23話 第六小隊
司令本部に着いた俺は他の特待生達とは別の部屋で待機を指示された。
配属が違うからなのだろう。
無機質な部屋…執務用のテーブルと椅子、そして客用のソファと小さな窓、それしかない殺風景な部屋である。
まぁ戦場だから当たり前か。
座って待っていてください。と言われたので俺はそれに従いとりあえず客用のソファに腰をかけボーっと窓の外を眺めていた。
コンコン 「入るぞ」
壮年の男の声が聞こえ、ドアを見るとそこからTHE軍人!という感じの顔の額から右目の下にかけて大きな斬り傷のある目つきの鋭い男が入ってきた。
顔、こえぇー
執務席の方へ歩いて行く男を目で追いながら、俺は立ち上がり執務机の前に立った。
こういう位置どりが通例だと、先程カイトさんに教わったのだ。
向かい合った男は、突然鋭い眼光を温和なモノに変えた。
「君がアルス君か…君の噂は聞いているよ!随分優秀なようだね」
優しい声色に、温和な目つき。
先程までの眼で人を殺すような凶悪な顔つきが嘘のようである。
「は、はい!アルス・レイナードと申します!」
「レイナード閣下の秘蔵っ子だと聞いている。報告によれば剣術では閣下と斬り合えるレベル、体術は軍の下級士官の数段上、魔法も宮廷魔導士に推薦したい程だと聞いた。それに戦術、戦略も学び、外国語や帝王学をも修得しているそうだな…。
会うまでは流石にそんな出来すぎた子供はいないと思っていたが、いやはや成る程確かにかなりやるようだ」
値踏みするような目線、明らかに見ただけで俺の戦闘能力を理解している、といった感じだ。
ステータスを確認した。
父さんの側近よりもかなり上の実力、この人…かなり強いぞ。
「おっと、すまないな。名乗るのを忘れていた。私の名はダーティ・マリオット。一応子爵に名を連ねる者だ。軍での階級は大佐、今回司令本部の副官を任せられている。
宜しく頼むよ!アルス君」
握手の為に伸ばしてきた手はゴツゴツとしていて大きくさらに幾多の傷痕が残っている。
マリオット大佐の今まで歩んできた道の過酷さが見て取れる。
「よしでは、着任式を始めるぞ。
曹長 アルス・レイナード。
貴殿を後方奇襲第一部隊 第二中隊 第六小隊の隊長に任命する。
小隊の人数は30名とし、副官にはカイト伍長を置くものとする。
隊員と合流の後、本部からの指示を待て。以上」
俺が小隊長?いきなりだな。
でも副官はカイトさんか…
知り合いがいるだけまだ気持ちは楽だな。
「はっ。その任、身命にかけ拝命致します」
「これで着任式は終わりだが、総大将 ケイレス・レイナード閣下より言伝を頼まれている」
「え?父からですか?」
「あぁ、自分の命と仲間の命を優先しろ。との事だ」
命を優先しろ。か
心配してくれているようだな。
退室後、俺の小隊が集まっているらしい指定された場所に向かう。
そこには、思い思いの装備を身に付けた兵達が待っていた。
基本的に士官でない限り装備は用意されない。
一応士官候補生である俺らが特別待遇なのだろう。
「隊長…お待ちしておりました」
先程よりさらに丁寧な口調でカイトが話し掛けてくる。
すでに隊長だと認めてくれているらしい。
ここからが大変だろうな。
いくら士官候補といえ俺はまだ子供だ。
その子供が隊長で、その隊長に命を預けなければいけない。
俺でも反感を抱きそうな案件である。
俺は集まっている小隊のメンバーを見渡す。
メンバーは全員直立で俺を見ていた。
剣を持つ者、槍を持つ者、斧を持つ者など武器もバラバラである。
さぁーどうしたものか。
何を話せばいいのやら。
「えーっと、この隊を任されたアルス・レイナードです。
まだ子供であるという自覚もありますので、思う所があるのも理解しています。
しかし、この隊を任された以上俺はこの隊の為身命を賭けたいと思っています。
なので、皆さんも協力してください」
はい、やら、おう、やら、へい、やら
返事もまばらである。
まぁそうだよなぁー納得いかんよなぁ。
どうしたものか、と思案していると隊員の中から1人明らかに他の者とは異質な巨人と見紛う大柄な男が出てきた。
「俺は強い者の下にしかつかん。いくら子供とはいえ俺はそこは譲れん。俺と試合をしろ…それでお前が勝てば、隊長だと認めてやる」
おーテンプレだなぁ。
確かに強そうだしなぁ。
まぁでも、これで勝てばちょっとは皆納得してくれるかな。
「貴様!何を言っている!隊長に失礼だろ」
カイトが怒って前に出る。
俺と男の間に立つカイトの肩を掴み、下がっていてください、と声を掛けると俺は男の顔を見上げる。
「それで納得して頂けるのならば構いません。いいですよ、やりましょう」
「いくら子供、試合といえど俺は手加減できないぞ?骨の数本は覚悟しろ」
向かい合う男、名前はガイゼンというらしい。
耳打ちでカイトが伝えてきた情報によると、巨人族と人族のハーフで数回出た戦ではとてつもない数の敵を一人で薙ぎ倒し功績を挙げたが、上官の指示に従えない事から兵長の階級で留まっているとか。
実力は、軍曹以上らしい。
ガイゼンが身の丈ほどある大斧を軽々とブンブン振り回し、さあ来い!といった感じで俺を見る。
一番最初の印象付けが大事。
と、帝王学で学んだ俺は剣を抜かずに軽い足取りで歩みを進める。
「おい!なめてんのか!!」
ガイゼンはこめかみに青筋を立てながら俺を睨む。
が、構えはとらない。
なめてるのはどっちだ?
俺はサディスティックな笑みを浮かべ、
肩、腕をぶらんと垂らした体勢で脚に力を入れる。
武術を多く履修し、さらには気功も扱える俺が修行の末編み出した一撃必中の技。
ガイゼンが何が起きたか理解出来ない程の一瞬で俺は腹の前に入り、後ろに投げ出していた右腕をそのまま弾丸のように前方に突き出す。
この際当たるまで一切力は入れず最速で突きを放ち、当たった瞬間に全筋肉を一点に集中させた上に気功を同時に乗せる。
凄まじい轟音とともに、目を見開き後方に吹き飛ばされるガイゼン。
周りの隊員も大柄なガイゼンが一瞬で吹き飛ばされた事に驚き、行方を見守る。
吹き飛ばされたガイゼンが土煙を上げゴロゴロと転がりやっと停止し、前を向くとすでにアルスはそこにはいなかった。
後方の首筋から伸びる剣が太陽を反射させガイゼンの目元を照らす。
「な!?ま、参った」
アルスはガイゼンを吹き飛ばした瞬間に、全力で走り出し誰にも気づかれない程の速度でガイゼンが停止する位置の真後ろに移動していたのである。
「「「「おおおおー!!!!」」」」
隊員達から歓声が上がる。
「す、すげぇー!ガイゼンていえば前回の戦で暴れまわって暴君とか呼ばれてた奴だよな?あの体格をあの小柄で!?半端ねぇ」
「つ、強すぎる」
「本当に子供か!?年齢偽ってる達人とかだろあれ」
「強いとか言う前に、速すぎるぜあの人」
なんとか印象付けは出来たようだ。
これで上手く指示を聞いてくれたら良いのだが。
俺は倒れてたガイゼンに手を伸ばし軽々と引き上げる。
「あんたは俺が出会った中で一番つえーぜ隊長。俺の命あんたに託す」
ガイゼンがそう言って俺に跪く。
良い意味でも悪い意味でも愚直な性格なのだろう。
「た、隊長。噂には聞いてましたがとんでもなく強いのですね」
カイトが近寄ってきたが、顔が少し引きつっていた。
「噂って?」
俺がカイトに聞くと、カイトは頭をかきながら実は…と話し出す。
「この隊の副官を任される時に、大佐から告げられたんですよ。今回の隊長は大将 ケイレス・レイナード伯爵の長男で剣術・武術はすでに士官でもトップクラス、魔法も軍の魔道士レベル、博学で王立士官学校の新入生首席であると」
「レイナード伯爵って、戦鬼…」
「剣術だけでなく武術に魔法…」
「王立士官学校首席…」
俺よりも先に反応したのは隊員達である。
そんなこんなで、なんとか俺は隊長として受け入れられた。
我が小隊は副官に伍長であるカイト、そしてガイゼンを含む兵長4人、上等兵 5人、一等兵 5人、二等兵 5人、三等兵 9人、そこに俺を入れた30名である。
カイトは経験豊富で地理に詳しいのでとても有用な副官である。
兵長の4人は、巨人のハーフである大斧使いのガイゼン、魔銃という特殊な魔法媒体を操る最年少の少年エル、なかなか腕が良く人当たりもいいお兄さん的存在大剣使いのレオナルド、そして寡黙な槍使いジョゼフ。
他の隊員はまだ隊と呼べるほどの経験はないし、荒っぽいが打ち解ければ皆気の良さそうな人達だ。
「で、今後はどうするんだ?隊長」
カイトと兵長達を集め、第一次小隊会議を始めるとガイゼンがすぐに発言した。
「んー、正直俺も良くわかってないんですよね。後方奇襲部隊ってたしか前線が相当荒れている時にしか動かないって聞いた事あるんですよね…つまり今は何もすることがないはずです」
「しかし戦況は今あまり良くないようです。任務が降る可能性は十分にありますね」
カイトが不穏な事を口にする。
「え?今戦況悪いんですか?」
最年少の兵長であるエルがカイトを見る。
「どうも魔族の進行が想定より早く、しかも練度も高い上に各隊が猛者揃いらしい…」
エルに説明するカイト。
それを聞いて俺は魔族の強さを改めて痛感した。
「戦ってみないとなんとも言えないが、油断はできない相手って事ですね…気をつけましょう」
俺は頷く皆を見て改めて、身を引き締める。
「あの、隊長殿…その…敬語は変ではないですか?」
レオナルドに言われ、ん?となったが、皆も頷いている。
「確かに軍は年齢ではなく力量や功績で階級が決まります。それに秩序という面からしても階級が最も上である隊長が敬語というのは軍組織的にもまずい気がしますね」
カイトにも言われ、確かにそうなのかと理解した。
帝王学でも学んだが、明らかな年の差だったので失念していた。
が、軍組織と言われたら改めるしかない。
「そうだな…。わかった!じゃあ敬語はやめる」
皆はうんうんと頷いている。
そして、それから二週間何の指示もなく俺らは待機を続けていた。
が、その日我々第六小隊はついに任務を与えられる。
その任務があれ程までに壮絶で、過酷なモノになるとはまだこの時誰も知る由もなかった。
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