表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/138

113話 最後は運任せ!?








 ドラゴンと対峙しているアルスとベルクール。

二人から予想外のダメージを受けたドラゴンは二人を改めて敵と認識して射抜くように瞳をギラつかせる。





「まじで持久戦になりそうだなぁー、殿下」


「飛行とブレスが厄介過ぎる」


「こっちが消し炭になるか、やつが力尽きるか、壮大な賭けだな」


「………ニヤつきながら言うなよ」


「殿下も笑ってるぜ」





 絶体絶命の二人の顔には未だ不敵な笑みが浮かんでいる。

危機的状況だからこその、ハイ状態。

それがある意味で二人の心の強さを表していた。






「………突っ込んでくるぞ」


「様子見は終わりみたいだな」





 上空から二人を見下ろしていたドラゴンが二人に迫る。

武器を握る力を強めた二人は真っ向からそれを受け止める態勢に入った。





 ドラゴンも真っ向からの削り合いによって二人を亡き者にしようと高速で接近して大木のように太いその凶悪な腕を振るう。

掻い潜ったベルクールが無防備な腹に斬撃を叩き込むが、そのカウンターもドラゴンの鱗に阻まれる。

ドラゴンの腕が辺りに風を巻き起こし、ベルクールの大剣がドラゴンの大きな鱗をいくつか吹き飛ばす。





 その攻防の隙を見たアルスが跳躍して先程と同じ位置の頭部に気功の拳を放つ。

が、瞬間的な危機察知によりドラゴンは頭を本能的に振りその攻撃をズラした。





 一進一退の攻防が続く。





 四足歩行の獣の如く地を這いながらその大きな口を目一杯に開き、ベルクールに迫るドラゴン。

それを斜め前に転がりながらなんとか回避した。





「あぶねーなっ!!クソッ」





 アルスもドラゴンの攻撃を掻い潜りながら気功のスキルで身体強化を行い、剣と拳で応戦する。





 前に後ろに移動しながらのヒット&アウェイを続ける二人にドラゴンは苛つきを見せ、暴れまわる。

そんな時、アルスはドラゴンの雰囲気の変化を無意識に感じ取った。





「ベルクールッッ!!!やつがなんかやりそーだ!!!一旦引くぞ!!!」


「………わかった!!」





 ドラゴンの目前で戦っていたベルクールがアルスの指示でドラゴンから距離を置こうと走り出す。

アルスもまた後方に避難しようと駆け出した。

“ブレスか?”とベルクールは考えたが、息を吸い込む予備動作はない。

アルスもその事に気付いており残りのどちらかが来ると判断していた。





 走って距離を置こうとする二人を嘲笑うかのようにドラゴンが凄まじい咆哮と共に魔法を発動した。





 大気がドラゴンの魔力によって震え上がる。





 そして、二人が咆哮に気を取られた瞬間にその魔法によってドラゴンを中心に円形の炎の大きな壁が立ち昇る。





 アルスはその直接的な攻撃ではない魔法にドラゴンの魔法欄を思い出して“なるほどな”と頷いた。

炎獄………それはまさに炎の檻のようだった。

どれくらい効果が続くのかは不明だが、炎に囲まれてドラゴンからそこまでの距離を置くことが出来なくなった。





 そして、さらにドラゴンの身体にメラメラと炎が纏う。





「炎身………この合わせ技は厄介だな」





 遥か上空まで立ち昇る周囲を囲む炎の檻と、身体に業火を纏うドラゴン。

近寄れず、かと言って逃げることも出来ない。




「狡猾なドラゴンだな……」




 アルスのそばまでやってきたベルクールが苦虫を噛み潰した顔で呟く。




「持久戦はやつも嫌なんだろうな」


「にしてもどうするんだ?無闇に逃げることも近寄ることもできないぞ」


「唯一の可能性があるとすれば………」





 アルスが手短に語ったその作戦を聞いたベルクールはこの殿下は事戦闘に関してはマトモじゃないな……と苦笑する。





「一か八か過ぎないか?」


「他に選択肢はあるのか?」


「………ねぇーわな」


「だが、そこまで力を使うと俺はそれ以上戦えない可能性がある」


「上手く行けば起死回生の一手だが、失敗したら絶体絶命だな」


「ベルクール、俺は運は良いほうだ」


「運任せかよ………」





 これ以上ドラゴンが待ってくれるとも思えない二人は他に選択肢もなく、そのアルスの案で動くことを決意した。





 気功を全身に漲らせるアルス。

アルスの膨大なHPの残り半分を注ぎ込んだそれは、隣のベルクールでさえその溢れる力の大きさに慄く程であった。




 気功を纏ったアルスがベルクールの横腹を抱き込み、回転の遠心力を使って遥か上空に投げ飛ばす。




 ドラゴンは何事かとその飛んでいく人間を視線で追った。




 その間にアルスもまた少しの助走をつけ通常の跳躍とは比べ物にならない飛距離を飛ぶ。




 それを上空から見たベルクールは空中でなんとか体勢を整えて、アルスを迎える受ける構えを取った。

アルスが考えた作戦の第一段階は先に飛んだベルクールが後からそれを追うアルスをさらに上空に投げ放つ二段階跳躍である。




 上空で二人が交差した瞬間、ベルクールがアルスの腕を掴みさらに高みへと投げる。




 アルスが天高くとまではいかないがかなりの上空に進む一方ベルクールはすでに落下に入っていた。

背中に括った鞘から大剣を引き抜いたベルクールは一連の流れを伺っていた燃え盛るドラゴンに向かって落ちていく。




 ドラゴンがベルクールを迎え討つため飛び上がる。




 しかし、ベルクールにこの場で迎え討たないという手段はない。

自然落下に身を任せ、自身の今までの経験と自分の力を信じ、後は神のみぞ知る。




 ベルクールの斬撃が大口を開けたドラゴンの上顎に直撃する。

響き渡る轟音。

全身全霊を賭けたベルクールの攻撃によって上顎の鱗が剥がれ吹き飛ぶ。




 なんとかドラゴンの顔を足場にして蹴って離れたベルクールはそのまま落下していく。

今までよりも遥かに大きなダメージを受けた事でドラゴンは怒りに震えながら落下していくその攻撃を放った本人を探す。




 燃え盛る炎を浴びたベルクールは炎上しながらの上空からの落下に、“いやいや、死ぬぞ”と内心でボヤきながら天を仰ぐ。

その視線の先からドラゴンがこちらに向かってきていた。

その溢れ出す殺気に、燃えて死ぬか、落下で死ぬか、ドラゴンに喰われて死ぬかの三択か?と苦笑する。





 あとは、運に任せるだけである。




 

 落下していくベルクールに迫るドラゴンはまずはこいつを喰らう、と大口を開き丸呑みする体勢で急降下していく。

そう、ドラゴンは怒りによって忘れていた。

もう一人、上空を飛んでいる存在が居ることを。





 ベルクールを追うドラゴンを上空から見下ろしながら落下しているアルスは集中して気功を張り巡らせながら、その一撃に残りのHPの殆どを注ぎ込むつもりだった。





 上空からの落下の重力と気功を纏った拳による直撃のダメージと、その拳から放たれる気功の波動による内部ダメージの両方を叩き込む。

もし、これが失敗すればHPの余力が殆ど無くなったアルスは身動きがとれないままにドラゴンの餌食になるだろう。

だからこそ、全身全霊をかけて一撃に集中する。




 急降下していたドラゴンがついにベルクールに辿り着く。

目を閉じたくなる状況ではあるが、アルスを信じることに決めたベルクールは目を開いて次の展開を眺めることにした。

燃え盛る自身の体の炎が開いた目をチリチリと刺激する。

が、二人で賭けに出た故にそれを見逃す訳にはいかない。

最後までベルクールは目を逸らすつもりはなかった。



 

 自身に迫るドラゴンの少し上までアルスが落ちてきている。

アルスもアルスのスキルも疑うつもりはないが魔法なしで致命傷を与えられるだろうか、と、ベルクールはその光景を見守る。




 ベルクールに辿り着くよりも先にアルスの拳がまったく気にかけていなかったドラゴンの頭部、アルスとベルクールが削った鱗の剥がれた部位に直撃する。






 耳元で雷が鳴ったかのような轟音があたり一体に響き渡る。





 直撃した瞬間にアルスの拳から気功の波動による追加攻撃が放たれる。

上から見ていたアルスにはグルンッと瞳が裏返るドラゴンの様子が見て取れた。

そして、頭部を貫いたアルスの拳の中心からドラゴンの大きな頭を抉るように穴があいている。

その瞬間ドラゴンの身体に燃え盛った業火が消え去り、周りを囲んでいた炎の檻も消失する。




 アルスはそれを確認して、無防備に落下した。




 落下するベルクールから少しだけ離れた場所にいたドラゴンがアルスの攻撃の余波で地面に向かって急降下していく。

その後からアルスもまた地面に向かって落ちていく。




 ベルクールはニヤリと笑みを浮かべた。




「やるじゃねぇーか………殿下」




 受け身を取ることも不可能な一体と二人。

しかし、落ちていく二人はドラゴンが絶命していると理解している為か満足そうな表情を浮かべていた。


  



 落下位置に向かって走ってくる者らがいた。





 大隊長ローマン・ボブと、小隊長ワーグナー・ワグゼスである。

炎獄が発動され何かが起きたと理解した二人はその時にすでに走り出していた。

何が出来るかなど考えてもいなかった。

だが、皇太子アルスの危機に離れろという命令を無視してでもそこに向かう事に躊躇いはなかった。





 その二人の勇気ある覚悟の行動がその後の未来を変えた。

二人の視界の先、炎獄の業火よりも上に飛び上がったベルクールが見えた。

そこに向かってさらにアルスが飛ぶ。

それを追うようにドラゴンも炎の壁から顔を出した。





 そこからの攻防は一瞬だった。


 



 だが、それが捨て身の全力の一撃だということは二人にも理解できた。

消え去る炎の壁。

落下する一体と二人。




 ローマンはアルスの落下位置に、ワーグナーはベルクールの落下位置に向かって走る。

あの二人をここで死なせるわけにはいかない。









 ドラゴンが地面に直撃した爆音が響く。

そんな状況に目もくれず落ちてくる二人に向かう。







 ドラゴンを討ち取る為に全身全霊を尽くし、その後の事は運に身を任せた二人の命は、運命の定めであるかのように我武者羅にそこに向かった二人の軍人によって繋がれる。

















 動き出せなかった者の悔しさと、考える前に動き出した者達の強い意志、そして思い浮かべた通りの結果をもたらせた者達の喜び。

複雑に入り乱れた感情の渦は、巻き上がった土煙の中を吹き荒んだ。






 












 実はしれっと一話から手直しをしていこうと考えています。

今でこそランキング上位にずっと上がり続けていて毎日10万前後のアクセスがありますが、今年の11月までランキング圏外どころか1日数十人見てくれたら“おお!まじ!?”というレベルだったので本当に趣味というか思いついたことを書いてやろう感があって、ランキング上位に上がりだした最近になってその雑さや無駄の多さが見づらいですというのをよく見かけるので時間がある時に改めて手直しをしていこうと思っています。

実は少しずつ変えているのですが、内容は変えずに読みやすく分かりやすいように手直ししていくつもりなので一話から見直そうかなと思った時に、むむ?と思うかもしれませんがご了承下さい。




 三年間ランキング圏外だったこの作品が、ランキング上位になり500万以上のアクセスと1万以上のブックマークやいいねを貰えている事がとても嬉しく、皆様に感謝しています。



 今後ともこの作品を宜しくお願い致します。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ