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24話 交戦




 二週間の待機の後、俺は大佐に呼ばれ任務を告げられた。




「後方第一支援部隊が奇襲を受けた。それに伴い四個小隊を向かわせたが、現在連絡が途絶えている。

という事で、君の小隊を向かわせる事が決定したが現地に到着し次第状況の把握、危険な場合は即撤退し報告してくれ」


  

 状況の把握の任務か。

しかし、支援部隊?

あいつら大丈夫なのか。



「大丈夫だ。君の心配する者達は別部隊で、現在厳戒態勢で守られている。

では、すぐに行ってくれ」


「はっ!」






 司令本部を後にした俺は、小隊の所に戻り任務内容を皆に告げた。


「隊長、その先行した四個小隊がもし壊滅していたとしたら敵は相当危険な部隊という可能性が高いですね」


 カイトの心配は正しい。四個小隊となれば120人〜240人程度。つまり中隊規模だ。

後方の支援部隊を狙っての奇襲という事案から敵が精鋭の少数部隊であると判断できるが、四個小隊が壊滅するような事態が起きているならその練度は極めて高い可能性がある。

それ故に殲滅の為の援軍ではなく、偵察に近い任務を小回りの効く少数で行えという事だろう。

つまりそれはすでに先行組が壊滅していたら戦わずに直ちに逃げろ。という事だ。

重要なのは状況を確認し本部に伝える事。


「危険な任務になるかもしれないが、皆自分の命を大切にしてくれ」

今のところ俺はそう言うほかになかった。






 走って2時間程の場所に後方第一支援部隊が居る場所はあった。

森の木々の間に空いたスペースに待機していたようなので、俺達は木々の隙間からその光景を見ていた。



 壊滅?そんな言葉では言い表せない惨状。

数百人の屍の殆どはローゼン王国の兵士であった。



「た、隊長…これは…」

「全滅だな」



 俺とカイトは並んでそれを見ていたが、言わずともわかる程に明らかな事実がそこにはあった。



「あの奥、飛竜がいますね」

レオナルドに言われ奥を見ると確かに飛竜が数十体居り、死んだ兵士の肉を貪っていた。


「お…おぇーーー」

下の兵士の1人がその光景を見て嘔吐している。

確かにこれは吐いてもおかしくない。



 首を斬られ、身体だけの死体。

首だけの死体。

爆散して飛び散った死体。

押し潰されぐちゃぐちゃになった死体。

腹から真っ二つにされている死体。



 そして、それを喰らう飛竜。



 これが、戦場。



「待て、敵がいる」

隊員達に向けて手を挙げ、動かないようにしてから前方を見つめる。



 飛竜に乗ってきた兵か。

数は数十人。

全員が黒い甲冑を着ている。



「あれは…竜騎士…魔国の奇襲突撃部隊です」

「奇襲突撃部隊?」

「精鋭の中の精鋭と呼ばれ、少数でありながら中隊程の武力を誇るという魔国の花形部隊です」



 カイトの情報が正しければ、今目の前にいるのは半端じゃなく危険な敵という事だ。



 竜騎士達の真ん中に黒いドレスに軽装な鎧をつけた少女が居るのが見えた。

場に似合わないその出で立ちに、俺達は目をひかれた。



 少女と目が合った…

なにやら他の兵達に指示を飛ばしている。

その直後、一気に振り返った兵達が俺達の居る森目掛けて凄まじい速度で走ってくる。



「な!!に、逃げましょう!」

カイトが叫ぶ


「何を言ってる!?戦うぞ!!」

ガイゼンが吠える



 二択。しかし、相手は竜騎士。

今は走って来ているが、俺達が逃げれば飛竜に乗り追ってくるはずだ。

そうなれば逃げても追いつかれるだろう。


「飛竜に乗られたら逃げても追いつかれる。とりあえず交戦し隙があれば撤退する」

俺の指示で、隊員が皆武器を構える。



 この戦況覆すなら森の中に勝機はある。

拓けた場所では、練度で負けてしまう。



「森の中で戦う!!絶対に拓けた場所に出るな!練度で勝てないなら、頭を使え。絶対に勝って無事に戻るぞ」


「「「「はっ!!」」」」



 森と拓けた草原の間で魔国の兵は足を止めた。

そして、そこから1人…先程の少女が進み出てくる。



「ベルゼビュート大魔王国 奇襲突撃第二部隊 隊長のローナだよ!!

みんな初めまして!!!

あ、でも会ったばっかでごめんね!

皆殺しちゃうけど許してね」



 最後に舌をペロッと出す少女。

普通なら愛くるしいが、この場では逆に狂気を感じた。

少女は細剣を手に持ち、明らかに俺の事だけを見てゆっくりと歩き出す。



 なんだ、この威圧感。

こいつ本当にやばいやつかもしれない。

今までここまで危険な臭いのする敵はいなかった。




 俺は慌ててローナのステータスを確認する。


――――――――――――――――――――

名前/ローナ

家名/

年齢/19

種族/魔族

職業/魔剣士

称号/戦姫、殺戮者


レベル/124

HP/37,000(37,000)

MP/34,000(32,500)

攻撃力/49,200

防御力/41,000

俊敏/12,000

器用/7,800

幸運/6

魔法適正/火、風、雷、闇、無


固有魔法/[暴食/LV.MAX]

攻撃魔法/[炎刃/LV.MAX][風刃/LV.MAX][雷刃/LV.MAX][人形演劇/LV.MAX][血縛り/LV.MAX][拡声/LV.MAX]

防御魔法/[身体強化/LV.MAX]


固有スキル/[魔剣士/LV.MAX][鍛錬の道/LV.MAX][自動回復/LV.MAX]


耐性スキル/[毒耐性/LV.MAX][精神攻撃耐性/LV.MAX][麻痺耐性/LV.MAX]


神聖スキル/[魔神の加護][邪神の加護]

――――――――――――――――――――


 124レベ?攻撃力49200!?

しかも5系統扱える魔剣士。

こいつ…父さんより強い。

まじでやばい。

 

 今まで出会った中で一番危険なやつだ。


 俺は生唾を飲み込み少女を見る。

ふと少女が消える。

いや、物凄い速度で走って来ている。




 俺は目視するのを諦め軌道を予測して、剣を出し斬撃を止める。




「凄い!!これ受け止められる人、魔族でも殆どいないんだよ??強そうだから結構本気で行ったんだけどなぁーー」

少女は、本気で構えて受け止めた俺が、そのまま少し後ろに弾かれる程の凄まじい勢いで斬撃を放ったにも関わらず、顔に呑気でにこやかそうな表情を浮かべていた。



 

 頭の中に響く警報。

これは、まじでやばい。

冷や汗が額から首筋に落ちる。



 とりあえず距離を置くしかない。



 俺は森を出てから殆ど使ってこなかった念動力の魔法を発動し、少女を吹き飛ばす。

いつもの数倍は魔力を込めた念動力だが、少女は数m程吹き飛ばされただけで体勢は1ミリも崩れていない。



 くっ、どうする…



 周りを見ればいつの間にか隊員達も敵と交戦していた。

が、数人すでに斬り殺されている。



 これなら死ぬ気で逃げていた方がよかった。

俺の判断ミスだ。



「よそ見してたら危ないよ?」

目前にすでに少女が現れ、炎を纏う剣を振り上げていた。



 炎刃って魔法か。



 俺は慌てて剣を構えながら身体強化を発動し、さらに全身に気功を巡らせる。



グハッ!!!!



 しかし、身体強化と気功…さらに持ち前の防御力により鉄壁であるはずの俺の身体はローナの軌道を瞬時に変えた刺突により左肩を貫かれる。



 炎刃はフェイクか…



 気付いた時には、貫かれ刺さったまんまの剣が青白く瞬く。



「なっ!!??ぬ"あ"ぁーーーー!!」



 雷刃…くそっ…刺したとこから電流を…



 さすがに足がふらつき跪く俺。

身体には痺れと激痛が走っている。

細剣を抜き、それを不思議そうに眺めるローナ。



「気絶するくらいには魔力込めたんだけどなぁー。君、結構タフだね」

返答を求めてはいないのだろう。

ローナはそう言うとすぐに細剣を構え直す。


  

 構えた剣からは轟々と炎が捲き上る。

またフェイクか?


 いや、それよりこの状況やばいぞ。

足が痺れて…走れそうにない。


 俺は焦る心を落ち着かせ、策を考える。




 これしかない!!!



「じゃあそろそろ死んでね!久々に楽しかったよ!」

燃える細剣が振り下ろされる。



 しかし、アルスは走るわけでもなく、そのままの体勢で横に吹き飛ばされる。



「え?」

何が起きたのか分からず、吹き飛ばされたアルスを見つめるローナ。


  

 アルスは念動力で自分を横に吹き飛ばしたのである。



 なんとか痺れが収まった足を地面につけ、十m程離れた場所で停止するアルス。



 しかし、この後どうするべきか迷っていた。



 こいつをなんとかしないと絶対に逃げられない。

が、相当に強い。



 俺は頭の中に出来うる攻撃を並べた。

念動力、気功、火弾、水弾、風斬、雷撃、火炎砲、業水、龍の息吹、豪雨雷鳴。



 炎系は却下だ。あと広範囲攻撃である豪雨雷鳴もダメだな。

森の中ではこっちにも被害が出かねない。

肉弾戦に気功を混ぜ、念動力と炎と広範囲以外の魔法でフォローする。

それしか方法はないようだ。



 ん………待てよ。

あれがあるじゃないか。

うん、一回きりなら絶対使える。

あとはタイミングか。




 アルスは考えた策を悟られないように焦ったような顔を浮かべながら、ローナに向かって走り出す。



「まだ走れるんだね!すごーい」

ローナはなぜか嬉しそうにしていた。



 俺は刺し傷のある左腕を諦め右手のみで剣を握りながら、全速力でローナの目前まで行くと、一気に跳躍して上段斬り…

と見せかけて、気功を本気で込めた膝蹴りをローナの腹に叩き込んだ?



「ぅ…ガハッ」

予想外だったのかお腹を押さえ、前のめりになるローナ。



 俺はその首筋に向け剣を上段から振り下ろす。


キーーンッ!!



 しかし一切目視せずローナが掲げた剣により斬首は防がれる。



「びっくりしたー!めっちゃ痛かったんだけどー」

頬を膨らませ睨むローナ。


「さっきのお返しだ」

俺はそれだけ答えると、剣を構え直して斜めから袈裟斬りを放つ。



 しかしローナはそれを後ろに跳びのきかわし、そこから一気に前進して横一線の斬撃を放ち返す。

それを止めたアルスはさらに斬撃、それを受け止めて流しながら返す剣でローナが斬撃を放ち、さらにそれを上半身を後ろに引いてアルスがかわす。



 まさに、一進一退の攻防であった。



「君やっぱ強いね!!まだ子供だけど、魔族だったらうちの隊に誘ってたよ!」

ローナも少し額から汗をかいていた。



 が、アルスの冷や汗は半端じゃない。

一歩間違えれば即死なのは明白。

いくらアルスといえど首を刎ねられれば死ぬのは目に見えていた。



 先ほどの応用で念動力を利用して後方に飛び距離をあける。

そしてアルスは一息ついて距離のあるローナに斬撃を放つ。



 風斬、風の刃を飛ばす魔法である。

しかし、その斬撃は空中に跳んだローナには当たらない。



 が、アルスはここで少し笑みをもらす。



 そして空中に向けて雷撃と火炎砲を続けざまに放つ。

空中なら木々が燃える事もない。

そして逃げられない。



 しかし、その読みは外れる。

いつの間にか大きな黒い翼を生やしたローナはそれをさらに上昇する事で避け、そのまま一直線にアルスに向かって急降下を始めた。



 そうか…魔族には翼が…



 またしても細剣を轟々と燃やし、凄まじい速度で迫るローナ…

アルスは剣を構えたが、その速度と落下の力も加わったとてつもない威力になすすべもなく剣ごと腹を斬り裂かれる。






 勢いのままに斬られたアルスの後方に着地したローナ。

「誇った方が良い!君は人族の中ではズバ抜けて強かったよ」

そして、笑みをもらしながら振り返る。



 が、ローナは生唾を飲む。

いない!!なんで!!!



 そこに斬られたはずの少年がいないのだ。



 そんなはずない!確実に殺した筈。

だって真っ二つだったよ??



 後ろに気配を感じ、恐る恐る振り返るとそこにその少年が立っていた。



 避ける暇もなく慌てて出した腕で斬撃を受けるローナ。

しかし、少年の攻撃は止まらない。

空中に剣を投げたかと思えば、格闘の構えを取り腹部に掌底が叩き込まれる…

あまりの威力に吹き飛ぶローナ。

しかし、飛んだ先にはすでに少年が居た。

次々に飛んでくる風の刃によってローナの身体は切り刻まれていく。

高い防御力を誇る魔族であっても、ここまで斬られれば命は危ない。

冷や汗をかきながら、なんとか地面に足をつき、もつれて転がるローナ。

そこに、一気に詰め寄ってきた少年が青白く光る雷の魔法を放つ。



「ああああぁーーーっっっ」

  


 ローナは初めて戦場で死の危険を感じた。

とてつもない恐怖。

震える体。



 そしてローナは絶対に使いたくないと思ってたモノに手をかける。

首筋にかけられたぎょろぎょろとした眼球の付いたネックレスである。



 くそーこれ使ったら絶対あとあと皆に馬鹿にされるよー。

でも、死にたくないよー。




 ローナは仕方なくネックレスを握り、唱える




「帰還」







 アルスは目を見開いた。

影武者により、不意をつき念動力、気功、風斬、雷撃と無我夢中で繰り出し続けやっと倒せる見込みが出来たと思えば目の前の少女はネックレスを握り「帰還」と唱え、跡形もなく消え去ったのだ。



 逃げたのか?

あのネックレスは魔道具か。

ということは、



 勝った。

なんとか…



 だが勝った余韻に浸ってる暇はない。

俺はすぐに小隊の隊員を探すべく森の中を駆け出した。









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