104話 最悪な展開
オーガキングの討伐から更に二時間ほど歩いたのだがそれから現れる魔物はいなかった。
シルフィエッタが前に呟いていた通り正しく不気味な雰囲気である。
「食料は山で取ります?でも、獣はおろか魔物すら居ませんぜ殿下」
ワーグナーがどうします?とアルスを見る。
携行食は数日分用意しているが、それよりも回復薬や解毒薬などを周到に詰め込んだ為正直心許なくはある。
森で食料を……と考えていたが確かにこの状況では肉の確保は難しいだろう。
「山菜とか木の実、きのこでも探すか……」
「食べれないと思うと肉食いたくなるっすね」
「あぁ、それは同意見だ」
そこまで食べたいと思ってなかったのに、無理だと思うと確かに肉が食べたい。
無いと欲が増すのはどういう原理なのだろうか。
「もうそろそろ進み続けると報告のエリアに着きますね」
「そうだな……今のところオーガキングだけで確かに食料はきついが特に危険はなかったな」
「殿下………オーガキングは十分危険ですよ?」
呆れたようにそう言ったアンバーに、アルスは苦笑で返す。
今まで鍛錬を続け師匠と共にレベル上げをしてきてよかったな、と改めて実感する。
でなければ、魔法なしでオーガキングに出会ったら死ぬ可能性すらあった。
「なにか、変です」
シルフィエッタが突如そう声を上げた。
今周囲を警戒してるのはシルフィエッタである。
「何が変なんだ?魔物?」
「いえ………精霊達が……騒いでいます。魔物………ではないのですが、やはり、なにか変です」
その言葉に警戒を強める面々。
だが、そのシルフィエッタの示す“変”はすぐに起こった。
先頭を歩いていたアルスは地面を踏んだ瞬間に異変を感じて跳躍する。
が、凄まじい光が目を襲い慌てて着地した時には辺りは霧に覆われていた。
「何が起きた?」
「わ、わかりません」
後ろからアンバーの声がして少なからず安心するアルス。
確認していくと全員問題なくそこに居た。
「魔物ですかね?」
「モンスターの気配なんてなかったすよ」
「確かに俺も感じなかった」
「いきなり霧ですか……」
「精霊の声が………聞こえません」
最後のシルフィエッタの声で皆が目を見開いた。
慌ててアルスはスキルを使うが、どうやらスキルは使えるらしい。
「スキルは使えるな………精霊の声が聞こえない………どういうことだ?」
「わかりません………こんな事今まで一度も」
「霧が凄いがどうする?進むか、戻るか」
「今探知をしましたが、周りに魔物はいません」
「そうか………とりあえずもう少し進むか。とりあえず霧が凄いから皆前の人間の身体に触れておけ」
「「「「「はっ!!」」」」」
アルスの声に従い、皆が片手を目の前の人間の肩に置きながら進む。
目の前で触れられる距離なのに一切姿が見えない、それほどの霧だった。
「おかしいな………」
「変ですね」
「どういうことっすかこれ」
アルスと、アンバー、ワーグナーは歩き出してから少ししてその異変に気付いた。
「何がおかしいんですか?殿下」
シルフィエッタの質問に、“一旦止まれ”と声を掛けてからアルスは立ち止まる。
「霧が出る前俺らはどんな道を歩いていた?シルフィエッタ」
「え?………えっと普通の静かな山?ですか?」
「そうだ……山道を登っていた」
「なるほど………」
そこまで言うとジスが先に声を上げた。
ジスもまた気付いたようだ。
「え………」
「今俺らは登ってるのか?降ってるのか?」
「…………あっ…………平坦?」
「そうだ確実に登っていたはずなのに、なぜか今歩いてる道は平坦だ。降ってるわけでもない………おかしいだろ?」
「はい………」
「考えられるパターンは3つだな」
「3つですか?」
アンバーがアルスに聞く。
それにアルスは“あぁ”と答える。
「可能性1、魔物による幻覚……それによって平衡感覚がおかしくなっていて平坦だと感じている」
「なるほど……」
「可能性2、そもそも目の前に見えていた山の傾斜が幻覚だった。が、まぁこれはないだろうな」
「3つ目は……?」
「これが一番現実的だ。だが、だとすると一番厄介でもある………。可能性3、違う場所に転移させられた」
「転移………ですか。一番厄介というのは?」
「俺は転移魔法を使える。なのに転移魔法の発動を感じなかった。だが転移魔法を使われたとすれば魔物もしくは敵対する人間がいるはずだ。そいつは俺も気が付かない方法で転移魔法を発動したことになる。術式を最初から地面に描いていたというのが一番あり得る線だな。だが、転移魔法の術式はかなり大掛かりなはずだ。誰にもバレずにそんな集団が四霊山に入れるか?それに………」
「それに?」
「なぜ魔法が使えない場所でそいつ、もしくはそいつらは魔法が使える?術式も魔法の一部だろ?現に入ってすぐ試したが魔導具は使えなかった」
アルスの言葉に誰かがゴクリと唾を飲んだ。
「ここまで分からないことだらけだと薄気味悪いな………だが、ここで立ち止まっている訳にもいかない。とりあえず進もう」
それから半日程が経った、と思われる。
太陽も見えず、霧が掛かっていてその目に映る霧の明るさも変わらず真っ白な為時間は分からない。
が、全員の体感として半日程経っているだろう。
「何も起こらないな………」
「何が起きてるのでしょうか……」
「わからん……」
意味が分からないこの状況に皆少なからず不安を感じていた。
が、アルスはその時また変化を感じた。
「薄くなってきてる」
「たっ、確かに!霧が薄く………」
霧が徐々に薄くなってきていた。
が、霧が晴れてきたというわけではなく濃い場所から離れたという雰囲気だった。
そして、そこからさらに進んでいくとやっと皆の顔が見えるくらいになってきた。
「相手の顔が見えるってだけで安心しますね」
シルフィエッタは“ふぅ”と息を吐き周りの面々を見た。
「そうだな………とりあえず薄くなってきてるから進む方向は間違っていなかった、のだろうか?」
「そうあって欲しいですね」
「誘き寄せられてるって可能性もあるな」
「そっちの線に一票っすね」
ワーグナーは何者かに誘き寄せられてると感じていた。
それが魔物なのか、それとも人なのか、それはわからない。
だが、それなりに苛立ちを感じているワーグナーは現れたら一発殴ってやろうと思っていた。
改めて霧が薄くなっていく方向に進み出す。
そして、やっと霧が晴れた………のだが
「なるほど………」
アルスはそれを見て呟いた。
「最悪な展開ですね……どうします?殿下」
アンバーは冷や汗をかきながらアルスに指示を仰ぐ。
「………これは………」
シルフィエッタは絶句している。
「死地ですね………」
幾千の戦場で生き抜いてきたローマンもその光景に息を呑む。
「………やば」
ジスは頬に浮かべたいつもの笑みを震わせていた。
「ハハッ これはやばいっすね……」
ワーグナーですらゴクリと唾を飲む。
霧が晴れ、視界が戻った面々の前に現れたのは広大な草原。
そして、まるで四霊山の全ての魔物をそこに集めたかのようなびっしりと所狭しに跋扈する魔物達………その数ざっと数千。
そして少し離れているが見えている魔物達は殆どがAランクであり、一番弱くてもBランクであった。
それが数千………しかも魔法は使えない。
「これはさすがに無理ゲーすぎるな」
「無理ゲー………とは、なんです?」
「絶対無理ってこと」
「逃げますか?」
「とりあえず引き返すか……」
魔物達に気付かれないように霧の方に戻る。
が、アルス達のその行動を予測していたかのようにまた変化が起きた。
「なんでだよ……」
霧の方に戻ってもなぜか気が付くとあの草原に着いていた。
何度やっても、だ。
「絶対逃げられない……すね」
「どうしますか?殿下」
「戦うしか道はないだろうな。黙って通してはくれないだろう」
「勝て………ますか?」
「まだ魔法は使えないのは確認済みだ。正直な話結構きついな………あれどんくらい居るんだ?」
「目視で千前後ですかね………道中いなかった魔物達が集結しているのでしょうか」
「可能性はあるな………」
アルスは“ふぅ”と一呼吸を置いて皆を見る。
「あそこを押し通るしかない。俺は行く。残りたいやつはここに居てくれ」
「そんな気持ちなら着いてきて無いですよ?皆はどうする?」
「もちろん行きます」
「私も………」
「殿下が行くなら行きますよー!」
「逃げようがないなら進むしかない……っすねぇ」
「行きましょう………殿下」
「死ぬなよ………お前ら」
「「「「「はっ!!!!」」」」」
6人は武器を手に持ち川のような壮大な魔物の密集地に進んでいく。
半円形に囲まれている為逃げ場はない。
気付いた魔物の一体が走って向かってくる。
それに釣られて次々に迫ってくる魔物の群れを見てアルスはニヤリと笑った。
そして、本当にやばいかもしれないと思った。
だが、進むしか道はない。
6人が走り出す。
千を超える魔物、それは押し寄せる濁流と変わらない。
覚悟を決めた面々もその本能的な恐怖に頬が引き攣る。
だが、先頭のアルスはさらに速度を上げ………そしていつの間にか目の前から消え去っていた。
凄まじい土煙と陥没した地面を残して。
そして恐怖にかられていた面々の視線の先でザッッッッッ!!!と空気の斬れる凄まじい音が響き渡り数十のAランクモンスターの胴が真横に一閃され上下分かれてズレ落ちていく。
だが次の瞬間にはアルスは右に左に動きながら、返り血を浴びながら、凄まじい勢いで魔物を倒していく。
それを見て歓喜し心躍らない者はこの中にはいなかった。
手に持つ武器の柄を握る力が強くなる。
俺も(私も)………!!!!
壮絶な戦いの幕が開けた。
月間ハイファンタジー2位頂きました!!
ありがてぇ_| ̄|○
ついでにほんとについ二日前くらいに330万PVだったのですが、370万PVいってました!!
やばい、もうすぐ400万PV_(:3」∠)_
今後とも転生捨て子を宜しくお願い致します!!




