101話 四霊山
結婚式から数日後、アルスは一人四霊山を目指していた。
行ったことがない為、転移は使えないので今は空を飛んでいる。
飛行魔法の便利さは計り知れない。
北大陸の中でも南方にあり四霊山の周囲、さらにそこから何個かの街を越えた南側の港街までは魔国軍長ガゼフが当主であるダイラント辺境伯家の領地である。
元々は伯爵家であったダイラント家はガゼフが当主になってから、四霊山の危険さと他国からの侵攻がある可能性のあるその一帯を任され辺境伯となった。
タイミングがあれば一度ダイラント家にも顔を出したいのだが、とりあえずは四霊山に向う事のが先である。
四霊山はかなり大きな山である。
前世的に言えば富士山と同じかそれ以上の大きさであり、他大陸よりも強いと言われる北大陸のモンスター(魔物)の中でも一線を画す程の強い個体が多く生息している。
つまるところ同じランク帯のモンスターでもその強さは数段上になる。
逆に言えばそんな強いモンスターでないと四霊山では生き残ることは出来ない。
化け物じみた強さのモンスターが跋扈している弱肉強食の山の中、生き残ってきた個体は相当に強いのだ。
上空から山を見下ろすアルスは初めて見た四霊山に“なるほど…”と声を漏らした。
感覚的に凄まじい生体反応をビシビシと感じる。
その中でもドラゴン並の強さの個体が四体。
その反応こそ四霊山の四体の主だろう。
いきなりそこに飛び込むほど無謀ではないアルスはとりあえず上の方に存在を感じる四体を無視して、山の下の方から進んでいく事にした。
あくまで今回の目的は四霊山の主の討伐というよりは自身の強化である。
なるべく多くのモンスターと戦い成長したい。
そして、もちろん最終的には主達とも戦うことになるだろう。
降り立って大きな山を見つめるアルス。
透き通った青空と大きな山。
前世感覚ならとてものどかなのだが、内部を理解している分視線は鋭い。
だが、アルスの口角は少し上がっていた。
森で生活していた幼少期以来久しぶりの山での生活になる。
最近忘れかけていたヒリついた感覚がなぜか心地良い。
人間安定して平和な感覚に慣れてしまえば成長は限られるというのがアルスの考えである。
厳しい環境に身を置くことによって己を成長させていきたいとアルスは思っている。
四霊山の入口には魔国の軍が駐屯していて、許可を持ってそこを通らないと入山は出来ないようになっている。
その駐屯地にアルスは赴いていた。
「殿下………」
駐屯地の司令官が慌てて現れアルスの前に跪く。
「父上から許可は貰っている。はい、これ」
「確かに……で、殿下………お話が」
許可証を見て頷いた司令官の顔色は悪かった。
そこから応接室に案内されアルスと司令官のアンバーは向かい合った。
「で、話っていうのは?」
「実は、すでに報告は上げているのですが………相次いで行方不明者が出ています」
「S級の冒険者か?」
「いえ………それもそうなのですが」
四霊山の入山は基本的にはS級の冒険者パーティーでしか与えられない。
一般人が気安く入れる場所ではない。
「S級パーティーやSSランク冒険者が相次いで行方不明になり、救出部隊を編成して入山させたのですが彼らからの連絡もなく、一人を除いて帰還していません」
「なるほど………で、帰還した者はなんと?」
「目の前に居た部隊が突如消えた、と」
「なに?」
「突如部隊が消え、慌てて山を降りたようですがその際も魔法の使用が出来ないなどかなり異質な状況だったと……」
「突如部隊が消え去り、魔法の使用が不可?今までそんなことは?」
「ありませんでした………」
「………そうか」
「なので、一旦入山は辞めておいた方が良いかと……」
「いや、未だに行方不明者が居るならなおさら行くべきだろう」
「し、しかし……」
「だが………魔法使用不可はかなり厄介だな」
魔法の使用が出来ないというのはこの世界ではかなり過酷な状況である。
特にアルスはその多種多様で壮大な魔法によって今まで窮地を脱してきた。
だが、今も現状そうなのかは分からないが魔法が使えないとしたらその状況下で主と遭遇するのはかなり危険である。
「それなら私もお供させて下さい。精鋭部隊を編成します……」
「大人数でいくのは逆に危険なのではないか?」
「ならば、少数精鋭で行きますか?」
「魔法以外で技量が高い者はどれくらい居る?」
「魔法以外、スキル持ちだと有用そうなのは私を含めて5人。魔法、スキルを無しにしてそれなり以上に強くこの森でもなんとか自分を守れそうなのは10人程です」
「なるほど…そうか、スキルは使える可能性があるのか。アンバーはどんなスキル持ちなんだ?」
「私は[探知][気配遮断][回復力増加]です。気配遮断は私だけでなく私の周囲にも影響しますので今回は使えるかと」
「確かに有用だな、他の目立ったスキル持ちは?」
「大隊長のローマン・ボブは虎獣人で[危機察知][聴力増加]を所有しています。獣人である為身体能力も高く山との相性も悪くないです。もちろん大隊長を任せているくらいなので実力もかなりのものです」
「確かに山との相性は良さそうだな…」
「もう一人は、中隊長のシルフィエッタ。彼女はエルフで[風の声][風の守り]という精霊系のスキルを所持しています。魔法が使えれば圧倒的な技量なのですが、魔法なしではローマンと比べて少し心許ないですね。ただ探知よりも風の声は範囲を広く索敵できますし、中隊長として経験も豊富です。」
「他のスキル持ちはそれよりも実力は数段下がるか?」
「はい……」
「じゃあアンバー含めて3人だけでいい。他の実力者もその中からさらに絞ってくれ」
「かしこまりました。出発はいつに致しますか?」
「一刻を争う状況ではあるが、編成もあるだろう明日の早朝に出発する」
「はっ!!」
“クロ…来れるか?”
“うん!待ってて〜”
アンバーとの話の少し後、外の訓練場に来たアルスはクロを念話で呼び出した。
さすがはドラゴンというべきかあっという間に四霊山上空まで飛んできたクロはアルスを見つけてバサッバサッと降りてくる。
「すまないなクロ……急に呼び出して」
『いいよ〜!どうしたの?クロも行く〜?』
「いや、手紙を届けてくれローナと父上に」
『ん〜?アルスがビュンって行かないんだ〜?』
「あ〜、この話をしたらローナに止められそうだからな」
『なんかあったの〜?』
「かなりの人数、行方不明者が出ているらしい。それに魔法が使用不可の可能性がある」
『ふーん……なるほど』
最近かなり賢くなってきたクロはその話を聞いてコクコクと頷く。
『魔法〜使えないならクロが居ても目立つだけか〜』
「お前ほんとに賢くなったな」
『クロすごい〜?』
「あぁ、凄い。ということでこの手紙を二人に渡してくれ」
『わかった〜』
足に専用のカバンを取り付け、その中に手紙を入れるとアルスはクロの頭を優しく撫でる。
「任せた」
『危険だったら呼んでね〜。ビュンってすぐに来るよ〜』
「あぁ、やばかったら助けに来てくれ」
『もちろんっ!!』
ドラゴンなのに二足歩行になって胸を張るクロを見てアルスは少し和んで微笑む。
見た目は凶悪そうな漆黒のドラゴンなのに行動と言動はかなり可愛らしい。
それからクロが空に飛び立ったのを確認してアルスは用意された部屋に戻り明日の為の計画を立てていくのである。
本当につい先日250万PVいって喜んでいたのですが今日確認したら330万PVになっていました!!
見てくれている皆様有難う御座います_(┐「ε:)_
前にも後書きで伝えた通りここからは戦いが多くなっていきます!
その中でもたまにほっこりな話などを入れていければと考えていますので今後とも転生捨て子を宜しくお願い致します。
これからも応援するよー!という方はいいねとブックマーク、☆の評価をお願い致します(T_T)




