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第21話 スペイン風カレー イノブタのバラ肉入り

「おーい、普通のカレーを頼むわ」


 昼下がりの午後、山猫亭に二人組の男が入ってきた。ひとりはのっぽで、あとはちびである。

 鉄兜を被り、肩当てと胸当てを付けている。赤いマントを着て、手に槍を持っていた。

 フエゴ教団の兵士である。騎士団の代理として村や街道の見回りをしているのだ。


 二人組は人間の男で、二十代を超えている。彼らは布教された村の末っ子だ。家族の中では家畜として扱われている存在で、いてもいなくても問題ないのである。

 騎士団に無理やり引っ張られ、馬車馬のように働かされてきた。彼らにしてみれば実家の家畜小屋に住むより、兵士になって小奇麗な部屋に住み、上質な食事ができるので大満足だった。


 さてふたりの名前はのっぽがクアルトで、ちびはキントだ。クアルトは第4という意味で、キントは第5である。生まれた順番でつけられた名前だ。

 レスレクシオン共和国ではありがちな名前である。これが亜人なら、犬ならペロ。猫ならガトと付けられていた。


「はい、ではお席でおまちください」


 ツキヨダケのルナは客に対して、いつも通りの言葉で接する。マニュアル通りで、彼女が冗談を言ったことなど一度もない。

 以前、卑猥な言葉を投げかけたが、本気で怒られたので、相手にしなくなった。

 店主のガトモンテスも注意した。

 

「ここの店員は無愛想だなぁ。コミエンソなら小さな店でも、愛想があるぞ」

「そうだな。特にエル商会はすごいぜ。店はきれいだし、店員は常に笑顔だ。ここの料理がうまくなければ、何度も来たくはないね」


 ふたりは案内された席に座り、好き勝手に談話していた。ルナの耳に入ったのか、彼女は顔をしかめている。


 さてカレーだが、この店では前日に作り置きをしている。

 まずはニンジンとパプリカ、玉ねぎをオリーブオイルで炒める。

 次にイノブタのバラ肉を加えるのだ。野菜に火が通ったら水を加える。


 そしてひよこ豆の水煮を入れる。レスレクシオン共和国ではどんな料理にもひよこ豆は欠かせないのだ。

 あとはニ十分ほど煮込む。パプリカパウダーを入れ、フレイ商会から購入したカレールーを入れる。

 さらにニ十分煮込めば完成だ。レスレクシオン共和国がスペインと呼ばれた時代に作られたカレーライスである。

 もっともルーの原料であるスパイスは、つい十数年前にガルーダ神国から輸入されたので、百数年ぶりにカレーライスが復活したといえた。


 ちなみにこちらは普通のカレーで、キノコたっぷりのオンゴカレーが存在する。

 キノコが名産だから、キノコを使った料理が豊富だ。主に旅人などが注文している。


 彩の野菜に、ひよこ豆が映える逸品である。


「これこれ。やっぱり昼飯はカレーライスだよな」

「まったくだ。宿舎に出されるのは、大抵ヤギウシのシチューだからね。固くて臭いヤギウシの肉を、毎日食わされるのは拷問だぜ!」


 そう言ってクアルトとキントはカレーを食べ始める。

 ほかほかの米に、辛いルーがまじりあう。

 まずは一口食べるが、ふたりともにっこりと笑った。


「うん、うまいね。さすがはプロの味だよ」

「しかも飽きがこない味付けだ。これなら毎日食べても飽きないよ、値段も手ごろだしな」


 この村にはろくな娯楽はない。精々食べる程度であり、食事だけが娯楽なのである。

 ふたりはカレーを食べる。食べ終わるとすぐにお代わりを要求した。

 ルナはすぐに持ってくる。


 店内はほどほどに客が入っており、スパゲッティやハンバーグを食べていた。


 ふたりはおかわりも空にすると、ようやく人心地ついたようだ。


「ふぅ、喰った喰った。やっぱり飯は大事だよな」

「そうだね。この店はメニューも豊富だから、今度は何を食べるか楽しみだよ」


 そこにルナがやってきて、ガラスのコップに入った水を出す。氷入りの水だ。冷凍庫で作った物である。

 コップを置く際に、ルナは引きつった笑みを浮かべていた。かなり気持ち悪い。

 おそらく精いっぱいの努力であろうと、クアルトたちはそう思った。


「ところで例の噂を聞いたか? ラタ商会で自殺した商業奴隷たちが、ゾンビとして蘇ったって」


 クアルトが急にひそひそ話を始める。ガトモンテスは眺望にいて、話は聞こえない。

 ルナは客の話に興味はなく、他の客の相手をしていた。


「ああ、聞いたことがあるよ。首を括った商業奴隷が、恨みを晴らすために起き上がったって話だね」

「ラタ商会は極端すぎるんだよ。ここの店主みたいに有能な人間がいれば、異常なまでに社会に適さない無能が出たりするんだよね。ウトガルド商会のロキみたいなのを大量生産するから、評判が悪いんだよな」

「その一方で支店長たちはまじ有能だから、評価は微妙なんだよね」


 これはラタの教育の仕方に問題があった。厳しくも丁寧な教育は優秀な人間を生み出す一方で、その教育に反発し、暴徒と化すものも珍しくない。


「まあゾンビになるのは、ラタ商会だけじゃないからな。大抵布教したばかりの村は、そんな奴が多いよ。殺されるのは弱い者いじめが大好きな、きょうじんがほとんおだからな。だから村長もそいつらを殺してくれと頼むんだよね」


 実は布教する前に、秘密裏に長老や村長と接触する。それで村にとって不都合な人間を始末してもらうのが、条件であった。

 遺体は後日火葬にする。


 その遺体が忽然と姿を消す。この手の話は昔からあった。

 殺されるのは大抵頭のおかしい人間だ。他人はおろか、家族にすら異常な行為を示す者がほとんどである。

 それらの遺体が何者かによって盗まれる。誰が犯人なのかわからないのだ。


「人食いのベスティアじゃないのかね。あいつらなら人の遺体を探して食べるだろう?」

「いや、違うよ。あいつらは赤ん坊しか食べないし、行き倒れの旅人の遺体すら食べない。そもそも赤ん坊さえ、大抵は女しか捨てないから、喰われないんだよ」


 ふたりは食後だが、人食いの話をして盛り上がっている。ルナはその横を通って、話を聞いてしまい、顔が青くなった。

 ちなみにベスティアとは遊牧民である。一定の居住区を持たず、家畜を連れて人里を避けながら暮らしているのだ。

 村の外にあるストーンサークルに旗を立てる。そして村人はその晩にいらない子供を捨てるのだ。

 

 男の子なら殺して食べる。その頭蓋骨を首飾りや鈴にする。その子の名前を刻み、一生忘れないようにするためである。

 女の子なら殺さず育てる。血が濃い彼らは外部から女を組み込み、血を薄めることが多い。

 近年子捨ては禁じられている。さらに捨てる方も気が咎めるため、大抵は女の子しか捨ててないため、ベスティアでも若い者は食人をしたことがない者がほとんどだ。

 

「そうなのか。お前はよく知っているな」

「お前も一緒に騎士団で勉強しただろうが。興味ないことは覚えないんだな」


 キントは呆れていた。そして水を飲み干すと、お代を置いて出て行った。


 ルナはそんな彼らの後姿を見て、げっそりとしていた。

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