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第13話 フライの盛り合わせ

「ちょっとあんた。調子に乗ってるんじゃないわよ」


 日が昇って間もない、オンゴ村の食堂山猫亭の厨房で、ヒアリの亜人、ソルは同僚で先輩のルナに絡まれた。

 ルナはツキヨダケの亜人で、見た目はムキタケに見える。ツキヨダケは夜になると蛍光色を発するのだ。


「何言っている」


 ソルは素っ気なく答える。ルナの言葉が理解できなかったのだ。彼女は野菜の皮むきをしており、その作業に戻る。

 ルナはそんな態度が気に入らないのか、余計に腹を立てた。


「このわたしをバカにしてんのかよ!! 店長に気に入られたからと言って、先輩である私を侮辱するなって言ってんのよ!!」

「してない。うるさいからあっちいけ」

「何よ、その言葉遣いは!?」


 ルナはますます怒り出した。ソルは馬耳東風で聞き流している。

 

「おい、ルナ。お前は何をしているんだ」


 そこに背後から声がかかった。山猫亭の主人で、山猫の亜人ガトモンテスだ。

 コック帽にエプロンを身に付けている。


「あん!? 私は今舐めた態度を取る後輩を注意しているんですよ。邪魔だからあっちいってください!」

「店長、この女邪魔。耳障り」

「なんだと、てめぇ!!」


 いきり立つルナをガトモンテスは後ろから引っ張った。


「お前何か不安なことがあったな。だからそうやってソルに絡むんだな?」

「うぅぅ……」

「それとソル。お前の態度もいただけない。先輩に対しての言葉遣いじゃないな。例えうっとうしくても、心の中で押さえておけ。もっともルナの場合は心の体制が弱いから、あんまり煽らないようにな」


 店長に言われて、ソルは頷いた。これで話はおしまいである。


  ☆


夜になった。村外から来ている人間たちが山猫亭に食事をしている。

もちろん商会などでは料理人もいるが、凝ったものは出ない。食品関係のフレイ商会では缶詰や乾麺などの保存食が主である。

 村人はそれらでいろいろな料理を作っているが、都会であるコミエンソ育ちの人間だとそれはつらい。

 なので料理人として腕の良い、ガトモンテスの店に来るのである。


 店内ではランプの光が広がっており、大勢の客で賑わっていた。人種も様々で人間はもちろんのこと、猫や犬、花にキノコなど色々いる。

 料理を作る人はひとりだけなので、店の規模は狭いが、店員が料理を運ぶのに苦労しない程度であった。


 外にもテーブル席があり、村の若者たちが果実酒を飲みながら、酒のつまみを楽しんでいた。

 その中でルナが皿を一枚手にしている。上には揚げたてのフライが載ってあった。

 白身魚が主で、アメリカザリガニと玉ねぎもある。

 客はキノコの亜人である。イッポンシメジにコレラタケ、ドクヤマドリだ。


「おまたせしました。フライの盛り合わせです」

「おお、待ってました!」

「あと果実酒もすぐに持ってきますので、お待ちください」


 ルナは早口で言うと、その場を去る。その後姿を見て、イッポンシメジのウノはつぶやいた。


「あいつ、まだ人見知りが治らないんだな。もう長い間働いているのにね。まあ、私みたいにすぐに腹を下さないから、ましかもしれないけど」

「でも、下手にいじると絡み上戸になるからね。酒は一滴も飲めないけど、エア酔っぱらいになるのは厄介だわ」

「それ以前にこんな店にいる自体間違っている。毎日料理を運ぶだけで仕事なんかしてないだろ」


 一番体格の良いドクヤマドリのコブレが毒を吐いた。小柄なコレラタケのコレラも口には出さないが、ルナの待遇には不満を抱いている。

 近くでコミエンソから来た人間は彼らの話を聞き、乾いた笑みを浮かべていた。

 田舎にとって仕事とは汗水たらして鍬を振り下ろし、畑を耕す。もしくは森や山を駆けて獣を狩る。さらに川や湖で魚を獲るなどが主だ。


 家や家具を作り、弓や農具などを作る職人は尊敬される。しかし皮なめしや単調な仕事をする者は女子供のすることだと思われていた。

 ましてやルナのようにウェイトレスの仕事は、村人の中でもコミエンソと縁がある人間しか理解されていないのである。


「まあ、あいつのことなんかどうでもいいわ。それよりも見てよ、この熱々のフライを」

「うちでもよく食べるけど、この店のは特においしいからね。酒と一緒に食べるのが最高だよ」

「ふん、料理なんて女のする仕事じゃないか。男のやることじゃないね」


 コブレだけは毒づいていたが、ふたりは無視する。いつものことだからだ。

 彼は愚痴をこぼすのが趣味で、現状に不満を抱いている。

 実際のところウノたちは、黒蛇河辺りでアメリカザリガニを獲ることしか仕事がないのだ。


 キノコの栽培はコミエンソから来た人間がやっており、村人も参加しているがウノたちは才能がないので省かれている。

 それにキノコの亜人は生まれつき、キノコの傘に似た髪型に問題があった。

 赤ん坊の時は柔らかい髪の毛も、歳を重ねると固くなる。そして成長するとその子にふさわしいキノコの傘を籠のように編んでいくのだ。

 

 そのため狩猟は苦手で畑仕事が主になる。しかし肌が弱く、人間と比べて皮膚がんになる確率が高いのだ。フエゴ教団のもたらした日焼け止めクリームは、オンゴ村の救世主である。


「……それよりも早く食べよう。今日はアメリカナマズにナイルパーチの白身魚のフライだよ」


 ウノが言った。


 アメリカナマズとは、ナマズ目アメリカナマズ科の淡水魚類の一種である。湖沼や河川に推測している。

 かつてアメリカと呼ばれた国で生息していたが、繁殖力が高く、百数年前にオルデン大陸に移入されて以来、被爆湖アトミックレイクを中心に増え続けた。

 

 もう一方のナイルパーチは、スズキ目アカメ科に属する魚類だ。

現在のナトゥラレサ大陸であるアフリカ大陸熱帯域の川、塩湖、汽水域に分布しながら生息していた。

全長193cm、体重200kgの記録がある大型の淡水魚である。こちらもアメリカナマズと同じであった。

 

どちらもフライにすると美味だ。これらは別の被爆湖から絞めた後、フレイ商会が冷凍保存して売買するのである。

ちなみに冷凍機はフエゴ教団が数十年かけて復元しているが、まだ食堂や商会しか使われていない。


「おお、サクサクだね。しかもパン粉が荒い。フレイ商会で売られたきめ細かい奴より、おいしいね」

「まったくだね。このウスターソースにタルタルソースもなかなかだよ。フエゴ教団が来なかったらこんな味は楽しめない」

「まったくだね、もぐもぐ」


 さすがのコブレもフライの前では言葉が少なめである。

 今日も今日とて、山猫亭の夜は過ぎていくのであった。

 作中にもありましたが、アメリカナマズやナイルパーチは白身魚のフライとして、よく使われるそうです。

 実は白身魚のフライは原料を公表しなくていいみたいですね。

 

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