128話 エルフに巨乳はいないのだよ
次の日、ローナに言ってセイゴ・ミカミを呼んでもらった。
彼とは改めて、話さないといけないだろう。
今まで知られずに過ごしてきたが、忘れかけている過去の記憶がセイゴ・ミカミと話したいと言っている。
「殿下、セイゴ・ミカミを連れてきました」
「ありがとう。ローナは下がってくれ」
「よろしいのですか?」
「2人で話したいことがある。下がってくれ」
「かしこまりました」
セイゴ・ミカミを連れてローナが入ってきた。
元第二使徒と二人きりにさせたくないのか、ローナは何か言いたそうだったが圧で納得させた。
いや、納得はしていないかもしれないが。
「セイゴ・ミカミ、そこに座ってくれ」
「は、はい」
向かいのソファを指し示すとセイゴは緊張したようにそこに座った。
「ぼ、亡命の件……事前に殿下からの後押しがあったと聞きました。ありがとうございました」
セイゴはそう言って頭を下げた。
ローナか誰かがそう言ったのだろう。
俺を慕い、俺の評価を上げたい気持ちは分かるがそういうことはあまり話すべきではない。
あとで、久しぶりに説教をしよう。
最近小言を言われてばかりだ、うん、絶対説教しよう。
「気にするな。どちらにしても、父上はキミのことを亡命させただろう」
「それでも、感謝してもしきれません」
「気にするなと言ったはずだ」
「すいません」
こうして話してみれば、普通の高校生に毛が生えた程度だと思った。
不安で縮こまっているし、どう話すべきかが定まっていなくて少し困っている。
俺は転生だった。
つまり、前世の記憶が少なからずある中でもこちらでちゃんと幼少期から育った。
だからこそ、この世界に、そしてこの立場に慣れた。
だが、彼は違う。
彼らは転移させられた。
いきなりこちらの世界に来たわけだ。
少し前まで学生だったのにである。
それはどれほど不安な事だろう。
「セイゴと呼んでも良いか?」
「あ、はい!問題ありません!好きなように呼んでください」
「そうか。では、セイゴと呼ぼう。そこまで緊張しなくていいぞ!で、セイゴ……『日本』と比べるとかなり血生臭い世界だ。少しは慣れたか?」
「『日本』と比べると、いや元の世界と比べるとまったく違う世界です。正直まだ毎日が不安です………え?今、『日本』て言いました?」
「あぁ、そう言ったが」
セイゴは目を見開いて俺を見ている。
日本という単語は存在しない世界だ。
そもそも言語体系も違う。
ましてや、セイゴは何も言っていない。
「な、なぜ殿下は『日本』を知っているのですか?」
「それは、簡単なことだ。俺も元は『日本人』だった」
「えええええ!!!!!ほ、本当ですか?」
「あぁ、だからキミの亡命を受け入れるのを後押しした。だがまぁこれは知られていないから、他言はするなよ?」
「知られていない?……そんなこと可能なのですか?」
「俺はセイゴと違って転生者だ。この世界で生まれた」
「な、なるほど……。僕達のような転移召喚ではなく転生、確かにそれなら知られずに過ごせますね」
「まぁ、その弊害なのだろうが前世の記憶はもう殆どないんだ。だから、久しぶりに『アニメ』や『漫画』と聞いて少なからずテンションが上がった」
「……そうだったのですね。転生……ですか。では、殿下は日本には戻るつもりはないのですね」
「戻れないと思うぞそもそも。確定ではないがな。過去の文献の中でも勇者召喚はあったらしいが、勇者が帰還した話は一つもなかった。まぁ、どちらにしても俺は戻るつもりはないがな……こう見えて所帯持ちだ」
「所帯……け、結婚してるんですか?」
「あぁ、してるぞ」
「も、もしや……巨乳のエルフの王女ですか!?それとも金髪巻き髪の女騎士ですか?………まさか、童顔ロリ魔法使い?」
「あのなー……脳内が偏り過ぎてるぞ?なんだよ巨乳のエルフ王女って。そもそも、エルフは貧乳が殆どらしいぞ?」
「なっ!?そっちのタイプの世界なんですか!?」
「それに金髪巻き髪の女騎士?くっ殺の人なんて出会ったことないぞ?」
「……探せばいますかね?」
「……そればっかりはわからん」
「となると、童顔ロリ魔法使いですか?」
「なんで確定なんだよ。そもそも童顔とロリは同じだろうが。それに、俺にそんな趣味はない」
「……それも違うとなると、殿下はもしや幼少期から世話をしてくれていたメイドを身分差で騒がれる中、世間の目を気にすることなく嫁にもらうタイプの王族の人ですか?」
「お前……ほんとどんな作品見てたんだよ」
「え、王道ファンタジーですが……」
「俺の嫁は魔人だ。魔人と言っても悪魔とかじゃないぞ?普通の人よりも魔力量が多いってだけだ基本的には、だが」
「なるほど、見た目は?」
「銀髪ボブだな」
「きつめですか?」
「おっとり系だ」
「銀髪ボブのおっとり系王女……」
「王女じゃないぞ。創真教の聖女で、教皇だ。まぁ結婚して今は枢機卿に仕事丸投げしてるがな」
「せ、聖女!!!!」
ほんとにさっきから何の話をしてるんだ。
セイゴは聖女と聞いて目を見開いて立ち上がった。
さっきまでの緊張した面持ちはなんだったんだ。
「殿下!!!いえ!もう、そんな事は気にしませんよ!アルスさん!!ズルいじゃないですか……異世界で銀髪ボブの聖女を嫁に貰うってなんですか……そんなの……羨ましすぎっすよ!」
「お前口調変わってるぞ?」
「……ずるい………僕は急に召喚されて、異世界も満喫しないまま意味のわからない戦いに毎日駆り出されて、拷問まがいの修行も強制されて……それなのに……」
怒り出したと思ったら、泣き出した。
こいつは本当になんなんだ。
第二使徒?勇者?いや、ただの阿呆学生だ。
「ぐすん……ぐっ……び、もちろん美人なんですよね?」
「あぁ、世界一だ」
「………異世界の世界一…………くそ……リア充だ……くそ」
「おいおい、元気だせって。お前だって同郷の勇者の子がいるんだろ?それはそれで王道じゃん」
「………僕は、異世界の女の子と、ハーレムしたいです」
「………お、おう」
それからセイゴが気を取り直すまでしばらくかかった。
ハーレムうんぬんは忘れてくれと耳まで赤くしていたが、俺は絶対に忘れないだろう。
「いや、でもアルス殿下が元同郷の方でよかったです。その展開は予想外でした」
「まぁある意味で気心がしれて俺も喋りやすいな。それと、二人の時はアルスでいいぞ」
「わかりました!アルスさん!じゃあ、今度一緒に異世界っぽいことしましょう」
「……お、おう。それで、あっちはどうなってるんだ?聖信教会は」
「どこまで情報を持っているかはわかりませんが、聖信教会はすでにいくつかの国を裏から動かしています。あっちの大陸は乱世と言ってもいいと思います」
「聖信教会と対立している国も未だにあるってことか?」
「はい!大国や中小国が同盟を組み対聖信教会の旗を掲げています。その同盟と、聖信教会側の国々とで各地で戦争が起こっています」
実際の内情を聞くと相当厄介な事になっているな。
このまま行けばどちらかが滅びるか、共倒れだが、邪神や勇者がついている聖信教会側が有利だろう。
となると、大陸ごと飲み込まれる可能性もあるな。
その後はこっちの大陸に攻め込んでくるのは確定している。
「そろそろ、本格的に戦うことになりそうだな」
「アルスさんは聖信教会と戦うつもりですか?」
「あぁ、その為に色々準備してきたしな」
「勝てますか?」
「負けはしない、と思うがな。邪神が厄介だ」
「実はあちらで盗み聞きした話なのですが、宗主は勇者召喚をまた行うつもりらしいです」
「勇者召喚を?そんなにほいほい呼べるのか?」
「創造神、いや邪神の力で呼ぶようです」
「神々は世界に対してそこまで干渉できないはずなんだが、召喚は別枠なのか……厄介だな」
「もし、戦うなら僕も戦います!」
「その時は力を借りる予定だ」
「はい!」
また考えることが増えてしまった。
勇者召喚がまた行われればあちらの戦力が上がる。
その前に戦いを始めたほうが良いのだろうか。
邪神はどれほどの力を持っているのか。
やはり、なるべく早いうちに憂いを払った方が良いのだろうな。
対聖信教会の同盟とも話をしたほうがいいだろう。
とはいえ、こちらの話を聞いてくれるかは不明だ。
セイゴが部屋を出て行くまで話は尽きなかった。
だが、思考の半分は今後の戦いのことを考えていた。
自室で紅茶を啜りながら、アルスは夕焼けの空を見た。
炎のような綺麗な夕焼けでさえ、良くないことが起こる前兆のように考えてしまう。
大丈夫だ。
そう、大丈夫だと思おう、
俺には仲間がいる、創造神も、家族もいる。
それに、俺には力がある。
そろそろ終止符を打たなくてはいけない。
家族や友人、子孫、部下達や民が過ごす今後の未来の為に。




