16話 な、そんな大ごとなのか?
とある昼休み、食事を終えた俺達は、俺・マリア・ミラ・トルスの4人で中庭で寛いでいた。
「マリアってなんで士官学校に入ったの?」
草原に座っていたミラがベンチに座るマリアに話しかける。
「んー私は士官になって軍に入りたいわけじゃないんだけど…、筆頭宮廷魔術師になりたいからここに入学したの!」
「宮廷魔術師??それって相当難易度高いんじゃないの?」
「そうね…士官学校を卒業しても軍の魔術士部隊に入隊してから宮廷魔術師まで至るのは、普通の人が士官学校を出て軍に入隊してから中佐の階級になるくらい難しいとされてるわ」
「え、そんな難しいのか?」
草原に寝転んで話を聞いていたトルスが起き上がってマリアを見る。
「さらにその中で10人しかいない筆頭魔術師にまでなれば、将官になるのと同義ね」
「へぇーマリアって結構野心家なのね!」
「そうかしら?じゃあミラはどうして士官学校にきたの?」
「んー、そうね。うちは商人の家系だから…後々の事を考えると、一番良い道でどっかの貴族の側室とかでしょ?そんな退屈そうなの嫌だし、昔から勉強も好きだったし、小さい頃から元冒険者の父に武術も習っていたからどうせなら自分で出世する可能性のある道を選ぼうかなぁって」
ミラはどこか遠くを見ながらそう語る。
まぁ確かに側室ってなんか微妙だよな。
「そう比べるとアルスはエリート中のエリートだよね」
「んー?そうなのか?」
ミラに言われて、俺ってエリートなの?と周りを見渡す。
「それはそうですよアニキ。アニキの父上は現大将ですよ?」
「それに、お母様は元筆頭宮廷魔術師なんでしょ?そりゃエリートよ。あなたがどんな人か分からなくても上の人達はそれだけで期待するわ」
トリスとマリアに言われ、そう言われると確かにそうなのかもしれないと納得する。
「自覚なしだったわけ?どんだけ鈍感なのよあんた…。父親はあの有名な国内最強と呼ばれる現大将の剣鬼 ケイレス・レイナード、母親は元筆頭宮廷魔術師 幻惑の魔女 マリー・レイナード。いくら商人の娘でも、私だって知ってるくらいのネームバリューの2人よ?その息子でしかも、国内最高峰の学校に座学1位通過して、さらに見た?貴族の人は入学には関係ないらしいけどあの実技の結果!武術も魔法も1位よ?エリートでしかないわよ…ほんとどこまで恵まれているのよ」
ミラの言い方だと褒められているのか怒られているのか全く分からないが、確かに俺は恵まれているんだろうな。
「ねぇーていうかアルスってどうやってそんなぽんぽん中級魔法覚えてるわけ?この前聞いた時は独学だって言ってたけどそんなこと有り得るの?」
ミラが俺に聞き、マリアもトルスも俺に視線を向ける。
特にマリアは熱い視線を送ってくる。
「んー、独学だよ?普通に魔法書見て、練習して取得してる」
「魔法書で中級魔法ってそんな簡単に取得できるものなの?マリア」
「無理ね。普通は魔法の師匠をつけて、手取り足取り教えてもらうのが一般的だもん!なんかコツとかあるの?」
そこで、俺は3人に本で見たルナの概念の話を説明した。
「つまり魔法取得は概念を理解すればできるってこと?」
ミラは頭を捻り、”えー”と半信半疑である。
しかし、マリアは他の点に気づいたようだ。
「ねぇ、もしかしてそれが本当なら自作の魔法も概念があれば取得できるってこと?」
「え?」
確かにそうなるのか?
既存のもの以外でも概念さえ理解していれば魔法として成立する…試した事はないけど無くはない話だ。
「んーちょっと待って…試してみる」
「「「試す!?」」」
んー魔法書になかったもので概念として理解しているもの。
前世の記憶になんか良さそうなのがあったな。
音の聞こえる原理とかいうやつ。
ドキュメンタリーかなんかで見た気がする。
ある物体が振動すると、その振動によって空気が押され、押された部分の空気は密度が濃くなる。
そしてこの空気密度の濃い部分が近くの空気をさらに押し、この動きが次々と移動していくことで、空気密度の濃い部分と薄い部分が発生して、「音の波」が生じさせる。
それが確か音の原理。
それって風魔法で応用できないだろうか?
つまり風魔法を応用して振動を無くして音を消したりとか…。
まぁ概念は分かっているからできなくはないと思うけど…
発動時の魔法名は…んー消音?サイレント?まぁどちらでもいいか。
よーしこれを頭の中で構築して…
んーうまいこといくのかこれ…
いやでも、ここを魔力で応用してここをこうすれば…
「…ルス…、ねぇ、アルス!聞いてる?」
マリアの声で我にかえる。
「急に黙り込んでぶつぶつ言わないでよ…怖いんだけど」
ミラも抗議してくる。
どうやら俺は物思いに耽り過ぎてずっと周りの話を無視していたようだ。
「ごめんごめん!でも、出来たよ!魔法書にない、オリジナル魔法」
「え?そんな早く?うそよね?」
マリアは目を見開き、唖然としている。
ミラとトルスもである。
「んじゃ、試してみる?じゃあ皆なんか喋ってて!」
皆が首を捻りながら、渋々どーでもいい事を話し出す。
俺は頭の中で意識を高め、構築した内容を反芻する。
「マリア休みの日は何してた?」
「私は実家に帰っていたわ!ミラは?」
「私は勉強と、街を散歩してた!トルスは?」
「よし、サイレント!」
「……!……!?…」
「…!?…」
「!……??」
辺り一帯の音が一切消える。
無音の世界である。
おーー!できた!
よし、解除っと
「え!何今の?」
「音が…消えた!」
「なんなんすか!音を消す魔法??」
皆が驚き立ち上がる。
「うん!音を消す魔法なんて存在しなかったけど、何となく音が伝わる原理は分かっていたからその伝わる振動を魔力で邪魔して消してみた!意外に出来るもんだな!マリア!凄いぞ!これは新しい発見だ!」
「凄いのは絶対にアルスの方なんだけど!」
「もはや意味不明よ!振動を邪魔して消すってそんな簡単に出来るの?この魔法本当に凄い発明なんじゃない?」
「アニキまじパネェっす」
しかし、出来てしまってから後々になって面倒な事が起こりそうな気配を感じた。
「これ、もし他の人に知られたらアルス学校どころじゃないんじゃない?だって、新しい魔法の構築って数百年に1つ程度って聞いたことあるわよ!その時はどうやって作ってるのか分からなかったから気にもとめてなかったけど、もし作れちゃったなんてバレたら大変な騒ぎになるんじゃない?」
マリアが頭を抱える。
「な、そんな大ごとなのか?」
「とりあえずこの事は無かったことにしましょう」
ミラが皆を見て頷く。
「お、おう」とトルス
「あぁ…」と俺
「そうね。」とマリア
そんなこんなで俺は、軽々しくやってしまった大ごとを心の奥底にしまうのであった。