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18話 不吉な予感





 朝から何やら騒がしい声が寮を包み、俺は目を覚ました。

今まで暮らしてきてこんなに朝が騒がしかった事はない。



 とりあえず着替えを済ませ、足早に部屋を出ると寮生全員が集まれるほどの広さの談話室に足を向ける。



 火事か?

とも思ったが、逃げている様子はなく、訝しい気持ちは増すばかりだった。

談話室に居た同級生の1人を捕まえ、どうしたのかと聞いてみる。




「新聞!読んでないの!!??」



 その生徒がおもむろに抱えていた新聞を俺に渡してくる。



 この世界の新聞はとても作るのにコストがかかるというのもあり国家的な大事な出来事が起こらない限りは発行されない。



 発行されるとすれば、脳裏によぎるのは…

戦争の二文字である。



――――――――――――――――――――

【ローゼン王国 国営新聞】


昨日未明ローゼン王国王都内上級貴族居住エリアにおいて、公爵 マルセル・レオナルド・ローゼンハイム殿下が殺害されているのが発見されました。

また殿下の屋敷に仕えていた従者、並びに護衛の兵士 計38人が死亡、2人が重症にて救護院に搬送され未だ意識は戻っていません。


目撃者の話では犯人は漆黒の仮面をつけ、全身に黒のローブを身に纏った性別不明の単独犯である、と一致しており犯行後、殺害に使われたと思われる身の丈程ある大鎌を所持し、逃走しています。


これに際し、宮廷はこの事件に関する情報を集めています。

目撃、もしくは心当たりのある方はお近くの軍詰所までお越し下さい。

――――――――――――――――――――



 な!?公爵殺害、だと?

国内での暗殺?

もしくは、他国からの刺客?



 どういう事だ。公爵だぞ?

警備も厳重だったはずだ。



 それに単独犯?

単独犯が厳重である公爵の屋敷に侵入し、護衛を含む40人を襲ってそのうち38人を殺害してから公爵を殺害するなんて、そんな芸当できるのか?



 もし、それが事実なら半端じゃない強さを持つ者の犯行なのは間違いない。

しかも、逃走している。

昨日起きたという事はまだ国内にいる可能性が高い。




 おいおい、これってマジでやばい事件なんじゃないか?




「この犯人人間なのか?いくら腕の立つ暗殺者でも、さすがにこれはきついんじゃないか?」

「どこの国の暗殺者なんだろ」

「いや、もしかしたら自国の…」

「おい!それは口に出したらダメだろ」



 談話室内はその話で持ちきりである。



キーンコーンカーンコーン



 登校時間のベルが鳴り、話は中断されて皆一様に談話室を出て行く。

それを見送った俺も今日はクラスに行ってみよう、ととりあえず寮を出る。



 外に出ると、いつから待っていたのかマリア、ミラ、トルスの3人がそこに居た。


「聞いた?公爵の話」

早速マリアが話を振ってくる。


「あぁ大変な事になったな。他国が犯人なら戦争、自国内でも内乱になりかねない。」


「戦争になったら学校も休みですね」


「いや、もしかしたら大きい戦争なら私達も召集される可能性もあるわ。一応この学校の生徒は軍人扱いだもん」



 ミラが言う通りここ王立士官学校は、入学したと同時に軍人としての登録が済まされる。

そして卒業とともに士官として現場に出るのが通例だが、非常時、例えば戦争などが起きた際には召集される事も想定されている。

基本的には上級生のみが召集されるが、大きな戦争ともなれば新入生も戦場に呼ばれる場合もあり、特に特待生は新入生でも高確率で召集される。




「どうなっちゃうんだろうなー」

俺はまだこの時何となく、としてだけでこの事件を考えていた。

まさか、後にこの事件が自分をも巻き込む大きな渦になっていくとも知らずに。









 その頃、王城には佐官以上の士官と国の重鎮が召集され会議が開かれていた。



「なに?我が国だけではないだと?それは誠か?レイストフ卿」

文官の長である首相 ストランド侯爵が声を上げる。

痩せ細った身体は心労からかいつにも増して痩けて見えた。


「私の部下に探らせた所、タイラーン帝国の首相、マリアナ公国の伯爵、ロイズ連邦の副議長、レイモア教国の大司祭、モルドナ王国の左大臣など各国の重鎮が殺害されているようです」

細身で長身そして女性と見間違う長い髪を持つ大将の1人 知将 レイストフ伯爵はスラスラと各国の殺害された者達を挙げていく。

事が起きる前に不穏な前兆を感じ、探らせていたのである。


「うち、タイラーン、マリアナの三大国相手にそんな事ができる国なんかあったか?いくらなんでも同時には戦争もできんだろ!?」

一番古株の巨人と見紛う大柄な男 大将の1人 ロングズマン辺境伯がレイストフ伯爵を訝しげに見る。


「他大陸からの宣戦布告の可能性もありますね」

アルスの父 大将 ケイレス・レイナード伯爵も独自の推察を口に出す。


「まさか!?東の獣人の大陸か?いや、あっちは今は多くの国で内乱が続いてる。もしや…北の魔人の仕業か?」

ケイレスに視線を向けるロングズマン。


「しかし、理由が無いではないか。急に一つの大陸全域を相手取る程の大乱を起こす事があり得るのか?」

ストランドは顔を青ざめさせながら三大将の顔を見回す。


「ゴホンッ 魔大陸となると、もしやあれかもしれんストランド」

黙っていた国王が喋り出す、がその意味を理解し俯くのは3人だけであった。


「陛下、失礼ながらアレとは何の事でしょうか?」


「……。」



 ケイレスの質問に対する返答は無い。



「そうか、お前はあの頃まだ大将の座についていなかったからな…聞かされていないのも当然だ」

意味深な発言をし国王をチラチラと伺うロングズマン。


「しかしながら、陛下。あれならもう10年近い年月が経っているのですよ?今更…」

もはや真っ白な顔になってしまったストランドは国王に、否定の言葉を貰いたいと懇願するように見るが国王も俯く。


「そう考えれば確かに今回の件合点がいきます。それに、首相が言っている年月の点も準備期間だと思えば納得できます」

俯き考え込んでいた顔を国王に向けるレイストフ。



 ケイレスは何の話をしているんだ?と訝しみながら先を待つ。



「こうなってしまった以上、一応この場にいる面々にはこの事は言っておかねばならんな…」

そう言って国王が語り出した話はあまりにも突飛であり、寝耳に水だったケイレスや佐官、そして文官はその重大さに顔をひきつらせる。



 国王の話を纏めるとこうである。



 ケイレスがまだ佐官に成り立ての10年前、歴史に残る大戦乱が起きていた。

流石にこの中でそれを知らぬ者はいない。

北の大陸の統一国 魔国(正式名称…ベルゼビュート大魔王国)対 南大陸の人族国家の連合の戦争である。

そもそもこの戦争が起きるキッカケは、数百年に一度この世界に現れる異世界からの勇者の存在であった。

当時、その勇者が現れたのだ。

それを好機と見た人族は、長年の大陸間の戦争を全て休戦し、数千年以上前から受け継がれる因縁を終わらせる為、魔国を相手に宣戦を布告した。

血みどろの大乱、数十万の規模から一気に数百万の規模にまで至るその戦争で、数にモノを言わせ勇者を先頭に魔国に攻め入る人族と、もともと魔法に優れ浮世離れした力を持つ魔族とそれに従う獣人などの間にはおびただしい数の屍の山が出来ていた。

永遠にも思えた1年の戦争は勇者が魔王に敗れた事により終わりを告げる。



 そこまでは皆知っている話だった。

それからの話は各国の国王や、重鎮達によって隠蔽され闇に葬られたものである。

国王は話を続ける。



 魔王に敗れた勇者は命からがら連合軍の元へ生還し、各国の腕利きの精鋭を連れ最後の任務を行う為動き出した。

もともとあった魔王に勝てなかった時の為のB案である。

もし魔王に勝てなかった場合…魔国の存亡に関わる重要なモノを盗んできて、それを消してしまおうという計画である。

大乱の中にあった魔国軍は勝利の余韻に飲まれ警戒が少し手薄になっていた。

それを逆手に取り勇者達はその任務を見事にやり遂げる。



 そしてその盗み出したモノは勇者自らが葬りその後勇者はこの件を隠す為に連合の上層部、つまり各国の王族により抹殺される。



 そしてその事を知っているのは各国の王族とその頃から仕える重鎮達のみになったのである。



「陛下…。その魔王の大事なモノとはどういったモノなのですか??」

ケイレスは恐る恐る聞く…



「それは………………だ」




 辺りを包み込む静寂…

誰のか分からないゴクリと生唾を飲む音が響き渡る室内。



 ケイレスはこれはとんでもない事になるかもしれないと、ようやく理解した。

クソ…何で誰も止めなかったんだ?

そもそも何でその後に勇者を?

勇者が勝てなかった魔王がまだ生きてるんだぞ?

それを勇者無しにどうやって倒すんだ?




 苛立ちで、奥歯が少し削れるのが分かる。






 会議が終わりケイレスは足早に王城を後にした。









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