26話 第二師団 第五中隊
南大陸の人族領と魔国との戦はすでに数カ月にも及んでいた。
数で勝るローゼン王国も、魔国の軍勢の士気と練度の高さに切迫した状況が続き、前線は血の海と化していた。
「くそー 死にたくねぇーよー 息子が生まれたばかりなんだ俺はー」
「俺だって娘が」
「ハルー生きて帰るからなー」
前線の兵士達は心身ともに限界が近く、死していく同胞達の姿に己の未来を重ね来る日も来る日も死の恐怖に迫られていた。
毎日最低でも数百の命が消える戦場。
しかし、後方からの援軍は未だ到着していない。
複数ある戦場の一つ、その前線で戦っていた兵士達は援軍を今か今かと待ちながら目の前の敵に死力を尽くして挑み続けた。
そんな中、後方の兵士の1人は何かの気配に気付く。
「な、なんか来るぞ」
ダンダンダンダンダンダンダンッ
規則正しい地響きが響く。
そして、遠くその光景を見た兵士達は心の底から震え上がるほどの歓喜を感じた。
「援軍だー!!援軍が来たぞー!」
誰かわからぬ兵士の叫びに次々に後方を振り返りそれを確認する。
後方から一万を超える援軍が向かってきていた。
現在この戦場で相対している魔国軍は現状約三万程。
対するローゼン王国側は当初の五万から三万五千まで数を減らしていた。
が、ここにきての援軍。
死者数がとんでもない数になっていたローゼン王国軍の兵士達はこれならなんとか勝機がある。
と、士気を高めた。
「な、あの部隊はなんだ?すげぇ勢いで突っ込んでいくぞ」
周りの兵も後方の援軍から飛び出した一つの部隊を目で追っていた。
人数から見て中隊規模である。
その中隊が後方から前線の兵隊を追い越し敵の軍勢に向かっている。
あ、やばい。あいつら死ぬ。
皆一様にそう思った。
しかし…
その隊は敵の軍勢と衝突した瞬間、凄まじい勢いでどんどん敵兵を薙ぎ倒していく。
「な!!何が起きてる?あの隊はなんだ!?」
目を見開く前線の兵士をよそにその隊は一向に勢いが収まる様子もなく、気づけば数百の屍を一瞬にして築いていった。
その中でも、一番先頭にいる小柄な男と、周りの数人の兵士はとてつもない強さを誇っていた。
ほぼその数人で事をなしていると言っても過言ではない。
敵の軍勢も何が起こったのか分からないのか、慌てて一旦退却していく。
そして、それを追わずにその隊は前線の兵士達を振り返った。
「よっしゃーー!!魔国の野郎ども蹴散らしてやったわー!!!」
一際大きい巨人のような男が大斧を天に掲げながら、雄叫びをあげる。
それを聞き他の兵士達も吠える
「「「「「おーーーッ!!!!」」」」」
向かってくるその隊に、皆呆然としていた。
なんなんだ。この隊は…
こんな強い中隊知らないぞ…
兵達はその正体を頭の中で考えてみたが答えは出ない。
その後、後方からの援軍と合流した前線の部隊では、援軍の指揮官と前線にいた指揮官が集まり話をしていた。
前線の指揮官はトールズマン中佐、
そして後方の指揮官は今回のこの戦争で副司令を任せられているマリオット大佐。
「トールズマン中佐、よく持ち堪えてくれた!素晴らしい働きだ」
「マリオット大佐…この場に来られて大丈夫なのですか?司令本部は誰が…」
トールズマンは少し緊張した面持ちでいる。
「総司令には許可を取ってある…実は元帥閣下が出陣し司令本部に待機してくれているのだ。それに伴い俺も戦場に出てきた」
「なっ、元帥閣下がですか?あの方は引退なさったのでは?」
「気まぐれだと仰っていたが、これ程までに心強いものはない」
元帥閣下…あの方が来たとなれば、この戦…覆る兆しが見えてきたな。
「して、あの先程の隊は何なのですか?」
「ふっ あれか!?あれは隠し玉だな。」
「隠し玉ですか?」
「あぁ、あやつは凄いぞ。たったの数カ月で曹長から仮とはいえ少尉にまで階級を上げ、小隊長から中隊長にまで至った。その功績は他の者とは比べ様もない。あの魔国の奇襲突撃部隊をたったの30人の小隊で破ったのだぞ?」
「な、奇襲突撃部隊を30人で!?あの部隊の隊長は何者なのですか?」
「ちょうど来たようだ!自分の目で確かめたらどうだ?」
トールズマンが目を見開き前のめりになっていた時、後ろから噂の中隊が現れた。
剣、槍、斧、弓、杖、魔銃、重装、軽装、全てがちぐはぐでとても均等が取れているとは思えない隊であった。
トールズマンはその真ん中を歩く男、いや少年を見やる。
な、子供ではないか!?
あれが隊長だというのか?
「アルス!こいつが前線の指揮官、トールズマン中佐だ。挨拶しておけ」
「お初にお目にかかります。第二師団所属 第五中隊隊長 アルス・レイナード少尉です。」
※戦況が変わった為、後方第一奇襲部隊は大幅に増員し、第二師団へと名称を変えている。
トールズマンは生唾を飲んだ。
「れ、レイナード。マリオット大佐まさか!?」
「あぁそのまさかだ。彼はレイナード大将の息子だ。」
戦鬼…ローゼン王国最強の戦士 大将 ケイレス・レイナード伯爵…その息子。
確かに見た目が子供であるのにその見た目に全く似つかわしくない重々しい気迫を感じる。
この少年…間違いなく強い。
確かに大将の息子と聞いて違和感は感じない。
「よろしく頼む、アルス少尉」
この時トールズマンはまだ知らない。
この者こそ、後に冷血無双と呼ばれ恐れられる事になる自分が命を懸けて忠義を尽くす事を誓う将になる男だという事を。
「肉だっ!!隊長!!さすがだ!あの入り組んでいる森で野うさぎをこんなにも捕まえてくるとは!隊長はもしや狩人の方が向いてるのではないか!?」
ガイゼンが両手に野うさぎの丸焼きを抱え、がつがつと貪りつきながらアルスを褒めちぎる。
「食べている時くらい静かにしたらどうだ?お前も仮とはいえ軍曹になったのだぞ?自覚を持て」
カイトがガイゼンを睨みつける。
いつもの日常である。
「しかし、俺らが軍曹とは…数カ月で大出世ですね…」
レオナルドが感慨深そうに息を吐く。
「確かに数カ月前は考えもしてませんでしたね」
エルがレオナルドの言葉に大きく頷いている。
「それにしても隊長は凄いですよ。戦時である為仮ではありますが、曹長からいきなり少尉なんて…いくら士官学校に通ってるとはいえ卒業してからですら准尉スタートが通例ですよ…。それに私達まで一段階階級が上がるなんて…有り難い限りです。」
カイトは何かにつけ俺を褒める。
ガイゼンもだが、カイトの方が饒舌な上に回数も多い。
嬉しいのだが、どこか恥ずかしい。
「まぁでもよ、俺らはそれだけの働きをしてきたぜ?ここ数カ月…」
ガイゼンの言葉に一気に場が静まる。
奇襲突撃部隊との交戦の後、近くの街を占拠しに来た魔国の部隊とかなりの数交戦している。
街が襲われる度に、あの街に行け、この街に行け、と指令が入り、行く度に勝利と引き換えに仲間がどんどん減っていった。
戦闘をして仲間が減り、本部に戻れば補充されていく日々。
たしかに皆が戦場で死の狭間で急成長を遂げている。
しかし、その日々に生き残った隊員達は心を少なからずすり減らしていた。
死にゆく仲間だけではない、生き残った者達も俺を含め全員大怪我を負ったのは一度や二度ではない。
その戦場の壮絶さに心が折れ、逃げ出した隊員も何人かいた。
しかしそんな俺達の心境とは裏腹に勝利を挙げる度に補充される兵の数は増え、いつしか小隊から中隊になり、俺とカイト達は仮ではあるが昇級した。
隊が大きくなり他の隊と合同でさらに戦地に送られる回数が増えた。
昨日まで話していた仲間が隣で首を刎ねられる日常にも慣れていった。
その中で、生き残った者達は思い思い考え鍛錬と戦いの日々を繰り返してきた。
皆一様に思っていたのだ。
弱くては何も守れない。
仲間も自分すらも。
誰が言ったわけではなく皆が常に強くなる為に必死になった。
それが、なに。と聞かれれば分からない。
が、強くならなくてはいけない。
それは分かっていた。
「いつになったら終わるんですかね?この戦争は…」
エルの呟き。皆が思っていた事だった。
ローゼン王国では現在大きく分けて三つの戦場があり、その全てが拮抗した状況であった。
他国も同じような状況だが軍団規模の兵士を複数の場所に即座に出せるような三大国とは違い、小国はすでに複数が壊滅している。
一つの戦場ならまだやり易いが、複数ある上に近隣の街や村などが奇襲を受けたりしている現状、なかなかこの拮抗は覆せなかった。
せめて敵将を1人でも討てれば、状況は変わる。
「先に逝った仲間の為にも、必ず勝たなければな」
「我らは隊長についていくまでです。隊長が勝つと言うのなら必ず勝ちます。」
「当たり前だ!勝ち以外はねぇ」
「僕もやりますよ…」
「やってやりましょう」
「…必ず」
とりあえずは仲間を1人でも多く生きて帰らせる。それが目標だ。
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