第一話 アメリカザリガニの塩ゆで
新連載です。マッスルアドベンチャーに登場したガトモンテスが主役です。
「店長~。いつものザリガニを持ってきたよ~」
ツキヨタケの亜人である女性が桶一杯のザリガニを運んできた。
外には馬のように大きいヤギウマの馬車があり、同じくザリガニの入った樽が置いてある。
彼女の名前はルナ。オンゴ村に住むキノコ系の亜人だ。
そしてこの家は木造で丸太を使っている。窓にはガラスがはめられていた。
名前は山猫亭である。
「おう、領収書は机の上においてくれ」
指示したのは山猫の亜人である男性だ。コック帽をかぶり、エプロンを身に付けている。
この店の店長であるガトモンテスだ。オンゴ村に店を構えている。
彼はまずボールを用意した。そこに生きのいいザリガニ、アメリカザリガニを入れた。
がさごそとボールの内側をひっかいている。
そこにツナデ村から取り寄せた日本酒を入れる。米で作った酒で日本から伝わった酒だ。
ザリガニたちは酔い始める。ザリガニでも酒でふらふらになるらしい。
そして沸騰した大鍋にドバドバと入れる。塩をたっぷりと入れていた。
シンプルな塩ゆでである。
ちなみに使用しているのはかまどではなく、ガスレンジだ。フエゴ教団が復元した品である。
ガスは教団が月に一度持ってくるのだ。これを使えるのは村の中では教会とここだけである。
「しっかし、アメリカザリガニのアメリカってどういう意味なのかしらね~?」
「オルデン大陸よりはるか西にある国の名前だよ。今はニューエデン合衆国と言われているらしい」
「そんな名前を言われても、私にはちんぷんかんぷんだわ」
ルナは伸びをしつつ、お湯を捨てて茹で上がったザリガニを盛りつけた。
これは昼のメニューにあるザリガニ食べ放題のためだ。
村人は大抵自分の家で食事をとる。この店で食事をとるのはよそから来た人間がほとんどだ。
雑貨を扱うラタ商会に、銀行を代行するフレイヤ商会、食品を扱うフレイ商会などの職員たちが主な客だ。
もちろん村の若者たちも興味本位で食事に来る。村の中では知り得なかった珍しい調理法を楽しめるからだ。
ちなみにアメリカザリガニとは外来種である。ここはオルデン大陸と呼ばれているが、二百年前はスペイン、イベリア半島と呼ばれていたのだ。
本来アメリカザリガニはスペインに生息していなかった。それなのにアメリカザリガニがいるのは第三者から持ち込まれたからである。
二百年前、世界は一度キノコ戦争で人類は荒廃しかけていた。
人間はわずかに生き残り、人間を捨てた亜人たちが誕生したのである。
しかし家畜が多く死んでしまい、人類は腹を空かせていた。
それを助けたのが外来種であった。肉はアライグマやヤギ、ヌートリアやイノブタなどがある。
魚はブラックバスやブルーギルがあり、鳥はインドクジャクなどがあった。
それらをおいしく調理し、食すことで人類は飢えから解放されたのだ。
現在では箱舟の子孫たちによって、牛や豚、鶏が増えているが、今でも外来種を食べる村は多い。いややめることはできないのである。
「おお、ザリガニの塩ゆでだ!!」
ルナは皿一杯に盛られた湯でザリガニをテーブルに置いた。
客は人間の他に山猫や犬の亜人が多かった。彼らはフレイ商会の従業員だ。
外の席にはオンゴ村の若者であるキノコの亜人も注文を取っていた。
「はいこちらはアメリカザリガニの塩ゆででございます。あとザリガニの炊き込みご飯にザリガニの味噌汁もおかわり自由です。ごゆっくりどうぞ」
ザリガニの炊き込みご飯は、ツナデ村の米にニンジン、タケノコ、マイタケを入れたものだ。
ザリガニの味噌汁は玉ねぎ入りである。ご飯はスプーンで、味噌汁はフォークを使って食べていた。
客たちは茹で上がったばかりのザリガニの殻をむく。まず頭部側と尾部側を引きむしる。
そして尾部側の腸を引き抜いて食べた。
濃縮なエキスがにじみ出て、ぷりぷりした触感がたまらない。
ザリガニは村はずれにある黒蛇河から取ってきたものだ。
もっとも泥臭いので村の私設にある水槽に入れる。そこで泥を吐かせるのだ。
黒蛇河には巨大なザリガニもいるので、村にあるフエゴ教団の騎士を護衛につけてもらっている。
「うまいな。コミエンソでも茹でたエビを食べたが、ザリガニもなかなかいける」
「まったくだ。しかもいくら食べてもご飯と味噌汁もおかわり自由で千テンパとは安い」
「まあうちから格安で卸しているからな。それを踏まえても店長の腕がいいからな。ガトモンテスさんがいなけりゃ通わないよ」
客たちは談笑していた。ガトモンテスは語らず厨房で料理を作り続けている。
ザリガニのトマトクリームのパスタだ。これも人気がある。
ルナは客の注文に応じて料理を運んでいた。
ガトモンテスの店は今日も注文が多かった。