117話 孤高の種族×抗う者
「世界にはまだまだ知らないことが山程あるんだなー」
皆が黙り込むなか、ベルクールがそう声を出した。
ベルクールはエリとアルスの会話を聞いて困惑していた。
もちろん他の面々も困惑しているのだが、アルスが使徒ということは知っていても神の存在をあまり身近に感じたことがないベルクールは特にそれを感じていた。
「にしても、この魔法が使えないのはなんなんだ?他のダンジョンでもこんなのなかったぞ」
「今までの通りやっていても魔力を集める効率が悪いから、ここの中では殆どの魔力が吸収されている。特に魔物以外の存在には顕著にそれが出ている。第二段階になれば魔物も魔力を失うようになる。私はそれを阻止したいのだけど」
「第二段階?」
「このダンジョン内の私達以外の全ての生物がその命を失い、その体内にあった魔力が全て吸収される」
「おいおい、皆殺しかよ」
「過激な者も増えてきたから……」
「そこまでして、死にてぇのか?」
「そこまでしないと、死ねないの」
「………面倒な話だなぁ」
「でも、貴方達は私が逃してあげる」
エリの言葉に安堵の顔を浮かべるシルフィエッタ達。
「ここに迷い込んだ他の者はどうなった?」
「まだ生きているなら、第二段階で抹消される」
アルスの質問に対するそのエリの言葉を聞いて、シルフィエッタの顔付きが変わった。
壮大過ぎて忘れかけていたが、今回は捜索のために来ている。
「居場所は分かるか?」
「助けに行けば私の仲間と戦うことになるよ?」
「それでも放ってはおけないだろ」
「………使徒だから?それとも皇太子だから?」
「違うなー。俺がそう決めたからだ」
真っ直ぐ射抜くような視線を向けるアルスにエリは困ったような笑みを浮かべた。
「キミは変わっているね。状況的に無茶だとは思わないの?私達は力の殆どを失ったとしても不死身の元天使だよ?それに比べてキミは魔法も使えない」
「過酷だったら諦めるのか?」
「死んじゃうかもしれないよ?」
「あんたに言われると複雑だな。まだ死にたくはないさ。でも、後悔はしたくない」
「無駄死にだとは思わないの?」
「死ぬ気はない」
「死ぬよ」
「いや、俺はまだ死ねない。だから死なないさ」
「それが運命でも?」
「そんな運命なら、俺が捻じ曲げる」
アルスの瞳を見つめてエリは“はぁー”と大きく息を吐いた。
「分かった。私の知ってる情報をあげる」
「ありがとう。助かる」
アルス達は生き残っている遭難者達を探し回った。
エリの情報通りかなり離れた場所だが2つの生き残りの集団を見つけることができた。
「中隊長!!!!」
「………よかった」
その中にはシルフィエッタの部下達も居た。
その者らの顔を見てシルフィエッタは涙を流し、死を覚悟していた兵達もまた少なくない安堵の感情に膝をついて崩れ落ちた。
生き残った兵は半数も残っていなかった。
他の集団は冒険者達だったが話を聞けばかなりの数の仲間が死んだそうだ。
片腕を失った者も、足を失った者もいた。
でも、それでも生きているということに感謝するしかなかった。
そんな安堵の空気は一瞬にして凍てついた。
なにかの気配を感じた数人が見上げると、そこに翼をはためかせた正しく天使と呼ぶべき者らが浮かんでいた。
しかし、全員に目視できたわけではなかった。
それを視ることができたのはアルスと共に来た面々だけであった。
そして、その雰囲気は友好的なものではない。
明らかに殺気を放っていた。
地上に向けて降りてくる天使達がアルスの横に立つエリを見て固まった。
「なぜ、その者らとここにいるのです?族長」
「私はこの戦いには参加しない」
「なぜ、です?」
「久しく忘れていた感情を感じたから」
「それはどういう?」
「戦ってみたらわかるのでは?フォルオム」
「………」
「その者らは我々を視ることができるのですね」
「面白いでしょ?」
「それでも、やることは変わりません」
視えていない者らをアルスは下がらせた。
シルフィエッタに先導を任せる。
正直この場で元天使達と戦えるとは思えない。
「殿下、対天使は初体験だ。勝てるかわからんぞ」
「死んだらあの世で反省会だ」
「ハッハッハッ そうしよう」
アルスとベルクールを先頭にアンバー、ジス、ワーグナーが後ろで構えを取る。
天人族の強さは分からないが、相当に厄介な相手だということはその全員が理解していた。
それでも、アルスは引かない。
そして、アルスが引かないのなら他の者も引くわけにはいかない。
「さぁこのダンジョンのクライマックスだ。派手にいくぞ」
「「「はっ!!」」」
「やってやるかぁー!」
歴史から世界から見放された孤高の種族と、運命を捻じ曲げようとする男、そしてその男に感化された戦士達の壮絶な戦いが幕を開ける。
今まで触れてこなかったのですが、自分の書き方はわりと多人称が多いと思います。
読みずれーよ!!って思っている方すみません。
自分はどちらかというと小説を書いている時も、映像のように想像して書いています。
なので、一人称にこだわらずアニメーションや実写作品のようなカメラワークみたいな構図で書いています。
また最初の頃ケイレスやメイド長の話のように『ケイレス』の回ですという感じは途中でやめました。
もちろんその分少なからず見づらくはなったと思いますが、カメラワークと考えるといちいち今は誰の気持ちだよ!とあえて言わずにそれでも伝わるように心掛けています。
日々、どんな書き方の方が良いのか模索しながらの執筆なので逆に良くなった部分やまだ至らない部分が見えると思いますが、今後とも転生捨て子と、尾上を温かい目で見ていて下さいww




