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109話 龍殺しのベルクール






「チッ………ほんとにここはどこだ!?」





 大きな大剣を肩に担ぎ、素材にドラゴンを使った装備を身に纏う大柄な男が怒りの表情を浮かべていた。


 



 冒険者ギルドから四霊山の異変を調査してほしいと指名依頼を受け来たのだが、山を登っていく途中で突如光に包まれ、気が付くと見知らぬ森に居た。





 四霊山の中に魔物がいなかったのを不思議に思っていたがこちらに来た途端魔物が突然周囲を囲んでいた。

数にして、約100体。





 しかも、四霊山でも同じ事が起きていたのだが全ての魔法が使えない。





 だが、その時男はニヤリと笑みを浮かべていた。





「おもしれーじゃねぇかクソ野郎」





 肩に担いだ大剣を構え一気に正面の魔物に向かう。

大柄な男の身の丈と同じくらいに大きい大剣が次々にAランクの魔物の身体を斬り飛ばしていく。




 だが、もちろん余裕ではない。




 いくら自身が強いと言っても余裕な戦いが出来る状況ではないのは理解できた。

現にワイバーンの亜種を相手取って斬り伏せている時に右、左、後ろと全方向から攻撃を受ける。

最初の方はそれをなんなく躱していたが男の体力も無尽蔵ではなく、次第に身体は傷だらけになり血が溢れる。




 が、それでも男は笑っていた。




「はぁ!!死にそうだなーおい!!!おもしれー!!!!」




 男はそう叫びながら戦いを続ける。

攻撃を受けることなど気にした様子もない。






 それから、約1時間。

男は魔物達の大量の屍の中心に座っていた。

立つのも億劫なほどに体力はない。

座っていられるのも地面に刺した大剣を支えにしているからだ。





「だが……………生きてる」





 男は嬉しそうに笑いながら後ろに倒れた。

空を見やると晴天な青空が広がっていた。

それなりに充実感があった。

ここまでの厳しい状況は久しぶりだった。





 だが、一日一日と日が過ぎていくと男は苛立ちを感じた。

あれから魔物は現れない。

それどころか動物も見かけない。

最初に倒した魔物の肉でなんとか飢えを凌ぐ。




「だっーー!!くそ!!!暇すぎる!!」





 男は退屈過ぎてとても苛立っていた。

こんなことなら魔物が止め処なく出てくる方がマシだとすら思う。

それほどまでに、男は退屈に耐えられない性分である。





 男の名はベルクール・ログフリス。

世界各地に拠点を置く冒険者ギルドに所属する冒険者であり、現在の最高位であるSSランクを冠する単独最強と呼ばれる男である。

異名は【龍殺し】。





 そんな彼は今、迷子である。




















 洞窟を発見した次の日……

ワーグナーが夜の見張りをしていた。

森の奥のほうが少し明るくなってきている、まもなく朝を迎えるだろう。




「にしても、なんもいねーなー………ん?」




 ワーグナーはなにかの気配を感じて慌てて立ち上がり剣に手をかけた。




「魔物………?」




 ワーグナーは木々の先を睨むように見つめる。

魔物なのか、動物なのかは分からないがたしかに何かが近付いてきていた。




 そしてそれから少しして木々の隙間からそれは現れた。




「なっ!?人間?」




 現れたのは黒髪に金のメッシュが入ったふわふわとした髪の大男である。

身の丈ほどの大きな大剣を担いでいる。




「おい、止まれ!お前は何者だ」


「だっー!!やっぱり人間の気配だったか!!むさ苦しい男でも久々に人間に会うとテンション上がるな〜!」




 男はつかつかとワーグナーの方に進んでくる。

しかし、正体不明の男をそのまま通す訳にはいかない。




「誰だって聞いてんだが?」


「俺はベルクール、冒険者だ。で、ここはどこなんだ?」


「ベルクール………どっかで聞いたような。いや、俺達にもわからん。いきなりここに飛ばされた」


「まじかよ……結局手掛かりなしかよ」




 男が“はぁー”と深い溜め息を吐き立ち止まる。

行方不明の冒険者の一人か?




「どーしたワグゼス?」


「大隊長……冒険者らしいです」


「……人間か?」


「あぁ、俺は人間だ。とりあえず一緒に行動してやるから感謝しろ」


「素性の知らん武器を持つ者と軽々しく共に行動はできん……名前は?」


「ベルクールだ」


「なっ!?ベルクールだと?なるほど……確かにそんな話を耳にした気が……」


「大隊長こいつを知ってるんですか?」


「龍殺しのベルクール………」


「龍殺し?」


「あぁ、俺がそのベルクールだ。ベルクール・ログフリス。そっちは何者だ?」


「ベルゼビュート大魔帝国、四霊山駐屯地大隊長……ローマン・ボブだ。そこの男は小隊長のワーグナー・ワグゼス」


「ほう……見た目でそんな気がしたがやはり軍人か。で、どうする?共に行動するのか?」


「すまんが我々にも色々あってな、冒険者証を見せてくれ。もちろんこちらも身分証は見せる」


「さすが軍人だな………めんどくせぇ」




 ベルクールは悪態をつきながらガサゴソと装備の内側を探り、一枚のカードを取り出した。

そのカードこそ冒険者の証であり冒険者達の身分を証明するものである。




 ベルクールはそれをローマンに見せた。




「…………確かに。あのベルクールで間違いないようだ」





 ワーグナーはそのカードを横から覗いて絶句した。

冒険者証にはその者のランクを表すデザインがある。

ランクによってまずカードの色が異なる。

最初は白(F)から、次に黄(E)、青(D)、そしてその次からカードの材質も変わる………銅(C)、銀(B)、金(A)である。

そしてそのさらに上がアドマンタイト(S)。

ベルクールが見せたその冒険者証は明らかにアドマンタイト製でありさらに金の細工がされていた。

アドマンタイトに金細工。

それは、世界に現在1つしかないとされている冒険者証である。




 それが示すランクは……




「………SS?」


「龍殺しベルクールは現在冒険者の頂点にいるSSランクの冒険者だ」




 ワーグナーの言葉に隣のローマンが回答する。




「申し訳ない、間違いないようだ。これは俺の軍の身分証だ」


「なるほど……大隊長様で間違いないようだな」


「で、確認はとれたようだがどうする?」


「あぁ、ぜひ一緒に行動してくれ。SSランク冒険者なら心強い」


「わかった」




 ベルクールはそれに了承して洞窟の中に視線を向ける。




「中に居るのは何者だ?そこまであんたらが警戒するってことは貴族か?」


「………」


「おいおい、共に行動するなら秘匿し続けられねぇだろ」


「………今はまだ言えん。状況が悪い」


「怪我でも負ってるのか?」


「怪我はポーションで治した。だがまだ意識がな……」


「そうか………」


「だから、とりあえずあの方の目が覚めるまでは洞窟には入れてやれん。問題ないか?」


「まぁ今までも野営だったからな……問題ないぞ」


「すまんな………」




 そんな会話をしているとアンバーとシルフィエッタが洞窟から出てきた。

ローマンはもろもろの事情をアンバーに説明する。

そのアンバー達の後ろ、洞窟からもう一人の人間が顔を出す。




「ほう……ベルクール・ログフリスか。SSランク冒険者の龍殺し。興味があるな……」


「なっ!!意識が戻られたのですか!?殿下!!!!」


「すまんな迷惑をかけたようだ」


「い、いえ!!」




 慌ててアンバーがその場に膝をつく。

そして、殿下という言葉にベルクールは目を見開いた。

大魔帝国の軍人が、殿下と呼ぶ青年は推測するにこの世界でただ一人しかいない。



 大魔帝国皇帝の息子であり創造神の使徒、ベルゼビュート大魔帝国皇太子アルス・シルバスタ=ベルゼビュート。




「想像の斜め上をいく大物が出てきたな。俺も興味がある……」


「ほう、俺のことを知ってるのか?」


「あんた程有名なのは、魔帝陛下くらいなもんだろ?」


「ふふっ まぁそうかもな。アルス・シルバスタ=ベルゼビュートだ」


「ベルクール・ログフリスだ……」





 アルスはベルクールに手を差し伸べた。

周りはその行動にギョッとしているがベルクールは気にした風もなくその手を握り握手を交わす。





「とりあえずベルクールも皆も洞窟に入ってくれ。今後の方針を決めよう」


「「「「はっ!!」」」」


「おーけー!」









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