115話 謎の幼女
「で、殿下っ!!」
早朝周囲の探索をしていた小隊長ジス・マルクスが慌てた様子で野営地に戻ってきた。
その後ろには幼い子供が着いてきていた。
「その子は?」
「わかりません。途中で出会いました」
アンバーが立ち上がり幼女の前に膝立ちして目線を合わせる。
「キミ、名前は?家族もどこかにいるのかい?」
「………」
幼女は何も答えない。
だが、一人で四霊山に来た訳もなくどこかに親が居る、もしくはすでに亡くなっている可能性が考えられた。
「とりあえず寒いだろう。こっちにおいで」
アルスが声を掛ける。
焚き火の近くならそれなりに温かさがある。
冬である現在早朝でもかなり寒いのでアルスはそれを気にしていた。
幼女はこくりと頷いてアルスの横に腰掛けた。
「これ、飲んで!温まるよ!」
シルフィエッタが幼女に採取してきた薬草から作った温かいお茶を渡す。
「さむー」
謎の沈黙が生まれ、空気を変える為にジスが手を擦りながら火に近寄った。
この子は何者でなぜここにいたのか。
もしかしたら悲しい出来事があって声を出せなくなった可能性もある。
皆が幼女を見つめながらしかし何と声を掛けていいのか伺っている。
しかし、アルスだけは違った表情をしていた。
その顔に浮かぶのは驚愕、困惑、そして警戒。
アルスのその表情に気が付いたベルクールもまた武器は手にしないもののいつでも動けるように身構えた。
「キミは、何者?」
アルスの幼女への質問を聞いてベルクール以外の皆が不思議そうに二人を見た。
「………」
「質問を変えよう。キミは敵なのか?」
幼女は真っ直ぐ瞳を見つめるアルスに少しだけ驚いた顔をしてから小さく首を振った。
「殿下、何に違和感を?」
ベルクールはアルスにそう聞いた。
他の面々もことの成り行きを見つめる。
「この世界にはとんでもない強者がいる」
アルスは幼女から視線を外しベルクールを見た。
「もちろんベルクール、お前も強い。世界の中で上から数えても良いだろう」
「ん?」
「だが、それよりもさらに上の強者、世界の頂点とも言える者らは俺の経験上、皆同じ特徴があった」
「それは?」
「俺はその者の実力を数値化して見ることが出来る。ドラゴンと共に戦ったベルクールなら分かるだろ?だが……」
「なるほど……」
ベルクールはアルスの言わんとしている事を理解して難しい表情を浮かべて頷いた。
「つまり、一握りの強者はそれが見えないのか」
「あぁ、父上や師匠である先代龍王なんかは見えなかった」
「そして、その娘も?」
「あぁ、見えない」
アルスとベルクール以外の面々は立ち上がって少しだけ幼女から距離を置いた。
「この子がそんなに強い……いや、確かに底が見えないな。弱いのか強いのかまったくわからん」
「だがまぁ本人が敵対しないと言っているんだ。とりあえずはそれでいい」
「信じるのか?何者かもわからねぇんだぞ?」
「どっちにしても分からないんだ。あえて、分からないまま敵対しても仕方ないだろ?」
「まあな………魔物じゃねぇんだよな?」
「それだったらすでに攻撃してきてるだろ?ジスと遭遇した時に攻撃してない時点で確かに敵対心はないだろう。それにさすがに魔物が化けてたら気付くはずだ」
「………殿下の判断を信じよう」
そして、また沈黙が広がる。
幼女も何も喋ることはない。
が、アルスはこの子は何かの意味があって接触してきたと考えていた。
迷子にしては落ち着いているし、ステータスも見えない。
この状況で現れたのも不思議だ。
「俺はアルスだ。ベルゼビュート大魔帝国の皇太子という立場だが、気軽に接してくれて構わない」
沈黙を破ったアルスに、ベルクールもふわりと片手を上げた。
「俺はベルクールだ。冒険者をしている」
そこから皆が一人一人幼女に自己紹介をした。
幼女はそれを黙って聞いてから初めてポツリと言葉を発した。
「………エリ」
「エリか……よろしくな」
幼女が喋った事に驚きの空気が流れるなかアルスは手を差し伸べた。
初対面は握手から、というのは前世の経験からだろうか。
エリはその手を握り、微笑んだ。
「で、これからどうするんだ?殿下」
「進むにしても闇雲ではな……」
「マルクス、周りはどうだった?」
「いやー特には。森が続くだけですね」
やはり情報が無さすぎる。
どれだけ話し合っても正解があるわけではない。
「………ここから出たい?」
エリのその言葉でバッと皆が視線を向ける。
「おいおい、出れる方法を知っているのか?」
ベルクールの質問にコクリとエリが頷く。
「どうやって出るんだ?」
「星詠みの木。そこに出口がある。私達は外に出る時にそこを通る」
「星詠みの……?それはどこにあるんだ」
「ここからだと、歩いて1時間程の距離」
「まじかよ……出れんのかよ」
ベルクールは急な展開に驚愕で引き攣った顔を浮かべている。
「それを教える為に来てくれたのか?」
「………うん」
アルスの問いにエリは頷いた。
なるほど、ここから出る方法を教えに来てくれたのか。
だが、アルスは同時に疑問に思った見た目が人間であるというのにその口ぶりはダンジョンに明らかに繋がりがある関係者。
この子は何者なのだろうか。
「とりあえずこの子に案内してもらって出ましょう」
アンバーはそう言って早くも立ち上がっている。
他の面々もそれに従って立ち上がる。
が、アルスは立ち上がらない。
「どうしたのです?殿下」
アンバーの言葉にアルスは返事を返さない。
ただ、エリを見続けていた。
「なぁ、エリ。ここは、お前達はなんなんだ?ダンジョンってのは……」
「知って………どうするの?」
「分からない。だが、知らないままよりも知ったほうが良いだろう」
エリは、すぅーと息を吸い込み、ふぅーと吐き出した。
話すべきか否かを考えている、そんな顔をしていた。
そして、少し間を開けてから口を開いた。
「この世界に、ダンジョンを作ったのは私達……」
早朝の寒さの中、エリの透き通るような声が響いた。
彼女から語られる話は、本来なら世界の歴史の中に埋もれていくはずの話だった。




