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第14話 アフリカマイマイのガーリックバター炒め

「さぁお客様。アフリカマイマイのガーリックバター炒めでございます」


 山猫の亜人ガトモンテスは皿に盛られた巻貝の料理を差し出した。

 ここは彼の主人であるラタが住む屋敷だ。正確にその妻の持ち家である。

 石造りの二階建てであった。住んでいるのはラタ一家に、使用人が数名住んでいるだけだ。


 食堂は広く、広いテーブルは十人ほど囲えるほどである。もっとも調度品は出来合いの物が多く、白いカーテンに白いテーブルクロスなど、清潔感だけが売りであった。

 あくまで食事をとるだけであり、客人をもてなすには不十分と言えるだろう。

 もっとも相手はラタの息子の友人たちなので、問題はない。


「アフリカマイマイとはなんでしょうか?」


 客人は人間のこどもがふたりである。ひとりは中性的な雰囲気の少年で、女性と勘違いしやすい容貌だった。

 もうひとりはクマのように大きな少年である。ラタの息子、ラタジュニアはカピバラの亜人で、齧歯げっし科では最大の大きさだ。

 同年代より一回り大きいのである。


 中性的な少年が質問したのだ。クマのような少年は岩のように黙り込んでいる。

 どこか人見知りのようであった。ガトモンテスの目を合わせようとしていない。


 名前はアモル。クマのような少年はフエルテといい、最近コミエンソから来たという。

 父親はクマの亜人で混血児なため、村では村八分にされたそうだ。

 それをアモルの父親が布教という名の、制圧によって支配した。そして引き取られたのである。


「アフリカマイマイとはアフリカマイマイ科の陸生の巻き貝です。細長いカタツムリで、見ての通り、殻高約13センチに達してますね。野菜の害虫で、広東住血線虫の中間宿主です。素手では触れません。ナトゥラレサ大陸の原産で、東の熱帯地方とかに生息しています。オルデン大陸ではそこら辺の森に住んでおりますよ、今日はそれを調理したのです」


 まず調理の前にひたすら洗う。ぬめりを取るためだ。寄生虫の心配があるので皮手袋で触れないようにする。

 洗ったら鍋に入れて、赤ワインを入れる。オルデン大陸ではワインはどこにでもある酒だ。

 一時間ほど煮込むことで、寄生虫を殺すのである。


 その後は殻から身を取り出す。内臓はきれいに取り除く。

 もっともまだぬるぬるしているので、塩でもんでおくのだ。

 次に殻にガーリックバターを入れて、オーブンで焼くのである。


「いい匂いがしますね。おいしそうです」


 アモルが言った。


「これは北の蟲人王国インセクターキングダムに伝わる調理法です。向こうではアフリカマイマイの缶詰が作られていますね」

「蟲人王国……。エビルヘッド教団が勢力を広げている国ですね。向こうは虫を食べるのが大好きだとか」

「正確にはフィガロ以外だとあまり信仰は厚くないそうですよ。それに昆虫食は食べるものがないから、仕方なく食べている傾向がありますね」


 ガトモンテスの説明に、アモルはうなずいた。

 商業奴隷のガトモンテスはある程度の知識がある。ビッグヘッドやエビルヘッド教団などの話を知っているのだ。

 アモルとラタジュニアは司祭学校に通っており、世界の秘密を勉強しているのである。

 まだ10歳なのであまり詳しくないのだ。


「さあ召し上がれ。おいしいですよ」

「そうだよ。ガトモンテス兄さんは料理が得意なんだ。父さんは将来店を持たせると言っていたよ」

「坊ちゃん、持ち上げないでください。どうせリップサービスですよ」

「違うよ。父さんは冗談なんか言わない。兄さんだって知っているでしょう、父さんは冗談を言うのが大嫌いなんだって」


 ガトモンテスは笑ったが、実際のところ、主人のラタは彼に店を持たせるつもりであった。

 その前に家の売買や、帳簿のつけ方などを学ばせている。もっともコミエンソでは土地代が高く、普通の人間では店など持てない。

 なので教団が布教して数年経った村に、店を出すように動いている。


「ねえ、フエルテ。さっそく食べましょうよ。ジャンボタニシは食べたことはあるけど、こっちはまだでしょう?」


 アモルがフエルテに言った。声変わりはまだにしても、女性と間違えてもおかしくない声質であった。

 フエルテはフォークで恐る恐る、アフリカマイマイを刺した。

 そしてアモル達も食べる。


 結果は普通だった。貝の風味は少し弱いが、泥臭くもなく、こりこりとした歯ごたえがよい。


「うん、おいしいですね。どんなものも調理次第でおいしくなるのだから、すごいです」

「そうですね。ですがこれは調理の手間がかかります。かつてキノコ戦争では家畜や食用の魚介類が激減したそうです。それを空飛ぶビッグヘッド、ミカエルヘッドが汚染された環境でも繁殖する外来種を数十万種類ばらまいたとのことです。ただオルデン大陸固有の種はほぼ滅んでしまったそうですね」

「でもそのおかげで世界中の人々は飢えることがなかったから、ありがたいと思わないとね。外来種といえども一方的に嫌うよりも、調理するとかで人々の役に立てると思うのですよ」


 アモルはそう言ってフエルテの方を見た。彼はもくもくと食している。

 

 今回ラタジュニアがアモル達を誘ったのは、理由があった。

 アモルに頼まれたからである。フエルテは両親がいない。幼い頃から村八分として生きてきた。

 そんな彼は自分がこの世に生まれてきてよかったのかと、悩んでいるのだ。

 それはアモルの家に引き取られてからも、変わることはなかった。


 フエルテはそんなアモルの気持ちを察したのか、こくんと首を縦に振った。


「それにしてもアモルさんはおきれいですね。男の子にはもてもてでしょう」


 ガトモンテスが褒めると、アモルは露骨に顔をしかめた。何か気に障ることを言ったのかと、思った。


「兄さん。アモルは男だよ」


 ラタジュニアの言葉に、ガトモンテスはアモルの顔を見たのだった。

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