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第10話 ムラサキガイのパエリア

「うう、腹が空いた……」


 家の中でロップイヤーの亜人が腹を空かせて座っている。

 ロップイヤーとはスペイン産のアナウサギで、ペット用に改良された品種だ。

 茶色の毛に垂れた耳が特徴である。


 彼はラタ商会の商業奴隷で17歳だ。名前をオパロといい、ウサギの亜人が多いホモイ村の出身だ。

 ここはラタ商会で従業員たちは商業奴隷たちに掃除や仕事を命じている。

 みんな忙しそうに動き回っていた。小さな子供は荷物を重そうに運んでおり、年配から指示をされて書類を選別したりと様々だ。


「オパロさん、何をしているんですか?」


 山猫の亜人、ガトモンテスが声をかけた。今は14歳で料理関係の仕事を多くこなしている。

 現在は料理長でマンガリッツァの亜人であるビジテリアンとともに、市場で食材を運んだりしていた。


「見てわからないのか……。私は腹が減っているのだ」

「それなら何か食べればいいじゃないですか」


 するとオパロは鬼のような形相で、心配して声をかけた後輩をにらみつける。


「お前は何とも思わないのか? 私たちはいつも生き物の命を奪って生きている。毎日肉や魚を食しているのだ。彼らを殺して申し訳ないと思わないのか?」

「全然思いませんね。所詮は人と畜生の命など、秤に比べるまでもないでしょう?」


 ガトモンテスはバカバカしいと言わんばかりに、言い捨てた。

 それを聞いたオパロは顔を真っ赤にして、怒りだす。

 暴言を吐いた後輩の首を絞め始めたのだ。


「きさまぁ! 畜生とはなんたる口の利き方だ! 生き物は人間だけではないのだぞ! 獣や魚、鳥に虫も生きているんだ! それを人間だけが世界の支配者みたいな態度を取るとはなんたることだ!!」

「ぐっ、ぐるじい。肉が嫌なら野菜を食べればいいじゃないですか!!」


 世の中には菜食主義者はいる。妖精王国ではその傾向が強い。もっとも幼少時は肉食を行っており、妊婦も出産の間は動物性の食事をとることを義務付けられていた。

 するとオパロはますます興奮し始めた。何の気が障ったかさっぱりわからない。


「ふざけるなぁ! 植物だって生きているんだぞ!! 人間が自分たちの都合で勝手に刈り取り、殺しているのだ!! 自分たちが罪深い生き物だと理解できないのか!!」

「いや、動物や虫だって、植物を食べるじゃないですか。それに植物の倒れて腐った仲間を養分にしています。地上のどの生物も何かを食べて生きているじゃないですか。この間ゴーシュさんが教えてくれましたよ」

「きさまぁ! 屁理屈を抜かすな!!」


 オパロは狂ったようにガトモンテスに馬乗りになった。そして何度も殴りかかる。

 騒動に気づいた従業員たちは、急いでオパロを引きはがす。

 オパロはわけのわからない言葉を発しながら、同僚たちに引っ張られていった。


「災難だったなガトモンテス」


 苦しそうにしていたガトモンテスの背中を優しく撫でたのは、先輩であり商業奴隷の監督である三毛猫のゴーシュであった。


「あいつは頭がおかしくなっているんだよ。最初は菜食主義者だったが、その自分がかっこいいと思い込んでいるんだ」


 そうガトモンテスを慰めた。ゴーシュもオパロの奇行に手を焼いているようである。


「それはそうとガトモンテス。昼食の時間だ、食事の用意をしてくれ」


 ゴーシュはそう厨房に誘った。


 ☆


「今日はムラサキガイのパエリアだ」


 ムラサキガイとはシオサザナミガイ科の二枚貝である。浅海の泥底に穴を掘ってすみ、貝殻は長楕円形で、殻長7センチくらいほどある。殻表、内面ともに紫色をしている。

 繁殖力が高く、人工物に付着する性質があり、こちらの方は毒を含んでいるので食用には向かない。

 

 そしてパエリアはスペイン料理の米料理だ。米・肉・魚介・野菜などをオリーブ油でいため、サフランで色と香りをつけて炊いたものである。浅いなべを使うのが特徴だ。


 まずはムラサキガイの表面をたわしできれいにする。

 そして貝からはみ出ている足糸そくしを包丁で引いて取り除いていく。

 それをボウルに水と塩大さじ1を入れて塩水を作り、10分ほど置くのだ。


 パエリアには白身魚にエビを入れて、数十分炊くのである。

 

 それらを皿に並べた。ほかほかのパエリアをゴーシュたちは口にする。


「うん、うまくはないが、まずくもないな。人並みに食せるもんだ」


 素っ気ない感想だが、これはガトモンテスを天狗にさせないためである。現に他の先輩たちも褒めてもらったことはない。

 褒めるとすれば解放奴隷になったときだけである。


「しかしオパロ先輩はなんであんな性格になったのでしょうか? 最初はただの菜食に凝っていただけなのに」

「……ここだけの話だがね。オパロのような人間は珍しくないのだよ。なんというか思い込みの激しい人間が増えてきているのだ。旦那様曰く、その手の人間は特別な力を持つらしい。もっともそれがなんなのかはわからないがね」


 ゴーシュはやれやれと首を振る。オパロの件もあるが、かつてグルトンという商業奴隷も似たようなものだった。

 その手の人種はラタ商会だけでなく、他の商会にもいるようである。


「あの手の人種は下手に構わないことだ。食事を差し出しても怒りだして食べることはないだろう。飢えて死んでは虐待を疑われるから、教団に預けておくしかないな」


 そのオパロは後日に餓死した。教団に預けられたのちに食事を差し出しても受け入れなかったのである。これは教団の責任があり、ラタ商会はおとがめなしだった。


「悲しいことだがこういうことはよくあることなのだ。お前はそうならないうちに知ることができたから、幸いなのだ。経験に勝るものはないが、ああいう反面教師を参考にすることも大事だと知れ」


 ゴーシュはそうガトモンテスに諭すのであった。

ムラサキガイは食材に使われますが、外来種扱いされています。港などに住んでる場合は毒を含んでおり、食すことはできないとのことです。

パエリアなどによく使われております。

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