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12話 波乱の入学式後半




「それでは、新入生挨拶。新入生代表、アルス・レイナード前へ」

 



 呼ばれて、俺は慌てて前へ出る。

100人の新入生とその親や親族、教師陣に来賓、そして在校生、数百と居る人々の横を通り過ぎ、壇上へと向かう。

上がって立ち位置まで行き、改めて前を見て今までにないタイプの緊張に頭が真っ白になりかけた。



 皆の興味の視線が無言の圧力としてのしかかる。

しかし、奥の方を見ればいつも見慣れた家族の姿がある。

心地良い安心感が心にふっと入ってくる。



 落ち着け…大丈夫だ。

ここでミスっても死にはしない。

やれることをやればいいんだ。




 俺はふっと息を吸い込んだ。

そして、覚悟の下に息を吸い吐く。




「本日は私達新入生の為にこのような盛大な式を挙げて頂き誠に有難う御座います。

壮絶な競争率の中この日の為に幼少から努力を重ね、私たちは伝統ある王立士官学校への入学の日を迎えました。

後にこの国を支えていく士官を目指す私達ですがまだまだ若輩の身、先生方や先輩方の力を借りる事も少なくはないでしょう。

しかし我々も士官を目指す身、その時はどうか厳しくご指導下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。

末尾になりますが、同級生諸君ここからの6年共に高め合い競い合い、そして分かち合い皆で輝かしい栄光の道を歩めるよう惜しまぬ努力をしていきましょう。


新入生代表 アルス・レイナード」




 なんとか噛まなかったぞ…

俺は静まり返った講堂内を見渡す。



 な、なんか変だったか??

徹夜して考えたんだぞ?



「「「おおーーーーー!!!」」」



 割れんばかりの拍手喝采!!



 ふぅーと力が抜ける。

なんとかやりきったーー!!




 壇上を白髪の少年が見つめていた。


「あれがアルス・レイナードか。座学トップで入学し、戦闘試験で試験官を医務室送りにし、魔法試験では木製の的を文字通り全て消し炭に変えた男…やっと良いライバルに出会えたな」



 金髪を短髪にした目つきの悪い少年もアルスを見つめていた。


「親父が言っていたレイナード家の長男とはあいつか。座学、戦闘、魔法、全てがトップ!?そんなんありかよ!くそ、コツを聞こう、なんかあるはずだ!絶対ある!」



 赤髪の少女もまた拍手喝采されているアルスを見やる。


「噂は聞いていたけど、あれが主席。座学でまさか私の上をいくやつがいるなんて思わなかったわ!それに魔法も戦闘も凄いって、ほんとなんなのよ。大将と元筆頭宮廷魔導師の息子??そんなのあり?まぁでもまともなのがいて安心したわ!見てなさい私があなたを超えてみせる」




 そんな感情を持たれているなんてアルスは一切思ってもみなかった。


  

 式が終わり、新入生達は先に外に出ていた。



「おいてめぇ!主席か何か知らねぇが、どうせ親のコネなんだろ?戦闘試験で試験官を医務室送り?どうせ、弱い奴を用意したんじゃねぇのか?俺と決闘しろよ!勝ったら俺が主席だろ!?」



 緑の長髪の少年が突っかかってきた。

意地悪そうな目つきに、手には訓練用ではない槍が持たれている。



 早速問題ごと…もういい加減にしてくれ疲れてるんだよこっちは。



「あなた何言ってるの?新入生の決闘は認められてないのよ?それに、王立士官学校は陛下自ら運営してるのよ?コネも何もあるわけないじゃない!」


 綺麗な黒髪をなびかせた幼いながらに美人な少女がなぜか俺をかばっている。

いや、単純にイラついているのか。


「なんだ!女は引っ込んでろ!!」



 喚き散らす緑髪の少年。


 それを、睨む少女。


 まさに一触即発である。



「ホッホッホッ いいでしょう!実に面白い。その決闘、校長である私が認めよう…しかしアルス君、君にはハンデとして素手で戦ってもらいたいのじゃが構わぬか?」


 どこからか、現れた校長が止めるでもなくそう言ってきた。



 確かに明らかにこいつは大したことない。

素手でも余裕だが、いいのか?



「構いません。魔法も使いません」


「な!?てめぇなめてんのか?素手で武器持ってる俺に勝てるわけねぇだろ」


「ホッホッホッ では、やってもらうかのう。ちなみにトルス君、アルス君は軍隊格闘や拳闘、柔術もかなりの腕らしいぞ?」



 不敵に笑う校長、頬をひくつかせるトルスと呼ばれた少年。



「そうか!なら手加減はしねぇ!死んでから後悔しやがれ」



 真っ直ぐに俺に向かって走ってくるトルス。

しかし、アホだなこいつは槍の長さを活かす気は無いのか?

猪突猛進とはこの事だな。 



 俺は少女を下がらせ、軍隊格闘の構えを取る。

拳闘の構えと柔術の構えの中間といった構えである。

どちらも使いやすいというメリットはあるが、少し動きづらいのがデメリットだ。



 しかし、こちらから仕掛けるつもりはない。

迎え撃ちカウンター。これが最善である。



 横薙ぎの槍による斬撃を効率的な少ない動作でかわし、そのまま槍の有効範囲よりもかなり内側に入る。

これで槍は使えない、俺はそのまま腕を掴み回転すると背中にトルスの身体を乗せ、回転の勢いのままに地面に叩きつけた。




 泡を吹き痙攣するトルス。

しかし、父さんとかトライデンさんとかと戦ってたから本当に弱く感じてしまうな。

油断はよくないが、あまりにも弱くて逆に手加減がしんどい。



 俺は失神するトルスの頭上から水を落とすように魔法を放つ。



「ゴボッ ブハッ な、なんだ!俺はいつの間に…」



 慌てて起き上がるトルスはまた槍を構えて俺に向かってくる。



 起こしたら起こしたでめんどくさい奴だな。

諦めてくれ…もうしんどいんだけど。



 突きを放つトルスの槍を軽く身体をひねって躱し、そのまま真正面から軸足と身体を回転させながら胸に前蹴りを叩き込む。



 後ろに思いっきり吹き飛び新入生歓迎と書かれた看板とともに飛んでいくトルス…



 なんだが、切ない気持ちになるな。

俺だったら恥ずかしくてもう学校に来れないくらいには心を抉られるくらいの負け方だ。



 喧嘩を売り、決闘を申し込み、相手に手加減され素手で相手され、自分は武器を持った上で、簡単に倒され意識を失い、起きてまた挑むも軽くあしらわれ吹き飛ばされる。



 あーなんかトルスに同情してきた。

もう負けてやろうかな。



 しかし、トルスはまた意識を失い…

そこに校長が来て決闘は終わりを告げた。



「そこまで!勝者アルス!」


「「「おおおおおーーーー!!!」」」



 湧き上がる観衆、そしてなぜか誇らしげな黒髪の少女。

はぁーもう寝たい。

今日はしんどいぞまじで。



 黒髪の少女が俺に近寄ってくる。

 


「さすがは主席ね!その実力は嘘偽りないわ!まぁ、私も殆どの子も戦闘試験か魔法試験のどちらかでのあなたを見ているから疑ってはなかったけど、トルスは見ていなかったのね本当に残念な人…。あ、私はレイストフ伯爵の娘、マリア・レイストフ!よろしくね!」


「まぁそう言ってもらえると有り難いね。俺は知ってると思うけどレイナード伯爵家の長男 アルス・レイナード。マリアちゃんねよろしく」


「マリアでいいわ!私も親のコネってずっと言われてきたからスカッとしたの!あなたとは仲良くなれそう」



 マリアは俺に向けて手を差し出してきた。

俺はその手を握り握手を交わす。




 レイストフ伯爵…どっかで聞いたような…

ん、あぁそうか!

父さんと同じ大将の一人だ。

確か軍略家として有名な知将。

そうか、この子の境遇はたしかに似ているのかもしれない。

まぁ俺は実の子ではないのだが…。

今となってはそれを知る人も殆どいないしな。

それに間違いなく俺は今伯爵家の人間だ。

今後こういうやっかみは増えるんだろうな。






トルス…不憫だ。

きっと生まれ持って悪い奴なんかいない!

あいつを変えてしまったのは周りなんじゃないか?

そうだろ?


時を戻そう




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