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29話 白霧の森



「父さんが…裏切り?ロングズマン辺境伯を殺害し逃亡??そんなわけ…」



 俺は突然大佐に呼ばれ、そう聞かされた。

どういう事だ?何が起きてる?



「理解できない気持ちもわかる。それに、俺もレイナード閣下がそんな事をする訳がないと思っている。だが、上からそう連絡が来た。で、アルス少尉…君も王宮への召還命令が来ている。」


「王宮にですか?」


「あぁ、副官に引き継ぎ、支度を整え次第とりあえず司令本部に行ってくれ」



 大佐と別れ、歩きながらも俺は頭をフルに回転させていた。

あの、お人好しで馬鹿真面目な父さんに限って裏切って仲間を殺害して逃亡するなんてありえない。

きっとなにか事情があるのだろう。



 しかし、どんな事情だ?

ロングズマン辺境伯を殺害したという事が事実だとすると、そうしなければいけない何かがあったという事なのか?



 頭をひねっても答えは出なかった。




「隊長、何かあったのですか?」

思い悩んで暗い顔をしていたのだろう、カイトが心配そうに聞いてきた。



 他の面々も一様に不安げな顔をしている。



 とりあえず俺はいつものメンバーを集め、大佐から聞いた事と、自分で思った事を話す。



「それは何かおかしいですね…。隊長が言うのならレイナード閣下は確かに真面目な方なのでしょう。それに我々ですらレイナード閣下が国に対する忠義を重んじている方だと耳にした事があります。」

カイトはんーと唸りながら意見を述べる


「裏切って殺害し逃亡。という情報を無視して、隊長の言う印象から推測すると、なんらかの事情で殺害し、それを報告できない状況だった為に逃亡した。という感じなのでしょうか?」

レオナルドの意見は俺の考えと似ていた。



 だが、そうなるとおかしい。

ロングズマン辺境伯が裏切りを起こしそれを止める為に父さんが殺害したと仮定した場合、しかしそれを報告しない理由は何なのだろうか。



「例えば、ロングズマン辺境伯が裏切りそれを止めて誤って殺害したとして、それを報告しないで逃亡した理由がわからない」


「報告できなかった?報告する相手も裏切っていた…上もグル?という事ですかね」

エルが俺の問いにそう答える


「だが、そんなことがあるのか?」



 そこからは皆一様に唸るだけであった。



「で、隊長はどうなさるおつもりですか?」

カイトが言っているのは王宮への召喚命令の事だ。


「行かない理由がない。」


「もし、例えばそれが陰謀であったとしてこのタイミングで戦時中に王宮へ召喚って怪しくないですか?事情聴取にしても、まだそんなに日が経っていないのですよね?そもそも戦地にいる隊長が居場所を知っている訳がないと思うのですが…」

レオナルドの意見はすでに検討していた。



 俺は身内である為、100%父さんを信じているが、だとしたらこの状況での召喚はなにか裏がある気もする。


 しかし、行かないというのはそれもまた不信感を抱かせかねない。



 どうするべきか…

行くしかないよな…


『行ったら死ぬぞ…』


「え?」


「え?どうかされましたか?」

カイトが不思議そうに俺を見る。


『もし行ったら、ぬしは死ぬ。』


「それはどうゆう?」


『詳しい事は今は話せない。だが信じて欲しい!司令本部にも王宮にも行かずに、白霧の森に行くのじゃ!今すぐに…』


「誰なんだ?あんたは」


『…』



「…ちょう!隊長!!どうしたんだ?」

ガイゼンが心配そうに俺の顔を覗く。


「頭の中に声が聞こえた。王宮に行けば死ぬかもしれないから、行ってはダメだと」


「それって…もしかして神託ですか?」

カイトが目を見開き俺を見る。


「神託?」


「はい!主に聖女や勇者にしか聞くことのできないという神様からのお告げです。そもそも魔法では脳内に語りかける事は不可能です。神、もしくは精霊のような特別な存在でないと…」


「俺は…逃げた方が良いと思います。どうもこれはきな臭い感じがします。」

レオナルドがつぶやくように言う


「隊長!俺もそれに賛成だ!隊長の親父さんが悪い人なわきゃないぜ」

ガイゼンはなぜか急に立ち上がる


「ですね。神託であるとしたら、それを信じるしかありません。逃げましょう」

カイトも立ち上がる


「うん。僕もそう思う。絶対になんかおかしいです。」

エルも席を立つ


「俺は隊長の決めた答えに従う」

ジョゼフは顔色を変えずにそう言う。


「よっしゃ!じゃあ俺らも準備するか」

レオナルドとジョゼフが立ち上がる



「ん?なんでお前らが準備するんだ!」


「何でって決まってますよね?皆、隊長について行きます」

カイトの言葉に皆が頷く光景を見て俺は面喰らった。


「何言ってんだ?たとえなんかの陰謀だろうが、国では今父さんが殺害して逃亡しているという事になってるんだぞ?俺も逃げれば同罪、お前らも一緒に来たらもうこの国に戻る事も出来ないかもしれないんだぞ?」


「ついて行かねぇっていう選択肢がねぇ。俺らは隊長に命預けたんだぜ?逃げる時も戦う時も一緒に決まってる」

ガイゼン…なんか今すげぇかっこいい事言ってねぇか


「しかし、下の者は置いて行きましょう…。我らと違い家族がいる者も多いですし、それに日が浅い者が殆どで、確実に信用する事ができません」

レオナルドの意見は確かに一理ある。


「よし!そうと決まればさっさと支度してちゃっちゃとずらかろう」

ガイゼンの最後の言葉で俺らはすぐに動き出した。






 数十分経たずに全員が支度を終え、俺らは近くにあった馬が待機している場所から人数分の馬を調達し、他の兵に悟られないように森を疾走した。



「で、これからどこに向かうんですか?隊長」

隣を並走するカイトが聞いてきた。


「あの声は白霧の森に行けって言ってたな」


「白霧の森ですか…ここから馬で数刻程の場所ですね。」



 白霧の森は読んで字の如く、白い霧が常時充満している視界の悪い森であった。

そもそも白霧の森に行け、と言われたがその中のどこに行けば良いのかは分からなかった。



 だが、追っ手が来る可能性もある今この霧に包まれた森は幾ばくかの安心感をもたらせてくれた。



「あぁー腹へったぁ…」


「ガイゼン…今はそれどころではないだろう」


「レオナルドー、しかしよぉーそう言っても腹は減るんだから仕方ねぇーだろ」

 


 ガイゼンはいつもの通りであり、その緊張感のない会話を聞き俺は少し心を落ち着かせた。



「ん、なんかありますよ?」

森に入って数十分経ったあたりで、先行していたエルは馬を止め霧の向こうを指す。


「なんだこれ?教会…か?」


ガイゼンの言う通りそこに見えたのは確かに教会であった。

長らく放置されていたのか壁には鬱蒼とした蔦が巻きつき、窓に嵌められたステンドガラスは割れていたが、そこまで苦労する事もなくそれが教会だと俺達は理解した。


「こんな所に教会があるなんて聞いた事ないですね…」

「お、おい!誰かいるぞ!」



 カイトの呟きを搔き消すガイゼンの警戒の言葉に皆その視線の先を見た。



 確かに人がいる。

霧であまりよく見えないが、3人いる気配を俺も感じた。



 馬からすぐに降りたガイゼンとレオナルドが武器を構え、他の面々もすぐに馬から降りた。



「おい…何者だ」

レオナルドが霧の向こうの人影に声をかける。


「チッ」

小さい舌打ちが聞こえ、霧の向こうから凄まじい速度で一人飛び出してきた。



 手には剣が持たれていて明らかに攻撃態勢である。

レオナルドが受け止めようと剣を構えるが相手の方が一瞬速い。



 あぶねぇー!レオナルド!!

そう叫ぼうとした時、相手の男と目が合う。



「な…父さん!?」「アルス!?」



 父さんは慌てて剣を引き、斜めに転がってレオナルドを避けた。



「アルス、なんで俺らがここに居るのがわかったんだ?」


「え?いや…なんか神のお告げみたいな声に導かれて森に来たら…居た!みたいな?」


「神のお告げ?そんな事あるのか?」

父さんは苦笑しながらも俺の頭に手をのせ撫でてくれた。


「で、父さんどういう状況なの?」


「その話は少し待て…母さん達のところに行こう」


「母さん達もここに来てるの?」



 確かに3人気配があったな。



 俺達は父さんに連れられ霧の先に居た母さんとメルと合流した。



「アルス!!やっぱり無事だったのね!!さすがは私の息子っ!!」

母さんが抱きしめてくるが勢いが凄くて少し痛い。


「に…兄ちゃん!!」

メルも俺のお腹に飛びついてきた。

少し背が伸びたな。


「紹介する!お前らこっちが父さん、こっちが母さん、でこっちが妹のメルだ。

で、父さん達…こいつらは俺の隊のメンバーで事情を話したら付いてきてくれたんだ。

右からカイト、ガイゼン、レオナルド、エル、ジョゼフ。」


「そうか…君達にも迷惑を掛けたようだ…申し訳ない」


「頭をあげてください!レイナード閣下。私達は隊長に命を預けた身…付いてきたのも自分達の意志です。」

頭を下げる父さんをカイトが必死に止めている。


「良い仲間を持ったのね…アルス」

母さんは温かい目で俺を見てくる。





 そして、俺らはついに本題を話し始めた。



「…という事で、俺はその場をその部下の転移魔導具で逃亡し、母さん達と合流してアルスの元に向かっていた。」


「そもそもアレってなんなの?父さんが何か国に対して不利益になる事を知ってしまったってことでしょ?心当たりはあるの?」


「アレという隠語に心当たりはある。だが、ロングズマンが言っていた関わっているという事に関してまったく心当たりはない。」


「で、あなたアレって…」


「重要機密なんだが、もはやそれも関係なくなってしまったからな。俺が知っている事を話そう。」



 そうして父さんが語り出した内容は、途方も無い話だった。

以前国王陛下から直に聞いたという事からそれが事実である事は明白。

それはとてつもない大乱の引き金になりかねない。



「だから、魔族は攻めてきたんですか?」

カイトが恐る恐る父さんに尋ねる。


「あぁそうだ!宣戦布告の際、上層部のみにしか知らされていなかったが返せば矛を収めるという内容を魔国側は伝えてきたらしい。」


「でも、おかしいわよねそれ。だってそれが起きた以前の戦争の時はあなたはそれを知らなかった訳だし、もちろん関わっていないのでしょ?それなのにあなたが関わってるって変じゃない?」

母さんの指摘は正しい。

どこか辻褄が合わない。


「そこなんだ。俺もよくよく考えてみたが、もし…俺が関わっているのだとするなら…それは…」




 辺りが突如静まり返る。

俺は目の前の光景に目を見開いた。

父さんや母さん、メルや部下達が消えていたのだ。






 そして、俺はいつの間にかとても清潔で空から光がステンドグラス越しに降り注ぐ教会の真ん中に立っていた。






 降り注ぐ光が粒子となり、気づけばそれは集まり形を形成しだしていた。

光の瞬きが収まると、そこには1人の老人が座っていた。









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