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第19話 朝食

「んふふふふ。て~んちょ~♪」


 ガトモンテスは眠っていた。山猫亭には彼が寝泊まりする設備がある。

 台所に便所、ベッドにテーブル、椅子など独身なら十分な家具があった。オンゴ村の村民より粗末な家だ。生活よりも店に力を入れていることがわかる。

 本棚もあり、こちらは世界各国の料理が記されている。フエゴ教団が図書館から引っ張り出し、オルデン大陸で作られた紙で印刷していた。

 それ故に白黒で、絵は手彫りで拙い。もっとも色や大きさ、味などをきめ細かく説明しており、十分活用できる。

 ある程度教育を受けていなければ、本の内容はまったく理解できないだろう。事実、ルナは簡単な調理法の本しかわからないし、ソルは絵を見てもちんぷんかんぷんであった。


 さてガトモンテスはベッドで寝ていた。不意に体に何か重いものが乗っているようだ。肉の塊みたいに熱く、柔らかさがあった。いったいなんだろうと、目を開けてみる。

 するとそこには信じられないものが見えた。自分の腹の上に、女性がひとり馬乗りになっているのである。

 相手はルナであった。ムキタケに似たキノコの傘の髪型は見間違いようがない。

 

 問題なのは彼女が全裸であることだ。彼女は18歳だが、あまり女性としての発育はよろしくない。貧乳で、寸胴、手足は長いが、あまり女性としての魅力は感じられなかった。

 それなりに見られる顔だが、本人は根暗であり、化粧もしていない。

 余計に異性として感じるものがないのだ。


 もっともガトモンテスにとって、ルナは従業員のひとりであり、あまり異性を意識していないのだが。


「!? ルナ、お前何をやっているんだ!!」


 ガトモンテスは普段出さない厳しい声色で怒った。しかしルナはまったく気にしていない。

 目が座っている。えへへと不気味な笑みを浮かべていた。

 まるで酒に酔っているようである。ただし彼女は酒が飲めない。匂いを嗅ぐだけで酔っぱらってしまうのだ。


 エア泥酔といい、ルナは自分が酔っぱらっていると思い込むのである。

 そしてガトモンテスの寝室に忍び込み、既成事実を作ろうとしているのだ。


「えへへ……、店長っていい身体してますよね。毎日重たい鍋を振るい、酒樽を持ち上げているからかしら?」

「ルナ、いたずらはよせ。いますぐ出て行けば、今夜の事は忘れてやる」

「忘れるですって!! 店長にとって私は行きずりの女ですか!? 私に魅力がないんですか! 私が毒キノコなのに、性別が女であることが問題なのですか!!」


 ルナは目を見開きながら、ガトモンテスに詰め寄る。ちなみに彼は裸で寝ていた。身に付けているのはパンツだけである。

 亜人なので毛に覆われており、寝間着は必要ないのだ。逆にキノコ系の亜人は人間と同じであるが、肌が弱く、皮膚病になりやすいのだ。


「関係ない! お前は酔っているんだ、早く正気を取り戻せ!!」

「私は正気ですよ!? おかしいのはあなたです! どうして私を抱かないんですか! 私の両親も夜這いしろとけしかけたんですよ!! 早く私をもらってください!!」


 尚も絡みつくルナに対し、ガトモンテスは起き上がった。そしてばちんと彼女の頬を叩く。

 あまりの衝撃にルナはぺたんと座り込んだ。叩かれた部分を抑えて、彼女の目に涙が浮かぶ。


「びぇええええええ!! どうして私を拒むんですか!! もしかしてあのヒアリの子がお気に入りなんですか! 幼女のときから調教して、自分好みの女に育てるんですね!!」


 ルナの罵倒に、ガトモンテスは数発、平手打ちをする。両頬を叩かれると、執拗に彼の腰にまとわりつく。

 抱いて、抱いてとすがりつくが、ガトモンテスは相手にしない。

 そうこうするうちに、影がひとつ現れた。ソルである。


 彼女はルナの背後に回ると、背中を逸らし、地面に彼女の頭を打ち付けた。バックドロップという技である。

 ルナはしこたま頭を打ち、目から星が出る。そのまま気絶した。


「先輩。なんで裸?」

「ソル、助かったよ。ルナはちょっとした病気なのさ。寝かせてやれば問題ないよ。悪いが一緒に運ぶのを手伝ってくれ」


 ガトモンテスはソルに頼んで、気を失ったルナを運ぶ。ルナとソルは別の家を借りており、そこから店に通っていた。

 ソルは先輩がいつの間にか消えていたのを不審に思い、店まで来たのである。


 ガトモンテスは気が重くなり、うんざりした表情を浮かべていた。

 実のところ、ルナの両親からも、娘を手に付けていいと挨拶しに来ていた。ルナは他のキノコの亜人とちょっと違うところがあり、人見知りの傾向があったからだ。

 それを直すために、山猫亭に働きに出たのだが、あまり効果があるとは思えなかった。


 ソルはそんな主人を見て、首を傾げるのである。


 ☆


「おはようございます」


 翌朝、ルナは普通に店に来た。昨晩の出来事など忘れているようであった。

 ソルはまったく相手にしない。自分の仕事だけに夢中だ。

 ガトモンテスも全く触れない。いつもの事だからである。


「ああ、おはよう。朝食は用意しといたから、ソルと一緒に食べてくれ」


 そう言ってガトモンテスは今日の仕込みに戻る。ルナも慣れており、わかりましたと声をかけてそのままテーブルに向かう。ソルも野菜の皮むきをひと段落させ、一緒にテーブルに座った。


 テーブルの上にはパンが載ってあった。柔らかいパンで、トマトに塩、オリーブオイルをかけ、生ハムを載せている。生ハムはイノブタの肉だ。きちんと飼育されており、味は良い。

 飲み物はルナがミルクコーヒーで、ソルはオレンジジュースである。


 レスレクシオン共和国では朝食は揚げ菓子のチュロスに、ホットチョコレートが多い。

 もっとも10数年前から、ナトゥラレサ大陸にあるカカオ共和国から、ガーナを輸入してからであるが。


 ルナはコーヒーの方が好みだ。彼女はパンをむしゃむしゃ食べている。

 ソルもパンを食べているが、その間じっとルナを見ていた。

 まるで動物を眺めるような視線だ。


「……何見ているのかしら? 私の顔に何かついているの?」


 ルナはソルの視線に気づき、不機嫌そうに訊ねた。

 別に後輩を嫌っているほど、心は荒廃していない。なんとなく気に障るだけである。

 そんなソルは爆弾発言を投げた。


「先輩、店長好きか?」


 その瞬間、ルナは吹き出した。げほげほとせきをする。熱いコーヒーを一気に飲み干すが、逆に熱くてもだえ苦しんだ。


「なっ、いきなり何てこと聞くのよ!!」

「だって先輩、店長好きなんでしょう?」

「そりゃ、好きだけど、いや、そうじゃなくて!!」


 ルナは慌てふためいた。彼女はパンを全部食べると、後片付けをして去っていく。

 ソルはそんな彼女の後姿を見ていた。

 彼女自身、好きという気持ちはわからない。先ほどの質問には何も含むものがない。単純な好奇心からである。


「好きってなんだ?」


 そのつぶやきは誰の耳にも入らなかった。

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