ってた。なんかすいません。
「それならぜひ…お願いします。我々もこの一件で追われている身故…」
深々と頭を下げる父さんと母さん、そして釣られてペコっと頭を下げるメルとカイト達。
どうやら上手くまとまったようだ。
「それと父上…この者らも連れてって良いですか?」
俺は部下達と今までの経緯を魔王に話した。
「そうか…そんな状況でも一切の躊躇なく我が息子について来たか。当たり前だ。人族であろうが、我が息子の配下である事に変わりはない。ぬしらも付いて来るが良い…これからも息子を頼む」
「「「「「はっ」」」」」
いつしか魔王に跪いていた部下達が頭を下げる。
なんと柔軟な対応…さすがだ。
「では、父上…他の皆は先に魔国に連れて行ってください。俺1人で戦争を止めてきます。」
「勇敢な事は褒められるが、さすがに1人で行かせる訳にはいかん。お前はもう次期魔王なのだぞ?ゼス…お前が付いていけ」
「はっ!承りました陛下」
先程の黒ローブの真ん中の人が立ち上がり、俺の隣に来る。
「こいつは俺の一番信用している男だ。実力も知識も他の者と比べられん。一緒に連れていけ」
俺も行く、私も行く、俺も行きます、隊長!俺も行くぜ、等々皆がついて来ようとしたのを魔王に任せ、俺はゼスさんの魔法で戦場に戻った。