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外伝 亀焼き会

毎年秋になるとキノコの亜人が大勢住むオンゴ村では亀焼き会が開かれる。これは文字通り亀を焼いて食べるのだ。

 村を囲む森の中には亀が住んでいる。ミシシッピアカミミガメやカミツキガメがごろごろいる。


 ミシシッピアカミミガメはアメリカ南部に棲んでいた。ミドリガメとも呼ばれている。アメリカ合衆国内で愛玩用に大量に増殖されており、これらが世界各国に輸出されていたという。汚水に強いので汚染水域で単一的優先種となり問題化したそうだ。

背甲長二八cmに達する中型種で雌の方が大型になる。体重は背甲長二〇cmの雌で千四百g前後、甲はゆるやかなドーム状で、背甲には弱い1本の隆条がある。背甲の後縁には弱い鋸歯があり、頭部の両側に橙赤色の斑紋が目立つ。雄はしばしば黒化し、全身がまっ黒になるのだ。


 カミツキガメは北アメリカに棲んでいた大型カメで、全長は五十cmを超える。雑食性で水生生物の多くを動植物問わず食害するそうだ。内水面漁業にも影響し、魚網や罠に侵入して破壊する。攻撃性が強く、ヒトが捕獲しようとすると噛みつくことがあるらしい。


 村人はそれらの亀を大量に捕獲する。そして清水に入れて三日ほど泥を吐かせるのだ。

 村にあるジョバンニ広場では木製のテーブルと椅子が数多く置かれていた。テーブルの上には赤く燃える七輪が上がっている。それに特別な器具が付いていた。亀が転がらないようにするためのものだ。

 カミツキガメ用は別に炭を焚いていた。運ぶのに大人が二人で抱えてきている。


 ヤマネコの亜人ガトモンテスは屋台にいた。後ろにはジュースサーバーが置かれている。オンゴ村では食堂を経営する彼だが、今回はジュースと酒を売る側になっていた。

 店員はツキヨタケの亜人ルナとヒアリの亜人ソルの二人。彼女らはガトモンテスの手伝いをしていた。


「すごい、熱気。はじめて」


 ソルは広場を見て驚いた。村人が大勢集まってきているのだ。村長一家やその他もろもろが集まっている。キノコの亜人とアリの亜人が多い。ウサギやキツネの亜人もちらほら見える。

 ソルは亀焼き会を初めて見たので、その熱気に充てられていた。逆にルナの顔は青ざめている。


「うぅぅ、毎年亀を生きたまま焼くのよ。気持ち悪いったらありゃしない」


 ルナは嫌悪感を露わにしていた。博愛主義ではないが、生き物を焼くことに吐き気を覚えているようだ。

 逆にソルは好奇心満々だ。


「? なんで、生きたまま、焼く?」


「生きたまま焼いた方がいいのさ」


 それを説明したのはガトモンテスだ。コック帽にエプロンを身に付けている。料理人であるが今回は亀を焼くだけで仕事はない。すでに大量のジュースと酒が売れていた。


「以前首を斬って焼いたことがあるが、味がよくないんだよ。こいつは傷口から雑菌が増殖して肉が不味くなるんだよ。生きたまま焼けばおいしくなるのさ。俺が保証するよ」


 ガトモンテスが胸を叩いた。ソルは初めての亀焼きに胸をワクワクしている。


「どんな味か、楽しみ」


「ああ、期待して待っているといい」


 ソルは笑顔を浮かべているが、ルナはいい気分ではない。


「まあ、おいしいのは否定しないけどね……。あたしは焼いている最中が最高に嫌なのよ……」


 ルナは口に手を押さえている。


 さて亀焼き会が始まった。大量に捕獲された亀たちを次々と七輪に置いていく。じゅうじゅうと焼ける音が出た。

 亀たちは手足をバタバタさせる。熱で苦しんでいるのだ。さらに体液が沸騰する音もする。香ばしい匂いもしてきた。


「亀は食べられるんだよ。本来は焚火の火に生きたまま放り込むのが主流らしい」


 ガトモンテスが説明する。


 やがて甲羅の薄い部分に穴が開き、ジュワジュワと蒸発する音も聞こえてきた。

 数分経つと、亀は焼け死んだ。甲羅の側面にのこぎりに切れ目を入れる。そしてスープが零れないように、剥がしていくのだ。かなり肉離れが良い。


 皿に卵と肝臓を取り出す。身を皿に置いた。なんとなく貝類をたれで焼いたような匂いがする。

それを待っていましたと言わんばかりにフォークで刺して食べていく。

 

「うん、おいしい。噛み応え、たっぷり」


 ソルは亀の肉を食べていく。味付けをしなくても十分にうま味がある。ルナも顔はしかめているが、亀を食べる。調理するのは遠慮したいが、食べるのは平気なようだ。


「肝臓と卵を食べてごらん」


「うん、肝臓、おいしい。卵は……、粉っぽい」


 ソルは黙々と食べていく。肝臓はうまいが卵は水っぽくて粉っぽい。あまり好んで食べるものではないようだ。あと膀胱と胆嚢は食べられないそうだ。


「特にうまいのがこのスープだ。飲むといい」


 そう言ってガトモンテスは甲羅に溜まっているスープを差し出した。

 ソルはスプーンを手にして、一口飲む。すると顔をしかめた。


「血生臭い。おいしいけど」


「ああ、スープは慣れないと味が濃いからな。初めてだとこんなものさ」


 ガトモンテスはカラカラ笑っている。ルナは慣れているのか、スープを飲む。

 他の村人も焼き亀に舌鼓を打っていた。カミツキガメも焼かれていき、集まってきている。

 過去にウミガメも貴重な食糧として扱われていた。


「亀は、丸焼きじゃないと、食べられない?」


「そんなことはないさ。もつ煮にしたり、から揚げにしたりと色々できる。今回は大量に食べるために焼いただけさ」


 ひと昔はきちんとした調理などしなかった。焼くか煮るかのどちらかである。調理など生活に余裕がないためだ。

 今ではガトモンテスが調理している。おいしい亀料理が楽しめるようになった。

 だが昔の生活を忘れないように亀を焼いて食べるのだ。オンゴ村だけではなくコミエンソでも時折亀焼き会が開かれていた。


「こんなの、初めて。世界は、まだまだ、おいしいもの、いっぱい」


「その通りさ。俺たちの周りにはおいしくいただける動物がたくさんいる。俺たちはその命をありがたくいただくのさ」


 ソルは亀を美味しく食べていた。ルナも食べている。焼いた亀をみんなで食べる姿は、とても微笑ましく見えた。

 実際に亀を焚火に生きたままくべることがあります。

 でも自分で調理するのは怖いですね。どこか店で出してくれないかしらん。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)レビューでも書きましたが、かなり独特な世界観を創られていて、それでもそこがしっかりと具体的に描かれていたところですね。あらすじを読んでから作品を読ませて頂きましたが、思ってた感じの方…
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