102話 選ばれた者達×四霊山の異変
その夜、編成を終えたアンバーが部屋を訪ねてきた。
危険な捜索活動になる為、例の10人の中から志願する者だけに絞りさらにそこから諸々判断して選ばれたのは二人らしい。
一人目が小隊長のジス・マルクス。
赤髪癖っ毛のお調子者だが魔国でもかなり有名な一心流という剣術の免許皆伝者らしく剣をもたせれば天才と評価されているらしい。
もう一人は同じく小隊長のワーグナー・ワグゼス。
茶髪の短髪で顔に傷のある山賊みたいな風貌の男である。
元は傭兵団の隊長で素行は悪いが実力はピカイチ。
駐屯地の中では戦闘狂としても有名らしい。
それにアンバーを含めた有用なスキル持ち三人とアルスを含めた6人で四霊山に挑むことになる。
アルスは自分のスキルを頭の中でまとめた。
[創造]
[覇道/ LV.MAX]
[鍛錬の道/ LV.MAX]
[統率/ LV.MAX]
[威圧/ LV.MAX]
[支配/ LV.MAX]
[気功/ LV.MAX]
[自動回復/ LV.MAX]
[ステータス閲覧]
[ステータス改変]
この中で戦闘などで役に立たなそうなのは覇道、鍛錬の道、ステータス閲覧、ステータス改変だろう。
モノを生み出せる創造、指揮下の者のステータスを上昇させる統率、自分より弱い敵を怯ませる威圧、同じく自分より弱い敵…その中でも状態異常に耐性がないモノを従える支配、体内の気力を纏って強化したり外に放つことで攻撃可能な気功、常時回復し続ける自動回復はかなり役に立ちそうである。
だが最近はスキルを殆ど使っていなかったのも事実。
生命力を消費する為、欠如=死であるスキルはあまり乱用できない。
なるべくなら使いたくないのが本音ではある。
四霊山に向かうときに普段魔法で収納している武器なども出しておいた方が良いだろう。
そう考えると普段どれだけ自分が魔法に頼ってきていたのかをアルスは改めて実感させられた。
だが、邪神の使徒と戦うという多くの可能性がある危険な戦いを考えればこういう状況にも慣れておくべきだと感じる。
アンバーが編成を伝えてきた時刻から少し時間を置いてアルスは捜索メンバーを部屋に集めた。
ソファに腰掛けるアルスの前には五人の軍人が立っている。
前情報から察するに、左端からローマン、シルフィエッタ、アンバー、ジス、ワーグナーの順である。
「殿下、全員集まりました」
「緊急の為この場ですまない。アルス・シルバスタ=ベルゼビュートだ」
アルスが名乗ると改めて全員が膝を付き頭を下げる。
「顔を上げてくれ。アンバーから話は聞いていると思うが明日の早朝四霊山にこのメンバーで向かう予定だ。それと四霊山は現在魔法の使用ができない可能性がある。いくら俺でも全員を守り抜けるかは分からない。それだけ危険な状況も考慮しなくてはならない。強制はしない、抜けたい者は部屋を出てくれて構わない。またそれが今後君らの評価に関わらないことはここで約束しておこう。どうする?」
アルスの言葉にまずアンバーが声を上げた。
「私はここの司令官です。緊急の場合には最前線に行くことも常に念頭に入れています。それに、殿下が率先して向かうと言うときに黙って待っていられる程小心者でもありません。ぜひ、同行させて下さい」
「わかった。アンバー・セイレムの同行を許可する」
次に声を上げたのは虎の獣人である金髪の男だった。
その雰囲気はアンバーに並ぶ程でありさすがは危険区域の駐屯地の大隊長というべき風格だった。
「四霊山駐屯地大隊長、ローマン・ボブです。お初にお目にかかります殿下。私もセイレム閣下と同じ気持ちです。大隊長である私がここで抜けるなど有り得ません。それに次代の皇帝であらせられる殿下の指揮するメンバーに入れるというのは臆する気持ちよりも歓喜の気持ちのほうが大きいです。必ずやお力になれるよう尽力致します」
「さすがは危険区域の大隊長というべきだろうな。良い気迫を纏っている。わかった……ローマン・ボブの同行を許可する」
「はっ!!有難き幸せにございます」
階級順にということなのか、次に声を出したのは緑のサラサラな髪に、綺麗な青目と長い耳を持つエルフの美女であった。
見た目は美しいがさすがは中隊長、それなり以上に強いだろうとアルスは思った。
だが、その醸し出す魔力量の多さから魔法なしでどこまでやれるのか……という懸念もある。
「四霊山駐屯地中隊長、シルフィエッタと申します殿下。私は………正直な話を言えば魔法なしではセイレム閣下やボブ大隊長に比べればそこまで強くはないかもしれません。しかし、行方不明になった部隊は私の部下達です。何故あのとき私が率いなかったのかずっと後悔していました。なので、その捜索となれば私は………参加したいです。それが上官として、私が出来る彼らへの気持ちです。」
その真剣な顔を見れば、確かにこれまで後悔してきたのであろう事が分かった。
「魔導師である君が魔法なしで四霊山に挑むのは、無謀なのではないか?」
「………それでも…」
「厳しいことを言うようだが、今回は不測の事態が起こる可能性が大いにある。自分の身は自分で守るしかない……わかるな?」
「はい………たとえ…」
「その先を言うなら連れてはいかない。」
「………」
「死ぬくらいなら皆を見捨ててでも逃げろ。それが例え俺だったとしてもだ」
「しかし……」
「これは、皆に言っておくが……仲良しごっこをする為のメンバーじゃない。救える可能性と逃げれる可能性を常に天秤にかけろ。どちらも死にましたが一番無意味だ。まずは生きる事を考えろ……その次に仲間の命、捜索だ。わかったな?」
「「「「はっ!!」」」」
「良いだろう。シルフィエッタの同行を許可する」
「感謝します。殿下」
深々と頭を下げたシルフィエッタ。
再度顔を上げた後に不安の気持ちはなくなっていた。
それが覚悟だとアルスには分かる。
これなら心配は少なからず減っただろう。
「お初にお目にかかります!殿下。四霊山駐屯地小隊長、ジス・マルクスです。殿下のお噂はいつも聞いています!共に行ける幸福を神に感謝したい程です………ぜひ一緒に行かせてください!」
「死ぬ可能性があるのだぞ?」
「逃げるのは得意です!」
「ふっ………そうか、なら良い。ジス・マルクスの同行を許可する」
「ありがとうございまーす!殿下!!」
確かにアンバーの話通りお調子者である。
だが、その目の奥に確かに«強さ»があるのをアルスは感じていた。
あえて、そのキャラを演じているのだろうか。
だとしたらかなり癖のある人物だ。
「四霊山駐屯地小隊長、ワーグナー・ワグゼスです。俺も行きますぜぇ殿下」
「おい!口の聞き方を改めろ!!」
ニヤニヤと軽い口調で言うワーグナーにアンバーが一喝する。
だが、アルスは片手を上げて皆の視線を戻した。
「構わない、その程度の軽口なら許容する。ワーグナー、アンバーに聞いたがお前は戦いが好きなのか?」
「過酷な、戦いが好きですぜ」
「死地に己から挑むタイプか」
「死にはしませんよ。引き際も傭兵時代に身に付けましたから。それに、最悪の場合は先程殿下が言っていた通り仲間を見捨ててもいいんですよね?」
「構わん」
「例えそれが殿下でも?」
「あぁ問題ないぞ」
「だったら、必ずや生き残りましょう」
挑むようなワーグナーの視線とそれを覆うほどに力強くそして寛容でもあるアルスの視線がぶつかる。
「ハハッ!!噂以上ですね殿下」
「お前もなかなか面白いな。採用した者の評価を上げてあげたいくらいだ」
「嬉しいっすねぇ。まぁ精一杯やることはやりますぜ殿下」
「それで、構わん。やれることをやってくれ」
「はっ!!」
改めて皆の同行が確定した。
ソファに皆を座らせアンバーが持ってきた確認出来ているおおよその四霊山の地図をテーブルに置いて向かい合う。
「消えた部隊はここから入り、この動線でこの辺りを目指していました。」
アンバーが地図に消息を絶った部隊の経路を描いていく。
「そして、帰還した者の話ではこの辺りで部隊が消えたと」
その示された場所は経路の中間辺りの場所だった。
主達がいるとされている場所などからも離れている。
「今までそういう事はあったのか?」
「年に何度か冒険者が行方不明などはありましたが、この頻度、さらに部隊ごと消えたのは初めてです。それに、この辺のルートは今までは割と安全だとされていました」
「魔法使用ができなくなった事に気付いたのはどの辺だ?なぜ、その部隊は魔法使用ができなくなっても引き返さなかったんだ?」
「それが、戻ってきた者が言うには気付いたのは部隊が消えてからだったようです。それまで魔物との接触がなかった為温存の意味もあり魔法は使っていなかったと……」
「どれくらいの距離なんだ?入口から」
「半日以上の場所ですね」
「そんなに出会わないのか?魔物と」
「いえ、通常ならいくら安全なルートと言えど最低でも数回は接触しているかと………」
「………やっぱり変だな」
アルスの言葉に皆が頷く。
特に他の面々は皆四霊山に入ったことがある。
その為そこまで魔物との接触がないという話の違和感はアルス以上に感じている。
部隊が消えたエリアも普段なら警戒さえしていれば休息に使う程安全な場所だ。
一体、四霊山で何が起こっているのだろうか。
前にも書いたかもしれませんが、大陸によって同じランクでもモンスターの強さが違います。
その中でも魔大陸(北大陸)は同レベル帯の中でも最もモンスターが強い地域です。
なので南大陸のSランクモンスターよりも北大陸のAランクモンスターのほうが遥かに強いです。




