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第22話 ヤギウシのシチュー

「それでは開店おめでとうございます!!」


 オンゴ村で新しく食堂が生まれた。店主は山猫の亜人ガトモンテスだ。彼は20歳になり、商業奴隷から解放され、店を開くことになったのである。

 もちろん、ラタ商会から多額の借金を背負っていた。元は一般家庭の家を、食堂に改装した費用に、鍋や食器、コミエンソでしかお目にかかれないガスコンロに大型の冷蔵庫などが置かれていた。

 冷蔵庫のために太陽光発電も設置されている。こちらはラタ商会が半分負担していた。それに冷蔵庫などの電化製品は、それらを扱うニブルヘルム商会が実験のために提供したものだ。これほどの設備を導入するのは、ラタ商会の元商業奴隷は信頼されているからである。


「皆さん、ありがとうございます。おかげで店を持てました。これからもがんばります」


 店主のガトモンテスが挨拶する。彼は白いコック帽にエプロンを身に着けていた。

 目の前には大きなテーブルが置いてあり、数人の客が座っている。

 

 元主人のラタ一家に、オンゴ村の村長一家など、村の有権者たちの家族が招待されていた。

 

 ラタはコマネズミの亜人で、妻のスーは白猫の亜人だった。

 12歳の息子はカピバラの亜人で、二歳年下の妹はリビアヤマネコの亜人である。


 村長のポラーノはドクツルタケの亜人で、妻のクラムボンはサムライアリの亜人。

 12歳で娘のヘンティルはベニテングダケの亜人で、一歳年下の妹イノセンテはサシハリアリの亜人だ。


 村長の親戚で、自警団団長のカムパネルラは白うさぎの亜人で、妻はムキタケの亜人だ。

 彼女は男のようだが、立派な女性である。

 娘のルナはツキヨダケの亜人だ。上の兄弟はすでに村を出ており、子どもは彼女しかいない。


 最後に村長の親戚で、医者一家が来ていた。キタキツネの亜人の男と、奥さんはキツネノロウソクというキノコの亜人だ。丸刈りのような髪型で深いオリーブ色をしている。

こちらは毒キノコではないが、匂いがきつく、食用に向かないキノコだ。

 なので普通の女性に近い。医者の手伝いをしており、虫除けの薬も調合している。


娘はキタキツネの亜人ニエベだ。もうひとり妹がおり、こちらはキツネノエフデの亜人である。赤い筆のように見える髪型をしていた。

 キツネノエフデは毒キノコではないが、キツネノロウソクと同じ、臭いため食用に向かないため、やはり普通の女の子に見えた。


「さて皆さんにはヤギウシのシチューを振舞わせていただきます。これは一般家庭が多く食べるからです」


 そう言ってガトモンテスは大型の鍋を持ってきた。赤ワインの匂いが漂っている。

 ヤギウシとは牛のように肥大化したヤギのことだ。キノコ戦争以降で見られる品種である。

 最初は奇形が多く、前脚が巨大化し、下半身は退化した者や、単眼で生まれたものもいる。

 これらは亜人全書でスケッチされており、コミエンソの博物館で確認することができた。


 まともな身体をしたヤギウシを交配させて増やしたのだ。ただし所詮は大きくなっただけのヤギである。

 肉はヤギと同じく臭いがひどい。餌を変えることで肉の臭みを消し、柔らかさを増している。

 大抵は労働用に飼育されており、年老いたら食べる形だ。


 もちろん本物の牛はいるが、コミエンソにしかいない。高級品として扱われていた。


 まずニンジンを輪切りにし、玉ねぎとニンニクをみじん切りにし、オリーブオイルで炒める。

 ヤギウシの肉は事前にヤギウシの乳に漬けて臭いを取る。肉は3ミリほど切り分け、小麦粉をまぶした。それを野菜で炒めたオリーブオイルで色が変わるまで炒める。


 そして炒めた野菜と小麦にトマトを混ぜる。塩と胡椒で味付けをするのだ。

 最後に赤ワインを入れて、一時間ほど煮込むのである。


 ガトモンテスは皿を用意し、ひとりずつ持っていく。赤ワイン風のシチューは収穫祭などで食べるが、基本的にはクリームシチューが多い。保存食のライ麦と混ぜている。


「あれ、ジャガイモとひよこ豆が入ってないね?」

「本当だ。でもお姉さま、とってもおいしそうだわ」


 ヘンティルとイノセンテは物珍しそうに見ていた。ルナはちらっと見ただけである。どうでもよさげな感じだ。

 ニエベと妹は早く食べたいとわくわくしている。


 ラタの子供たちは特に何もない。彼らはガトモンテスの腕を信じているので、今更感動などないのだ。


 全員配り終わると、スプーンを手にする。そして各々は口に運んだ。


「まあ、なかなか美味ですね」

「そうだな。女中に作らせたものより、はるかにうまい」

「もっとも極端においしいとは言えないがね。だが店に出すにはちょうどいい味だな」


 ポラーノとクラムボン、カムパネルラは高評価であった。他の者たちも言葉には出さないが、上機嫌である。

 ラタ一家は当然だと言わんばかりで、にやりと笑いながら親指を立てた。ガトモンテスも同じく返す。


「他にもパエリアやフライなど色々用意しております。まあ食材によってメニューが変わるので、そこはお楽しみにしてください」


 ガトモンテスがお辞儀をする。ポラーノたちは拍手をした。それを見てカムパネルラは少し考え込んだ。


「ガトモンテスさん。店はあなたひとりだけなのですか?」

「そうですね。まだ従業員を雇う余裕はないです」

「先ほど料理を配っていたが、あまりにも遅すぎる。配膳をする人が必要ではないのですか?」


 それを言われるとガトモンテスは何も言えなかった。皿に盛り、配るだけでもかなりの手間だ。注文を聞いて料理を運ぶ人がほしいが、金はない。

 だからひとりでも回せるように店の規模は小さめである。


「……ガトモンテスさん。娘のルナを使ってくれませんか?」


 カムパネルラの提案にルナは吹き出した。いきなりの発言に彼女は慌てふためいている。


「何の冗談ですか?」

「冗談ではない。実を言えばルナが心配なのだよ。この子は極度の人見知りでね、今日の集まりも無理やり引っ張ってきたくらいだ。大勢の人が行き交う店で働けば少しは人付き合いもよくなると思うのだよ」

「ですが給料は払えませんよ。何しろ店を開店させるために借金をしていますからね」

 

 そこをラタが助け舟を出した。


「彼女の給料は私が払おう。ガトモンテスの腕ならこの村で常連客を掴むだろうさ。あんまり忙しくなりすぎて、身体を壊されては困るからね」


 あっさりと決まってしまった。ルナはぷるぷると首を横に振って反対するが、カムパネルラは強引に決めてしまう。

 こうしてガトモンテスの食堂、山猫亭がオープンしたのである。

 ルナはその日から便所にこもるようになった。

 キツネノロウソクとキツネノエフデは毒キノコではないですが、臭いがひどいので食用に向かないそうです。

 ちなみにニエベの身内なので、キノコ、キツネと検索したらこれがヒットしました。

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