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第16話 猫食文化

「どうだ、おまえたち。ここが世界市場だぞ」


 コマネズミの亜人ラタが、商業奴隷たちに声をかける。

 山猫の亜人ガトモンテスはすでに17歳になっていた。

 隣にはトノサマガエルの亜人カイロと、猪の亜人フランドンがいる。ふたりとも男でガトモンテスと同じ年齢であった。


 世界市場はレスレクシオン共和国の首都、プリメロにあり、かなり大きな建物であった。

 二階建ての一軒家をまるまる入る高さで、十軒ほどの広さがある。

 そこにはいろいろな人種と品物が並んでいた。食料品や衣服、薬品などはもちろんのこと、楽器や玩具なども所狭しとそろえてあった。


 今日はラタ商会の主人が率先し、商業奴隷たちに世界各国の品物を見学させに来たのである。

 三人は村長の子供で、数多い兄弟の末っ子だった。いなくても困らない立場だが、それなりに学があるので、商業奴隷になることが多い。

 見た目では判断できないが、三人とも数多くの亜人たちの血が混じっているため、人種にはこだわらない性格だった。


「すごいですね。食料品も珍しいものが多いです。妖精王国フェアリーキングダム産のスープの缶詰に、ニューエデン合衆国産のスパムの缶詰など種類が豊富ですね」

「缶詰の製造方法はフエゴ教団が伝えたものだがな。ニューエデンは土地が広い。麦や豆が大量に採れるので、その手の保存食は豊富だよ」

「確か向こうはビッグヘッドが人間を支配していると聞きますが、どうなのでしょうか?」


 ガトモンテスが主人に質問する。ラタはしばらく考え込んだが、やがて口を開く。


「私も直接行ったことはないがね。向こうはそれなりに快適な暮らしができるそうだよ。何しろ食べるに困らないからね。それにビッグヘッドを利用して、ガスや水道も充実しているそうだ。蟲人王国インセクターキングダムにあるフィガロや、妖精王国に勝るとも劣らない国だと、商人から聞いたことはあるね」


 ラタは普通に答えた。商人がビッグヘッドに脅されて、嘘をついている可能性はないと判断したのだろう。もっとも気軽に行ける国ではないので、おすすめはしないようだ。


「えーん、こんな広い世界はやだよ~。早くおうちに帰りたいよ~」


 カイロは涙目でつぶやいた。彼はツナデ村の出身であった。現在の村長は姉のベンテンが務めている。彼の言う家はラタ商会のことだ。

 彼は広い世界よりも、狭い商会の方が好きなのである。まさに井の中の蛙大海を知らずであった。


「ぶもぉ! カイロは弱虫で泣き虫だなぁ! 俺はもっと広い世界を見てみたいぞ! 今すぐ走って世界を一周したいくらいだ!!」

「まだ解放できないから、無理だよ」


 フランドンが興奮すると、ラタは彼の願望を一蹴した。猪突猛進の彼は暴走しがちである。


「それよりもあちらを見ることだ。向こうには大物の商人がいるぞ」


 ラタは手のひらを差し出した。その先にはアリの亜人が楽器などをいじっている。

 ターバンを巻いており、女性なので胸と腰の部分に薄紫色の衣服を巻き付けていた。

 

「あの人はアトゥム共和国の商人で、イエヒメアリの亜人アリババ殿だ。白アリ入りのチョコレートを販売しておるのだよ。娘は猫の亜人だが、その人はアニトラ海賊団に入ってしまったので、大の海賊嫌いなのだ」


 次に向けたのは猫の亜人だった。でっぷりと太ったイエネコの亜人で、右目に黒い縁がある。

 赤い裾の入ったマンダリンドレスを身に着けていた。


「彼女は龍虎鳳ロン フーホォンといって、鳳凰ホォングァン大国の出身だ。双頭船で世界の海を荒しまわる海賊王国の女王だよ。あちらも娘がアニトラ海賊団に入ったが、好意的だね。ちなみにイエネコのもも肉の燻製と、肉団子の缶詰を売っているな」


 なんでも鳳凰大国の一部ではイエネコを食べる描色文化があるという。

 キノコ戦争前では、別の国では猫を食べることを禁じていたそうだ。猫に限らずペットになる動物を食べる文化を排除する動きはあったのである。

 他国の文化を否定し、潰すことに喜びを感じた国が多かったというが、現在は皆無であった。


「ですが、猫を食べることに抵抗はないのでしょうか?」

 

 ガトモンテスが訊ねた。猫の亜人が猫を食べるのはしゃれにならない。


「問題ないだろう。そもそも私たちは亜人だが、あくまで動物や植物に似ているだけだ。遺伝子も人間のものだからな」


 ラタはなんでもないと答えた。実際に肌に毛が生える病気があり、亜人はその病気の延長なのだ。

 自分たちがなぜ特定の種類の動物なのかは、自然にわかるという。

 これは脳内にある神応石スピリットストーンのおかげだと、ラタは教えてくれた。


「つーかさぁ、猫ってうまいのかねぇ?」


 フランドンが疑問を呈した。普段はアライグマにヌートリア、イノブタにインドクジャクなどを食べており、猫は食べたことがないのである。

 オルデン大陸にも猫はいるが、食用ではない。大抵は巨大化したホシムクドリや巨大ウシガエルに巨大アメリカザリガニに喰われるからだ。

 さらに虎ほどに肥大化したイエネコもおり、野生のヤギやアカシカを狩っているのである。


 それらの巨大イエネコは滅多に人里には近寄らず、人の住まない場所に暮らしているそうだ。

 精々出会う確率が高いのは獣人族ベスティアくらいだという。


「私も話に聞いただけで食べたことはないな。鶏肉に近い味だと聞いている。鳳凰大国では冬に猫を食べると体が温まるという話だ。ためしに買ってみようか」


 ラタが好奇心で購入しようとしたが、突如金切り声があがった。

 見るとアリババと虎鳳が喧嘩をしているようである。


「このアペプめ! お前は偉大なバスト様のしもべを食すなど!!」


 アリババが一方的にまくしたてていた。それを虎鳳は耳をほじりながら聞き流している。

 アペプはアトゥム共和国に伝わる神話では、悪神と呼ばれている。バストは猫の頭をした女神だ。

 アリババにとって、神の化身である猫を食品加工することが許せないのだろう。


「フン、あんただってアリのくせに、アリを食べてますネ。そんなアタクシを非難する権利、あるとお思いカ?」

「それとこれとは別だ! その上お前は忌々しいアニトラと同じ、美しい我が娘ズーラを連れ去った憎き海賊だ!!」

「ハァ……。冒険屋の小娘と、国を治めるアタクシを一緒にしないでチョウダイナ。フーマオもアニトラについていったけど、まったく怒っておりませんコトヨ」


 アリババは一方的に食って掛かっている。虎鳳はどこ吹く風だ。

 ラタたちは猫肉の缶詰を購入したが、興奮したアリババは気づくことはなかった。


「世界は面倒臭いです。僕は一生旦那様の元で働きたいです」


 カイロは涙目で言った。


「それは無理だな。将来うちはゴーシュに店を譲らねばならなくなる。その前にお前たちは解放奴隷になっていると思うがね」


 ラタは冷たく諭すのであった。

 さて帰った晩にガトモンテスは猫肉でスープを作った。南国ではアルコール度数の高い酒で煮込み、塩で味付けし、ベニバナから採れるサフラワー油を入れる料理があるという。

 

 今日もまた広い世界にある料理を食したのであった。

最後の猫肉のスープは沖縄料理のマヤーのウシルです。

アリババはもろアラビアンナイトから取りました。アリのおばあさんだからアリババ。なんとわかりやすい。

 龍虎鳳は広東料理で、ヘビは龍、猫は虎、ニワトリは鳳に見立てた料理の事です。


 カイロとフランドンは、宮沢賢治氏の童話、カイロ団長とフランドン農業学校の豚から取りました。

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