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116話 忘れ去られた種族






「この世界に、ダンジョンを作ったのは私達……」






 エリの衝撃の話で皆が固まった。





「それはどういうことだ?」


「それを話す前に私達について話さないといけない」


「キミたちは何者なんだ?」


「少し長くなるよ?」


「構わない」





 エリの話を聞くためにアンバー達もその場で座って聞く体制に入った。

はたしてどんな話なのだろうか。





「創造神と対を成す存在を知っている?」





 その質問を理解出来たのはアルスだけだった。




「邪神か?」


「そう………。やっぱり、貴方は使徒なんだね」


「知っていたのか?」


「雰囲気が私達に少し似ているからそんな気はしていたってだけ」


「………?」


「今から数万年以上も昔、この世界に創造神の悪意の部分が具現した。その存在が邪神。その二柱の神は互いを滅ぼす為に戦いを始めた」


「そんな話聞いたことないな」


「その戦いは壮絶で、この世界の全ての種族がどちらかの派閥に分かれて血で血を洗う悲惨な戦いを繰り広げた……。私達もその戦いに参加していた」


「世界規模の大戦?そんな歴史は…」


「うん、皆の記憶にはない。私達だけしかそれを知らない」


「………」


「その壮絶な戦いは何度となく続き、その都度多くの種族がこの世界から消え去った。でも、それでも二柱の神はどちらも滅ぶことはなかった」


「そもそも神は地上では戦えないからか?」


「それもある。ただ信仰する者が一人もいなくなれば神は消える。でも、そうはならなかった。どちらの派閥も全滅はしなかったから」


「だからこそ続いた?」


「うん、期間をおいて力を蓄え、皆の記憶からも歴史からも大戦の事が消え去って、そしてまた二柱の神々を信仰する者達が増えたら大戦が起きた」


「創造神はなんとかしなかったのか?」


「なんとか?出来るわけない……創造神すらもそして私達もそんな事が起きたことを忘れるの。それは世界の理だったから」


「創造神すらどうすることも出来ない世界の理?」


「そう、私達はそれを運命と呼ぶ。創造神よりもさらに上の存在がいるとしたらそれこそ運命の正体なんじゃないかって思う。私達はそのことに気付いてしまった。この戦いに終わりなどないんだって。だから……」




 壮大過ぎる話にある程度を知っているアルスですら理解に苦しむ。

他の者達は何を聞かされているのかと、生唾を飲んだ。

しかし、そのエリの話が作り話だとは思えなかった。

それ程までに悲痛な顔で話していた。




「そして数千年前、私達はその戦いから下りた。地上の者達が滅びかけるような大戦が皆の記憶から消えていくことに気付いてしまった。だからこそ、それでも何度も何度も続く大戦に違和感を感じたし、このまま戦い続けることに意味を感じなかった……」


「下りた?」


「私達は………元は創造神の直属の部下として生み出された種族」


「それって」


「天使……」




 天使、という響きにアルスも驚きを見せた。

ファンタジー作品で見た事があるがこの世界にはいないものだと思っていた。




「私達は堕天して、殆どの力を失った。そして、その時に呪いを受けた」


「呪い?」


「天使の力を失い、天人族となった私達はこの世界の全ての者の記憶から消え去った。何度となく起きた大戦のように。創造神や邪神すらも私達の事を覚えてはいない」


「それが呪いなのか?」


「それも一つ。だけど、我々にとって一番酷だったのがもう一つの呪いだった」


「それは?」


「私達天人族が世界の理から与えられた【怠惰】の大罪。その最たるものは、死ねない」


「死ねない?」


「私達は何があっても死ねないの」




 そう言ったエリがいつの間にか別の場所に立っていて、ベルクールの大剣を手に持っていた。

突然の出来事に驚きながらもベルクールとアルスは次の行動を予測しながら警戒する。




 エリは敵意はないわ、という微笑みを浮かべながら自分の身の丈よりも大きなその大剣を誰もいない方角に投げた。

そして、次の瞬間にはその先に立っていたエリの身体にそれが突き刺さる。




「なっ!?」




 ベルクールが驚きの声を漏らす。




 身体からはドバッと血が溢れ出す。

エリは表情を変えずにその大剣を引き抜くと、ふわりとまた消えてベルクールの前に現れそれを返した。




 致命傷なほどの傷口と、溢れ出す血。

だがあり得ない光景が皆の目に映った。

溢れ出した血が、巻き戻しのようにエリに戻っていく。

そして、すべての血が戻ると傷もみるみるうちに治っていった。





「私達はこの世界に、死ぬことを許されていない」





 死なないのではなく、死ねないとエリは言っていた。

話の中に出てきた数万、数千という途方もない時間を生きてきたとして、その中で多くの死を見て、絶望を味わい続けたと考えればそれがどれほどまでに過酷なことなのかは当事者にしか分からないだろう。




「私達は長い時の中で多くの研究を重ねてきた。そして、ある可能性に行き着いた。それは膨大な魔力を使うことで世界の理に干渉しうる魔法の可能性。その魔力を集めるために私達は世界各地にダンジョンを作り出した」


「世界の理に干渉してどうしたいんだ?」


「死した同胞達のように、この世界から消える。私達は死ぬために魔力を集めている」


「………」




 途方もない話だった。

創造神の部下として生み出され、創造神と邪神との戦いに身を置き続け、その戦いの末に多くの仲間を失い、世界のシステムとも言うべき理の存在に絶望し、神からも忘れ去られ、それでも死ぬことさえ許されない。




 そんな事情から生まれたのがダンジョン。




 アルスはこの世界の闇を感じた。




「創造神すら忘れたと言ったが、それでも気付くことはなかったのか?」


「私達は創造神にも観測されない。私達という存在自体が世界から否定されているから」


「じゃあなぜ俺達はエリに会えたんだ?」


「それはわからない。私も驚いた。私の集落の者がキミ達を見つけた。このダンジョンを破壊する者なら抹殺しようと議論していた。でも、私達の身勝手な考えのために人の未来を失わせる事を私はしたくない。会いに行っても今まで私達を視認することすら誰も出来なかった。なのに、今回はそうではなかった………不思議。だからこそ、私は私達について話すことに決めたの。私達が生きた証を、誰かに聞いてほしかった………のかもしれない」




 それだけ言ってエリは俯いて黙り込んだ。




「それで、もしその魔法が使えたとして、この世界から消え去って……本当に満足なのか?」


「どちらにしても、いない存在。であるなら、私達は終わりにしたい。そこに何の感情ももうない。感情で物事を決めるには、私達の生きてきた時間は長すぎた」




 アルスは、それでいいのだろうかと考えた。

本人達が良いなら良いのかもしれない。

が、本当にそうだろうか?




 なんと声をかけるべきなのかはまだ分からない。

でも、それでもどこか納得出来ない部分があった。

彼女達は何のために生きているのだろうか。

本当にそんな最後で、満足なのだろうか。

  


















 あっという間に、600万PVいきました!

素人が思い付きで書き始めたこの作品が、皆様の目に多く触れ、賛否両論もちろんあるかとは思いますが、それでも読み続けてくれる方々がいることにとても感謝しています。

物語が雑だったり、違和感があったり、思うところは皆様あるとは思いますが、この作品をいずれ書き終えた時にこの作品で学んだ事を活かせたらと思います。



 そして、この作品も最後まで自分の思うままに書き続けられたらと思っています。



 今後とも転生捨て子を宜しくお願い致しますm(_ _)m



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