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136話 閑話 ブルーダスト鉱国恐るべし









 次の日午前中にポリオがアルスの泊まる部屋に来た。

昨日はブルーダスト王や城にいたほかの王子達と食事をしたり、ポリオの妹ファナ王女に今までの冒険や出来事の話をせがまれたりしてかなり疲れた。

本当は昼過ぎまで寝たいのだが、目を輝かせたポリオを前にそうは言えなかった。






 ブルーダスト鉱国の首都は魔国の帝都に比べれば小さいもののかなり広いのだが、ポリオいわく見えている部分で半分らしい。

どういうことかというと元々ブルーダスト鉱国の首都は地下にあった。

鎖国的と言われる所以でもある。

そこは旧王都と呼ばれているのだが現在は副都として機能している。

つまり首都の地下に副都があるというこの世界でも稀にみる構造だ。

さすがにそれは知らなかったので驚いたのだが、一緒に来ているベルクールは知っていたのか何の反応もない。

エリスプリナはもちろん知らないので「...実に面白い」と無いはずの眼鏡を上げていた。




 地下都市の入口を歩くポリオはなぜか誇らしげだ。

聞いてみると首都よりも副都のほうが好きらしい。

俺からすると首都の地下なのだから、ある意味で首都の一部なのではないかと思ってしまうがそれは違うのだろう。






 アルスは周囲を見回しながら、厚みのある岩壁に刻まれた彫刻や、所々から湧き出る鉱泉の蒸気に目を奪われた。














 地下都市の坑道を抜けると、巨大な扉が現れた。

中は薄明かりの中で鉱石が輝き、古代の採掘道具や装飾品が並んでいた。




「ここは王立鉱山博物館。古代からの鉱石や道具が展示されているんだ」




 アルスが鉱石に手を伸ばすと、「触るのはダメなんだ」とポリオが笑いながら制止する。




「見てるだけでもワクワクするな...」


「どの鉱石にも意味や伝説があってね、アルスくんならきっと興味を持つと思ったよ」

















 次に案内されたのは工房だった。

鍛冶場に入ると、火花が飛び散る音と金属を打つリズムが響き渡る。

武骨なドワーフ達がハンマーで金属を叩き、汗を光らせながら武具を仕上げている。





「ここは巨匠の工房。伝説級の武具や装飾品の制作過程が見られるんだ。ちなみに巨匠の称号を持つ技術者はこの国でも数人しかいない。名実ともにこの国の頂点の技術者なんだ」





 アルスは金属の熱と匂いに顔をしかめながらも、目を輝かせた。




「こんな大きなハンマーで鍛えてるのか」




 ドワーフ達が持つハンマーは人間並みの大きさだった。

それを軽々振っている。

しかもここは灼熱だ。

ドワーフ、すごい。




「体験もできるんだけど…アルスくん、やる?」




 俺は苦笑して首を振った。














 地下都市、副都に足を踏み入れると、天井から吊り下がる橋や人工の滝、光る噴水が視界いっぱいに広がった。

街の奥からは子どもたちの声や商人の呼び声が混ざり、活気にあふれている。




「ここが旧王都だね。地下都市とは思えないだろう?」




 アルスは口を開けたまま見上げる。




「すげえ...なんだこれは」


「劇場や市場もあって、生活のすべてが地下で完結してるんだ」





 広場に出ると、鍛冶市が開かれていた。

露店では金属細工や武器、装飾品が所狭しと並ぶ。

子どもたちが小さな武器を手に取り、楽しそうに笑っている。




「ここは地底広場。定期市では露店や演劇も楽しめるよ」




 アルスは一軒一軒覗き込み、目を輝かせた。

エルスプリナも屋台をよだれを少したらしながら見ている。

ベルクールは剣を見ている。




「殿下、良い剣あったら経費で買っていいです?」


「お前、相当金あるよな?」


「それとこれとは話が,,,」


「自分の命を預けるんだ。自腹で買えよそこは」 


「そう言われたらなんも言えねぇ」


「それとエリスプリナ、買うなら買いなよ!よだれ出てるよ?」


「...お金、忘れた」


「アルスくんの部下って面白い人達だよね」




 ポリオがおなかを押さえて笑っている。

他人事だと思って...















 地下にある地下湖温泉に行くために、地底トンネル列車に乗ることになった。

俺は正直一番の衝撃を受けた。

忘れかけていた前世の記憶、列車だ。

さすがドワーフ。




 トンネル列車で街全体を巡る。列車の窓から、坑道を縫うように光る滝や、地下都市の全景が見える。

アルスは窓から外を見つめ、息を呑む。




「列車で地下を回れるとは…面白いな」


「安全だから安心して。途中で洞窟や滝の景色も楽しめるよ」




 坑道を抜けると、静かな地下湖が広がる。

水面には鉱石から反射した光が揺れ、神秘的な青い光景を作り出す。

蒸気がゆらめき、温泉の香りが鼻をくすぐる。




「さあ、ここが地下湖だよ。天然温泉もあって、さいこーだよ」




 アルスは水面に手を触れ、あったかい感触に驚いた。 




「幻想的だな…」


「ここでのんびりするのもドワーフ流だね」












 ブルーダスト鉱国恐るべし。

俺はこの日そう思った。

自然と最先端技術が合わさった独特な空気があった。

またぜひ訪れたい。

それこそ次は新婚旅行でロクシュリアを連れてこようか。

最近構ってあげられていない妹も連れてきたい。





 久々に充実した休暇だった。




 もう当分はこんな穏やかな時間は送れないだろう。

それでも、こういう世界の素晴らしい場所を守っていきたいと思った。

文化、歴史、技術、それをこの時代で失わせるわけにはいかない。



















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