106話 絶対絶命×全知全能
おいおいおいおい、何とかなんねぇのかよこれ………
考えろ……俺の防御力なら最悪の場合どれだけ生き残れるだろうか。
いや、生き残れたとして逃げる場所がない。
となると、やはりなんとかしてこの魔物の波を全て倒さなくてはならない。
斬って殴って蹴って斬って、倒し続けてもゴールが見えない。
アルスに向かってきたオーガ2体が大斧を振り上げる。
オーガ種は知能が高く武器を扱う魔物である。
その2体も似た大斧を持っていた。
右斜め前と左斜め前から同時に振るわれた大斧をアルスは屈んで前進することで躱す。
そして、躱してすぐに身体をグルンと回転させながら右側のオーガに前蹴りを放つ。
身体能力がとんでもない事になっているアルスの前蹴りによって吹き飛ぶオーガ。
しかし、アルスはそれを一切見ることなくいまだ斧を振るった余韻で体勢を崩している左のオーガに向かって跳躍しその大きな肩に乗ると脳天に剣を突き刺す。
一撃で致命傷を与えられたオーガがふらりと倒れる前にはすでにアルスは飛び降り次の動作に移っていた。
そんな戦いが終わること無く続いている。
くそ…………いくら自動回復があってもこれじゃ限界があるぞ。
いくら最適に動いても数が多すぎてアルスはそれなりに魔物の攻撃を受けていた。
それに、こんなぎりぎりの状況じゃ生命力を削って気功を使うのも危険だ。
やばいやばいやばい。
オーガ、オーガジェネラル、オーガキング、ゴブリンキング、オークキング、レッサードラゴン、サイクロプス、バーサーウルフ、アイアンブル………etc
どんだけいるんだよ……魔物のバーゲンセールか??
どうしよう………マジでこれ死ぬ可能性あるなー。
創造神からの応答もないし。
『固有魔法、全知全能による解析が10%に到達しました。現状全知全能のみ使用可能です。』
え?
なんの解析してるんだ?
全知全能さん使用可能?
『はい、現状全知全能は使用可能になりました。』
まじかよ………すげぇ助かる。
と言っても全知全能で出来るのは………ゲームのようなスクリーンを出せるだけ。
いや、これでとりあえずだいたいの魔物の数が分かるか。
あー中心地過ぎて分からなかったけど減ってきてるな。
んー、あと500?
いやいや、やっぱり最初より増えてないか?
最初は1,000くらいだったと思うけどもう2,000くらいは倒してないか?
あー、なるほど。
こうやってマップで見ると、奥の方から少しずつ湧いてるな。
どっかから来てるっていうよりは間違いなく湧いてる。
ということはここはダンジョン?
あり得るな…………
無意識下で考えながら戦い続けているがそろそろ本当に集中力が保たない。
どうするか………
『オート戦闘を使用しますか?』
あー、その手があるか。
正直怖いけど………もうそれしかないか。
オート戦闘使ったらなんとかなるの?
『オート戦闘を使用した場合の勝率は75%です。ただしその後数時間、意識を失う可能性があります』
え、数時間意識を?
いや………んー……
『このままオート戦闘を使わなかった場合の勝率は20%です。』
わかったよ………じゃあオート戦闘使用で
『かしこまりました………オート戦闘に移行します』
ブワッと何かが乗り移ったような感覚を感じた。
視界はあるが身体は制御できない。
制御できないのに動いている。
不思議な感覚である。
凄まじい速度で動く自身の身体と、斬り飛ばされていく魔物達を見て、客観的に“ほぅ”と感心した。
オート戦闘の動きは最適だ。
最小で躱して、最速で迫り、最適な場所を斬る。
まさしく無駄がない戦い。
そして、その間に思考がしっかり出来るのも有り難い。
感覚的に言えばテレビを見ながら寛いでるかんじだ。
意識して見なければ思考に時間をさける。
「グモォオオオオオオ!!!!」
「グルゥウウウウウ!!!!」
にしてもここはどこなんだ。
ダンジョンなのか?
野生の魔物は繁殖で増えるから、魔物が突然湧いてくるならダンジョンだとは思う。
だが、四霊山にダンジョンがあるというのは聞いたことがない。
「ガァアアアアアア!!!!」
そもそも、ダンジョンとはなんなのか。
それはわかっていない。
一度創造神に聞いてみたが、気がついたら存在していたと言っていた。
神が知らないって本当に謎だよな。
誰が作り何故生まれたのかわからない、それがダンジョンだ。
となると、四霊山に突如現れた可能性はある。
ダンジョンについての文献を何冊か見たことがあるがダンジョンは魔力が多い場所に現れると書いていた。
魔力は自然の中にも、魔物の中にも、人の中にも存在する。
その中で四霊山は確かに強力な魔物が多いから魔力も多いだろう。
それに…………確か、ダンジョンの中には転移魔法が発動するモノもあると読んだ気がする。
ダンジョンに入った瞬間に突如仲間と違う場所に転移させられた、なんていう話を聞いた事がある。
四霊山のあのエリアがダンジョンの入口になっていて転移魔法が発動して飛ばされた?
魔法陣というよりダンジョンのシステムとして飛ばされたのだとしたら範囲が広すぎて発動が分からなかった可能性もある。
ダンジョン………あり得るな
「ゴォオオオオオオオオオオ!!!!!!」
うるさいなーもう……
ふと、視線を戻すと俺の右腕がサイクロプスの巨大な眼球を貫いていた。
え!!!???と驚愕したが抜いた後に剣が握られていたので腕ごと貫いたようだ。
うわー、サイクロプスの眼球の液体がグチャグチャに付いてる。
これが最適なのか?確かに普段は絶対やらない。
巨大なサイクロプスの顔の近くから地面に降り立った。
そこで俺………というよりオート戦闘は周りを見渡す。
うわ………まじで全部倒してるじゃん。
周りに魔物はいない。
だが、俺は走り出した。
霧の方とは反対側、マップ的に言えばの魔物が湧いていた場所に向かっている。
そして、そこには赤い大きな球体が浮かんでいた。
なにあれ?と思うよりも先にそこから魔物が次々に現れる。
俺の疑問をよそに俺の身体は当然のように魔物を次々に倒し、そして赤い球体に近付いて斬撃を放った。
球体は割れると、赤から黒へと色が変わる。
その粉々な球体の残骸を見て、俺の身体はその場を後にした。
体感的に数秒に一体以上は湧いていた筈だが魔物が再び湧くことはなかった。
あの球体が原因だったのだろうか。
オート戦闘さんすごい。
『討伐対象全ての絶命を確認しました。オート戦闘を終了しますか?』
はい
そこで俺は意識を失った。




