17話 はじまりの血飛沫
※少しグロテスクな表現があります。
ご了承下さい。
とある道。
その道は元は名もないただの道であったが、後にできた大国と隣の大国の間に挟まれたその道はいつしか商人の乗る馬車とその商人を護衛する傭兵からなる商隊がよく通る事から、商道と呼ばれ1日最低でも数十隊の商隊が行き来していた。
そんな交通量の多い商道も、今日は商隊の姿はほとんど見られなかった。
なぜなら、最近不穏な噂が流れていたからである。
商道に最近、死神が出るらしい。
というものである。
実際何隊かの商隊がその道の途中で姿を消していた。
死神の出ると言われる道、そこに今豪華な荷馬車と護衛の傭兵団でなる商隊が進んでいる。
「しかし、本当に大丈夫なのか?いくら商道といえどこの道は今危険区域じゃないのか⁉︎」
小太りの商人は荷馬車から、横を並走する傭兵団の団長を訝しげに見る。
「大丈夫に決まってらぁ。我ら[紅の爪]が護衛についてんだ!誰が何を出来ると言うんだ⁉︎」
傭兵は誇らしげに胸を張るが、しかし商人の顔は晴れない。
「だが、噂によるとこの商道には最近名の知れた傭兵団ですら怯える死神と呼ばれる殺人鬼が出るそうじゃないか…」
「死神だろうが、悪魔だろうが、我々に勝てるわきゃないさ」
団長は怯える商人を尻目に横柄に笑った。
先に結末を語るとすれば、この商隊は数分後に壊滅し道端にその屍を山積みにされる事になる。
その最悪はすぐに訪れた。先行していた傭兵団の一人が最初にそれに気づき警戒の声を放つ。
「おい!道の先に何かいるぞ!」
そこに居たのは黒いローブを身に纏いフードを目深に被り、身軽な上下の装備を身につけた人物だった。異様なのはその者が漆黒の仮面で顔を隠し、そして馬鹿でかい鎌を担いでいる事くらいである。
「な、なんだ…あいつは何者だ⁉︎」
団長が叫ぶ。
「おいおいあの鎌どんだけ大きいんだ」
傭兵の一人が呟く。
「何者だ⁉︎」
商人が慌てふためく。
しかし、傭兵団の歩みは止まらない。本来ならここで団長は立ち止まり様子を伺えばよかった。もっと言えばこの時すぐに逃げ出しておけば…
鎌を担いだその者は、何も言わずに静止している。しかし、次の瞬間には大きな鎌を担いでいるとは思えない速度で前方に走り出し、鎌を構えながら身体を低くして先頭にいた団長の馬の脚を横薙ぎに二本纏めて斬り落とした。落馬し地面に投げ出された団長が立ち上がるのよりも早く、その首は斬り飛ばされ宙を舞う。
「貴様の致命的なミスは、すぐに戦闘態勢に入るわけでもなく、停止してこちらの出方を見るのでもなく、部下に指示を出すわけでもなく、馬鹿みたいに無計画に俺の前に進んできた事だ。来世があるなら肝に銘じておくといい。たまたま目の前に遭われた人物が巷で[死神]と呼ばれる殺戮者かもしれないということを…」
地面に落ちた男の首に話しかけながら、仮面の下で舌打ちをする。
殺しがいのない奴だった。
慌てて馬を降り戦闘態勢に入る傭兵達…
剣を持ち、槍を持ち、杖を持ち、構えていたが、一人の呟きで士気は一気に削がれた。
「し…死神…」そう理解した時その男は無様に転げながら武器を捨て仲間を捨て走って逃げていった。
しかし、死神はそこまで甘くはない。その逃げた男の首もすぐに宙を舞う。
傭兵達は逃げるという選択肢を捨て死神に向かう…。が、死ぬ気で放った剣での一撃も、渾身の力で放った槍での一撃も、自身の魔力量ギリギリの魔法攻撃も、死神には掠りもしない。首を振り、身体を揺らし、一歩進み出るだけで死神はその全てをかわしてみせた。
「お、おい…嘘だろ…」
誰か分からない呟き、しかしその声も一人また一人と屍になっていく同胞達の断末魔の叫びにかき消されていく。
最後に残った商人は震えながら悟る…“こいつが死神…死の神と恐れられる殺戮者”か。と
「待ってくれ!金ならやる!荷物だって…いや財産の全てをくれてやる!だから…だから命だけは…」
「金とか荷物はいらん。1つだけ答えろ…。10年近く前勇者が魔国から盗み出したモノの在処についてなにか知らないか?」
「え?いや!その様な物は知りません。
しかし、答えました!命は…」
商人の最後の言葉は虚空に消える。
残されたのは静寂と無数の屍のみである。
「チッ やっぱりハズレか…。やっぱ商人じゃダメだな。情報通のイメージだったんだけどな…。いや、これはやはり隠蔽されているのか…。よし、もうチマチマしたのはやめだ!閣下もそろそろ痺れを切らしかねん。次はどこぞの国の官僚辺りに聞くか…」
残酷に歪むその顔は仮面によって隠されていたが、血の滴る大鎌だけは陽射しを浴びて残酷な光を放っていた。
17話もお読み頂きありがとうございます!
何か不穏な感じがしてきましたね。
さてさて、アルスもなにか巻き込まれていくのか?
とお思いの皆さん!
いや、それはまぁ巻き込まれますよ?
彼は主人公ですから…w