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105話 死地







 あー、これはやばいぞ。





 アルスは終わることのない魔物の波に危機感を感じていた。

魔法が使えない為大勢を一気に倒す事ができない。

地道、といえば聞こえは良いが現状はそんなものではなかった。

すでに体感で1時間は経過した気がするが一向に魔物は減った感じがしない。

体力的にもかなりやばい。




 周囲から感じる気配の中でなんとか皆が生き残っているのは分かるがそれでもかなりジリ貧でこのままいけば全滅もあり得る。




「殿下ー!!!マジでやべぇっすよー!どうします〜?」




 思いの外呑気な声が聞こえる。

姿は見えないがワーグナーの声だった。




「とりあえず一旦引いて休息を取ってくれ!!!こっちは何とかする!!皆に伝えろ!!!!」


「なんとかって!?」


「わからん!!!良いから抜けろ!!」


「了解っす!!」




 いや、正直一人で何とか出来るのかは分からない。

だがこのままでは他の面々は死ぬだろう。

防御力が高いはずの俺ですらすでにかなりの数の傷を負っている。

自動回復がなければやばかった。




 オーガの群れが迫る。

一体一体なら問題ないのだが、数体〜数十体が一気に来るとさすがにキツい。

集中力も落ちてきているのが分かる。




 














 四霊山駐屯地大隊長、ローマン・ボブ。




 今まで私は数多の戦場や死地を乗り越えてきた。

だが、その中でも今の現状は最も危険な状況である。




 行方不明の部隊の捜索。

それを総司令から聞いたとき、自ら行くのは当然だと思った。

さらにそこには皇太子殿下も行かれるという。

大隊長である自分が行かないわけにはいかない。




 霧を抜けた先にあった地獄のような魔物の集団。

その全てが上位種。

魔法も使えないこの状況でたったの6人で勝つなんて、そんなのは絵本の中でしかありえない。

だが、殿下は迷わず進んでいった。

それが覚悟の違いなのだろうか。




 私は最近生まれた娘の事を考えてしまった。




 ここで私が死ねば生まれたばかりの娘や妻を残してしまう。

ここでそれを思ってしまう私は老いたのかもしれない。




 倒しても倒しても、数が減らない。

殿下が最前線で多くの魔物を倒しているのを獣人としての感覚で感じる。

私達もかなりの数の魔物を倒した。

だが、一向に減らない。




 脇腹から流れる血の温かさを感じる。




 あぁ、私はここで死ぬのだろうか。

いや……死ねるわけがない。

娘や妻の為にも、ここで死んでいいはずがない。




 どうしたらいいんだ!!




 そんな時殿下と会話していたワーグナーから声が上がった。




「退却!!!殿下の指示っす!!退却します!!!」




 退却。

その言葉を聞いて正直途轍もない安堵を感じた。

やっと、この死地から離れられる。




 隣でボロボロになっているシルフィエッタを脇に抱えて、私は全速力で入ってきた霧の方に向かう。

右を見れば総司令がいた。

かなり傷を負っているがなんとか走れている。

左にはいつもよりも研ぎ澄まされた目付きのジス。

後ろからはワーグナーが来ていた。





 皆が霧の方に辿り着いたとき、追ってきている魔物は殆どいなかった。

その違和感に首を傾げる。




 だが、なんとか皆……生きている。

生きて…………え………




「ワーグナー!!!殿下はどこだ!?」




 私の強張る声にワーグナーは珍しく困ったような顔で俯いた。




「殿下は、残りました」


「なっ!お、置いてきたのか?」


「殿下の……指示です」




 私達は満身創痍の中魔物の群れを見た。

追ってきていなかったのではなかったのだ。

私達を逃がす為に殿下が引き付けてくれていた。

そして、目を凝らして見れば……確かに殿下は戦い続けていた。




 目が慣れてくると傷だらけなのが分かる。

魔法が使えないのは明らかに不利だった。

だが、もしや打開策があるのだろうか。

殿下なら………もしや




「ワーグナー!殿下は、どんな策を?」


「策なんてないですよ………わからないって………なんとかするって…………」




 あのワーグナーが、奥歯を噛み締め不甲斐なさげに地面をドンッと殴りつける。

ワーグナーは部下の死にもここまで感情を動かすことはなかった。

冷徹……それがワーグナーだった。

そんな彼が悔しそうにしていた。




 私も悔しかった。




 策がない?

だけど仲間を逃がす?

ここはなんとかする?

本来なら、そんな無謀な殿は私が務めなくてはいけなかったのではないか?

大魔帝国の次期皇帝がそんな危険な賭けをしていいはずがない。




「私が………行く」




 私はそう言って進もうとした。

総司令を見たが彼も同じ事を言おうとしていたようだ。

目が合った。

だが、言葉は交わさない。

私が行ったところで、総司令が行ったところで、どうにかできるわけがない。

それをわかってもなお、行かざるを得ない。




 だが、そんな私の前にワーグナーが立った。




「……かかあんた」


「?」


「馬鹿か、あんた!!あんたが行って何が出来るんだよ……それが分かってるから俺らを逃したんだろ!!殿下は!!」


「だが……我々だけ逃げている場合では……」


「俺は………人生で初めて………あぁこの人なら付いていきたい、この人の為に、戦いたい!!そう思った………そんな人が………言ったんだよ!!!なんとかするって!!!信じるしかねぇーだろ!!!!なんも………なんも…………出来ねぇんだよ俺は」




 上官に対する言葉ではない。

だが、その言葉は確かに私に届いた。




「全員が死ぬことない、最悪俺を置いても逃げろ………あれ、正直本気じゃないと思ってました」




 ジスが満身創痍で地面に差した剣を杖のようにして座りながらそう呟いた。




「本気で言ってたんですね………すげぇっすよ………あの人………」


「本当はこんな場所に来る必要ないのに………だって、皇太子殿下なんだから」




 ジスの言葉にシルフィエッタが声を被せた。

皆が思っていたわざわざそんな危険な場所に来る必要なんてない。

皇太子殿下、皇族の中でも特に重要な立場の方だ。

次期皇帝として次代の帝となる御方。




 我々と共に戦う必要もない。

指示を飛ばせば良いだけ。

そして、死んだ者を知って悲しんでいるだけで皆が感謝するような立場。




 それなのに、あの方は誰よりも死地で戦っている。




 死んでも本望と言われてしまう軍人の我々を助けるために、一人で残り戦い続けている。




「生きて帰れたなら………私は前線で戦う大隊長になろう………指揮官なんて性に合わん」


「あれ………大隊長……憧れてます?」




 ジスの軽口を聞いて私は苦笑した。

確かに憧れているのかもしれない。

強さとは、なんなのか。

それは抗い続ける気持ちなのではないだろうか。




「とりあえず回復薬を飲んで休息するぞ!!!そして一刻も早く戻る!!!殿下一人に戦わせるわけにはいかん!!」




 総司令がそう声を出して回復薬を飲んだ。

そうだ……一刻も早く戻るためにまずは休息をとろう。

そして、必ず殿下を助けよう。

我々は逃げない、自分の意志で、殿下と共に戦いたいと思っている。




 これが上官の姿なのだろう。




 死地に自ら挑みたいと思わせる。

私も目指したい、そんな上官を。

待っていて下さい……すぐに我々も………















400万PVいきました!!

パチパチ|ω・`)ノ ヤァ

今後も宜しくお願い致します!!





※ポリオの名前が病気の名前です、というメッセージを読者の方からもらいました。

自分が無知のせいで不快にさせてしまった皆様本当に申し訳御座いません。

今後、名前を変更するべきかどうか考えていますので……もしかしたら名前が変わるかもしれません。

不快にさせてしまった皆様申し訳御座いませんでした。

今後とも転生捨て子を宜しくお願い致します。





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